労働組合との間で団体交渉を行うとき、「団体交渉は、誰が参加したらよいのだろう。」という疑問がわくのではないでしょうか。
団体交渉の参加者について、会社側(企業側)からは、次のような法律相談をよくいただきます。
よくある相談
労働組合との団体交渉は時間の無駄なので、社員だけで行かせて、社長は行きたくない。
労働組合との団体交渉は、誰にも知られたくないので、社長だけでこっそりやりたい。
労働組合から、「団体交渉には、社長と人事部長が参加するように。」と指示されたが、従わなければならないのか。
労働組合との団体交渉が不安なので、弁護士に同席してほしい。
団体交渉のルールは、法律に明確に定まっているわけではありません。
労働組合の権利などを定める法律に「労働組合法」がありますが、この「労働組合法」も、「会社は誠実に団体交渉に応じなければならない。」と決めるだけで、「誰が参加すべきなのか。」のルールは書いてありません。
そのため、「誠実に団体交渉しなければいけない。」といわれても、「誰が参加したら『誠実』といえるのだろう。」と、ますます疑問に思ってしまうのではないでしょうか。
更には、団体交渉のルールは、労働組合が一方的に決められるものでもありません。
それでも、団体交渉申入書には、労働組合から、「社長が必ず団体交渉に参加するように。」という強い要求が書いてあることが多くあります。
そこで今回は、「団体交渉の参加者をどのように決めたらよいのか。」、「弁護士を同席させることができるのか。」について、弁護士が解説していきます。
ポイント
労働組合との団体交渉とは、労使間の「話し合い」です。
そのため、労働組合法、労働基準法などの労働法に書いていないルールについては、話し合いで決めることとなります。
団体交渉の参加者についても、話し合いで決めていくのが原則ですが、「誰が参加するか。」について、労働組合の要求に従う必要がない場合もあります。
「団体交渉」のイチオシ解説はコチラ!
目次
企業の労働問題解決ナビを運営している「弁護士法人浅野総合法律事務所」には、労働組合との団体交渉に同席し、団体交渉の参加者の一員として、会社側(企業側)の交渉のサポートをすることができます。
浅野英之
弁護士法人浅野総合法律事務所(東京都中央区)、代表弁護士の浅野です。
今回の解説は、団体交渉の参加者に関するものです。
団体交渉は、誠実に行わなければ、労働組合法違反の「不当労働行為」となるおそれがあります。
そのため、団体交渉の参加者についても、「不誠実だ」といわれてしまわないよう慎重に検討する必要があります。
また、労働問題に詳しい弁護士に、団体交渉に同席してもらい、団体交渉中も、適宜アドバイスをもらいながら進めることが可能です。
労働組合は、団体交渉を数多く経験した上部団体のスタッフがいることが通常であるため、会社側(企業側)も、労働問題の専門家のサポートを受けて、団体交渉に臨むべきです。
「団体交渉の参加者」は話し合いで決める
団体交渉のルールは、当事者同士が話し合いながら決めていくものです。
したがって、団体交渉の参加者についても、労使双方の話し合いで決定するのが原則です。
ただ、団体交渉は、その席上での話し合いが非常に重要なものですから、誰が参加するかによって、会社側(企業側)有利に団体交渉を進められるかが大きく変わります。
会社側(企業側)の立場に立って、団体交渉の参加者を決めるにあたっては、次の点に注意するようにしてください。
もっと詳しく!
