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弁護士 浅野英之
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所を経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を開業。
企業の労働問題について、豊富な経験を有する。

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労働審判の24条終了とは?労働審判での解決が適切でない労働問題への対応

本解説は、労働審判の24条終了と、労働審判における解決に向かない労働問題への対応方法について、会社側の視点から解説します。

労働審判は、労働問題を簡易かつ迅速に解決することができる点で労働者にとってメリットが大きく、解決手段としてよく選択されます。しかし、事案の性質に照らして、労働審判による解決が適切ではないケースがあります。

例えば、次のケースです。

  • 事実認定のため、多くの証人の尋問を要するケース
    :ハラスメント事件等
  • 大量の書証を調べる必要があるケース
    :労働時間に争いのある未払残業代事件等
  • 労使の合意成立が困難で、異議申立てが予想されるケース
    :労働者側が復職を求める解雇事件等

以上のケースでは、労働審判による解決は困難です。

事案の性質を加味して、労働審判での解決が困難なとき、裁判所(労働審判委員会)の判断によって労働審判を終了させ、訴訟に移行する手続きが「24条終了」です。

まとめ 労働審判の会社側の対応を弁護士に依頼するメリットと、手続き・解決の流れ

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所を経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を開業。
企業の労働問題に豊富な経験を有する。

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労働審判の24条終了とは

労働審判は、労働訴訟が1年以上の期間を要することもある点を踏まえ、労働者保護のため、簡易かつ迅速な解決を目的としてつくられた制度です。迅速な解決のために、労働審判では次のような法律上の制限が課されています。

  • 原則として3回以内の期日で終結する
  • 証拠は、期日内で調べられるものに限られる
  • 2週間以内に異議申立てがあると訴訟に移行する

これらの制限からして、簡易な解決には向かないような重大な問題は、労働審判だけで解決することが事実上困難です。

そのため、労働審判では解決できない問題について、裁判所(労働審判委員会)の判断によって労働審判を終了させ、訴訟に移行させる手続きが用意されました。これが「24条終了」です。

労働審判法24条には、次のように定められています。

労働審判法24条1項

労働審判委員会は、事案の性質に照らし、労働審判手続を行うことが紛争の迅速かつ適正な解決のために適当でないと認めるときは、労働審判事件を終了させることができる。

労働審判法(e-Gov法令検索)

24条終了によって労働審判事件が終了したときには、その事件は訴訟に移行し、労働審判申立て時点で訴訟提起があったものと擬制されます。

労働審判での解決が適切でない例

24条終了が適用されるような、労働審判での解決が適切でない例には、次のような問題があります。

その内容や理由については、残業代請求・解雇・ハラスメントといった問題の種類によって異なりますが、いずれのケースも、労働審判の趣旨である簡易かつ迅速な解決に向かないような難問であり、労働審判での解決が事実上困難と考えられます。

残業代請求事件の例

労働審判制度がつくられた当初、残業代請求それ自体が、労働審判での解決が適切でなく、24条終了を適用されるべき典型例だと考えられていました。残業代請求が、その性質上、多くの証拠を検討する必要があるケースが多いためです。

残業代請求のうち、実労働時間について労使間に争いがあり、正確な認定を要するケースでは、タイムカードその他の多くの証拠の検討を要し、労働審判の限られた時間内では証拠調べが難しいといえます。特に、次の事情があるときその傾向が顕著です。

  • 労働者が、分単位での実労働時間の認定を求めている
  • 労働者が、1円単位の正確な計算を求めている
  • 労使に争いのない証拠(タイムカード等)がなく、労働者側が日報やメール、入退室離席、パソコンのログ等の証拠から実労働時間を認定するよう求めている

上記のようなケースでは、労働者側から大量の証拠が提出され、その突き合わせを行わなければ未払額の判断ができないため、労働審判で解決することは事実上困難です。

なお、残業代請求のケースでも、労働者が概括的な計算で納得しているときや、実労働時間の認定については争いがないケースでは、ざっくりとした和解や調停に進める場合もあります。この場合には、労働審判での解決が可能です。

2020年4月施行の改正民法により、未払残業代請求の時効が3年に延長されたため、残業代請求の際の請求期間、請求額とそのための証拠は、今後更に大量となるおそれがあります。

解雇トラブルの例

解雇トラブルは、労働審判がつくられた当初から、労働審判で解決すべき問題の典型例とされてきました。解雇トラブルが労働者の生活に密接に関わるため早期解決が必要であり、一方、労働者は本音では退職を望んでいることが多く、解雇の金銭解決を含めた柔軟な解決を検討する必要があるといったことが理由に挙げられます。

そのため、解雇トラブルは、原則として労働審判での解決が適切です。

しかし、解雇トラブルでも、労働審判での解決が適切でなく、24条終了とすべきケースがあります。それが、労働者が復職を希望し、会社が復職の点については譲歩することができないケースです。このような例では、労使が互いに最重要と考える条件について譲歩ができないため、いずれの結論をとるとしても他方から異議申立てされ、訴訟に移行してしまいます。その結果、労働審判での解決はできません。

