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弁護士 浅野英之
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所を経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を開業。
企業の労働問題について、豊富な経験を有する。

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労働審判における解雇の解決金の相場と事例、会社が理解すべき減額方法

労働審判での解雇の解決金の相場と、解決金を減額するポイントを説明します。労働審判での解雇の解決金には、次のような一定の相場観があります。妥当な解決を目指すためには、相場の目安を知ることが重要です。

本解説では、上記の相場の根拠として、統計データ当事務所の解決事例について説明します。

解雇権濫用法理にしたがって「不当解雇」となるような問題のある解雇をしてしまったとき、その解雇を撤回しない代わりに「解決金」名目で金銭を支払うという和解をすることが実務ではよくあります(「解雇の金銭解決」といいます)。上記のとおり、解雇の違法性等に応じて解決金は増減するため、労働審判の解決金を減額するためのポイントも大切です。

事前準備なく性急に解雇したときは、無効と評価されるおそれがあるわけですが、解雇を撤回しない代わりに解決金を払うという和解が実務ではよく行われます。簡易迅速、かつ、事案に即した柔軟な解決を目指す労働審判の趣旨からして、解決金による金銭解決は労働審判に向いているといえます。

まとめ 労働審判の会社側の対応を弁護士に依頼するメリットと、手続き・解決の流れ

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所を経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を開業。
企業の労働問題に豊富な経験を有する。

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解雇の金銭解決とは

日本の労働法には「解雇権濫用法理」という解雇を制限する、労働者保護のためのルールがあります。具体的には、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」(労働契約法16条)には、権利濫用として解雇は無効となります。

解雇権濫用法理とは
解雇権濫用法理とは

一方で、解雇をされて争う労働者側としての、建前では解雇の撤回要求をしながら、本音では解雇をされた会社に復職することは考えられないというケースが多くあります。

このようなとき、労働者の本音としては、解雇トラブルの生じた会社には復職したくないため、「金銭補償をしてもらって辞めたい」と考えていることが多いです。当然、解雇をした会社としても、たとえ不当解雇として無効だったとしても「戻ってきてもらっては困る」と考えています。

解雇をめぐる労使の本音と建前
解雇をめぐる労使の本音と建前

以上のような、労使の本音と建前の落とし所として、実務上よく用いられるのが、解決金を支払うことによる「解雇の金銭解決」なのです。なお、支払うお金は「解決金」とすることが通例ですが、「示談金」、「和解金」等といった名目とすることもあります。

解雇の金銭解決では、会社が一定の解決金を支払うことと引き換えに、解雇を撤回して合意退職してもらう、というやり方が通例です。このことには、次のメリットがあります。

  • 企業側のメリット
    たとえ不当解雇の可能性があったとしても、元社員の復職を防ぐことができる
    解雇が無効となった時に発生する未払賃金(バックペイ)の支払を回避できる
  • 労働者側のメリット
    解決金を得られる
    解雇トラブルが生じた会社に復職する必要がなくなる

以上の理由で、労働審判では、解決金を支払うことによる金銭和解が、実務上頻繁に行われます。労働審判はもはや、解雇の金銭解決が主たる目的であるケースも多く、むしろ、徹底して復職を争うときには労働審判内での解決に適さず、訴訟移行する例も少なくありません。

労働審判で解雇を争われたときの解決金の相場・目安

労働審判において、解雇トラブルを金銭解決するにあたって、企業側が支払うべき解決金には一定の相場観があります。

ただし、この解決金の相場は、裁判所(労働審判委員会)の形成する心証に大きく影響します。つまり、心証が「解雇有効」なのか「解雇無効」なのかによって、提示される解決金が大きく増減します。解雇が有効(会社勝訴)という心証に近づくほど解決金は低額になり、解雇が無効(会社敗訴)という心証に近づくほど解決金が高額になる傾向にあります。

加えて、解決までにかかった期間は、「いざ解雇が無効と判断されたときの未払賃金(バックペイ)」の額に影響するため、解決までの期間が長いほど解決金額が高額となる傾向にあります。

