ストライキ(争議行為)は、日本国憲法において労働組合に対して保障されている「労働三権」のうちでも、「最終手段」として位置づけられた重要な権利です。
労働組合の権利として認められていることから、会社側(企業側)で労働組合対応を行うとき、ストライキ(争議行為)を行う権利を侵害しないよう慎重な対応が必要となります。
しかし一方で、ストライキ(争議行為)が怖いあまりに、労働組合対応が消極的となってしまうケースも少なくありません。
よくある法律相談
団体交渉の場で労働組合から「ストライキ(争議行為)をする」と言われた。
労働組合から「ストライキ(争議行為)をする」と言われて、怖くなって労働協約に押印してしまった。
団体交渉が決裂し、会社内外で無秩序にストライキ(争議行為)をする労働組合に困っている。
労働組合の権利であるストライキ(争議行為)には、民事免責、刑事免責など、多くの保護が認められます。しかし、保護されるストライキ(争議行為)は、正当性を有するものに限られます。
正当性を有しないストライキ(争議行為)には会社側(企業側)も徹底抗戦の必要があります。ケースによっては労働組合員に対して懲戒処分などの制裁をすることになります。
今回は、労働組合の行うストライキ(争議行為)への、会社側(企業側)の対応策について、弁護士が解説します。
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目次
浅野英之
弁護士法人浅野総合法律事務所、弁護士の浅野です。
労働組合から、団体交渉において「ストライキ(労働争議)を行う」といわれると、びっくりして労働組合の要求を呑んでしまう会社も多いことでしょう。
しかし、労働組合からの要求が過剰であったり、ストライキ(労働争議)が不当であったりする場合、会社側(企業側)としては断固として拒否しなければならないケースも少なくありません。
労働組合に保障される「争議権」とは?
労働組合に保障されている「争議権」とは、労働者にあたえられた重要な権利である「労働三権」の1つです。「労働三権」とは、団結権、団体交渉権、団体行動権(争議権)のことです。
労使双方の主張、要求に、大きな差があり、なかなか譲歩が難しく、合意が成立しない場合、「話し合い」を原則とする団体交渉では解決できないことがあります。このとき活躍するのが団体行動権(争議権)です。
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会社側に保障される「経営三権」については、こちらの解説をご覧ください。
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争議行為の定義
団体行動権(争議権)の発動として、労働組合が行うのが「争議行為」です。
「争議行為」とは、労働組合が、労働者側の主張を貫徹すことを目的として行う、業務の正常な運営を阻害する行為のことをいいます。労働関係調整法に、次のとおり「争議行為」の定義があります。
労働関係調整法7条この法律において争議行為とは、同盟罷業、怠業、作業所閉鎖その他労働関係の当事者が、その主張を貫徹することを目的として行ふ行為及びこれに対抗する行為であつて、業務の正常な運営を阻害するものをいふ。
争議行為の種類
労働組合の行う「争議行為」には、その態様によって、次のような種類があります。
- 同盟罷業(ストライキ)
:労働者が、使用者に対抗するために、一斉に労働の提供を停止する行為のことをいいます。 - 怠業
:労働者が団結して、一斉に作業能率を低下させ、業務の遂行を遅らせる行為のことをいいます。 - 作業所閉鎖(ロックアウト)
:使用者が、労働者に対抗するために、労働者を作業所から締め出し、労働の提供を受領しない行為のことをいいます。
争議行為に与えられた保護
争議行為は、憲法という重要な法律に定められた権利保障であることから、「免責」による保護が与えられています。
つまり、争議行為の種類で解説しましたとおり、争議行為に分類される行為はいずれも、一般的には「違法」とされるはずの行為です。争議行為として行う場合に限り、「違法ではない」とされるわけです。
例えば・・・
争議行為による実力行動を、労働組合が行うことによって、労働者が使用者(会社)に対して及ぼす影響には、次のような違法となりうるものがあります。
- 会社(企業)の営業を妨害する
- 労使間の労働契約(雇用契約)によって労働者が負う、業務を遂行する義務に違反する
- 会社(企業)の施設管理権を侵害する
- 会社(企業)の社会的名誉を低下させる
労働組合が行う、争議行為にあたえられた保護には、大きく分けて、次の3つの種類があります。
争議行為が正当なものである限り、労働組合は、民事上も刑事上も、争議行為による責任を負うことはありません。
ポイント
- 民事免責
:民法上、違法な行為を行ったとき、その行為によって負った損害を賠償する必要がありますが、正当な争議行為であれば、損害賠償は不要です。 - 刑事免責
:刑法上、違法な行為を行ったとき、犯罪となり、刑罰の制裁を受けますが、正当な争議行為であれば、刑事上も違法とはなりません。 - 不当労働行為による救済
:使用者が、労働者の争議行為に対抗する行為が「不当労働行為」である場合、労働組合側が救済を受けることができます。
争議行為への対応が「不当労働行為」となるケースは?
