管理職は労働組合に加入することができるのでしょうか。今回は、役員や管理職など、本来であれば会社側の立場だと考えていた人間が労働組合に加入したり、団体交渉を申し入れてきたりしたときの適切な対応を解説します。
役職者や部長のように責任あるポジションの人から団体交渉の申入れがあり、談に来られる会社があります。労働組合法上の「労働組合」として保護されるためには、「使用者の利益代表者」を参加させることはできません。会社からの自主独立の組織であることを保障するため、いわゆる「会社側」の人を加入させられません。
しかしこの「使用者の利益代表者」の範囲は、会社が管理職扱いしている社員の範囲より狭いことが多いです。そのため、ご質問ように、会社が管理職扱いしていたとしても、「使用者の利益代表者」にはあたらず労働組合に参加できることは少なくありません。この場合、労働組合からの団体交渉申入れを理由なく拒否すると、団体交渉拒否の不当労働行為として違法です。
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管理職は労働組合に加入できるか
まず、管理職が労働組合に加入できるのかどうかについて解説します。
管理職でも労働組合に加入できる
一般的に、「部長以上は管理職である」といった社内ルールで、管理職扱いをしていることが多いかと思います。管理職になると、労働基準法の「管理監督者」(労働基準法41条2号)として扱い通常の労働時間制の対象とせず、残業代を支給していないといった、責任に見合った扱いをします。
しかし、このように会社が定めたルールに基づいて管理職扱いされていたとしても、会社に雇用される従業員である限り、労働組合に加入することは可能です。
憲法には労働三権(団結権、団体交渉権、団体行動権)が定められており、労働者には団結する自由があるからです。
「使用者の利益代表者」は労働組合に加入できない
管理職扱いされても労働組合に加入できるのが原則ですが、一方で、労働組合法に定める「使用者の利益代表者」は、労働組合には加入できません。
使用者の利益代表者とは、次の者をいいます(労働組合法2条2号)。
・役員
・雇入解雇昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある労働者
・使用者の労働関係についての計画と方針とに関する機密の事項に接し、そのためにその職務上の義務と責任とが当該労働組合の組合員としての誠意と責任とに直接にてい触する監督的地位にある労働者
・その他使用者の利益を代表する者
労働組合法(e-Gov法令検索)
わかりやすくいうと、役員や、人事権を有している役職者(通常、人事部長等)、重大な企業秘密に接している人といった者を指します。
これらの人は、いわば「会社側」の人間であり、労働組合に加入してしまうと、会社からの自主独立性が保たれなくなってしまいます。
同法は、使用者の利益代表者が加入する団体を「労働組合」として保護していません。この意味は、不当労働行為による救済を受けることができないということです。つまり、使用者の利益代表者が加入していて、労働組合法上の「労働組合」(いわゆる「法適合組合」)にあたらないと、団体交渉の申入れを拒否しても、団体交渉拒否の不当労働行為には該当しません。
なお、使用者の利益代表者が加入する団体は、労働組合法上の「労働組合」とは認められませんが、組織することは自由であり、これらの人が集まって、集団の力を利用し、民事上、刑事上の会社の責任を追及する等の方法で労働条件の向上を目指すことは許されています。
要は、労働組合法上の権利保障(民事免責、刑事免責、不当労働行為による救済)を受けることができないというだけです。
管理職が団体交渉を申し入れてきた時の対応
次に、管理職が団体交渉を申し入れてきた時の対応について解説します。
管理職との団体交渉に応じるべきケース
前章で解説したとおり、会社が管理職扱いしていたとしても、労働組合法上の「使用者の利益代表者」に当たらない限り、労働組合に加入し、団体交渉を申し入れることができます。そして、使用者の利益代表者は、役員や人事権を持つ者等、社内でもごく限られた上位者です。
この判断は、役職名やポジションで形式的に決まるのではなく、実質的な職責により判断されます。
そのため、これらの相当な上位者でもない限り、たとえ管理職からの申入れでも、団体交渉には応じるべきケースが多いと考えられます。団体交渉に応じず、無視し、団体交渉拒否の不当労働行為となってしまうと、労働委員会から救済命令を下されて損害賠償を命じられてしまう等、大きなリスクを負うこととなります。
管理職との団体交渉に応じなくてよいケース
