本解説では、元社員から内容証明により「通知書」が届いた時、会社側で行うべき適切な対応を説明します。
既に退職済の社員からの連絡を甘くみて、次のような誤った対応をしてしまう会社があります。
- 「元社員なので、対応は不要ではないか」
- 「退職時に解決済だ」
- 「既に退職しており、深刻な労働問題には発展しないはず」
しかし、元社員だからと軽視し、内容証明の「通知書」を放置してしまうと、労働審判になったり団体交渉を申し入れられてしまったり等のリスクがあります。内容証明で「不当解雇」と指摘され、この主張がされてしまうと、解雇は無効となり、復職されてしまいます。
退職した元社員から送付される通知書には、未払残業代請求、不当解雇の撤回、ハラスメントの慰謝料請求等の内容がありますが、中でも弁護士に依頼済のケースでは特に慎重な対応を要します。労働審判や訴訟、団体交渉等、紛争が拡大してしまう前に、誠意ある対応をし、早期解決を図ることが大切です。
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元社員から内容証明で「通知書」が届くケースについて
元社員から内容証明で「通知書」が届くことによって始まる労使トラブルについて、まずは基本知識を解説します。
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内容証明とは
内容証明は、「普通郵便」や「書留郵便」等と同様、郵便形式の1つです。
内容証明は、その送付内容について郵便局が証拠化し、保存するという機能があります。そのため、労働問題について労働者側で争う意思を表示するとき、証拠保全の目的でよく利用されます。あわせて配達証明をつけることにより、郵送物の送付日、受領日を記録することができます。
見慣れない形式の郵送物なため、送付されると焦ってしまうことが多いですが、強いストレスとプレッシャーを与えることも内容証明を送る目的の1つですから、冷静になることが大切です。内容証明を送付された段階では、まだ労働審判や訴訟等の法的手続きを申し立てられたわけではありませんから、話し合いによる円満な解決を目指すことができます。
内容証明が送付される理由
内容証明が送付される理由は、労働者が、会社との間に生じた労働問題について争う意思を示したいと考えているためです。内容証明が送付されるとき、それだけ労働者側に「労働問題を争う」という強い覚悟があると考えて良いでしょう。
対立の深いケースで、わざわざ内容証明という特殊な形式を利用して「通知書」を送付してくることには、労働者側にとって次のような狙いがあるからです。
- 会社側に強いストレスとプレッシャーを与え、要求を通りやすくする
- 会社側に到達したことを証明する
- 時効の完成を猶予する
:消滅時効が完成しそうなとき、催告があってから6ヶ月以内に訴訟等の時効中断をしなければ権利が消滅します。
そのため、催告をいつ行ったかを証拠化する必要があります。 - 回答期限を設定し、期限までに解決しないときは労働審判・訴訟等に移行することを示す
通知書を放置するリスク
元社員から届いた内容証明による「通知書」を放置すると、会社側にとって大きなリスクがあります。
内容証明による「通知書」を送付するということは、労働問題についてさほど容易にはあきらめてくれません。そのため、内容証明を無視したからといって問題は解決せず、誠実に交渉しなければ、労働審判を申し立てられたり訴訟提起されたりして、紛争が拡大してしまいます。これらの紛争時には、「交渉態度が不誠実だった」と主張され、裁判所に不利な心証を植え付けられるおそれもあります。
一方で、内容証明による「通知書」に対応して交渉し、和解により解決することは企業側にとってもメリットがあります。交渉で解決できれば紛争コストを削減することができ、その分、解決金支払い等の解決案を提示する際に、労働者側に譲歩することが可能となるからです。
まず確認すべき内容証明の「通知書」のチェックポイント
突然、内容証明という見慣れない形式の郵便物を受領したことで、焦ってしまう方も多いですが、まずは冷静になり対処することが重要です。
