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弁護士 浅野英之
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所を経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を開業。
企業の労働問題について、豊富な経験を有する。

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労働組合への回答書に会社が書くべき5つの内容と、団交申入への対応

労働組合から団体交渉の申入れを受けたとき、会社が団体交渉の回答書を作成するとき記載すべきポイントを解説します。

労働組合から突然に団体交渉申入書が届いたときにも、誠実に対応しなければ会社が不利になるおそれがあります。労働組合には憲法上の団結権があり、労働組合法において、正当な理由なく会社が団体交渉を拒否すると、不当労働行為となってしまうからです。そのため、組合からの連絡に対し、無視せず、必ず回答しなければなりません。

会社が組合に対して行う回答は、その証拠を残し、適切に主張を伝えるため、「回答書」という書面を作成し、送付するようにしてください。会社側に有利な解決へと進めるためには、回答書の内容についても十分な注意が必要となります。

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まとめ 団体交渉の対応を弁護士に依頼するメリット・依頼の流れと、弁護士費用
まとめ 団体交渉の対応手順

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所を経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を開業。
企業の労働問題に豊富な経験を有する。

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回答書を送付すべき理由

まず、合同労組(ユニオン)から団体交渉の申入れを受けた時に、会社側の立場で、回答書を送付すべき理由について解説します。

回答書を送付すべき理由
回答書を送付すべき理由

なお、回答書を作成する際には、労働組合から交付された団体交渉申入書の記載をよく検討し、これに噛み合った反論として行う必要があります。噛み合わない議論を重ねることは、更に紛争を悪化してしまうおそれがあるからです。団体交渉申入書のポイントについては下記解説をご参照ください。

団体交渉に応じる意思を示す

労働組合からの団体交渉申入れに対し、回答をしなかったり無視、放置してしまったりすると、団体交渉拒否の不当労働行為として違法となります。また、団体交渉に応じるとして、誠意をもって対応しなければ使用者の誠実交渉義務に違反するおそれもあります。

団体交渉の申入れに対して回答書を出すことは、団体交渉に応じる意思を示し、かつ、その意思を証拠化する点で役立ちます。この点で、組合が示す期限までに十分な回答ができない場合でも、ひとまずは申入れを受領した旨と、これに応じる意思があることをあらかじめ示しておくことが大切です。

特に、団体交渉による話し合いだけでは解決せず、不当労働行為救済申立事件や労働審判等、法的手続きに発展したとき、会社の主張を認めてもらうためには客観的証拠による立証が必要です。

団体交渉の事前準備となる

団体交渉申入書には組合側の要求がまとめられていますから、これに対して回答書を作成することは、団体交渉の事前準備という意味合いがあります。十分な準備なく、団体交渉の席上で有利な主張を過不足なく述べることは、経験豊富な弁護士でもなかなか難しいことです。

事前に回答書を作成し、会社に有利な主張を整理し、事前に組合に伝えておくことが有効です。

感情的な議論を避ける

労働組合のうち、特に合同労組(ユニオン)の中には、団体交渉にて荒っぽい対応をする団体も存在します。そのような団体と、口頭や電話で言い争いをしても、感情的な対立が深まるばかりで、言った言わないの水掛け論となってしまう可能性が高いです。感情的な議論に終始すれば、団体交渉での問題解決は困難です。

感情的な議論を避けるためには、会社の主張を、事前に書面で簡潔に伝えておく方法が有効です。

なお、団体交渉は、労働組合に保障された労働三権の根幹であり、実際に議論することが保障されています。たとえ回答書を送付していても、

  • 書面のみの回答にとどめ、団体交渉をしない
  • 団体交渉の席上で「回答書記載のとおり」としか発言しない

といった交渉態様には問題があり、団体交渉拒否の不当労働行為と評価されるおそれがあります。

回答書に書く内容と、回答書の例

労働組合からの団体交渉申入れに対して、会社が書面にて回答すべき理由を理解していただいたところで、次に、回答書に記載しておくべき内容について解説します。回答書の記載事項は、会社側にとって有利な解決から逆算し、戦略的に検討する必要があります。

例えば、よくある回答書の文例は次のとおりです。

回答書の例
20XX年XX月XX日
○○○○労働組合○○支部
執行委員長 ○○○○殿
株式会社○○○○
代表取締役 ○○○○

貴組合から受領した平成○○年○月○日付け「労働組合結成通知書」及び同日付け「団体交渉申入書」に対して、当社の回答は、次の通りです。

貴組合が、上記書面によって当社に申し入れた団体交渉に応じます。(※1)
日時は、貴組合の指定する候補のうち、「① 平成○○年○月○日 ○時~○時」を希望しますので、ご調整ください。(※2)

場所は、当社にて準備する貸し会議室を希望します。(※3)

