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弁護士 浅野英之
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所を経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を開業。
企業の労働問題について、豊富な経験を有する。

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退職証明書の書き方と、退職証明書を社員から求められた時の対応

退職証明書を出すよう、会社を辞める社員から求められることがあります。退職証明書を求めてくる社員のなかには、残念ながら会社と争おうとする人がいるため、会社として慎重な対応が求められます。まさに、退職証明書は労使紛争のスタート地点であり、適切に対応しないとリスクを拡大させてしまいます。

退職者から求められたとき、会社には退職証明書を出す義務があります(労働基準法22条)。

退職証明書の書き方のポイントは、退職理由を具体的に明らかにすることです。特に解雇のとき、解雇理由を具体的に示し、社員に納得してもらうことが、労使トラブルを回避するのに役立ちます。この意味で、会社にとってもメリットある書類ですから、無視することなく、必ず交付してください。

今回は、問題社員対応のうち、退職後のトラブルのスタート地点となる退職証明書のポイントを解説します。解雇は当然ながら、そうでなくても退職時は労使トラブルが最も起きやすいタイミングです。

この解説でわかること
  • 退職証明書を出すことは、労働基準法に定められた会社の義務
  • 退職証明書の書き方には、労働基準法に定められた5つの記載事項がある
  • 退職証明書を求められたときは、速やかに作成する等の注意点を守って対応すべき
目次(クリックで移動)

解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所を経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を開業。
企業の労働問題に豊富な経験を有する。

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退職証明書とは

退職証明書とは、社員が退職するときに会社が交付する、退職した事実や退職の理由等を記載した書類のことです。

労働基準法22条1項では、次のとおり、労働者側から求められたときには会社は退職証明書を交付する義務があると定められています。そのため、労使トラブルを避けるためにも、退職を予定しているときには速やかに発行の準備を進める必要があります。

労働基準法22条1項

労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。

労働基準法(e-Gov法令検索)
退職証明書とは
退職証明書とは

上記のとおり、退職証明書の記載事項は、労働基準法で定められている次のものです(各項目の記載のしかたは次章で解説。リンク先参照)。

これに対し、次の事項は記載が禁止されています(労働基準法22条4項)。

  • 国籍
  • 信条
  • 社会的身分
  • 労働組合に関すること(加入歴等)

なお、退職者からの求めがないときは交付する必要はなく、その時効は退職後2年と定められています(労働基準法115条)。
法律の条文上、基本的には退職後の元社員から請求したときに交付することを予定していますが、遅滞なく交付しなければならないことから、退職予定者から求めがあったときには、まだ在職中でも発行の準備を進めるようにしてください。

なぜ退職証明書が必要か

退職証明書が必要な理由

退職証明書の発行が義務とされているのは、退職予定者もしくは元社員にとって必要性が高いからです。

退職証明書は、国民健康保険、国民年金の切り替え手続きを行うとき、提出を要求されることがあります。また、転職先で、前職がどのような職であったかを証明する必要等から提出を求められることがあります。

なお、残念ながら会社と退職時にトラブルとなり、退職理由等について労使間で意見に相違があるときにも、将来会社と戦う材料として、退職証明書の提出を要求されることがあります。

離職票との違い

離職票もまた、退職理由等を証明する書類ですが、退職証明書とは異なります。

離職票は、ハローワークから失業保険を受給するために必要となる公的な書類です。失業保険の受給は、自己都合か会社都合かといった退職理由によって受給開始日、受給期間が異なるため、離職票にも退職理由が記載されますが、あくまでも失業保険について決めるために必要な情報が記載されるものであり、退職証明書の役割は果たしません。

なお、離職票が手元にないとき、失業保険の受給の際にも、退職証明書が必要書類となります。

退職証明書と離職票の違い

解雇理由証明書との違い

退職証明書と同様に、労働基準法で発行が義務とされている書類に、解雇理由証明書があります。
解雇理由証明書は、退職証明書ととても似ており、同じく労働基準法22条で定められていますが、発行するタイミングや記載内容などが異なります。

解雇理由証明書は、その名のとおり、解雇するときに発行するものです。これに対して、退職証明書は、解雇の場合には解雇理由を記載して交付しますが、解雇でない退職のときにも発行を要します。

労働基準法22条2項

労働者が、第20条第1項の解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。ただし、解雇の予告がされた日以後に労働者が当該解雇以外の事由により退職した場合においては、使用者は、当該退職の日以後、これを交付することを要しない。

労働基準法(e-Gov法令検索)

解雇理由証明書は、上記の条文のとおり、解雇予告日から退職日までの間に、社員の求めがあれば発行しなければなりません。したがって、解雇理由証明書は退職日(解雇日)前でも交付が必要です。なお、労働基準法20条で解雇予告についてのルールが定められており、労働者保護のため、解雇日の30日前に予告するか、不足する日数に相当する平均賃金を「解雇予告手当」として支払う必要があります。