上記基準の根拠となる資料

「労働審判制度における解決金について」(東京大学経済学研究科 高橋陽子、第18回雇用WG)によれば、雇用関係終了事件における解決金の最頻値は、3〜4ヶ月分程度との統計が示されています。

これは上記の基準にしたがえばおおむね、解雇有効もしくは有効性に争いがある程度の労務管理をしていたときの結論に近似しています。


「労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析」(2015年、労働政策研究・研修機構)によれば、労働審判で支払われる金額は、100万円以上200万円未満(1位、27.0%)が最も多くなっています。

月額賃金30万円程度の社員を基準に考えると、上記の統計に近く、おおむね3ヶ月〜6ヶ月程度を支払っている会社が多いということを意味しています。

以上のことを踏まえ、ケースごとに、ありうる解決金の相場・目安についてわかりやすく説明していきます。

解雇有効のケース丨解決金:月額賃金1ヶ月〜3ヶ月分

労働審判の解決金(解雇有効のケース)
労働審判の解決金(解雇有効のケース)

労働審判で会社に有利な反論を十分に行った結果、解雇は有効との心証を勝ち取ったとき、解決金は低額もしくは不要となります。解雇が有効であれば、和解せずに争ったとしても会社の主張がそのまま認められ、社員の復職は認められないことが予想されるからです。この場合、未払賃金(バックペイ)ももちろん発生しません。

とはいえ、解雇が完全に有効であるとの心証が裁判所(労働審判委員会)から示されることはあまりなく、「有効の可能性が高い」としても争いを継続することには一定のリスクがあります。また、社員側があきらめないとき、労働審判に異議申し立てをされて訴訟に移行し、問題は長期化します。

そのため、問題の拡大を防ぐため、解雇が有効となる可能性の高いケースでも、企業側にとって、早期解決と引き換えに多少の解決金を払うメリットがあると考えることも少なくありません。この場合、支払う解決金は、月額賃金1ヶ月〜3ヶ月分程度が目安となります。

解雇の有効性に争いのあるケース丨解決金:月額賃金3ヶ月〜6ヶ月分

労働審判の解決金(解雇の有効性に争いあるケース)
労働審判の解決金(解雇の有効性に争いあるケース)

解雇の有効性に争いがあるケースとは、労働審判内の主張と反論の結果、解雇が明らかに有効とも無効ともいえないようなケースです。このようなケースこそ、解雇の有効性を決定しないままに、労使双方の譲歩によって解雇を金銭解決するのに向いているといえます。

解雇の有効性に争いのあるケースでは、解決金の相場は、月額賃金3ヶ月分〜6ヶ月分程度が目安となります。労働審判、訴訟と問題が発展し、争いが拡大したとき、勝訴する可能性がどの程度あるかの見通しを踏まえ、慎重に検討しなければなりません。

なお、労働審判は簡易迅速に労働問題を解決するための制度であり、期日は3回以内、証拠は当日取調べられるものに限られるといった制約があります。そのため、複雑な事案では、解雇の有効性について労働審判のみでは心証を確定することができず、リスク回避のために金銭解決を選ばざるを得ないケースもあります。

解雇無効のケース丨月額賃金6ヶ月〜1年分

労働審判の解決金(解雇無効のケース)
労働審判の解決金(解雇無効のケース)

解雇は無効との心証を裁判所(労働審判委員会)が抱いたときは、労働審判における解決金の相場は高額化せざるを得ません。解雇無効との心証を開示されるようなケースで金銭解決を求めるときは、月額賃金6ヶ月分〜1年分程度を覚悟する必要があります。

相当高額な解決金を提示されたとき、和解に躊躇する気持ちはよく理解できますが、一方で、金銭解決の和解を突っぱねて判断を得ると、解雇は無効となり、問題社員が復職してしまいます。この際、解雇期間中の未払賃金(バックペイ)も払わなければなりません。

なお、労働審判に納得のいかないときは2週間以内に異議申し立てをして訴訟に移行させることができますが、訴訟で争う場合にも半年〜1年以上の審理期間を覚悟する必要があります。訴訟の結果、解雇が無効であるとの判決を受ければ、解雇期間中の未払賃金(バックペイ)は長期化した分だけ更に増額されてしまいます。

