- 東京都渋谷区
- 印刷会社
- 社員数10名
1か月前に解雇した元社員から、突然「合同労組に加入したので団体交渉したい」と通告を受けました。
団体交渉申入書というFAXが送付されてきました。内容は、「不当解雇なので無効だ」という主張とともに、社長のハラスメントを主張するものでした。当社は創業50年の歴史があり、よくも悪くもワンマン企業であることから、退職時には「辞めちまえ」等、暴言をはいていました。
しかし一方で、Xは10年間貢献した社員ですが、最近は態度が悪く、取引先に営業にいくといっては、これを口実に社外でぶらぶら時間をつぶしていることに気づいていました。
退職時の暴言は、もしかしたら、録音をとられているかもしれません。
50万円の解決金支払いと引き換えに、合意退職としたケース
相談に至った経緯
団体交渉を申し入れてきたXは営業社員であり、勤続10年の貢献はあるものの、最近は態度が悪く、サボりが目についていました。外回り営業が頻繁なため、調査したところ、業務を行っていないことが判明しました。
社長が会議室に呼び出して話を聞こうとしましたが、Xに反省の素振りはなく、むしろ「これまで散々搾取されてきた」、「営業成果はあがっているのに文句があるのか」と開き直る始末でした。売り言葉に買い言葉で、その場で解雇を伝えてしまって、何も言ってこなかったためそのままになっていました。非常に不愉快な気分だったことから、この問題は終了だと思い忘れようと努力していました。
今回、団体交渉の申入れを受けてはじめて、不当解雇にあたる可能性があることを知りました。これまでワンマン企業であったことから社長に文句を言ってくる社員はいませんでした。組合がハラスメントについても言及していることから、社長の罵声や暴言が録音にとられている可能性があります。
なお、合同労組(ユニオン)について詳しく知りたい方は次の解説をご覧ください。
弁護士による対応と解決
団体交渉前の準備
団体交渉申入書によれば、労働組合の要求事項は次のとおりです。
- 不当解雇を認め、謝罪すること
- 不当解雇を撤回し、復職させること
- ハラスメントについて謝罪し、慰謝料500万円を支払うこと
ハラスメントについて、団体交渉申入書に具体的な文言が記載されていたことから、録音をとられている可能性が高いものと推察できました。この点については相当なリスクがあるものの、求められた慰謝料は高額すぎるものでした。
一方で、不当解雇の争いについては、解雇から1ヶ月間特になにも連絡がなかったことから、本音で復職したいと考えているのではなく、解決金を受け取ることが目的ではないかと考えることができました。
とはいえ、いずれにせよ解雇の有効性が大きな争点となることは明らかでした。そのため、事前準備として、Xの問題点(特に、営業名目での外出中のサボり行為)について客観的に証明できる証拠を収集するようにしました。今回は、興信所の報告書をもとに、各社員にヒアリングを行い、Xのサボりの実態をある程度明らかにすることができました。
第1回の団体交渉
第1回の団体交渉から、弁護士が同席しました。
第1回の団体交渉では、まずは労働組合の要求の確認からはじまりました。
初回の団体交渉には社長が参加しませんでした。労働組合側からは、ハラスメントについての社長の謝罪を要求され、次回は必ず社長が出席するようにとの要求がありましたが、その場で約束はせず、検討することのみを伝えました。
労働組合側からは、「社長が出席しないのは不誠実な団体交渉だ」、「これでは意味がない」、「次回社長が出てこないなら街宣活動をする」等の発言が口々になされました。しかし、団体交渉の参加者については、組合の言うなりになる必要はないため、社長には予定がある旨を伝えて淡々と対応しました。
なお、第1回の団体交渉における話し合いの印象として、復職する意向はなく、復職要求はあくまでも建前に過ぎないというイメージを抱きました。
第2回の団体交渉
第2回の団体交渉も、弁護士が同席しました。あわせて、第2回より社長が出席しました。
社長に対しては弁護士があらかじめアドバイスをし、ハラスメントについて謝罪はせず、行った発言については認め、行っていない発言については否定をするよう淡々と冷静に対応してもらいました。
不当解雇の点について、労働組合側から、金銭解決としたいのであれば解決金額の提案をするようにとの発言があり、解決金を支払っての合意退職による解決の可能性が開けてきました。
第3回の団体交渉
第3回の団体交渉にも弁護士が同席しました。社長の役割は終了したと考え、第3回には社長は同席しませんでしたが、労働組合からは特に不満の声はありませんでした。
会社側から、不当解雇の解決金として月額賃金1ヶ月分(30万円)を提案しましたが、団体交渉における協議の結果、50万円の支払いで折り合いをつけることとなりました。
やはり予想していたとおり、労働組合側から社長のハラスメント発言について録音があることが示され、席上で聞かされることとなりました。その内容を考慮すれば、労働審判や訴訟等で紛争を継続した場合、慰謝料として数十万円の支払いは覚悟せざるを得ない内容であり、50万円の解決金は妥当な範囲であるとアドバイスをしました。
その後、合意書の細かい文言について組合との事務折衝で調整し、解決に至りました。
弁護士のアドバイス
今回は、不当解雇の主張が団体交渉で争われたケースについて解説しました。
解雇をされ、納得がいかないとき、社外の合同労組(ユニオン)に駆け込まれてしまい、労使紛争に発展することがよくあります。そして、解雇が問題となるケースの多くは、在職中のその他の問題点として、ハラスメントの慰謝料や残業代等が合わせて請求されることが多いです。
不当解雇のトラブルの多くは、建前としては解雇の撤回と復職を求めていながら、本音としては会社に戻る気持ちはなく、解決金による金銭解決を目指していることが多いです。とはいえ、労働組合がついて争いとなる場合、団体交渉では激しいやりとりとなることが多く、労働者の本音と建前がどのあたりにあるのか、団体交渉の席上で見抜くことは困難な例も少なくありません。
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