団体交渉を打ち切って良いケースと、団体交渉拒否の不当労働行為とならないための打ち切り方を解説します。
組合の言うがまま団体交渉を行い、終わり方がわからず長期化している会社からよくご相談いただきます。団体交渉拒否は不当労働行為ですが、正当な理由があれば打ち切ることができ、いつまでも続けなければならないわけではありません。
特に、長期間にわたり何度も団体交渉をしていて、議論が平行線となったとき、これ以上の交渉は無益であり、団体交渉を打ち切れます。必ずしも組合の要求を認める必要はなく、話し合いを重ねても折り合いがつかないケースも、平行線として打ち切ることができる例です。
ただし、打ち切りの適法性の判断は、実際の現場ではとても難しいものです。組合側から不当労働行為の責任追及を受ければ問題が拡大するため、不安なときは打ち切りの決断前に弁護士にご相談ください。
- 誠意を尽くしたが話がまとまらないとき、団体交渉を打ち切れるケースがある
- 団体交渉拒否の不当労働行為とならないよう、打ち切り方に注意する
- 打ち切る際には組合に事前説明をし、労働問題について解決策を提案する
なお、団体交渉対応について深く知りたい方は、下記まとめ解説をご覧ください。
まとめ 団体交渉の対応を弁護士に依頼するメリット・依頼の流れと、弁護士費用
まとめ 団体交渉の対応手順
団体交渉を打ち切れない理由
合同労組(ユニオン)との団体交渉で、組合員から、「団体交渉を継続するように」、「団体交渉を止めるなら不当労働行為で労働委員会に申し立てる」等と発言されることがあります。また、このような敵対的な態度でなくても、さも当然のように次回期日を設定され、進展がないのに無意味に感じる交渉を継続させられることは少なくありません。
団体交渉を、会社側から打ち切ることが難しい理由には、次のものがあります。
- 団体交渉応諾義務
- 誠実交渉義務
つまり、会社は、労働組合から申し入れられた団体交渉を、正当な理由なく拒否できず、応じなければなりません。そして、交渉時には誠意をもって対応しなければなりません。このことは、労働組合法において団体交渉を無視、拒否したり、誠意ある交渉をしないことが、団体交渉拒否の不当労働行為として違法であると定められていることからあきらかです(労働組合法7条2号)。
誠実な交渉を実現するため、単に交渉の席につくだけでなく、必要な説明、資料の開示を行うことも、上記2つの義務の内容とされています。
これらの義務の帰結として、団体交渉を打ち切り、終了することがなかなか難しいのです。労働組合側の要求する議題がまだ残っている時、これを議論せずに打ち切ることは困難です。議論が進展しているときはなおさらです。そして、組合側は、団体交渉を打ち切られないよう、未解決の議題を次々と提案してくる傾向にあります。
なお、交渉に応じなければならない義務があることは、組合側の要求を受け入れなければならないことを意味するものではありません。
つまり、団体交渉の結果、労働組合の要求を拒否するという結果となったとしても、それだけで必ずしも不当労働行為となるわけではありません。
団体交渉を打ち切って良いケース
次に、団体交渉を打ち切って良いケースについて解説します。
なお、団体交渉を打ち切って良いケースでは、早速終了に向かって良いわけですが、しかしその判断は会社が勝手にできるわけではなく、ケースに応じた専門的判断が必要です。「会社にとっては無意味」、「もう話すことはない」と一方的に判断して打ち切ると、不当労働行為の責任追及を受けるおそれがあります。
打ち切って良いケースかどうかは、「何回団体交渉を開催したら打ち切ってOK」、「いつになったら打ち切れる」という形式的に明確な基準があるわけではなく、議論の実質で判断すべき難しい問題です。
団体交渉について弁護士に参加・同席を依頼しているときは、状況に応じて打ち切りの可否を判断できます。
誠実に交渉を尽くした
団体交渉に応じなかったり、誠意をもって交渉しなかったりすれば、団体交渉拒否の不当労働行為となります。団体交渉の席にはついても、交渉態度が不誠実であれば実質的には協議をしていないと同じことで、組合の権利を侵害するためです。
逆にいえば、実質的な議論を十分に尽くし、これ以上交渉することがないといえる状態であれば、団体交渉を打ち切ることができます。また、会社側にとって譲歩が難しくても十分な説明を尽くして納得を求める必要があり、このような説明が十分なときには、打ち切りとするタイミングといってよいでしょう。
十分な説明を尽くしたといえるためには、説明に必要な資料については特に支障がない限り開示しておくことが適切です。
なお、団体交渉をどれくらいの期間続けるのが通常かは、次の解説をご参照ください。
労働組合が一切譲歩しない
団体交渉は、労使の話し合いのため、組合側の努力、協力も必要です。
