労働組合との団体交渉に、会社側(企業側)の立場で対応すると、「労働組合(労働者側)が保護されすぎているのではないか。」と不満を口にする社長(経営者)の方がいます。
しかし、労働組合に、憲法、労働組合法などで権利が保障されているように、会社側(企業側)にも「経営三権」が存在するといわれています。
つまり、会社側(企業側)でも、一定の権利については、会社が決めてよいことだとされているという意味なのです。
「経営三権」を理解し、団体交渉における話し合いが「経営三権」を侵害することのないように進めることによって、労働組合との団体交渉を、会社側(企業側)の有利に進めることができます。
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浅野英之
弁護士法人浅野総合法律事務所、弁護士の浅野です。
当事務所では、団体交渉の対応について、経営者側の視点にたって対応しています。
そのため、団体交渉にのぞむ経営者のお気持ちは、非常に理解できます。「経営三権」は、団体交渉をしなければならないけれども、譲歩したくない会社側(企業側)にとっての、重大な「砦」になります。
「労働三権」と「経営三権」
集団労使紛争においては、労働者側には、「労働三権」が認められています。「労働三権」とは、次の権利です。
「団結権」
:労働者が団結して、労働組合を結成する権利
「団体交渉権」
:労働組合が、会社との間で団体交渉を行う権利
「団体行動権(争議権)」
:労働組合が、争議(ストライキなど)を行う権利
これらの「労働三権」をみると、労働組合には、通常では許されない行為が許容されており、交渉ではむしろ、会社に不利なようにみえてしまいます。
しかし、本来は、会社側(企業側)と労働者側との間では、交渉力に格差があったため、弱い立場にある労働者を守るためにできたのが、この「労働三権」です。
これに対して、会社側(使用者側)に認められる「経営三権」とは、次の3つです。
「業務命令権」
:使用者が、労働者に対して、業務に関する命令をすることができる権利
「人事権」
:使用者が、労働者の人事を決定することができる権利
「施設管理権」
:使用者が、その会社内の建物、施設を管理する権利
これらの「経営三権」は、会社の「専決事項」であるといわれています。「専決事項」というのは、会社だけで決められる事項で、労働組合の介入、はたらきかけを許さないということです。
「経営三権」についても団体交渉で議論をかわすこととなると、「誰が会社を経営しているのか」があいまいになってしまいます。厳格な区別が重要です。
注意ポイント
「経営三権」は、使用者側の「専決事項」ですから、団体交渉を経なくても、会社が決定することができます。
むしろ、「経営三権」は、労働組合との団体交渉における議題とすべきではなく、労働組合から議題とすることを求められても、拒否するのが適切な対応です。
「経営三権」に関する交渉(話し合い)は拒否したとしても、「義務的団交事項」についての誠実な交渉に応じれば、「団交拒否(不誠実団交)」の不当労働行為とはなりません。
【経営三権①】業務命令権
「経営三権」の1つ目、「業務命令権」について解説します。
労働者は、会社に雇用されることによって、当然に、会社の指示にしたがって、職務を遂行する義務があります。これは、雇用契約の本質的な内容なので、契約書や就業規則に記載していなくても存在する義務です。
「業務命令」には、本業である仕事をするよう命令するもののほか、残業命令、休職命令、健康診断を受診するよう指示する命令などがあります。
例えば・・・
団体交渉を開催するときに、労働組合(合同労組・ユニオンなど)が、業務時間中に団体交渉を行うよう要望してくることがあります。
しかし、業務時間中は、組合員といえども、雇用契約によって「職務専念義務」を負っていますから、会社が業務を指示・命令すれば、労働者はこれにしたがう必要があります。
【経営三権②】人事権
「経営三権」の2つ目は、「人事権」です。
「人事」には、採用から、配置、異動・配置転換・転勤、評価、昇給・降級、昇格・降格、解雇などが含まれます。
「人事権」とは、会社が労働者の、人事異動などについて決定する権利です。「人事権」の中で、とても重要なのが、「人事評価を行う権利」です。
