労働者(従業員)と会社側(企業側)との争いのうち、個別の労働者の権利を争うものを「個別労使紛争」、会社側(企業側)と労働組合とで行う、労働者全体の労働条件などの争いを「集団労使紛争」といいます。
この「個別労使紛争」を解決する手段には、次のようなものがあります。労働問題を争う労働者が、いずれの方法を選ぶかによって、紛争の状況は大きくことなります。
ポイント
労働審判
調停
あっせん
労働訴訟
今回は、この中でも、会社側(企業側)からの労働問題のご相談の多い、「労働審判」と「あっせん」について、わかりやすく解説していきます。
「労働審判」と「あっせん」を比べると、似た制度でありながら、いくつかの重要な違いがあります。
労働者が、「労働審判」と「あっせん」のうちのいずれの方法によって労働トラブルを争ってくるかによって、会社側(企業側)でも適切な対応が異なる場合があります。臨機応変に対処、準備していきましょう。
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目次
浅野英之
弁護士法人浅野総合法律事務所(東京都中央区銀座)、代表弁護士の浅野です。
当事務所では、最も多く相談のある「労働審判」に加え、「あっせん」の段階からであっても、会社側(企業側)に有効なアドバイスをご提供可能です。
「あっせん」だからと軽く見ることなく、適切な対応をすることをお勧めしています。
「あっせん」制度の特徴
「あっせん」とは、労働者(従業員)と会社側(企業側)との間で、労働トラブルが生じているときに、これを話し合いによって解決するための制度です。
例えば、労使間で、賃金(残業代・退職金など)、解雇、昇給昇格、出向配転といった労働条件に関するさまざまなトラブルが生じます。
「あっせん」では、労働問題の専門家が、「あっせん委員」として、労使間の交渉を仲介することによって、円満な和解成立に向けた手助けをしてもらえます。
労働者(従業員)が問題社員であり解雇するなど、決定的に決裂してしまう場合でなくても、労使間で直接連絡をとっていては、話し合いが困難な場合などに活用されます。
「あっせん」を行う機関
「あっせん」を行う機関には、次の種類があります。
いずれも同じく「あっせん」と呼ばれていますが、別の機関で行われる「あっせん」と混同しないようにしましょう。
ポイント
各都道府県の労働委員会
各都道府県労働局の紛争調整委員会
弁護士に相談するときは、「どの機関で行われているあっせんの相談か」がわかるようにするとよいでしょう。心配であれば、あっせん申立てをしたと知った書類などをご持参ください。
「あっせん」のメリット
「あっせん」によって労働問題を解決することには、労働者側にとって、大きなメリットがあります。紛争の解決手段を選択するのは労働者側であるため「あっせん」を利用されるメリットを理解ください。
「あっせん」は、さきほど解説したいずれの機関が行うものであっても、いずれも費用が低額(もしくは不要)であるというメリットがあります。
また、「あっせん」は、短期間で専門家を踏まえた合理的な解決案を検討してもらうことができるというメリットがあります。労働者側が、本人ひとりで労働問題の解決を目指す場合、利用されることが多い制度です。
「あっせん」の解決力
「あっせん」とは、専門家をあっせん委員として加え、当事者間の交渉を仲介してもらう制度です。
「あっせん」におけるあっせん委員の役割は、あくまでも「当事者間の調整」と「話し合いの促進」です。そのため、話し合いによる解決の余地がある場合には、あっせん案を提示して歩み寄りを求め、解決します。
しかし、労使間で、話し合いによる解決の余地が皆無である場合には、「あっせん」の解決力はそれほど高くはありません。
「あっせん」における最終的な解決
「あっせん」における労使の協議によって、労働問題が解決した場合には、あっせん委員が提示したあっせん案を会社側(企業側)が受諾します。
受諾されたあっせん案は、民法上の和解と同様の効力を有します。
しかし、「あっせん」の中で互いの譲歩によって解決する可能性がおよそ不可能な場合には、あっせん委員は、強制的な判断を下して会社側(企業側)を従わせられるわけではありません。
会社側の違法性が明らかで、立証する証拠資料も十分な場合、労働者が労働局に相談に行った時点で、「助言・指導」といった方法によって解決が図られる場合もあります。
「あっせん」への会社側(企業側)の適切な対応は?