会社側が十分な議論をし、説明を尽くしているのに対し、労働組合側がまともな議論をせず、暴言、罵声、野次や怒号に終始するような団体交渉であれば、早々に打ち切るべきケースといえます。具体的な解決策について生産的な議論ができないとき、そのような交渉に意味はないからです。
形式的には話し合いの体裁をなそうとする素振りがあっても、労働組合側から一切の歩み寄りがないときも、これ以上の団体交渉の継続は難しく、打ち切らざるを得ない例が少なくありません。
会社側に違法性がない
団体交渉において、ある労働者と会社との労働問題の解決を超えて、会社の労働環境の改善、将来の法令遵守(コンプライアンス)が議題とされることがあります。これらの事情について継続的かつ定期的に団体交渉を開催しはじめると、終わりの見えない泥沼にはまるおそれがあります。
当然ながら、会社の労働環境、労働条件等に違法な点があるときは、組合の指摘を待つことなく即座に改善すべきです。労働法、裁判例に照らして改善すべき点があるのに、組合敵視の考えが先行して団体交渉を打ち切ってしまえば、労働問題が次々と生じることが容易に想像できます。
一方で、会社に違法な点がないにもかかわらず、道徳的、道義的な指摘が続くような場合、一定の議論を尽くした後は打ち切りを宣言すべきケースも多いです。
議論が平行線である
労使双方が、団体交渉における議論を続け、相互に譲歩をしたがこれ以上の妥協ができないという場合、このような状況を「平行線」ということがあります。集団的労使紛争の文脈で「平行線」というと、つまり、団体交渉の打ち切りタイミングが来たことを意味しています。
「平行線」となった後は、団体交渉で議論しても解決する見込みがなく、打ち切ったとしても団体交渉拒否の不当労働行為にはなりません。
ただし、ある労働者と会社との間の労働問題、つまり、個別労使紛争が議題となっているとき、団体交渉で解決できず打ち切りに至れば、その労働者からの不当労働行為救済申立、もしくは、労働審判等の法的手続きに移行することが高い確率で予想されます。そのため、多少の譲歩をするのと打ち切って法的手続きで争うのと、どちらが経済的合理性が高いかは、慎重に検討すべきです。
期限が迫っている
団体交渉の議題が、整理解雇や事業所閉鎖といった会社側の事情にあるとき、団体交渉を続けられる期間には限りがあることがあります。これらの緊急時の経営判断をせざるをえないケースでは、悠長な対応をしていると会社が倒産してしまうような危機的状況のことも多いためです。
危機的状況であることを理由として団体交渉を拒否することはできないものの、労働組合に対して一定の説明をした上で、早急に経営判断せざるを得ないとき、団体交渉の打ち切りを検討することとなります。
なお、円滑に打ち切りに進むためには、
- 会社の危機的状況について、客観的証拠と数字で説明すること
- 説明はするが、譲歩することは難しいと伝えること
- 団体交渉を行うことのできる期限をあらかじめ示しておくこと
といった対策をしておくことが大切です。労働組合としても会社が倒産してしまえばあらゆる請求ができず、組合員となった労働者の希望を叶えることもできないため、やむを得ないことを理解し、納得してもらう必要があります。また、このケースでは、経営判断を優先するため、不当労働行為救済事件等の紛争に発展することを覚悟して打ち切らざるを得ないケースといえます。
団体交渉を打ち切る方法
最後に、団体交渉を打ち切ってよいケースに該当する時、実際に打ち切る方法について解説します。
団体交渉を打ち切る方法について適切な対応が必要です。違法な打ち切りは、団体交渉拒否の不当労働行為といわれて、
- 労働委員会に不当労働行為救済申立をされる
- 不法行為(民法709条)の損害賠償請求をされる
- 議題となった労働問題について労働審判・訴訟で争われる
といった更に大きな問題に発展し、時間がかかってしまうリスクがあります。
また、不当労働行為になるような違法性はないケースでも、特に合同労組(ユニオン)との団体交渉では感情的対立が拡大しないよう、打ち切りに向けた根回し、事前準備が欠かせません。
終了時刻に必ず団体交渉を終える
団体交渉を打ち切るまでの間でも、各回の交渉について延々と長時間行うようでは、会社側の負担、精神的ストレスが過大となってしまうおそれがあります。そのため、終了時刻を設定し、必ずその時間に団体交渉を終えることが、早期の打ち切りのために重要となります。
とはいえ、労働組合側は、「本日中に決めよう」、「あと少し協議すれば解決するはず」、「ここで終了するなら団体交渉拒否の不当労働行為だ」とプレッシャーをかけてきます。終了時刻に必ず終えるようにするためには、団体交渉の事前準備にてあらかじめ次のような対策をしておくことが重要です。
- 終了時刻を定め、回答書に記載して組合に伝える
- 社外の貸し会議室等を準備し、終了時刻までしか予約しない
- 終了時刻になったら声掛けしてもらう
- 終了時刻が近くなったら、議論をまとめ、次回期日を調整する