内容証明の「通知書」を受領した際に、確認しておくべきチェックポイントについて解説していきます。元社員から内容証明で「通知書」が送付されてきたとき、その意味を正しく理解して適切な対応をするため、次のポイントを順にチェックするようにしてください。
送付元の元社員は誰か
労働問題について争う趣旨の内容証明が、元社員から送られてきたとき、まずは送付元となる元社員が誰かをチェックするようにしてください。送付元となる元社員が特定できたら、その社員について会社側で保管している資料を大至急収集します。内容証明に対応するため、収集しておきたい資料には次のものがあります。
- 労働条件(雇用条件)を示す資料
労働契約書(雇用契約書)、労働条件通知書、入退社時の誓約書など - 労働時間を示す資料
タイムカード、出退勤表、業務日報など - 支払った給与に関する資料
賃金台帳、給与明細、源泉徴収票など - 退職時の資料
退職届、退職合意書、退職時の秘密保持誓約書、競業避止義務に関する誓約書など - 退職理由を示す資料
退職証明書、解雇理由証明書、解雇通知書など
就業規則等の規程類を修正・変更しているときは、元社員からの要求に対応するにあたり、当時のバージョンを復元して用意しておく必要があります。
加えて、その元社員との間で、退職前後にトラブルが発生していなかったか、メールやLINE、電話のやりとりを確認してください。
送付元となる元社員が、代理人として弁護士を依頼している時、内容証明による「通知書」は弁護士名義で送られてくるのが通例です。
既に代理人として弁護士を依頼しているとき、対応を誤ると労働審判・訴訟といった法的手続きに発展しやすくなるため、より慎重な対応を要します。
差出日・受領日・回答期限
内容証明の「通知書」がいつ送付され、いつ受領されたか、また、書面内に回答期限が記されているかを確認し、会社側の対応に遅れがないかをチェックするようにしてください。
通知書に指定された回答期限があまりに差し迫っているとき、これを守らなければならないわけではありません。労働者側が回答期限を区切ってくるのはプレッシャーを与える意味がありますから、冷静に対処しないと相手の思うつぼです。回答を焦るあまり、十分な検討をせず安易に回答することは控えなければなりませんが、少なくとも、いつまでに回答が可能なのかについて連絡し、期限を猶予するよう求めておくのが正しい対応です。
事前に連絡し、あらためて会社側から合理的な期限を定め直すことによって、労働審判や訴訟等、期限を過ぎてしまったときに労働者が進むべき次のアクションを遅らせることができます。
労働問題の争点と、請求内容
内容証明に記載された内容を精査し、労働問題の内容と、その争点ごとに元社員が請求する内容を把握するようにしてください。内容証明の「通知書」で争われる労働問題は多種多様ですが、
- 不当解雇の撤回要求
- 未払残業代請求
- ハラスメントの慰謝料請求
の3つが、よくご相談のあるケースです。
内容証明の「通知書」に記載された内容は、労働者側の視点に立った一方的なものであることが多く、会社側の方(特に社長)の中には、お怒りになる方が多いでしょう。しかし、一方的な言い分であっても、どのような言い分であるかを把握しなければ、交渉を優位に進めることはできません。
主張が敵対的であったとしても、要求内容がそれほど過大ではなければ、互いに多少の譲歩をすることで早期解決を図れるケースも少なくありません。
元社員から内容証明の「通知書」を受領した会社側の注意点
最後に、元社員から内容証明の「通知書」を受領した会社が注意しておくべきポイントを解説します。
内容証明の「通知書」は、元社員から会社に対する交渉開始の知らせであり、労使間の交渉のスタート地点です。紛争を拡大させ、大きなリスクを背負ってしまわないよう、注意点を遵守して対応するようにしてください。
十分な事前準備の後に対応する
内容証明の「通知書」は、労働者側の視点に立って作成されています。弁護士が記載しているときでも、労働者側の言い分だけを聞いて作成していますから、虚偽の事実や誇張が含まれている可能性も否定できません。
そのため、記載内容が全て正しいわけではなく、必ず認められるわけでもありません。会社側の立場からすれば多くの反論があるでしょうから、十分な事前準備をしてから、反論の文書を作成するようにしてください。
