労働審判を申し立てられた会社(企業)に向けた解説です。労働審判を申し立てられた場合には、早急に準備することが必要不可欠です。
労働訴訟の場合には、1年以上かかる場合も多く、その間に主張立証は繰り返し行われます。そのため、最初にすべての準備を進めて、完璧に用意をしておく必要まではありません。
このような相談があります
労働問題の解決までに、長期間かかるのであれば、あわてて準備をすることはないのではないか。
弁護士を依頼するか悩んでいるので、第1回期日は社長が出て行って様子見をするつもりである。
金銭解決するのであれば、すぐには払いたくないので、労働審判を長引かせたい。
労働審判と訴訟とは、両方とも裁判所で行う手続きですが、その性質が大きく異なるからです。
労働審判を申し立てられてしまったときには、速やかに準備をしなければならない理由を、弁護士が解説します。
労働審判を訴訟と勘違いされ、「どうせこの先長引くのだから、そんなに急いで準備をしなくてもよいのではないか。」と考えている会社もいるようですが、間違いです。
「労働審判」のイチオシ解説はコチラ!
目次
企業の労働問題解決ナビを運営している当事務所では、労働審判を申し立てられた会社の代理人として、限られた少ない時間で、最大限の準備をすることができます。
浅野英之
弁護士法人浅野総合法律事務所(東京都中央区銀座)、代表弁護士の浅野です。
当事務所では、労働審判をご依頼された場合には、準備をできる限り素早く進めます。
労働審判を、会社側(企業側)の立場で数多く経験していることにより、ノウハウが体系化され、スピーディな準備が実現できました。
労働審判で争われる労働問題の特徴は?
労働審判で争われる労働問題は、「個別労使紛争」です。会社と、個々の従業員との間の、不当解雇、懲戒処分の無効、残業代請求、雇止め、パワハラ、セクハラ、マタハラなどの労働トラブルです。
「個別労使紛争」とは、労働組合との間の「集団労使紛争」との比較でいわれる用語です(ただし、最近では合同労組により、労働組合との団体交渉でも個別労使紛争が争われるケースも多いです。)。
労働審判の3回の期日で労働問題が解決しない場合や、労働審判に労使いずれかが異議申立をした場合には、労働審判での解決はできませんが、おおむね8割程度の労働問題は、労働審判で解決しています。
より詳しく!
労働審判は、各地方裁判所で行われ、これを担当するのは、裁判官と、労使の専門家それぞれ1名からなる労働審判委員会です。
労働審判委員会は、労働審判を主導し、調停の際に事実の確認を行ったり、形成した心証を基に和解を勧めたりし、調停によって解決ができない場合には労働審判による最終判断を下します。
なぜ会社は、労働審判の準備を早急に行わなければならない?
労働審判の特徴についてご理解いただければ、訴訟とは異なることがおわかりいただけるでしょう。
次に、会社側(企業側)が、労働審判の準備を急がなければならない理由を解説します。
労働審判の制度は、労働者側、使用者側いずれでも利用できますが、大半は、労働者側が会社に対して労働審判を申し立てます。このとき、労働者を「申立人」、会社を「相手方」といいます。
労働審判で会社に有利な解決を得るためには、専門的な準備を迅速に進める必要があります。労働審判を会社側で進める場合には、弁護士に依頼するケースが多くあります。
労働審判の期日を、会社側の都合で決定できない
任意交渉(話し合い)であれば、交渉の日時は、労使の当事者の合意で決まります。次のような事情で、会社の都合が悪ければ、交渉の日付をずらせます。
- 交渉に重要な役割を果たすキーマンがどうしても用事があって外せない。
- 会社側(企業側)に有利な事情を知る関係者が、その日程に参加できない。
- 業務の最繁忙期である。
しかし、労働審判は、第1回期日は、既に労働審判の申立書が、会社に送達された時点では決定されています。その後、期日変更ができないおそれもあります。
期日変更が、訴訟よりも難しいのは、労働審判委員会のメンバーの予定調整をした上で、期日を決定しているからです。
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労働審判の期日の決定と、期日変更は、こちらをご覧ください。
労働審判の期日は、労働審判を申し立てられてしまった会社側(企業側)としては、既に決定された後に伝えられることになります。 労働審判を労働者側から申し立てられると、会社側(企業側)には「期日呼出状」が送 ...
