団体交渉の事前準備と、当日までに行っておくべきことについて解説します。
団体交渉での協議をできるだけ実効的なものにし、会社にとって優位に交渉を進めていくためには、事前準備が欠かせません。特に、合同労組(ユニオン)と行う団体交渉では、敵対的な交渉となることが多いため、事前に決めておくべきことについて組合との間で詰めておかなければ議論が進まなくなってしまいます。
団体交渉の議題が、労使双方にとって感情的な対立を招きやすいものであるほど、団体交渉前にあらかじめ決めておけることについては、書面のやりとりや電話等で具体的かつ詳細に準備しておくことがおすすめです。
まとめ 団体交渉の対応を弁護士に依頼するメリット・依頼の流れと、弁護士費用
まとめ 団体交渉の対応手順
団体交渉の事前準備の重要性
団体交渉の事前準備はとても重要です。特に、団体交渉で協議するような労働問題それ自体ではなく、これに付随する手続き的なルールについては、団体交渉前に詰めておくことが不可欠です。これらのことは、「団体交渉の場で決めよう」というのでは手遅れと言えます。
このことを理解いただくため、初めに、団体交渉の事前準備の重要性について解説します。
第1回団体交渉前の準備が特に重要
団体交渉の事前準備のなかでも、特に第1回団体交渉前の準備の重要性が高いです。第1回団体交渉前というと、団体交渉申入書が届き、回答書を作成するところからスタートです。このとき、初めて合同労組(ユニオン)に接する会社だと、焦って冷静な対応ができないことがありますが、団体交渉にすぐさま応じるのは愚策です。
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第1回団体交渉前の準備をないがしろに団体交渉を開始してしまうと、そのルールが後々まで続くこととなりかねません。2回目以降からルール変更しようとしても、労働組合から「慣行化している」と反論され、容易には変更できなくなります。慣行化したルールは、合理的な理由がない限り変更できないからです(理由があれば変更できるのですが、組合は必ず反対してきます)。
団体交渉の途中から相談を受けたケースで、次のような不利な条件を過去に飲んでしまい、変えがたい事例があります。
- 業務時間中に団体交渉を開催することが慣例となっている
- 社内の会議室で団体交渉を行うことが慣例となっている
- 労働組合が要求したら即日に団体交渉を行うことが慣例となっている
これらのルールは、第1回団体交渉前からきちんと詰めておけば、いずれも会社が拒絶すれば回避できたものです。
事前準備を終えてから団体交渉に応じる
会社には、正当な理由なく団体交渉を拒否してはならず、団体交渉に応じる義務があります。ただし、即座に応じなければならないわけではなく、団体交渉は「事前準備をしっかりと終えてから」応じれば足りるのです。
日時や場所、参加者や議題といった手続き的な諸事項についての準備が、労使の話し合いによって決まることからもあきらかです。つまり、労使の話し合いにより決めるということは、会社が同意しなければ決まらないことを意味しているからです。
以上のことを十分理解し、事前準備では会社にとって有利な条件を提示し、その準備が十分に完了してから初めて団体交渉に応じるのが、会社側にとって正しい対応です。すぐさま開催せよとの組合の要求は必ず断るようにしてください。
なお、一方で速やかに事前準備を進めなければ、使用者の誠実交渉義務違反といわれるおそれもあるため、悠長にすすめていてはなりません。
団体交渉の前にあらかじめ決めておくべき重要なこと
次に、団体交渉の前にあらかじめ決めておくべき重要な事項について、順に解説していきます。
団体交渉を正当な理由なく拒否することは、団体交渉拒否の不当労働行為となり違法ですが、手続き的な諸ルールが定まっていないことは、団体交渉を開始しない正当な理由となります。もちろん、手続き的なルールを定めずに放置し、永遠に団体交渉を拒否しておくことはできませんが、申入れ時の組合の要求通りに開催しなければならないわけではありません。
前章で解説したとおり、会社も合意の上でルールを定めれば、その後の変更は事実上ハードルが高くなるため、少なくとも次の3つの点を意識して決めるようにしてください。
- 業務に支障が生じない条件
- 会社にとって戦略的に有利な条件
- 労働組合の権利侵害、不当労働行為とならない
1,2つ目の観点と、3つ目の観点は矛盾することが多いため、これらを満たすルールを定めるためには、バランスのとれた実務感覚が重要であり、弁護士によるアドバイスが有益です。
準備事項は、以下のとおりです。
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団体交渉の開催場所
団体交渉の開催場所については、組合事務所で行うよう要望されることがありますが、長時間軟禁されてしまい強いプレッシャーをかけられて無理な条件を飲まされてしまう例があるためおすすめできません。