解雇理由証明書は、残念ながら解雇について労働者側が争おうとするとき、その紛争の争点を明らかにするため要求されることが多く、解雇紛争のスタート地点といえますから、記載事項には十分な検討が必須です。

退職証明書と解雇理由証明書の違い

退職証明書の書き方

退職証明書には法的に記載が必要となる、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金、退職の事由の5つがあり、この中なら、労働者が希望する記載項目について書くようにします。

以下では、5つの項目ごとに、どのように記載したらよいかを解説します。

なお、退職証明書には、特に定められた書式はありませんが、行政の用意したひな形を参考にして記載していくことがおすすめです。

「使用期間」の書き方

「使用期間」とは、退職者が自社に在籍していた期間のことです。

具体的な期間を明記し、「2011年4月1日から、2021年9月1日まで」というように記載します。記載は和暦でも西暦でもいずれでも構いませんが、年月までしか記載しなかったり、具体的な日付を特定しなかったり、「4月吉日」といった記載等は、期間の明確性を欠くため誤りです。

試用期間についても、法的には雇用契約が成立しているものと取り扱われているため、試用期間も含めて記載することが通常です。

「業務の種類」の書き方

「業務の種類」とは、退職者が自社にて実際に行っていた業務のことです。

担当していた職務内容に合わせて、「経理」、「総務事務」、「営業」、「広報」等と簡潔に記載することが一般的です。複数の業務を行っていたときは全ての業務を記載します。

「その事業における地位」の書き方

「その事業における地位」とは、退職者が在籍時に就いていた役職等のことです。

最終在籍時に就いていた役職を記載すればよく、経歴を記載する必要はありません。むしろ、退職者が求めないにもかかわらずあえて経歴を詳細に記載することは、プライバシー侵害や不当な転職妨害だと評価されるおそれがあります。

「賃金」の書き方

「賃金」とは、退職者に支払っていた給与のことです。

一般的には、退職前年の年収や、退職時の月給を記載することが通常です。手取り額ではなく、額面で記載します。

「退職の事由」の書き方

「退職の事由」は、退職者が退職に至った理由について記載します。

退職理由については、次章の注意点でも解説するとおり、自己都合か会社都合かについて離職票と矛盾のない記載をするとともに、特に解雇のときには、解雇理由を具体的かつ詳細に記載するようにしてください。

解雇理由を詳細に記載することは、後に解雇紛争となったとき、会社の主張を認めてもらいやすくするために大切なポイントです。ただし、退職者が、転職に必要な資料として利用するとき、解雇理由の記載を求めないことがあるため、そのときには退職者の求めに応じるようにしてください。

退職証明書を求められたときの対応

退職証明書を求められたとき、正しい対応をして会社のリスクを減らさなければ、退職をきっかけに労使トラブルに発展してしまうおそれがあります。退職証明書を求められたとき、次の4点に注意して対応してください。

退職証明書を求められたときの対応
退職証明書を求められたときの対応

そこで、退職証明書を求められたときの会社側の適切な対応について順に解説していきます。

退職者が求める記載事項を確認する

退職証明書の発行を希望されたら、まずは労働者に対し、記載を求める事項を確認するようにしてください。このとき、法律を十分理解していない方も多いため、法定記載事項を示し、その中から必要なものを選択するよう依頼します。

退職証明書には、労働者が記載を求める事項のみを記載します。つまり、労働基準法22条1項に列挙された項目でも、労働者側が記載を望まないときには、退職証明書に書いてはなりません。

これは、退職証明書が転職先に提出されるという役割があるところ、労働者にとって転職先に伝えたくない事情まで記載されて転職の機会を奪われてしまわないようにするためです。労働者が記載を望まない項目を載せることは、労働基準法違反となるのはもちろん、再就職がうまくいかなければその責任を追及されたり、翻って退職や解雇の不当性を主張される可能性が高まります

具体的に詳しく記載する

退職の理由が解雇のとき、解雇理由について退職証明書に記載するよう求められたのであれば、その社員は解雇について会社と戦うことを検討している可能性が高いです(通常、転職時の提出書類として用いるなら、解雇であることは明らかにしない)。

たとえ解雇紛争が差し迫っていても、労働基準法上の義務である退職証明書の交付を拒否することはできません。

このとき、将来予想される解雇紛争で、会社側の主張を認めてもらうためには、退職証明書の段階から、できるだけ具体的で、詳細な解雇理由を記載しておくことが重要なポイントです。解雇理由を説得的に記載しておけば、労働審判や訴訟の際に、裁判所に、解雇の正当な理由があると認めてもらいやすくなります。また、労働者の相談先となる弁護士等の見通しを、会社有利にコントロールする効果が期待できます。

速やかに発行する

退職証明書は、退職者の求めがあったとき「遅滞なく」交付することが義務付けられています。「遅滞なく」というのは何日以内等の期限が明確ではないものの、大幅に遅延すると、それは発行を拒否したのと同じとみられるおそれがあります。退職証明書の交付義務に違反すると30万円以下の罰金が科されます(労働基準法120条)。