労働者側が、内容証明で「通知書」を送付するタイミングでは、労働者側にとっては十分な準備が完了しています。そのため、会社側でこれに対応する際には、すぐに感情的になって反論するのではなく、証拠収集等の十分な準備を終えてから対応すべきなのです。
交渉の余地があることを示す
元社員から内容証明の「通知書」を受けとったとき、怒りのあまりに交渉を放棄してしまう会社もあります。
しかし、内容証明の「通知書」は労働者側からすれば挨拶のようなもので、まだ交渉の余地は十分に残されている場合がほとんどです。会社側にとっても、早期解決することにはメリットが多くあるため、交渉機会を自ら放棄してしまうことはおすすめできません。
元社員の要求をすべて受け入れる必要はありませんが、交渉の余地があることを事前に示しておくことが大切です。
労働審判を恐れない
会社側の立場で労働問題に対応する際、交渉段階での話し合いが困難なとき、労働審判を申し立てられてしまうことはよくあります。労働審判を恐れるあまり、交渉段階で不利な条件を鵜呑みにしてしまうことも控えなければなりません。労働審判するという脅しに屈して、慌てて要求を受け入れる必要はありません。
できる限り話し合いで解決したいのはやまやまですが、労働審判を恐れるあまり、元社員に譲歩しすぎたり、あまりに不合理な解決案に合意したりすることはおすすめできません。
合理的な解決を実現するためにも、多くの労働問題を解決した実績ある弁護士のアドバイスが有益です。
社会的に責任ある対応をする
元社員から送られてきた内容証明の「通知書」が、必ずしも法的に正しものではなかったり、労働審判や訴訟に発展しても認められづらい主張だったときでも、企業として社会的に責任ある対応をしなければなりません。非常識な対応をしてしまうと、風評被害を受け、炎上してしまうおそれがあります。
インターネットが普及した現代では、SNSや匿名掲示板等に、企業の問題ある行為はすぐにさらされてしまいます。たとえ労働者側の主張が認められづらいものだったとしても、そのことをきちんと説明したり、反論したりする手間を惜しめば、「ブラック企業」との誹謗中傷を受けてしまうおそれがあります。
風評被害を受け、炎上してしまうと、企業の信用は低下し、売上や株価に影響したり、新規採用で有望な人材を逃してしまったりする等のデメリットがあります。
まとめ
今回は、元社員から内容証明で通知書が送られてきた時、会社側ではどのように対応したらよいかについて解説しました。元社員から、労働問題について争うという内容の内容証明を受けとったとき、感情的にならず冷静に対処する必要があります。
対処方法を検討するにあたっては、話し合いによる円満解決ができなかったとき、労働審判や団体交渉等、トラブルが進展したときにどのような解決となるかを検討する必要があります。
当事務所の問題社員対応サポート
弁護士法人浅野総合法律事務所では、企業の労働問題解決に注力しており、問題社員対応を得意としています。
社員ないし元社員から内容証明の通知書を受けとったとき、労働問題の実績豊富な弁護士のアドバイスが有益です。解決の見通しによっては、早期の和解による解決が可能なケースも少なくありません。当事務所では、多くの解決事例をもとに、会社側にとって有利な戦略を立案するサポートができます。
問題社員対応のよくある質問
- 社員から内容証明の通知書が届いたとき、まずチェックするポイントは?
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社員ないし元社員から内容証明で通知書が届いてしまったら、労働問題を早期解決するため、送付元、送付日とともに、争点となる労働問題がなにかを確認してください。もっと詳しく知りたい方は「まず確認すべき内容証明の通知書のチェックポイント」をご覧ください。
- 社員からの内容証明の通知書に対応するとき、注意すべき点は?
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社員ないし元社員からの内容証明に対して、十分な事前準備をしてから対応してください。話し合いで穏便に解決するため、和解の余地があることを示す一方で、過度にトラブルをおそれて譲歩しすぎないようにしてください。もっと詳しく知りたい方は「内容証明の通知書を受領した会社の注意点」をご覧ください。