争議行為に対する保護として、「不当労働行為」による救済を受けることが可能なケースがあります。
争議行為への会社側(企業側)の対応が「不当労働行為」となってしまうと、会社側(企業側)は、都道府県に設置された労働委員会で、「救済命令」を受けてしまうおそれがあります。
争議行為(ストライキなど)への会社側(企業側)の対応が不当労働行為と評価されるケースとは、例えば次のようなものです。
例えば・・・
- 正当な争議行為(ストライキなど)への参加をした組合員を、会社内で不利益に処遇するケース
- 正当な争議行為(ストライキなど)に対して、参加しないよう厳しく指示するケース
- 正当な争議行為(ストライキなど)を行うかどうかの労働組合内の決定に会社が介入するケース
この場合も、いずれも、争議行為(ストライキなど)が、正当性を有していることが、「不当労働行為」による救済を受けるための要件となります。
争議行為が正当でないときの、会社側(企業側)の対応は?
ここまで解説してきた、労働組合による争議行為にあたえられた手厚い保護は、あくまでも、争議行為が「正当なもの」である場合に限られます。
したがって、正当性を欠く争議行為(ストライキなど)が行われたとき、会社側(企業側)は、労働組合に対して、争議行為(ストライキなど)の責任を追及することができます。
損害賠償請求
労働組合の行った争議行為(ストライキなど)が、正当なものではない場合に、「民事免責」がはたらかないことから、会社は労働組合側に対して、負った損害の賠償を請求できます。
不当な(正当性を有しない)争議行為による損害として、例えば、次のような損害の算出が考えられます。
ポイント
- ストライキによって業務が停止したことによる逸失利益(失った売上額)
- 違法な争議行為によって破壊された会社施設の原状回復費用
- ストライキによって停止した業務を再開するためにかかる費用
争議行為(ストライキなど)が違法であったとしても、その損害額を適切に算出することは、ケースに応じて検討しなければならず、非常に困難な場合があります。
また、争議行為の態様によっても、負った損害の考え方はさまざまです。例えば、裁判例において認められた損害には、次のようなものがありますので参考にしてみてください。
例えば・・・
- 違法なストライキによって減少した売上額につき、ストライキがなかったと仮定した場合の売上額と現実の売上額の差額
- 違法なビラ貼りの原状回復のため、ビラ剥がしによって損傷を受けた壁の修繕費用、清掃費用
- 違法なストライキが行われている間も会社側(企業側)が出費を余儀なくされた固定費用
告訴・告発
正当性を有しない争議行為(ストライキ)は、「刑事免責」を受けることもできません。そのため、刑法上の犯罪行為に該当する行為があれば、刑事罰を下される場合があります。
会社側(企業側)としては、労働者に対して刑事罰を科すことを目的として、捜査機関(警察・検察)に対して、告訴・告発をすることを検討できます。
懲戒処分
違法な争議行為(ストライキなど)に加担することは、会社側(企業側)の秩序を乱す、違法な行為です。
したがって、会社側(企業側)は、労働組合の違法行為に加担した組合員である従業員(社員)に対して、「企業秩序違反」として、懲戒処分による制裁を下すことが考えられます。
賃金カット
争議行為(ストライキなど)によって、会社の業務を行わなかった時間分については、会社側(企業側)は、賃金カットをすることができます。
これは、「ノーワークノーペイの原則」という一般的なルールから、当然の帰結です。むしろ、争議行為(ストライキなど)に対して賃金を支給することは、労働組合に対する援助として禁止される行為です。
平和条項を結ぶ
最後に、違法な争議行為(ストライキなど)に対して、強硬手段で対抗するばかりが、労働問題の解決ではありません。お互いに徹底抗戦することによって、更にダメージが拡大するおそれもあります。
争議行為(ストライキ)を終了させるため、団体交渉によってしっかりと話し合いを行うことが重要です。
「一定期間中、争議行為(ストライキなど)を行わない」ことを内容とする「平和条項」を結ぶことで、労働問題を解決することも検討してください。
争議行為が「正当かどうか?」の判断基準は?