残念なことにも、労働者側から「あっせん」を申し立てられてしまった会社の、とるべき対応について、弁護士がまとめました。
「あっせん」は、「参加するかどうか。」は任意です。つまり、会社側(企業側)としては、「あっせんには参加しない。」と回答することもできます。
しかし、参加が任意であるからといって、「すべて不参加」という対応は、あまりお勧めできません。参加したほうが解決するケースかどうか、慎重な検討が必要です。
「あっせん」不参加としたときの流れ
労働者が「あっせん」を申請したとしても、会社側(企業側)が応じるかは、会社側(企業側)の任意に任されています。
会社側(企業側)が「あっせん」に不参加という対応をした場合には、「あっせん」は不成立となり、終了します。
この場合、「あっせん」の手続による労働問題の解決はできなかったこととなり、その後、労働者側で、労働審判、労働訴訟など、他の手続をとるかどうかを検討します。
「あっせん」不成立としたときの流れ
もし仮に、拒否せずに「あっせん」への参加に応じた場合であっも、会社側(企業側)があっせん案に納得がいかない場合には、従わなければならないわけではありません。
あっせん委員の示すあっせん案で、労使間合意に達しなかった場合には、「不成立」となりあっせん手続は終了します。
注意ポイント
「あっせん」が打切りとなった場合、労働問題についての時効が問題となるケースがあります。
労働者が、打切りの通知を受領してから30日以内に訴訟を提起した場合には、あっせん申請の日に訴訟が提起されたものとみなされます。
つまり、この場合には、「あっせん」申請の時点で、消滅時効が中断されます。
会社側(企業側)の対応の判断要素は?
「あっせん」に参加して話し合いを行うか、それとも「あっせん」に不参加とするは、会社側(企業側)の自由です。欠席しても罰則などの「制裁(ペナルティ)」はなく、あっせんが打ち切られるのみです。
しかし、「あっせん」が打ち切られても労働者の不満が解消されない場合には、労働審判、訴訟といった更に強力な解決手段に訴えてきます。
「あっせん」を拒否するだけでは、労働問題の根本的な解決にはなりません。「あっせん」を拒否するかどうかは、労働審判、訴訟などのより強制的な手段になった場合の結論に配慮する必要があります。
「あっせん」に参加をしても、「あっせん案の受諾はしない」という道もある以上、「とりあえず『あっせん』には参加する」という選択も一理あります。
「あっせん」に参加することで、次のメリットがあるからです。
ポイント
労働審判や訴訟になるとかかる期間、費用の節約ができる。
労使間の協議を進めることで、労働者側の不満を解消できる。
労働審判や訴訟よりも、柔軟な解決が期待できる。
労働審判や訴訟となる前に、労働者側の言い分を詳しく聞くことができる。
「あっせん」に応じないと不利になるケース
「あっせん」を申請する労働者の多くは、あっせんが不成立となると労働審判、訴訟へ進むことを見越して方針を検討しています。特に、労働者側に弁護士がついている場合はそう考えてよいでしょう。
つまり、「あっせん」を拒否しても、労働審判、訴訟になることが予想でき、労働審判、訴訟では、労働者の請求が認められやすい事案では、「あっせん」に応じないと不利になる可能性があります。
例えば、「あっせん」に応じないことのデメリットは、次のようなものです。
ポイント
労働審判や訴訟となれば、結局労働者の請求が認められることから、時間と費用が余計にかかる。
「あっせん」を拒否することで、会社側(企業側)の交渉態度が不誠実だという印象が生まれる。
特に、労働者側が正当な権利を主張しているにもかかわらず「あっせん」を拒否すれば、労働審判において「申し立てに至った経緯」として主張され、「不誠実な会社だ」という心証を裁判所に抱かれるおそれがあります。
より詳しく!