なお、団体交渉の会社側の参加者は、会社が適任と考える者を選定します。(※4)今後本件についての連絡は、人事部長○○宛に頂けますようお願いいたします。(※5)

以上

上記文例は、必要最低限の内容であり、状況に応じて追記してください。

なお、前章で解説したとおり、回答書を送付しても団体交渉を省略できるわけではなく、労働組合の提案してくる議題についての会社側の具体的な反論は、団体交渉の席上で行うことで足ります。

話し合いで解決できる可能性を模索するためには、回答書に詳細な法的主張を記載するよりは、団体交渉にて話し合いを進める方向がおすすめです。

会社側の回答書のポイント
会社側の回答書のポイント

団体交渉に応じる意思

まず、会社側の回答書に必ず書いておくべきは、「労働組合から申入れのあった団体交渉に応じる意思がある」ということです。冒頭で解説したとおり、正当な理由なく団体交渉に応じなければ、団体交渉拒否の不当労働行為として違法になってしまうからです。

回答書に記載し、証拠化しておくことで、組合側からの団体交渉拒否、不当労働行為という責任追及を回避できます。

なお、正当な理由があるときは団体交渉を拒否できます。例えば、労働組合側の言動により、団体交渉の開催に危険性があるケース、団体交渉の参加者・担当者の日程調整がつかないケース等、すぐに応じなければならないわけではないことに注意が必要です。

また、2回目以降の団体交渉では、第1回団体交渉における労働組合側の態度によっては、団体交渉を拒否スべきケースがあります。例えば、次のケースでは、団体交渉拒否に正当な理由があるといえます。

  • 労働組合が、団体交渉の議題とすべきでない事項(義務的団交事項以外のこと)に固執し続ける
  • 組合員が多数なだれ込み、暴力・暴動が予想される(大衆団交)
  • 議論を十分に尽くしたが、合意が成立する可能性がない(平行線)

交渉日時に関する回答

団体交渉の日時について、組合側から団体交渉申入書で指定されることがよくあります。しかし、団体交渉に応じなければならない場合でも、日時については労使の協議で決めるべきで、組合の要求する日時に合わせなければならないわけではありません。

労働組合が提案する日時に団体交渉が可能なときは、次のように回答してください。なお、日時の都合がついても、組合の要求する時間は相当長時間であることが多いため、時間数を限定するよう回答書にて伝えます。団体交渉拒否と言われない程度に実質的な議論ができるよう、2時間程度とするのが実務的です。

回答書の例

団体交渉の日時は、貴組合の提案する20XX年XX月XX日XX時開始で結構です。ただし、時間数は2時間程度を目安とさせていただきます。

組合側の提示する日時はかなり差し迫った直近のスケジュールなことが多く、会社側の参加者の予定が合わないことがあります。適当な参加者で臨み、不利に進んでしまうより、交渉日時の再調整を行うほうがよいです。団体交渉拒否という指摘を受けないよう、代替の日時について複数提案するようにします。

回答書の例

団体交渉の日時について、貴組合の提案する日時はいずれも会社側参加者の都合がつきません。つきましては、下記の日時荷体裁調整頂けますでしょうか。なお、いずれの日時も都合がつかないときは、これ以降の日時で複数候補を頂けますと幸いです。
・20XX年XX月XX日 XX時〜XX時
・20XX年XX月XX日 XX時〜XX時

交渉場所に関する回答

団体交渉の場所についても組合側が指定してくることが多いですが、必ずしも従わなければならないわけではありません。労働組合は、団体交渉をできるだけ有利に進めるため、自身のコントロールできる労働組合(もしくは上部団体)の事務所内や、会社内の会議室を利用することを求めてきます。

しかし、社内の会議室で団体交渉を行ったとき、団体交渉が紛糾すると他の社員に影響を与えるおそれがあります。団体交渉の場所は、公共性の高い第三者的な場所を、会社側で準備することが適切です。

回答書の例

団体交渉の場所について社内会議室を提案頂いていますが、都合により使用できません。

会社付近の貸会議室を準備しますので、そちらで開催することを提案します。同意頂けるときは、開催日時が決まり次第、会社の費用負担にて予約します。

なお、有利に交渉を進めるためにも、会議室代程度の少額の費用は会社が負担することが実務的です。「費用負担は折半で」ということに固執すれば、組合側から「それであれば無料なので当組合の会議室でやりましょう」と反論されることとなります。

団体交渉の開催場所

団体交渉の参加者に関する回答

団体交渉申入書で、労働組合が、会社側の参加者・担当者を指定してくることがあります。例えば、社長の出席を強く求めるケースや、ハラスメントの直接の加害者の謝罪を求めるケースです。

しかし、団体交渉の参加者についても労使の話し合いで決めるべきもので、不誠実な団体交渉となるようなケース(権限のない平社員のみ参加している例等)でない限り、会社側が自由に選定することができます。そのため、団体交渉の参加者について相違があるときは、回答書にてあらかじめ要求に対する回答を伝えておきます。