当事務所の解決事例の紹介

解雇の解決金について、およその目安を知っていただくため、当事務所で実際に解決した労働審判の事例について、ご紹介しておきます。

なお、実際の解決金の額は、その事案における個別事情、解雇の悪質性、事前準備の程度等によっても変わります。個別のケースに即した見通しを知りたい方は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。

事案の概要解決金の額
解雇(普通解雇、無断欠勤)90万円(賃金3ヶ月分)
解雇(普通解雇、能力不足)180万円(賃金5ヶ月分)
解雇(普通解雇、違法性の強い例)400万円(賃金8ヶ月分)
解雇(懲戒解雇)300万円
内定取り消し80万円(試用期間相当の賃金)
本採用拒否150万円(賃金3ヶ月分)
解雇(整理解雇)100万円
雇い止め240万円
解雇の解決金の事例

労働審判の解決金を減額するためのポイント

次に、労働審判において、解雇を金銭解決する際の解決金を減額するためのポイントについて解説します。

労働審判の解決金を減額するためのポイント
労働審判の解決金を減額するためのポイント

第1回期日に十分な反論をする

労働審判で解雇を争われたとき、最終的に解決金によって金銭解決することが労使の暗黙の了解となっていたときでも、解決金について有利な判断を得るためには、徹底して「解雇有効」を主張して戦う姿勢を示さなければなりません。前章で解説したとおり、解雇の有効性に関する心証が、解決金額に大きく影響してしまうからです。

労働審判では、3回以内の期日で審理を終結するものとされており、第1回は事情聴取を中心に行い、第1回の後半〜第2回、第3回にかけて、調停による話し合いを実施するのが通例です。このとき、裁判所(労働審判委員会)による事実認定と心証形成は、第1回段階でおおむね終了しています。

そのため、心証に影響を与えるためには、第1回期日に十分な反論を行い、証拠を提出せねばなりません。第2回以降で提出される主張や証拠は、労働審判委員会にあまり参考にしてもらえなかったり、軽視されるおそれがあります。解決金を引き下げるために、答弁書の作成、期日における主張等で、会社側に有利となるよう徹底した努力が大切です。

妥協しない

裁判所(労働審判委員会)から会社不利の心証が開示されたり、高額な解決金を提示されたとき、安易な妥協は禁物です。納得のいかない結論には、妥協や譲歩の必要はありません。異議申立して訴訟移行し、一定の勝算があるのであれば、和解を拒否して労働審判を下してもらうほうが合理的な場合もあります。

担当する委員の中には、解雇の有効性について曖昧であるにもかかわらず、労働者側の感情をなだめるために会社に理由なき譲歩を求めるケースがあります。このようなときこそ、次章でも解説するとおり、経済的合理性の観点から、企業側にメリットがあるのかどうか、慎重に見極める必要があります。

経済的合理性を考慮する

裁判所(労働審判委員会)から解決金の提示を受けたときには、現時点で金銭解決とすることに経済的合理性があるかを考慮して検討する必要があります。

前章で解決金の相場について解説したとおり、解決金は労使の譲歩の賜物といえます。

  • 訴訟に移行した場合の勝算
  • 解雇無効となったときの未払賃金(バックペイ)の支払い

といったマイナス面のリスクを考慮し、経済的合理性があると判断できるときには、解決金の支払いによって一刻も早く紛争を終結させるべきです。合理性を検討するにあたっては、労働審判から訴訟に移行する際に発生する弁護士費用も考慮しておく必要があります。

労働審判は非公開である一方、訴訟になると公開の法廷で審理されます。
そのため、「紛争が拡大・長期化して他の社員にも波及したときに会社にどの程度のリスクがあるか」という点についても、経済的合理性の観点から考慮要素としておく必要があります。

裁判所(労働審判委員会)に配慮する

強硬な姿勢を貫徹しすぎると、裁判所(労働審判委員会)の事実上の心証を害するおそれがあります。特に、妥当な和解を取り持とうとしているのに感情的な対立から拒絶してしまうと、企業側の味方になってもらえないおそれがあります。

