団体交渉で絶対にやってはならないことを10つにまとめて解説していきます。
団体交渉においては、労働組合が憲法・労働組合法による法的保護を受けるため慎重に対応しなければならず、会社側には「やってはいけない」禁止事項があります。禁止事項を行ってしまうと、不当労働行為として違法の責任を追及されるおそれがあり、不利な立ち回りになってしまいます。
団体交渉のやり方に法的に明確なルールはなく、臨機応変な対応が求められますが、最低限やってはならないことを理解しておく必要があります。なお、弁護士に依頼いただくことで団体交渉に同席し、席上にて機をみたアドバイスをすることができます。
まとめ 団体交渉の対応を弁護士に依頼するメリット・依頼の流れと、弁護士費用
まとめ 団体交渉の対応手順
↓↓ 動画解説(約10分) ↓↓
正当な理由なく団体交渉を拒否しない
労働組合には、憲法において労働三権(団結権・団体交渉権・団体行動権)が保障されていることから、会社は、正当な理由なく団体交渉を拒否することができません。正当な理由なく団体交渉を拒否すると、団体交渉拒否という不当労働行為となり、労働組合法違反となってしまいます。
団体交渉自体を拒否するケースだけでなく、次のような会社側の行動も団体交渉拒否ととられるおそれがあります。
- 団体交渉申入書の受領を拒否する
- 団体交渉は行うが、誠意ある交渉をしない(使用者の誠実交渉義務違反)
- 上部団体の組合員の同席は拒否する
- 書面もしくは電話での回答のみとし、対面での交渉を行わない
- 団体交渉は行うが、説明に必要な資料を開示しない
不当労働行為をしない
団体交渉拒否に加え、不利益取扱い、支配介入の3種類の違法行為を、不当労働行為といいます。労働組合対応において、不当労働行為となるような行為を会社がしたとき、労働委員会へ不当労働行為救済申立てをされてしまうほか、不当労働行為にあたる解雇等の不利益処分は無効となってしまうリスクを負います。
不当労働行為とは、要は、組合を嫌悪する感情が会社にあることから起こる不利益な処分であるため、常日頃から、組合に対して敵対的な言動をしないことが大切です。特に、団体交渉を申し入れられたタイミングは、不当労働行為が起こりやすいため注意が必要です。
団体交渉を申し入れてきた社員に対して不利益な処分をすることは不利益取扱いの不当労働行為、組合員に対して組合活動を止めるよう説得することは支配介入の不当労働行為にあたり、いずれも違法です。「話せばわかるはずだ」と組合の頭を超えて働きかけをすれば、組合のメンツを潰すこととなり、紛争の激化は免れません。
組合員を特定しようとしない
団体交渉を申し入れられ、社内の労働者との間の労働問題の解決が目的となっているとき、「他にも組合員がいるのであれば、一度に解決したい」と考える気持ちはよくわかります。しかし、組合員を特定することは嫌がらせにつながりやすいため、やってはいけない行為です。
組合員名簿を提出させたり、組合員が誰かを明らかにするよう求めたりすることは許されず、また、労働組合がこれに応じて組合員を明らかにしないことを理由に、団体交渉を拒否してはなりません。
組合員であるかどうかに関わらず、団体交渉で議題となっている労働問題については改善する必要があります。特に、未払残業代請求のように、制度上、全社的に波及するおそれのある問題には注意が必要です。
組合の要求するとおりの条件で団体交渉しない
会社は、団体交渉に応じる義務があるものの、組合の要求するとおりの条件で応じなければならないわけではありません。特に、団体交渉の開催日時、時間帯、時間数、開催場所等については、労使の協議で決めるべきことであって、労働組合の言うなりになる必要はありません。
これらの団体交渉の手続き的ルールについては、事前準備の段階で、組合との間で書面や電話等で十分協議をし、きちんと納得のいく合意に至ってから団体交渉を開催するようにしてください。
不当な要求に屈してはならない
合同労組(ユニオン)は、団体交渉において会社側に様々な要求をしてきます。これらの要求の多くは、会社側にとって到底応じがたいと感じるものばかりではないかと思います。例えば、個別労使紛争の解決を目的とした団体交渉で、次のような要求を突きつけられることがあります。
- 解雇を「不当解雇」と認めて謝罪し、撤回すること
- 未払残業代の過去分を清算すること
- ハラスメントがあったことを認め、謝罪すること
組合の中には、最終的には金銭解決する方針を見据え、到底応じがたい厳しい要求を突きつけてくる団体もあります。このようなとき、不当な要求に屈してはなりません。また、むきになって感情的に反論することも得策ではなく、労働組合の主張・要求をじっくりと聞くことに注力してください。
誠実な交渉を行っていれば、必ずしも組合の要求を飲む必要まではありません。場合によっては、不当な要求に終始するような場合、団体交渉を打ち切ることも検討しなければなりません。
解決を急ぎすぎない
労使間の対立が比較的小さいケースでも、1回だけの団体交渉で労働問題が解決する例はそれほど多くありません。むしろ、団体交渉になってしまったケースの多くは、団体交渉が複数回行われ、解決までに時間を要するのが通常です。
会社側で団体交渉対応をするにあたっては、団体交渉を継続したり組合対応したりしなければならないことは大きなストレスとなるでしょうが、解決を急ぎすぎないことが大切です。解決を急ぐあまりに、交渉態度が不誠実なものとなってしまえば、団体交渉拒否の不当労働行為といわれるおそれが強くなります。