「人事評価」は、会社側(企業側)による評価であって、会社に大幅な「評価の裁量」が認められています。
- どのような能力を、会社において重要なものと評価するか
- どの程度他の従業員と比べて秀でていたら、良い評価とするか
など、人事考課に関することがらは、会社が相当程度自由に決めることができます。労働組合と団体交渉をしたり、同意を得たりする必要はありません。
注意ポイント
原則として「経営三権」として労働組合の介入を許さない「人事権」ですが、例外があります。
労働組合は、管理監督者が所属することができないのが原則ルールであることを逆手にとり、「労働組合員となった社員を管理職としてしまおう」という作戦です。
このような会社側(企業側)の人事に関する行為は、「人事権」であっても違法な不当労働行為となるおそれがあります。
【経営三権③】施設管理権
最後に、「経営三権」の3つ目、「施設管理権」について解説していきます。
「施設管理権」とは、会社側(企業側)が、会社の建物、施設、その中にある物品などを管理するための権利のことをいいます。
労働組合は、会社側(企業側)からの援助なしに活動するものであって、むしろ、会社側(企業側)からの援助は禁止されています。
しかし、労働組合が、団体交渉などによって求めてくる「便宜供与」は例外です。「便宜供与」を認めるかどうか、という点も、「経営三権」の「施設管理権」がある事項については、会社側の自由な判断にゆだねられています。
例えば・・・
労働組合が、組合活動のために、会社内に設置されている掲示板の一部に、組合のビラを貼りたい、という「便宜供与」を求めてくることがあります。
しかし、会社内に設置されている掲示板は、会社の施設です。そのため、会社の「施設管理権」に基づき、その管理は会社側(企業側)の判断で行うことができ、労働組合には介入されません。
したがって、「掲示板を使わせる」という便宜供与を認めないことができます。
会社の経営上の秘密は守られる?
労働組合(合同労組・ユニオンなど)から、団体交渉の場や、団体交渉申入書において、会社の経営上の秘密に関する資料を、開示してほしいと求められることがあります。
確かに、労働組合の申し入れてくる議題を前提とすると、経営上の資料を開示しなければ団体交渉ができない場合もあります。
しかし、会社の経営上の秘密は、守る必要があります。会社側(企業側)としては、労働組合が要求してくる資料を、すべて開示しなければならないわけではありません。
「不誠実団交(団交拒否)」の不当労働行為だといわれないために、団体交渉を誠実に行うにあたって、必要な限度の資料を開示すれば十分です。
注意ポイント
会社の経営状況の悪化を理由に、組合員を「整理解雇」したケースでは、「業務上の必要性」を説明するために、経営資料の開示が必要となるでしょう。
ただ、労働組合が、「経営三権」に影響を与えようとして要求する、経営資料の開示には、応じなくてよいどころか、そもそも団体交渉の議題とすべきでないケースも少なくありません。
団体交渉への対応は、弁護士にお任せください
いかがだったでしょうか?
ここまでお読みいただければ、「『経営三権』をいかに活用して、団体交渉を戦うか。」について、十分理解いただけたのではないでしょうか。
労働組合側の「労働三権」は、憲法という重要な法律に保証されている、非常に強い権利です。
そのため、「労働三権」を振りかざされると、団体交渉では、どのようなことでも労働組合側(労働者側)の思い通りに見えてしまいますが、実際はそうではありません。
「誠実に交渉を続け、ただし、拒否すべきことは拒否する」というのが、会社側(企業側)の団体交渉における正しい姿勢です。
団体交渉への弁護士の参加をお考えの方は、ぜひ、弁護士法人浅野総合法律事務所まで法律相談ください。
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弁護士法人浅野総合法律事務所(東京都中央区)では、労働問題と企業法務しています。 会社で、常日頃から問題となる労働問題と企業法務に特化することで、会社を経営する社長、人事労務の担当者の目線に立って、親 ...
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