一般的にいって、「あっせん」では、詳細な事実関係の審理までは行わないことから、労働者側が勝つ可能性の高い事案では、あっせん案の方が労働審判よりも、解決金の水準が低いことが多いです。
「あっせん」では、労働審判や訴訟ほど、事実関係の審理を詳しく行わないためです。
労働審判や訴訟で事実審理を詳細に行うと、ますます会社側(企業側)が不利な状況となり、多額の解決金を支払わなければならないケースでは、「あっせん」に参加して協議したほうがよいでしょう。
労働審判への対応(「あっせん」との比較)
労働審判は、「あっせん」と裁判の中間的な存在と言われることがあります。
訴訟ほどには、事実審理に時間をかけないことから、訴訟よりは解決までの期間が短期間で終わります。
「あっせん」と比べると、「労働審判」という最終結論が下る点で、「あっせん」のように解決力が脆弱ではありません。折衷的な、労働者側にとって使い勝手のよい制度として設立されました。
「あっせん」と労働審判の違い
労働審判は、訴訟との比較では、より短期間で迅速に解決が可能です。具体的には、原則として3回で結審(平均審理期間約70日)で解決します。
「あっせん」との比較でいうと、労働審判では、まずは「調停」によって話し合いがされるため、労使間の協議をないがしろにして裁判所が強制的に決める制度でもありません。
話し合いが合意に至らなかった場合に初めて、労働審判委員会がその心証に基づいて「労働審判」という強制的な判断を下す、強力な解決力も併せ持っています。
労働審判では、出頭命令に従わない場合には5万円以下の罰金が科せられ、また、不利な労働審判を下されるという点で、会社側(企業側)にとって、「あっせん」のように不参加は選択できません。
労働審判への適切な対応
労働審判を申し立てられた場合には、「あっせん」と同様に考えて不参加にはできません。
労働審判に参加しなければ、会社側(企業側)に不利な内容の労働審判が確定してしまいます。労働審判の準備をしっかりして、参加をすることが重要です。
労働審判に参加するにあたり、労働法の専門的知識、裁判例の知識が不足している場合には、労働審判を数多く経験した弁護士にご相談ください。
労働審判は、事実審理が第1回期日のみで終了するのが一般的な運用です。「第1回目が勝負」と言われており、第1回目までに主張、立証を固め、すべて提出する必要があり、準備期間は全く十分とはいえません。
「あっせん」段階から、弁護士にお任せください。
企業の労働問題解決ナビをご覧いただき、誠にありがとうございます。
弁護士法人浅野総合法律事務所では、労働審判への対応を得意としていることはもちろん、「あっせん」段階から、会社側(企業側)の状況に応じたアドバイス・サービスを提供しています。
「あっせん」の場合、費用面の問題から、労働者が弁護士を依頼せずひとりで行うことが多いですが、会社側(企業側)で対応するときは、労働審判、訴訟などのその後の手続のことも考えながら対応を決める必要があります。
当事務所では、「あっせん」に同席してアドバイスをし、会社側(企業側)に有利な解決に導いた経験が豊富にございます。
土日・祝日、夜間も相談を受け付けておりますので、初回の法律相談にお越しください。
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弁護士法人浅野総合法律事務所(東京都中央区)では、労働問題と企業法務しています。 会社で、常日頃から問題となる労働問題と企業法務に特化することで、会社を経営する社長、人事労務の担当者の目線に立って、親 ...
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まとめ
いかがでしたでしょうか。
「あっせん」の段階で弁護士に相談へいくと、まずはアドバイスをもらった上で、会社自身で対応したほうがよいといわれることもあるのではないでしょうか。
しかし、「あっせん」を無視していれば解決する、というケースを除いて、「あっせん」だけで解決することはあまり多くはなく、放置していれば、その後労働審判、労働訴訟などが勃発します。
この解説をお読みいただくことで、次のことをご理解いただけます。
まとめ
「あっせん」とはどのような制度か。「あっせん」の特徴。
「あっせん」を申し立てられてしまった会社側(企業側)の適切な対応。
「あっせん」と労働審判、労働訴訟との違い、メリット・デメリット
「あっせん」に参加するか、欠席とするかは会社側(企業側)に有利になるよう総合的に考えて選ばなければなりません。「不快だから。」、「面倒だから。」とうのではいけません。
また、会社側(企業側)で「あっせん」に参加するときには、労働法に関する専門的な知識にもとづいた、しっかりとした説明が求められます。