労働審判で、労働者から「残業代が未払いである」として残業代請求を受けたときに、会社が提出すべき答弁書の書き方とポイントを解説します。
労働審判では、答弁書によって、労働審判委員会に対して、会社の主張をわかりやすく伝えることが必須です。これは「残業代請求」の労働審判でも変わるところはありません。
よくある法律相談
残業代請求の労働審判における、答弁書の書式(雛形・文例)がほしい。
残業代請求の労働審判で、答弁書に特に書いておかなければならないポイントはどのようなものか。
残業代請求の答弁書について、作成・提出を弁護士にお任せしたい。
残業代請求の労働審判の場合には、特に、タイムカードなどの証拠が多く提出されるため、わかりやすく会社の反論を説明できる答弁書が必須となります。
今回は、残業代請求を労働審判によって争うとき、会社側(企業側)が作成、提出すべき答弁書の書き方とポイントを解説します。
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労働審判で「残業代請求」を争うときの4つの減額ポイントは、こちらをご覧ください。
労働審判で割増賃金(残業代)を請求された場合、その金額が適切な算出方法に従って計算されているか、客観的証拠が存在するか、そもそも残業代が発生する場合か、といった多くの検討を、第1回期日までの限られた時間内に行う必要があります。
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労働審判における答弁書の書き方の基本ポイントは、こちらをご覧ください。
会社側が労働審判で争うにあたって、適切な答弁書を作成、提出するために注意すべきポイントを解説します。労働審判への対応にお悩みの会社様は、企業の労働問題に強い弁護士へご相談ください。
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目次
企業の労働問題解決ナビを運営している「弁護士法人浅野総合法律事務所」では、「残業代請求」を争う労働審判を解決してきた実績が、豊富にございます。
浅野英之
労働審判で残業代請求を受けてしまったとき、答弁書をどのように書いてよいか、どのようなポイントに注意すべきか、お悩みの会社が多いのではないでしょうか。
残業代請求は、労使の対立が激しくなりがちですので、労働審判の期日にのぞむ前に、会社の考え方を理解してもらいましょう。
「残業代請求」の答弁書に記載すべき「事実の認否」
残業代請求を労働審判で争う場合には、タイムカードや日報など残業時間を立証するための多くの証拠が提出されます。
これに対して会社側(企業側)が有効な反論をするためには、会社側(企業側)が、労働者側の主張とは異なる具体的な労働時間を証明する必要があります。
そこで、証拠にもとづいた、具体的事実に対する「認否」を記載しなければなりません。
「労働時間」と「把握方法」を説明する
労働者の労働時間(残業時間)を把握する義務は会社側にあります。
「労働者側が証拠提出したタイムカード通りの労働時間ではない」と、会社側(企業側)が反論して争うときは、答弁書において、実際の労働時間とその把握方法を具体的に説明しましょう。
会社側(企業側)で主張する労働時間(残業時間)について、計算式やエクセルシートなどを利用して、説得的に説明する必要があります。
反論を基礎づける証拠を収集する
労働者側の主張する労働時間(残業時間)が、実際とは異なると主張するときには、タイムカード、日報など、労働時間を立証する証拠を収集してください。
特に、労働者側の主張する労働時間(残業時間)がタイムカードにもとづく場合には、タイムカードの信用性の高さに配慮して、より決定的な証拠が必要です。
タイムカードは、残業代立証のためのとても重要な証拠とされており、特段の事情がない場合、タイムカードの通りの残業時間と判断されるからです。
「残業代請求」の答弁書に記載すべき「法的主張」
「労働者が何時間働いたのか。」、「どれだけ長時間の残業があったのか。」という点についての答弁書の記載は、いずれも「事実」です。
これに対して、「労働者の主張するような残業代請求の考え方はおかしい。」と反論したいとき、それは、「事実」ではなく「法的な主張」です。
「残業代請求」で、会社側(企業側)が答弁書に書いておくことを検討すべき「法的な主張」は、多種多様なものがあり、労働法と裁判例の専門的な知識が必要となります。
検討すべき「法的主張」
会社側(企業側)から、答弁書に書いてほしいとのご依頼がある「法的主張」として、特に多いのは、次の2点です。
ポイント
- 「管理監督者」であるため、残業代は発生しないという「法的主張」
- 残業代を事前に基本給に含むことを合意しているので、残業代は発生しないという「法的主張」
また、これ以外にも、労働基準法には、会社側(企業側)が残業代を支払わなくてもよくなるケースとして、次のような定めがあります。
ポイント
- 事業場外みなし労働時間制
- 裁量労働時間制
- 変形労働時間制