このようなケースの多くは、労使の感情的な対立が激かったり、長期にわたって雇用されていて事案が複雑であったりといった場合が多く、労働審判の限られた3期日では、裁判所(労働審判委員会)としても心証を形成することができません。

ハラスメントの例

ハラスメント問題が争われるときにも、労働審判での解決が適切でなく24条終了となるケースがあります。

まず、労働者側が、責任追及の対象として会社だけでなく直接の加害者を相手にしたいと考えるとき、そもそも労働審判を利用することができません。労働審判は労使の争いを解決する手段であり、ハラスメントの直接の加害者を相手方とすることができないからです。

加えて、次のようなハラスメント事件の例では、労働審判内での審理では限界があり、解決が事実上困難です。

  • ハラスメント被害者が、被害の具体的な事実を細かく認定するよう求めているケース
  • ハラスメントの証人が多数いて、多くの人の証人尋問が必要となるケース

したがって、このようなハラスメント問題の例では、24条終了となり訴訟移行することとなります。

労働審判での解決が困難なケースにおける会社側の適切な対応

次に、労働審判での解決が困難なケースにおける会社側の適切な対応について解説します。

早期解決を優先すべき場合

問題となっているケースが、労働審判での解決に向かないときに24条終了が検討されますが、実際には、24条終了となって訴訟移行するケースはそれほど多くありません。これは、労使双方にとって、24条終了とするよりも、労働審判でしっかりと話し合いをし、早期解決を優先して調停・和解を進めたほうがメリットのあるケースも多いためです。

そのため、会社側において、前章で解説したような労働審判での解決が困難なケースに直面したときにも、まずは一定の譲歩をすることにで労働審判内で解決できないかを検討するようにしてください。会社にとっては少額の譲歩をすることで、調停に応じてもらえることもあるからです。

例えば、一見すると労働審判での解決が困難な例でも、譲歩により労働審判内で解決できたケースがあります。

  • 残業代請求について、細かい端数は会社が支払うこととして譲歩し、労働審判での解決に成功したケース
  • 不当解雇が争われ、労働者側が復職を求めたものの、解決金を増額することによって退職させることに成功したケース

労働審判は、労働審判委員会という専門家を踏まえてしっかりと話し合いをするため、解決力の高い制度であるといわれています。そのため、安易に24条終了を選択することなく、調停や和解によって解決できるケースは多くあります。このようなとき、早期解決したほうが紛争コストがかからず、結果的に会社にとっても有利な解決といえます。

↓↓ 解説動画(約10分) ↓↓

24条終了を求めるべき場合

これに対して、会社側の視点に立っても早期解決のメリットが少ないケースや、労働者側の主張に譲歩するとデメリットが大きすぎるケースでは、労働審判で解決することはできません。このようなとき、24条終了を積極的に求めていくべき場合であるといえます。

なお、24条終了は、あくまでも裁判所(労働審判委員会)の判断によって行われる手続きであり、会社側が24条終了を求めたからといって必ずそのようになるとは限りません。そのため、会社が24条終了を求めたとしても労働審判が下されることがあり、この場合には異議申し立てをすることで訴訟に移行させるようにしてください。

24条終了によって訴訟移行すると、会社側としても早期に労働問題を解決することができなくなります。そのため、24条終了を求めるときには、その制度趣旨をよく理解し、24条終了とするよう求めるほうがよいのか、それとも、24条終了とはすべきでないと反対意見を言うべきなのか、適切な解決方法を選択する必要に迫られます。

まとめ

今回は、労働審判での解決に適さないケースと、24条終了について解説しました。

労働審判による早期解決は、労働者側にメリットとなるだけでなく、社内の労働問題を柔軟に処理できる点で会社側(企業側)にとっても大きなメリットがあります。そのため、必ずしも労働審判による解決に適さないケースでも、とりあえず労使間で合意できる可能性を模索するため、労働審判が実施されることはよくあります。

このとき、会社側の視点では、早期解決を優先して労働審判内で調停ないし和解によって解決するのか、それとも、徹底抗戦するために24条終了による訴訟移行を求めるのか、慎重な検討を要します。

当事務所の労働審判サポート

弁護士法人浅野総合法律事務所では、企業の労働問題解決に注力しています。労働審判が難航し、訴訟移行を検討するときは、判決の見通しを知っておく必要があり、弁護士のサポートが有益です。

当事務所では、会社側の利益のために24条終了を求め、訴訟移行して解決した実績を有しています。ぜひ一度アドバイスをお聞きくださいませ。

労働審判についてよくある質問

労働審判の24条終了とはなんですか?

労働審判の24条終了は、労働審判における解決に向かないケースについて、裁判所(労働審判委員会)の判断で審理を終結し、訴訟に移行する手続きです。

労働審判での解決が困難なケースでの会社の適切な対応は?

労働審判での解決が困難と考えるとき、労働審判で簡易な判断を受けてしまうと会社に不利となるおそれがあります。訴訟移行すれば有利な判断が期待できるときは、積極的に24条終了を求めていくべきケースがあります。もっと詳しく知りたい方は「労働審判での解決が困難なケースにおける会社側の適切な対応」をご覧ください。

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