団体交渉を申し入れてきた団体が、使用者の利益代表者に加入するものであったとき、労働組合法上の「労働組合」ではありません。
そのため、このような団体からの申入れを拒否したとしても、団体交渉拒否の不当労働行為には該当しませんから、団体交渉には応じなくてよいケースといえます。
なお、労働組合法にいう使用者の利益代表者にあたるかどうかは、会社が判断するわけではありません。つまり、会社が「部長以上は管理職だ」と定めたとして、これが使用者の利益代表者の基準となるわけでもありません。
使用者の利益代表者に該当するかどうかの最終判断は、労働委員会(救済命令に異議を申し立てるときは裁判所)が中立公正な立場で決定します。そのため、会社の一方的な判断で団体交渉に応じないことを決めることにはリスクがあります。
管理職の加入する合同労組(ユニオン)への対応
会社が管理職扱いしているとき、そもそも社内の労働組合に加入することはできないのが原則です。出世をして管理職になれば、これまで労働組合に加入していた人は脱退することになります。
そのため、このような疑問が生まれるのは、管理職が、社外の合同労組(ユニオン)に加入して会社と戦う姿勢を見せてきたケースであり、慎重な対応が求められます。合同労組は、集団的労使紛争の解決というよりは、ある社員と会社との戦い、つまり、個別的労使紛争の解決を目指すことが多く、団体交渉の申入れは、敵対的になされることが多いからです。
合同労組(ユニオン)は、よほどの上位者でない限り、たとえ会社では管理職でも「使用者の利益代表者にはあたらない」と考えて加入を歓迎します。「東京管理職ユニオン」のように、その名からして管理職の救済を標榜する組織もあります。
社外の合同労組(ユニオン)に加入されて団体交渉の申入れをされてしまったとき、労使トラブルに発展することが想定されます。この場合、会社が管理職扱いしていたとしても、労働組合側としては使用者の利益代表者に該当しないことを当然に主張します。団体交渉を拒否したときには、不当労働行為であると主張して労働委員会へ不当労働行為救済申立がなされる等、争いが拡大します。
前章でも解説したとおり、使用者の利益代表者に該当するかどうかの最終判断は、労働委員会ないし裁判所が行うもので、会社が行うものではありません。
管理職の加入した合同労組(ユニオン)からの団体交渉申入れに立腹し、「管理職なのだから組合員から外せ」と指摘することは、労働組合の活動に対して不当な働きかけをすることを意味し、支配介入の不当労働行為となるおそれがあります。同様に、合同労組(ユニオン)への加入を理由に不利益な処分をすることは、不利益取扱いの不当労働行為として違法です。
合同労組(ユニオン)との対応の注意点については、下記解説をご参照ください。
まとめ
今回は、管理職が組合に参加できるかについて解説しました。管理職として厚遇されていても、会社に不平不満がある人も多いです。職責が上位であり、重大な企業秘密を知り得る立場にある社員ほど、適切に対応しなければ労使トラブルの激化につながります。今回解説したとおり、労働組合法上も、たとえ会社が管理職と扱っていても、同法の「使用者の利益代表者」に該当しないこともあります。
管理職からの団体交渉の申入れでも、応じないと団体交渉拒否の不当労働行為に該当する可能性があり、その判断は労働委員会に委ねられています。そのため、無視、放置すれば、不当労働行為救済申立を受けることは必至です。
当事務所の組合対策サポート
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管理職として重要な職責を与えていた社員から、団体交渉の申入れを受けると、とても驚き、裏切られたという気持ちになるのではないでしょうが、的確な対応が必要となります。対応の決断ができないとき、お気軽にご相談ください。
組合対策についてよくある質問
- 管理職でも労働組合に加入できますか?
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労働組合法の「労働組合」は、自主独立の団体でなければならず、会社側の人間が加入することはできませんが、単に会社で「管理職」と扱われているだけであれば、加入できる可能性が高いです。もっと詳しく知りたい方は「管理職は労働組合に加入できるか」をご覧ください。
- 管理職が団体交渉を申し入れてきたら、応じなければならないですか?
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管理職の中でも、労働組合法に定められた「使用者の利益代表者」であれば団体交渉に応じる義務はなく、拒否して良いケースです。もっと詳しく知りたい方は「管理職が団体交渉を申し入れてきた時の対応」をご覧ください。