しかし一方で、アウェイになってしまうことを避けようと、ホームである社内の会議室で行おうとすれば、他の社員に労働問題の発生を知られてしまったり、業務に支障が生じてしまったりするおそれがあります。社内の会議室では終了時刻も設定しづらく、延々交渉を続けなければならないおそれもあります。そのため、団体交渉の開催場所は、社外の貸し会議室等、第三者的な場所がおすすめです。
社内の会議室は、予定が入っている、部外者の使用を許していないといった理由で断るようにしてください。
会社の希望する開催場所へ誘導するためには、団体交渉前の事前準備として、どのような場所で会議室が借りられるかや、その際の費用について事前調査が必要です。なお、第1回の団体交渉を社内でなし崩しに行ってしまうと、2回目以降も社内会議室で開催することを断りづらくなってしまいます。
費用の負担者
団体交渉を社外の貸し会議室等で行う際には費用負担が生じますが、費用の負担者は会社とすることが通例です。なお、費用の負担者についても、団体交渉前の事前準備の段階で決めておくべきです。
団体交渉の費用を労働組合に負担させると、費用がかかることを理由に社内の会議室、組合事務所内等、労働組合側にとって有利な場所へ誘導される隙を与えてしまいます。
団体交渉の開催日
団体交渉の開催日が決まらなければ団体交渉を行うことはできませんから、団体交渉前に決めて置かなければならないのは当然です。通常、労働組合からの申入書に、組合側の希望日が指定されていることが多いですが、差し迫った日時となっており、事前準備をする時間的余裕のないことが少なくありません。
このようなとき、会社側では、事前準備の段階で、参加者の予定調整が困難なことを理由として再調整を求めることが実務的です。特に、団体交渉への弁護士の参加・同席を求めるときは、法律相談や依頼、準備の時間を要します。
なお、あまりに先の期日としすぎると、団体交渉拒否の不当労働行為にあたるおそれがあるため、日程調整においても誠意をもった対応が大切です。実務的には、2週間以内程度のなかで、予定の空く日時をいくつか提案することが通常です。
団体交渉の時間帯
労働組合が、団体交渉の日程とともに、時間帯についても指定してくることがあります。そして、多くのケースでは、業務時間中の団体交渉開催を求めてきます。しかし、組合員のなかに在職中の社員がいるときには、団体交渉は業務時間外に行うことが原則となります(そのため、多くの団体交渉は夜間に行われます)。
業務時間中に団体交渉を行うことは、職務専念義務に反することとなる上、その時間中の賃金を要求されるおそれがあります。本来、業務時間中の組合活動は会社に許可なく行うことのできないものですから、拒否することは会社の自由です。
業務時間外に組合員の時間を拘束することで、組合員にも対応に一定の手間がかかることを示し、団体交渉を早期に解決する効果が期待できます。
団体交渉の時間数
団体交渉を行う時間数もまた、団体交渉前の事前準備の段階で決めておかなければなりません。時間数に上限を設けないと、終わりのない泥沼となりかねないためです。
合同労組(ユニオン)の要求が記載された申入書には、開催日と開始時間が書いてあるものの終了時間が書いていないことが多いです。終了時間を決めず、延々と交渉をして会社の譲歩を引き出すのが狙いだからです。会社側では、団体交渉拒否の不当労働行為といわれない限度で短ければ短いほどよいでしょう。実務的には、2時間程度の時間で区切ることが通例です。
次回の開催日の決め方
団体交渉が第1回だけで解決することはあまり多くありません。通常、何度か団体交渉を繰り返し開催して、労働問題の解決を目指します。そのため、第1回が終了後、第2回を決めるときには、事前準備として、次回の開催期日の決め方が議論になります。
団体交渉終了時にその場で次の日時を決めてしまうと、労働組合の主張するとおりに直近の日にちに決められてしまうおそれがあります。そのため、一旦持ち帰り、双方のスケジュールを調整の上、電話やFAX等のやりとりで決めるようにし、団体交渉の席上で次の日程を入れないよう注意しなければなりません。
なお、次回期日までの間隔は、その期日で会社側の宿題とされた回答事項、資料収集等にかかる時間から逆算して判断するようにしてください。
団体交渉の議題
労働組合側が求める議題は、団体交渉申入書等に記載されています。これをよく精査し、団体交渉に応じる必要があるかどうかを吟味することが、事前準備の段階でとても重要です。
団体交渉では、労働条件や職場環境、待遇に関する事項等が義務的団交事項といわれ、必ず応じなければならない内容となります。しかし、これ以外の会社の専権に属する事項については、必ずしも団体交渉に応じる必要はありません。このような意味で、そもそも団体交渉を開催するかどうかを決めるための事前準備としても、議題の確定が大切なのです。