退職証明書の発行が遅れてしまう会社の中には、「感情的になって解雇を告げたものの、退職証明書を求められてから解雇理由を検討している」といった例があります。

しかし、解雇をした時点で正当な解雇理由を有していなければ、解雇紛争では会社不利の判断とならざるを得ません。退職理由書を求められてから解雇理由を考え、期間が経ってしまうと、いざ裁判になったとき「さほど重大な解雇理由はなかったのではないか」と勘ぐられ、不当解雇と評価されてしまうおそれがあります。

離職票の記載と合わせる

退職証明書と離職票の違いについて前章で解説しましたが、役割は異なるものの、いずれの書類にも退職に関する理由等が記載されています。

そのため、退職証明書を作成するときには、離職票の記載内容と矛盾しないよう合わせておく必要があります。

離職票は、失業保険の受給に必要となる、自己都合か会社都合か、という観点で退職理由が選択されるのが通常ですが、これと退職証明書の記載が合っていないと、矛盾が生じてしまいます。この矛盾は、労働者側にとっては失業保険の受給や転職に不利益が生じるおそれにつながり、会社側にとっては将来の労使トラブルの際、会社に有利な主張を認めてもらいづらくなるおそれがあります。

退職時のその他の手続き

退職証明書の交付と合わせて、退職時のその他の手続きについても適切に対応するようにしましょう。退職時に通常交付すべき書類や手続きには、次のものがあります。

  • 離職票の交付
  • 源泉徴収票の交付
  • 社会保険(保険・年金)の切替手続き
  • 退職合意書、誓約書の締結

また、退職以降に生じる予定の賃金の支払い(退職金を除く)、金品の返還は、退職者が求めるときには7日以内に行う必要があります。なお、退職金については、退職金規程に定めた期限内に支払えば足ります。

退職証明書は会社側にもメリットあり

ここまで解説したとおり、退職証明書は退職者の求めに応じて発行するものであり、基本的には、社会保険の切替や転職時の書類提出といった労働者側の便宜のためにあります。もちろん、労働基準法に基づく法的義務なので、求められたら拒否はできません。

一方で、適切な記載をした退職証明書を交付することは、会社側にとってもメリットがあります。

  • 将来の労使トラブルを回避できる
  • 退職者の再就職ないし転職を促進できる

退職証明書を詳細に記載しておくことは、将来の労使トラブルの回避に役立ちます。特に、解雇の場合には、解雇理由が正当なものかどうかが裁判所で大きな争点となることがあり、この際、退職証明書の段階から詳細な解雇理由が記載してあると、裁判所で一定の評価を受けることが期待できます。

また、退職証明書を速やかに発行することで、退職者の再就職ないし転職を促進できます。解雇等で、残念ながら敵対的な退職のしかただったとしても、早期の再就職ないし転職につながれば、結果的に労使トラブルが激化する可能性を減らすことができます。

メリットを最大限活かすためには、退職証明書の記載事項、記載内容を吟味する必要があるため、弁護士のアドバイスを受けることが有益です。

なお、残念ながら退職後の元社員から内容証明の「通知書」が届いてしまったとき、慎重な対応を要します。詳しくは次の解説をご参照ください。

まとめ

今回は、退職証明書について、会社側の立場から正しい対応を解説しました。

退職予定の社員ないし元社員から求められたとき、退職証明書の交付は、労働基準法22条1項で会社の義務とされています。そのため、速やかに対応しなければ法違反となり、労使トラブルとなるおそれがあります。社員の退職時は、特にトラブルが激化しやすいため慎重に対応しなければなりません。

一方で、退職証明書を求めてくる社員の中には、残念ながら今後会社との戦いを見据えて退職証明書を求める者もいます。退職証明書の記載内容を誤ると、このような社員に対して、会社に不利な情報を与えることともなりかねません。

当事務所の問題社員対応サポート

弁護士法人浅野総合法律事務所では、企業の労働問題解決に注力しており、特に、問題社員の退職時において、企業側視点で手厚いサポートを提供しています。

退職証明書を求められるタイミングで、将来の労働問題を未然に防止するため、弁護士のアドバイスが有用です。ご相談いただくことで、事情を詳しくお聴きし、退職証明書を会社に代わって作成することができます。

退職証明書のよくある質問

退職証明書はどのように書いたらよいですか?

退職証明書を交付することは会社の義務であり、労働基準法にその記載内容が定められています。「使用期間」、「賃金」といった重要な労働条件が記載項目となります。より詳しく知りたい方は、「退職証明書の書き方」をご覧ください。

社員から退職証明書を求められたとき、会社はどう対応すべき?

退職証明書を社員から求められたタイミングは、まさに労使トラブルのスタート地点といえ、慎重な対応が必要です。退職者の求める事項を聴取して、わかりやすく記載し、労働者側の理解を求めるといった対応が適切です。より詳しく知りたい方は「退職証明書を求められたときの対応」をご覧ください。

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