また、裁判所で声を荒げたり机を叩いたりといった非常識な態度をとると、「パワハラ気質のワンマン社長」というイメージを助長します。この点が心証形成の重要な資料として用いられると、会社に不利益となる危険があります。

以上のことから、合理的な落とし所を探るためには、裁判所(労働審判委員会)の提案にも一定の配慮を示すべきです。

訴訟移行前に解決する

解雇トラブルを抑えるための解決金を低額にするためには、訴訟移行前に、労働審判段階で解決できるよう努めることが大切です。一般的に、労働審判での和解よりも、訴訟における和解のほうが解決金が高額化する傾向にあるためです。その理由については、次の3点が考えられます。

  • いざ解雇無効となったとき、長期化した分だけ未払賃金(バックペイ)が高額となる
  • 労働者側にも弁護士費用がかかるため、低額の解決金では和解ができない
  • 訴訟に発展するほどの労働問題は感情的対立が激しく、重大性が高い

以上の多面的な理由により、労働審判段階で解決しておいたほうが、解決金を低く抑えられる可能性が高いです。なお、労働審判も、裁判官という専門家が加わって判断するため、簡易迅速に進めるために審理には限界があるとはいえ、大きく誤った判断がなされる可能性はそれほど高くないといえます。

解決金から源泉徴収すべきか

最後に、労働審判で解決金を払って解決することとなったときの課税関係について解説しておきます。

原則として、解決金という名目で払ったとしても、特に非課税となる理由はありませんから、課税対象となるのが原則です。解決金という名前でありながら、実際には未払賃金や退職金、未払残業代の支払いを内容としているとき、源泉徴収する対応が基本となります。この点で、むしろ労働者側が税金について気にしていて、「源泉徴収されてしまうから、手残りがもっと多くないと納得できない」といって増額を求めてくることがあります。

例外的に、解決金という名前で支払われていても、その実質を考慮して課税対象とはならず、源泉徴収が不要となるケースがあります。解決金という名前ではあるいものの、その実質が精神的苦痛に対する慰謝料であるとき、慰謝料その他の損害賠償金は非課税ですから、このような解決金には課税されず、源泉徴収も不要です。

労働審判における合意が成立し、調停で解決するときには、このような解釈の迷いが生じてしなわないよう、源泉徴収をするかどうかについても事前に協議し、調停調書に記載しておくのが適切な対応です。

まとめ

今回は、労働審判において「解雇の不当性」を争われた会社側(企業側)が理解しておくべき、金銭解決の際の「解決金の相場」を解説しました。解決金には一定の相場観がありますが、裁判所(労働審判委員会)の相場により左右されるため、解決金を減額するためには、法律・裁判例の知識を駆使して、解雇が有効であるという心証を勝ち取ることが大切です。

労働者保護の観点から、解雇は厳しく制限されており、よほど徹底した準備をしておかない限り、解雇をめぐるトラブルは会社側にとって不利な状況からのスタートとなります。安易な解雇は「不当解雇」といわれ、違法、無効と評価されます。

当事務所の労働審判サポート

弁護士法人浅野総合法律事務所では、企業の労働問題解決に注力しており、会社側視点で労働審判をサポートしています。

解雇の金銭解決は、会社にとっても合理性があり、紛争を早期に終了させられる点で企業側のメリットも大きいです。解決金が不当に高額となりすぎないよう、労働審判内でしっかり解決金の交渉を行う必要があり、弁護士のアドバイスが有益です。

解決金についてよくある質問

労働審判における解雇の解決金の目安はいくらですか?

労働審判において解雇の金銭解決をするとき、解決金の相場は、月額賃金の1ヶ月〜1年分が目安です。解雇の有効性についての裁判所(労働審判委員会)の心証により増減します。もっと詳しく知りたい方は「労働審判で解雇を争われたときの解決金の相場・目安」をご覧ください。

労働審判で、解雇の解決金を減額するポイントはありますか?

労働審判における解雇の解決金を減額し、低額に抑えるため、解雇が有効であることについて十分反論し、妥協しない姿勢が重要です。ただし、経済的合理性を加味して和解を検討する必要があります。もっと詳しく知りたい方は「労働審判の解決金を減額するためのポイント」をご覧ください。

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