回答書の例

団体交渉の参加者は、会社が適任と考える者を人選します。貴組合が参加を求める○○部長は、都合により団体交渉に参加することができません。

また、多数の組合員が押し掛けてきて、団体交渉が円滑に進まないケースがあります。荒っぽい団体交渉となることを避けるため、人数についてあらかじめ回答書で警告しておくことがあります(特に、第1回に暴力的な団体交渉となったケースの第2回以降の団体交渉の回答書)。

回答書の例

当社より団体交渉に参加するのは、社長、人事部長、上司であった○○部長の3名です。

円滑な交渉進行のため、貴組合においても同数程度の参加人数に留めていただけますよう、あらかじめお願いいたします。

交渉窓口に関する回答

労働組合から会社に対し、電話、FAX、メール等あらゆる連絡方法で伝達がされると事務が混乱し、通常の業務に支障が生じるおそれもあります。また、他の社員に知られたくない労働問題について、全社的に波及してしまうおそれもあります。

特に、残業代請求のように、他の社員にも波及する会社の制度的な問題が団体交渉の議題となるとき、交渉窓口の限定には細心の注意が必要です。効果的な話し合いをスピーディに進めるため、回答書に次のように記載し、連絡窓口を定め、労働組合に伝えておく方法が有効です。

回答書の例

今後の本件に関する連絡は、人事部長宛(電話番号03-XXXX-XXXX)に連絡頂けますようよろしくお願い申し上げます。

団体交渉への参加・同席を弁護士に依頼いただくとき、弁護士を交渉窓口として一本化する方法が有効です。

回答書の例

貴組合が申し入れた団体交渉について、弁護士○○○○が受任しました。

今後の本件に関する連絡は、当職宛にいただき、会社への直接の連絡はされないようお願いいたします。なお、会社似直接連絡いただいても対応はいたしかねます。

以上のように適切な窓口を指定し、組合との連絡をとれるようにしておけば、交渉窓口を限定したとしても団体交渉を拒否していることにはならず、不当労働行為とはなりません。

回答を先延ばしにしない

労働組合との団体交渉は、会社にとってとても気の進まないものでしょう。団体交渉申入書が届いても、回答書を作成しないまま長期間放置したり、回答を先延ばしにしてしまっていたりすることがよくあります。

しかし、労働組合はいつまでも待ってはくれません。会社の回答が遅れた分だけ、その後に行われる団体交渉は不利な状況からのスタートとなります。回答が適切な期限までになされなければ、団体交渉拒否の不当労働行為といわれ、労働委員会で救済命令を下されてしまうおそれがあります。

労働組合の設定した回答期限までに、一定の内容を記載した回答書を必ず送付するよう徹底し、回答を先延ばしにして状況を悪化させないよう心がけてください。

期限までに十分な回答まではできない場合でも、むしろ十分な反論は団体交渉の場でしっかり時間をとってすべき場合も多いです。以下の通りに、

  • 回答ができない(知らない、資料を保管していない等)
  • 回答をする必要がない(法的に義務がない等)
  • 回答が間に合わない(期限を延期してほしい等)

といった回答でも、必ず回答期限までに組合側に一方入れることが、今後の円滑な交渉と、解決につながります。回答にしばらく時間を要する場合には、具体的な期限を明記し、回答猶予申入書を送付するようにしてください。

まとめ

今回の解説では、団体交渉・労働組合対応において、会社の主張をしっかりと伝える役割を持つ、回答書に関する法律知識を解説しました。

労働組合に送る回答書に、法律上の明確なルールはありません。会社側にとって有利な解決へと導くため必要な項目について、戦略的な観点から作成すべきです。あくまでも本番は団体交渉当日の話し合いですが、その際に会社側の意図を明確に伝えるためには、適切な内容の回答書を送付することが必須となります。

当事務所の団体交渉サポート

弁護士法人浅野総合法律事務所では、企業の労働問題解決を得意としており、団体交渉サポートについて豊富な解決事例があります。

本解説で紹介した書式を参考に回答書を作成いただき、もしお困りの際は、ぜひ当事務所へご相談ください。

団体交渉のよくある質問

団体交渉の回答書に、会社が書くべき内容は?

団体交渉の回答書に、必ず書いておくべきことは、団体交渉に応じる意思を明示することです。その他、日時や場所、参加者等について、組合の言うなりにならず、会社の主張を伝えるようにしてください。より詳しくは「団体交渉の回答書に記載すべき内容」をご覧ください。

団体交渉の回答を先延ばしにするリスクは?

憲法に団体交渉権が保障され、労働組合法で団体交渉拒否が違法とされていることから、団体交渉への回答を先延ばしにすると、不当労働行為となってしまうおそれがあります。より詳しくは「団体交渉の回答書を先延ばしにしない」をご覧ください。

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