1回の団体交渉で答えられる内容には限界があり、発生した課題については期日間で準備して次回の団体交渉に持ち越すほうが生産的です。労働組合は、一定の言質を取ろうと食い下がってきますが、会社側で議論をリードし、当日の団体交渉を時間内に終了することが大切です。
具体的な解決策を提案する
団体交渉を打ち切るためには、前章で解説したとおり、十分な交渉と説明を尽くしたにもかかわらず組合側に妥協の余地がなく、議論が並行性となったことが必要となります。
このようにいえるためには、少なくとも、具体的な解決策について提案し、議論していなければなりません。団体交渉では、初めのうちは会社批判、労働問題に関する非難といった感情的対立に終始することがありますが、このような段階で団体交渉を打ち切ることは時期尚早と言わざるを得ません。
団体交渉を打ち切るための前段階として、会社の最終提案をしっかり伝え、労働組合側の最低限度の提案を聞き、譲歩が不可能であることを確認しておいてください。
打ち切ることを労働組合に伝える
やむを得ず会社側から団体交渉を打ち切るときには、打ち切りとする旨を労働組合に伝えるようにしてください。連絡を途絶えさせたり、無視したり放置したりして自然消滅を狙おうという方法は不適切であり、避けるべきです。このような方法で逃げられる相手ではなく、必ず責任追及を受けてしまいます。
打ち切りを伝える際には、あわせて、打ち切りとする理由を伝えます。労働組合が打ち切りに反対し、承諾が得られないとしても打ち切ることが可能ですが、ある程度の納得感を得ておくに越したことはありませんからきちんと説明してください。
労使の対立がそれほどかけ離れたものではなかったときには、打ち切りを伝えることによって組合側の譲歩が引き出せて、早期解決につながる例もあります。
団体交渉の再開を検討する
一旦は「議論が平行線となった」等、解決の見込みがみえないことから打ち切りとした団体交渉でも、その後の事情の変更によって、団体交渉を再開する意味が生じることがあります。このようなとき、労働組合側から団体交渉の再開を求められたら、慎重に検討しなければなりません。
前章で解説したような団体交渉を打ち切って良いケースに該当する事情があったとしても、組合や労働者の方針転換(一定の譲歩の受け入れ等)、会社の状況の変化等、事情の変更によっては団体交渉に応じる義務が再び生じることがあるためです。このときは、再度、初回の申入れ時と同じく検討を要します。
まとめ
今回の解説では、団体交渉を会社側から打ち切ってもよいケースやそのタイミング、団体交渉拒否といわれないように打ち切る方法等について解説しました。団体交渉を続けていくと先が見えない不安を抱えることが多いことでしょう。
団体交渉を継続して、労働問題を解決できる見通しがあるならよいですが、組合の言うなりになって継続することはおすすめできません。団体交渉に応じ、誠実に交渉しなければならない義務があることを理解しながら、団体交渉を終わらせられるタイミングでは適切に打ち切りを求めていくようにしてください。
当事務所の団体交渉サポート
弁護士法人浅野総合法律事務所では、企業の労働問題解決に通じており、団体交渉のサポ−トについて多くの経験があります。
団体交渉をはじめ労働組合対応を弁護士に依頼いただくことで、解決に向かう兆候、打ち切るべきタイミングを見逃さず、できるだけ早期に解決するサポートができます。
団体交渉打ち切りのよくある質問
- 団体交渉を打ち切ってよいのはどのような場合ですか?
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団体交渉応諾義務があるものの、誠実に会社が交渉を尽くしているのに組合側に一切譲歩がなく、議論が平行線となったとき、もはや打ち切って良いケースといえます。もっと詳しく知りたい方は「団体交渉を打ち切って良いケース」をご覧ください。
- 団体交渉をどのように打ち切るのが適切ですか?
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団体交渉を打ち切って良いケースと判断できても、感情的な対立を避けるため、打ち切り方法は丁寧にしなければなりません。具体的な解決策を伝え、組合に説明するべきです。もっと詳しく知りたい方は「団体交渉を打ち切る方法」をご覧ください。
- 相手方のことを理解する
合同労組(ユニオン)とは?
誠実交渉義務とは - 団体交渉の申入れ時の対応
労働組合加入通知書・労働組合結成通知書の注意点
団体交渉申入書のチェックポイント - 会社側の事前準備と回答書作成
団体交渉の事前準備
会社側が回答書に書くべきこと - 参加者の選定と心構え
会社側の参加者・担当者は誰が適切か
参加する会社担当者の心構え
団体交渉に弁護士が参加・同席するメリット - 団体交渉当日の対応
団体交渉当日の進め方・話し方
やってはいけない禁止事項 - 団体交渉の解決までの流れ
解決までにかかる期間
団体交渉の打ち切り方 - その他
派遣先の団体交渉応諾義務