「話し合いで決める」ということは、会社側(企業側)の納得が必要ですから、労働組合側から一方的に、「社長の出席を要求する。」といわれても、従わなければならないわけではありません。
その一方で、「話し合いで決める」ということは、会社が勝手に決めてよいわけではありません。
会社側(企業側)で、団体交渉の参加者を選択するときの一番の目的が、「団体交渉における話し合いを有利に進めること」にあることを理解して、人選しなければなりません。
「不誠実」と言われない参加者を選ぶ
例えば、「参加者が事情を知らない平社員ばかりであった。」という団体交渉のケースを想像してみてください。
このような団体交渉では、会社側(企業側)としては、まともな反論もできず、事情聴取もできないことから、団体交渉を開催する意味がまったくありません。
団体交渉という形はありながら、実際には交渉、話し合いが全く進まない状態では、労働組合から、「不誠実な団体交渉だ。」と責められてもしかたありません。
「不誠実な団体交渉」しか行わない会社に対しては、「不当労働行為」という労働組合法違反の制裁を受けることとなります。
議題に関係ある参加者を選ぶ
団体交渉に出席する参加者は、団体交渉の議題に関係する従業員でなければなりません。
団体交渉では、労働組合が要求してくる議題に対して、労働者側、使用者側が話し合いを行います。
そのため、団体交渉を実のある話し合いにするためには、会社側(企業側)の参加者が、具体的な事実を踏まえながら、会社側(企業側)に有利な反論を述べられるようにしておく必要があります。
交渉力のある参加者を選ぶ
団体交渉で、積極的に発言したり、労働組合の勢いに負けずに自分の意見をしっかり言ったりすることができるかどうかは、その人の性格にもよります。
「口喧嘩が強い」という必要はありませんが、労働組合からの強い要求に屈して、優柔不断になってしまう従業員は、参加者として適切とはいえません。
議題に関係ある事実を知っている参加者候補が複数いる場合には、交渉力のある参加者を選びましょう。
社長、役員、従業員の交渉力に不安のある場合には、労働組合との団体交渉を、弁護士に依頼することも検討してください。
逆に、血気盛んで積極的に発言をする従業員を参加者にして、団体交渉で不用意な発言をしてしまうことにも注意が必要です。
会社側(企業側)に不利な参加者を参加させない
団体交渉をすることによって、会社側(企業側)が不利な状況になることは避けなければなりません。
団体交渉に参加させることによって、会社が不利な状況に追い込まれてしまいかねない従業員は、断固として参加させるわけにはいきません。
そのため、団体交渉の参加者を決定するにあたっては、会社が不利になることのないよう、戦略的に検討しなければなりません。
例えば・・・
セクハラ、パワハラなど、組合員となった労働者の被害の申告について、ある従業員が加害者の立場にある、というケースがあります。
このようなケースで労働組合は、加害者となった従業員を、団体交渉に参加させるよう、強く要求してくるでしょう。
セクハラ、パワハラなどの加害者といわれている従業員を団体交渉に参加させてもよいかどうかは、ハラスメント疑惑が冤罪なのかどうかによっても異なります。
会社側の参加者ごとに検討しましょう!
団体交渉のルールは話し合いで決めてよく、会社側(企業側)が納得しないルールは、労働組合のいうことを聞く必要はないということですね。
そうすると、団体交渉に誰が参加するのか、という点も、労働組合の要求を聞かずに、会社が一方的に決めてしまってよいということでしょうか。
団体交渉の参加者は、労使双方の話し合いで決めることであり、会社側(企業側)の参加者は、第一次的には会社が判断すべきもの、ということです。
しかし、適当に参加者を選ぶことはお勧めできません。
労働組合から、「不誠実な団体交渉だ。」といわれるリスクはもちろんのこと、戦略的にも、できるだけ、会社に有利になりそうな参加者を選択していくべきだからです。
会社側の参加者として、よく相談がある候補者ごとに、「団体交渉の参加者とすべきかどうか。」という点を、弁護士が解説します。
人事労務の担当者(役員など)
まず、人事労務の担当者は、団体交渉において、会社側(企業側)の主要な参加者となります。
人事労務の担当者は、非常に弱気であるとか、よほどの不適任である場合を除いて、団体交渉の参加者として真っ先に検討すべきです。
団体交渉では、労働問題についての議論がされますので、会社内の労働問題を把握している人事労務の担当者であれば、会社側(企業側)に有利な、適切な反論が期待できます。
小規模な会社では、「人事労務の担当者=社長」ということもあるでしょうが、その場合は次の項目を参考にしてください。
社長
社長が団体交渉に参加することには、メリット、デメリットの双方があるため、ケースバイケースで判断する必要があります。
- 団体交渉における話し合いを、スピーディに進めることができる。
- 団体交渉の解決について、団体交渉の席上ですべて決めることができる。
- 団体交渉の話し合いを、会社側(企業側)の譲歩を絡めて柔軟に進めることができる。
- 団体交渉について、会社内の情報共有をスムーズに進めることができる。