- フレックスタイム制
答弁書に記載する「法的主張」の注意点
しかし、ここまで列挙してきた「法的主張」を答弁書に記載できるのは、労働審判によって残業代請求をされてしまう前から、その制度を利用して残業代をなくそうと努力して準備してきた会社だけです
というのも、いずれの制度であっても、残業代を発生しないようにしようとすると、みたすべき法律上の要件があるからです。
「残業の黙認」を回避するための労働審判の答弁書
残業代は、会社が労働者に対して残業命令を発し、これにしたがって労働者が残業を行ったときに初めて発生します。
会社側(企業側)が「残業代請求」の労働審判の答弁書に記載しようとする、よくある主張として、「残業命令をしていないのに労働者が勝手に残業をした。」という反論があります。
しかし、会社が明示的に残業を命じていないとしても、会社が労働者の残業を黙認してれば、「黙示の残業命令」があったと評価され、残業代請求が認められます。
「残業命令を行っていない」と反論したい会社は、労働審判の答弁書で、あわせて、次のことを記載してください。
ポイント
会社側(企業側)が、残業を黙認していないと評価できる具体的事実
例えば・・・
残業する従業員に対して、帰宅命令を出した事実、回数、日時
残業を禁止する旨の、客観的証拠(書面、メールなど)に残った注意、指導
「タイムカードがない」ケースの労働審判の答弁書
タイムカードがない場合でも、労働者による残業代請求が認められないわけではありません。
むしろ、労働時間を把握する義務は会社側(企業側)にあるため、どのような方法でも労働時間を把握していなければ、労働審判において会社側(企業側)に不利な解決となるおそれがあります。
注意ポイント
労働者側が残業代請求を労働審判によって申し立てる場合、タイムカードがない場合であっても、さまざまな証拠によって、労働時間(残業時間)を立証しようとします。
労働者側が、残業時間の立証に活用する証拠は、例えば・・・
- 労働者自身が労働時間を記録したメモ
- 会社内の時計の写真
- パソコンのログオン履歴
など、労働者側だけでも入手できる証拠でおこなってきます。
特に、労働者側に、残業代請求を得意とする弁護士がついている場合、タイムカードがないからといってあきらめることはないでしょう。
ただ、会社側から言わせれば、これは労働時間そのものを立証する証拠としては決して強いものではありません。
労働審判の答弁書では、これらの証拠が示す時間と、実際の労働時間とが異なることを証明する具体的な事実を記載します。
例えば・・・
労働者の記録したメモによれば労働していたとされる時間に、実際は同僚と一緒に飲みに行ったことが明らかとなれば、労働者の証拠提出したメモの信用性は大幅に下がります。
答弁書の記載のポイントは、できる限り具体的な事実を記載することです。
答弁書で、単に「証拠の信用性がない。」と書くだけでは取り合ってもらえませんから、矛盾点をつく具体的な事実を列挙するよう心掛けましょう。
「残業代請求」の労働審判への対応は、弁護士にお任せください
労働審判で、労働者側から「未払い残業代」を請求された会社は、企業の労働問題に強い弁護士へ、法律相談ください。
今回解説した、「残業代請求」の労働審判における答弁書のポイントでもわかるとおり、労働審判申立書に的確に反論するためには、「減額ポイント」についての正しい理解が必要です。
そして、会社側(企業側)で、労働審判による「残業代請求」の事実を知ったときには、答弁書を作成する時間は、それほど多くは残されていません。
当事務所では、「残業代請求」の労働審判を数多く解決してきた実績を生かして、短い準備期間であっても、有効な反論を答弁書に記載します。
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弁護士法人浅野総合法律事務所(東京都中央区)では、労働問題と企業法務しています。 会社で、常日頃から問題となる労働問題と企業法務に特化することで、会社を経営する社長、人事労務の担当者の目線に立って、親 ...
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まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は、労働者から残業代請求を受けた会社のための、答弁書の書き方とポイントについて解説しました。
この解説をお読みいただけた皆さまには、次のことをご理解いただけます。
解説まとめ
「残業代請求」の労働審判における、答弁書の重要性
「残業代請求」の労働審判で、答弁書に記載しておくべき「事実の認否」のポイント
「残業代請求」の労働審判で、答弁書に記載しておくべき「法的な主張」のポイント
会社側で労働審判において残業代請求に対抗する場合には、いざ労働審判が申し立てられたことを知ってから対応するのでは、時間的に非常に短く、十分な準備は困難です。
労働基準法によって残業代を支払わなくてもよい方法を反論するときには、特に慎重な配慮が必要です。