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労働審判の第1回期日が決定的に重要
訴訟の場合、長期間戦い続けることから、期日1回分の「参加」の重要性は、相対的に低いといえます。
訴訟に参加できなかったとしても、主張書面、陳述書などによって、裁判所に言い分を書面で伝えることができます。
これに対して、労働審判の場合には、事実認定を行う第1回期日が決定的に重要です
第1回はとりあえず適当な従業員に参加させておいて、第2回目期日以降で反論をしようと考えていては、労働審判委員会の事実認定に対する意見を言うチャンスを失ってしまいます。
労働審判の会社側の準備事項は、とても多い
訴訟であれば、労働者の主張立証に合わせて認否反論を行い、会社側も順番に主張立証を準備すればよいのですが、労働審判は違います。
労働審判では、第1回期日までに、お互いに、すべての主張立証を提出しなければなりません。
申立てのタイミングを決められる労働者側であれば、準備が整ったところで申し立てればよいですが、会社側(企業側)は、自分のタイミングで準備をすることはできません。
必然的に、限られた時間で準備をしなければならない事項は、とても多くなります。
注意ポイント
「書面と証拠を出せばよい。」というだけではありません。
適切な書面を書くためには、会社の経営者、人事の担当者、直属の上司など、関係する当事者に事情聴取を行い、調査をしなければなりませんから、この準備はかなりの期間を要します。
労働審判の専門的な知識が必要となる
時間をかけて準備を進めても、労働法と裁判例の理解が不足していては、会社側(企業側)に有利な解決は望めません。
調査した事実をもとに、労働法や判例理論にそって、会社に有利なように主張しなければなりません。
例えば・・・
不当解雇が争われた労働審判で、解雇の対象となった社員の悪いところ、欠点だけを列挙しても、それは経営者の感情、気持ちが強くでてしまい、法的な結論に大きな影響を及ぼすことができません。
列挙した問題点が、会社においてどのような意味を持ち、解雇の有効性に対して、法的にどのような影響があるのかを、説得的に主張しなければなりません。
会社側が、労働審判に早急に対応するメリット
労働審判を申し立てられた場合、会社側の負担は非常に大きく、できれば話し合いによる任意交渉で解決できる方がメリットは大きい場合が多いといえます。
紛争コストの拡大を回避するため、まずは労働者側との間で、話し合いでの解決を模索することをお勧めします。
しかし、労働審判は、会社に不利な点ばかりではなく、会社のメリットとなる点もあります。労働審判は、訴訟に比べて短期間で終わり、紛争の拡大を防げますし、合理的な解決に導いてもらうことが可能な制度です。
労働トラブルの長期化を防ぐことができる
労働審判の制度がなければ、話し合いでは到底おさまりがつかない場合、訴訟で争うこととなります。
訴訟といっても第1審だけでなく、労働者が第1審の判決に納得しなければ、控訴、上告という制度によって紛争が長期化していきます。
例えば・・・
パワハラのトラブルの場合、パワハラの被害者となったと考える労働者は、感情的に非常に高ぶっています。
「パワハラを行った上司や、パワハラを放置した会社が絶対に許せない。」、「弁護士費用がいくらかかっても徹底的に制裁したい。」と感情の高ぶった労働者の場合、会社としても長期間争わなければならないリスクがあります。
労働審判では、原則として3回の期日の間に、裁判官からの最終的な意見を聞くことができます。
労使の争いが大きい場合でも、裁判所からの一定の心証が示されることによって、労働審判で短期間の解決が実現可能なことも多いです。
柔軟で、合理的な解決ができる
労働審判による解決は、法律に従った杓子定規な解決だけではなく、合理的な解決ができます。
訴訟で判決となる場合には、法律にしたがった解決が原則です。
例えば・・・
不当解雇のトラブルの労働審判では、不当解雇を受けた労働者としても、解雇は無効であると考えるものの会社への復職は望まないという場合に、退職を前提とした金銭的解決が可能です。
残業代請求のトラブルの労働審判では、残業代について、おおざっぱな計算のもとに、労使間に争いがあることを踏まえて割合的に解決することが可能です。
労働審判の早急な対応は、弁護士にお任せください
労働審判を会社側(企業側)で戦う場合には、弁護士によるサポートが有用です。
労働法による労働者保護は、とても手厚いものです。会社側(企業側)としても、早急に対応しなければ、紛争が拡大するリスクがあります。
会社の労務管理の手法が労働法に沿ったものになっているかどうか、今一度点検してみてください。
労働審判への対応にお困りの会社様は、企業の労働問題に強い弁護士へご相談ください。
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ご相談の流れは、こちらをご覧ください。
弁護士法人浅野総合法律事務所(東京都中央区)では、労働問題と企業法務しています。 会社で、常日頃から問題となる労働問題と企業法務に特化することで、会社を経営する社長、人事労務の担当者の目線に立って、親 ...
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まとめ
企業の労働問題解決ナビをご覧いただきまして、誠にありがとうございました。
この解説をご覧いただければ、次のことがご理解いただけます。
解説まとめ
- 労働審判を争う会社側(企業側)が、なぜ早急に対応しなければならないのか(理由)
- 労働審判を争う会社が気を付けておくべき訴訟とのスピードの違い
- 労働者側から申し立てられた労働審判に、誠実に対応するメリット
労働審判を起こされてしまったとき、悠長にかまえていては、労働者側のいうがままに労働問題を解決されてしまうおそれがあります。
解雇トラブル、残業代トラブルなどを、労働審判で争われた会社は、当事務所の豊富な解決実績に基づくアドバイスをご参考にされてください。