- 団体交渉における、社長の不用意な発言が命取りとなる場合がある。
- 団体交渉において、社長が労働組合の勢いに負けたり、丸め込まれたりした場合、会社側(企業側)に不利な状況となる。
- 団体交渉の解決について、即断即決を求められる。
労働組合は、団体交渉の解決力を増すために、社長の参加を強く求めてくるケースが多いです。
団体交渉の席上で、社長の納得が得られれば、労働問題の一括解決が期待できるからです。
しかし、一般的に、社長のほうが、労働組合の担当者よりも、労働法の知識が少ない場合が多く、社長が全く準備もせずに団体交渉に出席することは、非常に危険です。
多くの場合、社長は出席をしないか、もしくは、社長が出席するとしても、団体交渉を得意とする弁護士の同席のもと、しっかりとした事前準備をして臨むのがよいでしょう。
ポイント
社長が団体交渉に出席しない場合であっても、団体交渉において、労働組合からの質問、要求について、すべて「社長の確認をとらなければ回答できない。」と逃げられるわけではありません。
社長が団体交渉に出席しなかったとしても、団体交渉の出席者が何の権限もなく、事情も知らない、というのでは、「不誠実団交」として不当労働行為であると責められるおそれがあるからです。
また、事実関係には大きな争いがなく、最終的な解決金の金額調整などしか議題がない場合には、社長が参加したほうが団体交渉が円滑に進みます。
直属の上司
団体交渉の議題となっている労働問題について、労使間で事実関係に争いがある場合には、団体交渉は、事実関係についての調査のような流れになることがあります。
その場合、会社側でも、その労働問題についての具体的事実を知る人を、団体交渉の参加者とすべきです。労働問題を訴える従業員の、直属の上司が典型例です。
直属の上司が参加すべき団体交渉の議題とは、例えば次のようなケースです。
例えば・・・
組合員の未払残業代が議題となっており、「労働時間であったかどうか」が争いとなっている団体交渉
組合員の不当解雇が議題となっており、組合員の勤務態度、能力不足などが争いとなっている団体交渉
組合員のセクハラ・パワハラ被害が議題となっており、ハラスメントの有無が争いとなっている団体交渉
団体交渉申入書が労働組合から送付された時点で、団体交渉の議題と、これに対する労働組合側の事実認識がある程度把握できます。
団体交渉申入書の文面からだけでは、労働組合側の事実認識がわからない場合には、団体交渉の参加者を選定するために、事実関係に争いがあるかどうか、事前に電話・書面で確認することもよいでしょう。
争いのある事実関係を語る当事者が、被害を訴える組合員だけでは、会社側(企業側)に有利な解決は望めません。
労働問題の加害者
団体交渉の議題となっている労働問題に、加害者となる従業員がいる場合には、労働組合は、その加害者となる従業員の参加を、強く求めてきます。
例えば、組合員となった労働者が、セクハラ・パワハラ被害を訴えて団体交渉となったというケースが典型です。
しかし、加害者となる従業員を、労働組合の要求通りに団体交渉に参加させてよいかどうかは、慎重な検討が必要となります。
- 労働問題の被害に、事実関係の争いがあるとき、会社側(企業側)に有利な証言をさせることができる。
- 労働問題の被害に争いがないとき、被害者となった労働者に直接謝罪をさせることができる。
- 労働問題の被害に争いがないとき、被害者となった労働者の感情を発散させることができる。
- 感情的な言動がなされ、団体交渉がうまくまとまらなくなってしまう可能性がある。
- 加害者となった労働者の不用意な発言が、会社側(企業側)に決定的に不利な状況を招く。
加害者となった労働者を団体交渉に参加させるメリットを優先して、参加させる場合であっても、入念な事前準備が必要となります。
労働問題の被害を訴える労働組合から、どのような質問、追及がされるかはある程度予想できますので、不用意な発言をしないよう、回答を用意しておくべきでしょう。
弁護士
団体交渉に、弁護士に同席してもらって、法的なサポートを受けることができます。
弁護士は、会社内のものではありませんが、団体交渉の当事者である会社から、委任を受けたものとして、団体交渉に参加することができます。
顧問弁護士として、常日頃から会社の労働問題をチェックしていた弁護士に参加してもらうことで、団体交渉の議題となった労働問題についても、事実関係を踏まえた発言をしてもらうことが期待できます。
また、顧問弁護士ではなくても、組合対応を多く行ってきた経験豊富な弁護士であれば、団体交渉を会社側(企業側)に有利に進めてもらうためのアドバイスをすることができます。
注意ポイント
社会保険労務士(社労士)という資格でも、団体交渉へ参加するサービスを提供している専門家がいます。
しかし、社会保険労務士(社労士)も労働問題を専門とする資格ではありますが、弁護士と異なり、紛争が起きた時に会社を代理する権限はありません。
団体交渉だけでは解決できず、不当労働行為救済申立てや、労働審判などのトラブルとなったとき、弁護士を依頼する必要があります。
団体交渉の参加者を、いつ労働組合に伝える?