ここまでお読みいただければご理解いただけるとおり、労働組合による争議行為(ストライキなど)を受けた会社側(企業側)の対応は、「争議が正当であるかどうか。」によって大きく変わります。
そのため、会社側(企業側)の労働組合対応を考えるにあたっては、正当性の判断基準を知らなければなりません。争議行為(ストライキなど)の正当性の判断基準について、弁護士がまとめました。
【正当性の判断基準①】争議行為の主体
争議行為(ストライキなど)が正当性を有するためには、労働組合が主体となって行う争議行為である必要があります。
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「合同労組(ユニオン)とはどのような団体でしょうか?」という疑問は、こちらの解説をご覧ください。
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【正当性の判断基準②】争議行為の目的
争議行為(ストライキなど)が正当性を有するためには、争議行為の目的が、労働組合の目的に沿う正当なものである必要があります。
具体的には、労働条件の改善、不当な会社側(企業側)の行為に対する責任追及など、労働問題の解決が目的である必要があります。
【正当性の判断基準③】争議行為の手続・態様
争議行為(ストライキなど)が正当なものであるといえるためには、争議行為の内容だけでなく、手続、態様も正当である必要があります。
例えば、暴力行為は、どのような目的があったとしても、正当な争議行為の態様とはいえません。
争議行為として行われる行為の中でも、「職場占拠」と呼ばれる行為がありますが、裁判例でも正当性のない争議行為であるとしたケースがあります。
例えば、ストによって職場を占拠することで仕事をできなくしたり、運送会社などで社用車のエンジンキーなどを労働組合が占有したりする行為が、これにあたります。
【ケース別】ストライキへの対応方法まとめ
労働組合が、労働問題の解決のために行うストライキには、さまざまな種類があります。このうち正当性の認められるものに対しては、労働組合の「争議権」を尊重しなければならないことは、さきほど解説したとおりです。
「争議行為(ストライキなど)の正当性」について、一般論を解説しましたが、最後に、労働組合が行うストライキの種類ごとに、その正当性の判断方法と、会社側(企業側)の適切な対応方法を、弁護士が解説します。
団体交渉を尽くさないストライキへの対応方法
労働組合と会社とは、対立するばかりではありません。労働問題の解決のため、お互いに譲歩し、歩み寄れるケースもあります。
まずは団体交渉(団交)による話し合いを尽くし、合意が不可能な場合に争議行為(ストライキ)に発展します。会社側(企業側)としては、ストライキになる前に、団体交渉を誠実に行うことが第一です。
団体交渉(団交)を尽くさなかったり、もしくは、団体交渉(団交)を全く行わなかったりして争議行為(ストライキ)を行った場合、正当性を有しない違法行為の可能性があります。
どれほどの期間、回数の団体交渉(団交)を行えば、誠実に団体交渉を尽くしたといえるかは、ケースにより、判断は非常に困難です。
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「団体交渉を打ち切るタイミングと、不誠実団交」については、こちらの解説をご覧ください。
団体交渉では誠実に交渉する義務があり、違反すれば団交拒否、不誠実団交などの不当労働行為となりますから、会社の適切な対応は、まずは労働組合との間で協議を実施し、話し合うことです。
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「政治スト」への対応方法
労働組合の目的は、労働者の労働条件など、労働問題を解決することです。そして、これ以外の目的を持つ争議行為(ストライキなど)は、労働組合に保障された「争議権」では守られません。
いわゆる「政治スト」、すなわち、政治的な活動を目的としたストライキは、違法とされており、正当性を有しません。
「政治スト」は、労働組合に保障された、ストライキの民事免責、刑事免責、不当労働行為による救済のいずれも受けることができないため、会社側(企業側)としても、正当性のない「政治スト」を認める必要はありません。
労働法の改正に対する反対運動など、労働問題の解決を主目的としているストライキの場合、「争議権」の保障されるものであるケースもあります。
労働組合内の手続違反のストライキへの対応方法
労働組合には「組合規約」があります。組合規約に、ストライキの際の手続が定められている場合、正当性を有するストライキといえるためには、労働組合内の手続を守らなければなりません。
例えば、組合規約において、ストライキを行うときは労働組合内の合意を得る必要があることなどが定められているケースがあります。
労働組合全体の意思を無視して、一部の組合員が行うストライキを、「山猫スト」といいますが、正当性が否定されるストライキの典型例です。
労働組合対応は、弁護士にお任せください
いかがでしたでしょうか。
今回は、争議行為(ストライキなど)と、会社側(企業側)の適切な対応方法を、弁護士が解説しました。
「労働組合」の行う行為のうち、会社側(企業側)の対応をもっとも慎重に行わなければならないのが、争議行為(ストライキなど)です。
特に、団体交渉の席上で、労働組合が「争議行為(ストライキなど)を行う」という発言をしたとき、「争議行為(ストライキなど)に正当性があるかどうか。」を検討することが必要となります。
正当性を有する争議行為である場合には、団体交渉における話し合いにより誠意を尽くす一方、正当性を有しない争議行為に対しては、違法行為として対応することが基本となります。
ストライキをはじめとした、労働組合・団体交渉への対応にお悩みの方は、多くの団体交渉を解決した実績のある弁護士に、法律相談ください。
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