なお、労働組合が求める議題が義務的団交事項でない場合には、そのことを理由に団体交渉を拒否してください。また、申入書や要求書等の記載から議題があきらかでない時は、どのような議題についての団体交渉か、事前準備段階で開示するよう組合に求めるようにします。難しい判断となるため、迷うときは弁護士にご相談ください。
団体交渉の参加者
団体交渉の参加者について、労働組合法をはじめとした法律に明確な決まりはありません。ただし、議題に関連した一定の権限ある人を選ぶ必要があります。
参加者について労使双方の納得の上で決まらない限り、団体交渉を開催することができません。
合同労組(ユニオン)は、団体交渉に社長が出席するよう求めてくることが多いですが、その多くは「吊し上げ」、「精神的ストレスを与え要求を通すこと」が目的となっています。従うほうがよいかはケースによりますが、少なくとも、会社側の出席者について組合が決めるものではありません。
なお、弁護士が参加・同席するとき、事前準備の段階でその旨を伝えておくほうが交渉が円滑に進むためおすすめです。
録音するかどうか
団体交渉の内容を証拠に残すために、団体交渉の様子を録音することがあります。この場合、会社側で勝手に録音をすることが絶対に違法となるというわけではないですが、断りを入れておいたほうが紛争を未然に防止できます。
- 団体交渉の録音をするかどうか
- 録音するとして、組合側、会社側のいずれが行うか
(一方しか録音しないときは、データの共有方法等)
以上のような点を事前準備の段階で決めておくことがおすすめです。録音は人の主観の入らない客観的証拠となるため、不当労働行為救済申立事件等で争われたとき、会社を守る重要な証拠となります。
録音することで、労働組合側が暴言や罵声、不規則発言をすることを防止する効果も期待できます。
議事録を作成するかどうか
団体交渉の内容を証拠に残すために、議事録を作成するケースがあります。このときも録音と同様、
- 議事録を作成するかどうか
- 作成するとして、組合側、会社側のいずれが行うか
(一方しか議事録を作成しないときは、その共有方法等)
といった点を、事前準備の段階で決めておきます。
ただ、議事録は一言一句書き起こすのでもない限り、作成者の主観の入る余地があるため、証拠としての価値がそれほど高くありませんし、下記のとおり組合による主張の押し付けにつながるおそれがあります。原則として録音を重視するほうがよいでしょう。
団体交渉終了時や、終了後に、合同労組(ユニオン)が作成した議事録に署名するよう求めてくることがありますが、応じてはなりません。
議事録への署名に応じることは、その議事録内容に同意したことを意味し、かつ、労働協約としての強い効果を認められてしまうおそれがあります。しかし、その議事録は、組合側に都合のよいように解釈されたり、作成者の考えが記載されていたりする問題のあるものの可能性があります。
まとめ
本解説では、団体交渉の事前準備と、あらかじめ団体交渉前に決めておくべきことを解説しました。
団体交渉では、労働問題の本体についてしっかり集中して話し合うべきであり、長時間になりすぎずに実質的な議論を尽くすためには事前準備が欠かせません。
当事務所の団体交渉サポート
弁護士法人浅野総合法律事務所では、企業の労働問題解決の専門家として、相談にて、豊富な知識をあますところなく提供しています。
労働問題の早期解決のため、団体交渉開始より事前に決めておけることは、早めに、かつ、会社側にとって不利にならない内容で決めておくようにしてください。
団体交渉についてよくある質問
- 団体交渉は、なぜ事前準備が重要なのですか?
-
団体交渉を申し入れられてしまったとき、労働者側ではしっかりと準備ができている状態なのに対し、会社側は第1回の団体交渉までの限られた時間で、全速力で準備を進めなければならないからです。もっと詳しく知りたい方は、「団体交渉の事前準備の重要性」をご覧ください。
- 会社側で団体交渉の準備のためにやっておくべきことは?
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団体交渉では、交渉の議題をあらかじめ確認しておくとともに、開催時間・場所・参加者等の付随的事項については、団体交渉を開始する前に組合との間で合意しておかなければなりません。もっと詳しく知りたい方は「団体交渉の前にあらかじめ決めておくべき重要なこと」をご覧ください。
- 相手方のことを理解する
合同労組(ユニオン)とは?
誠実交渉義務とは - 団体交渉の申入れ時の対応
労働組合加入通知書・労働組合結成通知書の注意点
団体交渉申入書のチェックポイント - 会社側の事前準備と回答書作成
団体交渉の事前準備
会社側が回答書に書くべきこと - 参加者の選定と心構え
会社側の参加者・担当者は誰が適切か
参加する会社担当者の心構え
団体交渉に弁護士が参加・同席するメリット - 団体交渉当日の対応
団体交渉当日の進め方・話し方
やってはいけない禁止事項 - 団体交渉の解決までの流れ
解決までにかかる期間
団体交渉の打ち切り方 - その他
派遣先の団体交渉応諾義務