団体交渉の参加者の決め方は、理解できました。
会社内で決めた団体交渉の参加者について、労働組合に伝えておく必要があるのでしょうか。また、伝えるとしたら、いつどのような方法で伝えればよいのでしょうか。
団体交渉の会社側(企業側)の参加者は、労働組合の「許可」が必要なわけではないので、必ずしも事前に伝えなければならないわけではありません。
団体交渉を円滑に進め、会社側(企業側)の有利に話し合いを運ぶために、適切な判断をしていきましょう。
団体交渉の参加者を、事前に伝える場合には、書面によって伝えることが多くあります。
弁護士による受任通知
団体交渉に、弁護士を同席させる場合には、事前に弁護士がついたことと、連絡窓口を弁護士にすることを伝えることで、会社が直接対応する手間とストレスを減らすことができます。
弁護士が受任したことを、労働組合に伝える書面は、例えば次のようなものです。
弁護士 ○○○○
当職は、この度、株式会社○○○○より、貴組合が平成○○年○月○日付労働組合結成通知書及び同日付団体交渉申入書によって申し入れた団体交渉等の一切の労働問題について受任しました。
本書面にて、受任の旨を通知します。
今後、上記の労働問題についての連絡は、当職宛に頂けますようお願い致します。
会社に直接連絡しても、対応致しかねますので、予めご承知おきください。
参加者を伝える通知
団体交渉の会社側(企業側)の参加者を、事前に伝えることは必須ではないものの、労働組合との関係を円満にし、団体交渉をうまく進めることができる場合があります。
書面で労働組合に伝える場合には、戦略的に、労働組合の組合員が多数参加し、団体交渉が中断してしまうことに警告しておく書面がお勧めです。
団体交渉の参加者を通知する書面は、例えば次のような内容です。
代表取締役 ○○○○
貴組合が平成○○年○月○日付労働組合結成通知書及び同日付団体交渉申入書によって申し入れのあった団体交渉に応じます。
当社の参加者は、社長○○○○、人事労務担当役員○○○○の2名を予定しています。
団体交渉の円滑な進行のため、貴組合におかれましても、同数程度の参加者に調整して頂けますようお願い致します。
なお、貴組合より、当社従業員○○○○の参加の要求がありましたが、応じることができません。
労働組合側の参加者について注意すべきポイント
労働組合側の団体交渉の参加者には、会社内の従業員と、上部団体の組合員がいます。
加えて、その他の一般組合員が複数同席するケースも多くあります。これらの一般組合員は、部外者のように見えますが、労働組合に所属する組合員であるため、同席をすることができます。
労働組合側の団体交渉の参加者には、例えば次のような人がいます。
例えば・・・
- 団体交渉の議題の対象となっている従業員
- 支部組合の組合員
- 上部団体の役員(執行委員長、書記長、会計など)
- 上部団体の一般組合員
上部団体の役員の中には、「専従組合員」といって、労働組合の仕事だけをしている人もいます。
「専従組合員」は、団体交渉の経験が豊富にあるため、労働法、特に、労働組合側にとって有利な法律の知識にたけています。
労働組合側の参加者を排除したり、団体交渉を拒んだりすれば、不当動労働行為となる可能性が高いため、慎重に行動する必要があります。
注意ポイント
労働組合側の参加者は、労働組合側が決めるものであって、参加者を理由に団体交渉を拒否することはできないのが原則です。
ただし、あまりに組合員の参加人数が多かったり、不規則な発言をしたりした結果、団体交渉を進めることすらままならない場合には、団体交渉を中断してよいケースもあります。
団体交渉を中断せざるをえない場合には、団体交渉のルール、参加者のルールについて話し合うところから始めるのがよいでしょう。
団体交渉への弁護士の参加を、弁護士に相談したい方へ
いかがでしたでしょうか。
ここまでお読みいただければ、「労働組合から申し入れられた団体交渉には、誰が参加したらよいのでしょう。」という疑問は、解決したのではないでしょうか。
団体交渉への弁護士の参加をお考えの方は、ぜひ、弁護士法人浅野総合法律事務所まで法律相談ください。
労働問題を得意とする弁護士の中にも、さまざまな弁護士がいます。
団体交渉には参加せず、後方支援のアドバイスのみをサービスとする弁護士もいれば、訴訟や労働審判に移行してから依頼を受ける弁護士もいます。
当事務所では、団体交渉に実際に同席し、団体交渉の席上でも、組合対応についての法的なアドバイスを提供しています。
-
-
ご相談の流れは、こちらをご覧ください。
弁護士法人浅野総合法律事務所(東京都中央区)では、労働問題と企業法務しています。 会社で、常日頃から問題となる労働問題と企業法務に特化することで、会社を経営する社長、人事労務の担当者の目線に立って、親 ...
続きを見る
まとめ
いかがだったでしょうか。
今回の解説をお読みいただくことで、次のことを理解できます。
まとめ
団体交渉の参加者を、会社側(企業側)有利に、戦略的に決めるポイント
団体交渉の参加者の、候補者ごとの考慮するポイント
団体交渉に、弁護士に参加してもらうときのポイント
団体交渉の申し入れがあると、非常に後ろめたい気持ちになり、放置して無視してしまいたいと思う社長も多いのではないかと思います。
しかし、団体交渉の申し入れに対しては、速やかに対応しなければ、ますます労働組合からの責任追及の手は強まります。
団体交渉へ参加する当事者の人選を、戦略的に決めることによって、少しでも安心して労働組合との団体交渉に臨んでください。