回答を焦る必要もなく、その団体交渉の席上で回答できないことについては、持ち帰り検討することを伝えるので構いません。一般的に解決までにかかる期間がどれくらいかは、次の解説もご参照ください。
元社員からの団体交渉を無視してはいけない
合同労組(ユニオン)から申し入れられる団体交渉には、その議題が元社員との間の労働問題である例があります。このようなとき、元社員は既に会社との雇用関係を終了していますが、団体交渉を放置したり、無視したりしてしまってはなりません。
既に会社との間に雇用関係がなかったとしても、在職中の未払残業代、在職中の労働環境の問題点(安全配慮義務違反、ハラスメント問題)や、解雇が不当解雇であることを争うといった内容のとき、団体交渉に応じる義務があるからです。
組合を甘く見ない
合同労組(ユニオン)は、社外にあって社員1人からでも加盟できる組合であり、主に個別労使紛争の解決のため会社と団体交渉を行うことを目的としています。そのため、様々な会社と、数多くの団体交渉を行っています。役職者ともなれば、労働問題と交渉のプロといってよいでしょう。
労働組合との団体交渉を甘く見ていると、気づかないうちにいつの間にか責め立てられて不利な状況に置かれてしまうおそれがあります。その上、労働組合は、憲法・労働組合法といった法律による保護を利用し、様々な交渉テクニックを駆使してきます。要求が通りそうにないとき、ストライキ(争議行為)や街宣活動、ビラまき等強行的な手段を使うこともあります。
一方で、ある労働者と会社との間の労働問題、つまり、個別労使紛争が議題となるとき、労働組合側でも一定の解決を得ることを目的としており、無用な長期化は避けたいと考えています。冷静に話し合うことで、妥協点が見いだせることも少なくありません。
署名押印をしない
労働組合は、団体交渉の席上やその前後で、労働組合が作成した書類に署名押印をするよう求めてきます。しかし、労働組合と会社との間で締結した書類は、労働協約となり、就業規則にもまさる強い効果を有します。そのため、問題が終局的に解決するまでは、組合が出してきた書類には一切署名押印をしないようにしてください。
団体交渉の議事録を組合側が作成していると、議事録を送付してきて、受領した旨の署名押印をするよう求められることもあります。しかし、署名押印してしまうと、後から、組合側にとって有利な解釈で作成された議事録の内容にまで、会社が承認したといわれてしまうおそれがあります。そのため、どのような内容でも、たとえ「議事録にすぎず大した意味はない」と説得されても、署名押印はすべきではありません。
なお、議題となっている労働問題の解決が可能な場合には、最後に合意書を作成し、労使双方が署名押印をすることは、会社にとっても必要なことです。問題を終局的に解決し、追加の請求をされてしまわないよう、清算条項を記載した合意書を締結するようにしてください。
まとめ
労働組合と団体交渉するとき、会社側にはやってはいけない禁止事項が多くある一方、組合側には権利保障があり、残念ながら不利な立場に置かれがちです。労働組合の交渉態度に立腹し、冷静な対応を怠ると、ますます組合側に攻撃材料を与えることとなりますから、慎重に行動すべきです。
しかし、労働組合からの責任追及や強い要求に萎縮し、会社に有利な主張を怠れば、良い解決は望めません。禁止事項を事前に理解して対応するようにしてください。
当事務所の団体交渉サポート
弁護士法人浅野総合法律事務所では、企業の労働問題解決をフルスピードでお手伝いさせていただいております。団体交渉はスピード重視、お気軽にご連絡ください。
会社側の視点で、団体交渉をはじめ労働組合対応の解決を目指すとき、弁護士に依頼いただくのが有益です。
団体交渉についてよくある質問
- 団体交渉で会社がやってはいけないことはありますか?
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団体交渉の相手となる労働組合は、憲法・労働組合法による法的保護を受けているため、会社はこれを侵害しないよう注意すべきです。特に、組合を甘くみていると、大きな不利益を負うことになります。もっと詳しく知りたい方は「団体交渉で、会社側がやってはいけない10つの禁止事項」をご覧ください。
- なぜ、組合員を特定してはいけないのですか?
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団体交渉を受けたときやってはいけない禁止事項の1つとして、組合員の特定はNGです。誰が組合員か気になるところですが、特定されると嫌がらせの対象となるおそれがあるからです。もっと詳しく知りたい方は「団体交渉で、会社側がやってはいけない10つの禁止事項」をご覧ください。
- 相手方のことを理解する
合同労組(ユニオン)とは?
誠実交渉義務とは - 団体交渉の申入れ時の対応
労働組合加入通知書・労働組合結成通知書の注意点
団体交渉申入書のチェックポイント - 会社側の事前準備と回答書作成
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会社側が回答書に書くべきこと - 参加者の選定と心構え
会社側の参加者・担当者は誰が適切か
参加する会社担当者の心構え
団体交渉に弁護士が参加・同席するメリット - 団体交渉当日の対応
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やってはいけない禁止事項 - 団体交渉の解決までの流れ
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団体交渉の打ち切り方 - その他
派遣先の団体交渉応諾義務