解雇承諾意思表示労働者解雇無効労働審判

会社が労働者を解雇する場合、いかに問題社員であったとしても、解雇の効力を労働審判や団体交渉で争われるリスクがあります。そのため、できる限り紛争リスクを回避して解雇を進めるためには、労働者にきちんと具体的な解雇理由を説明し、解雇について納得をしてもらうことが重要です。

解雇が労働審判、団体交渉などの労働問題に発展するケースはいずれも、会社の説明が十分でなかったり、手続きの進め方が性急であったりといった理由から、労働者が解雇に全く納得していないケースです。その労働者の不服が、労働審判、団体交渉における地位確認という形で噴出するわけです。

とはいえ、労働者が完全に自分の問題行為について納得しているのであれば、自ら退職してくれるはずであって、解雇にまで発展した場合にまで、労働者の完全な納得を得ることは相当困難であるといえます。

今回は、問題社員に対して解雇を行う場合に、従業員の意思を確認し、解雇承諾の意思表示を書面で行わせる方法について解説します。

問題社員の解雇を検討している場合には、実際に解雇に踏み切る前の段階で、企業の労働問題に強い弁護士へご相談ください。

なぜ解雇承諾の意思表示を重視すべきなのか

解雇には、労働基準法20条などの解雇に向かう適切な手続きを踏む必要があると共に、解雇権濫用法理が適用されます。そのため、解雇に合理的な理由がなければ、不当解雇として無効となってしまいます。したがって、解雇の理由が曖昧であったり、事実と反していたりすれば、労働審判や団体交渉で地位確認の争いを起こされた場合、会社に不利な解決となります。

これに対し、解雇に合理的な理由があり、社会的にも解雇が相当である場合には、解雇は有効と判断されるわけです。しかし、この「合理的な理由があるかどうか。」というのは、一義的に事前に判断することは困難です。

そのため、会社は、問題社員を解雇する際には、できる限りリスクを軽減するために、取り得る方策をすべて行っておく必要があります。

その一つが、労働者の解雇承諾の意思表示を得ることなのです。解雇が争いになるのは、解雇の理由について労働者が納得していないためです。事後的な紛争を回避するために、会社は労働者に対して、できる限り具体的かつ詳細に解雇の理由を説明すべきです。

労働者が解雇に承諾しても必ず解雇が有効なわけではない

労働者が解雇に承諾の意思表示をしたからといって、必ず解雇が有効となるわけではなく、解雇承諾の意思表示に固執すべきではありません。あくまでも、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当な解雇であるかどうかが重要であり、労働者が解雇に承諾していることは、合理性を肯定する判断の一要素となります。

解雇に承諾させようと必死になって、労働者に対して解雇承諾書への署名、押印を強要するようでは、更にトラブルの火種を増加させることに繋がります。

解雇は、会社からの一方的な意思表示による雇用契約の解消ですから、本来、労働者の承諾は不要であり、労働者が承諾をしなくても解雇の効力は発生します。したがって、解雇承諾の意思表示を確認することは、解雇の有効性に影響するわけではなく、あくまでも事後的なトラブル回避のための説明ということです。

解雇に対して労働者が真意から承諾していれば、それはすなわち、労働者自身が、解雇の合理的理由があることを認めたこととなり、労働審判や訴訟における解雇の有効性の判断にも事実上の影響があると考えられます。

解雇承諾について黙示の意思表示は危険

以上の通り、労働者から解雇承諾の意思表示を得ることが、解雇トラブルの回避に非常に役立ちます。

そのため、解雇トラブルが労働審判や団体交渉などで争いとなると、会社の側から、次の事情を上げ、「労働者は黙示的に解雇に対して承諾の意思表示をしていた。」と主張されることがあります。

  • 労働者が離職票の手続きに協力した。
  • 労働者が解雇予告手当を受領した。
  • 労働者が会社に出社しなくなった。
  • 労働者が退職金を受領した。

しかし、これらの事情をもって解雇を黙示的に承諾したと主張することは非常に危険です。労働審判や団体交渉でも容易には認められないと考えられます。

というのも、解雇は、労働者としての地位を奪う重大な処分であり、これに対して労働者が真意から承認したといえるためのハードルは非常に高く設定されていると考えるべきだからです。「文句を言わなかったから。」というだけで解雇に承諾したとは、法的手続きでは到底評価されないでしょう。

裁判例でも、次の通り、労働者による解雇承諾の意思表示は厳しく判断されています。

盛岡市農協事件判決(盛岡地裁昭和60年7月26日判決)
一般に解雇は労働者を労働の場から排除し、その生活の基盤を一方的にはく奪するものであるから、その承認があったというためには、被解雇者の具体的かつ明示の意思表示がなされるか、あるいは被解雇者がすでに他に職を得て復職の意思を放棄したなど、被解雇者の行為を客観的・合理的に解釈して解雇の効力を争う意思を自ら放棄したと認められる場合に限られるものと解すべきである。

したがって、離職票の手続きを行ったり退職金を受領したりといった、当面の生活を保持するためにやむを得ない行為のみをもって、解雇承諾の意思表示とは考えられません。

解雇ではなく辞職とすることは困難か

解雇承諾の意思表示を得るためには、労働者に対して、納得がいくまで解雇理由を説明する必要がありますが、そもそも解雇に踏み切る前に、同様の説明を丁寧に行うことによって労働者から辞職の意思表示をしてもらうことが不可能であるかどうかを、先に検討すべきです。

辞職と解雇とのいずれであったかが、事後的にトラブルとなることは少なくありません。辞職と解雇は、全く異なるものですが、退職間際に言い争いになって、売り言葉に買い言葉でお互いにののしりあいながら退職した場合などには、解雇の意思表示が先であったのか、それとも辞職の意思表示が先であったのか、それともお互い退職の合意があったのか、事実認定は困難を窮めます。

そのため、労働審判や団体交渉で後にトラブルとなった場合に、解雇、辞職、合意退職の区別をつけるため、労働者からの最終的な意思表示は、書面で明らかにしてもらうよう心掛けましょう。

まとめ

以上、今回は、問題社員を解雇せざるを得なくなった場合に、できる限り解雇承諾の意思表示を取得するための方法について解説しました。

ただ、かなりの割合の解雇トラブルは、解雇に踏み切る前の事前準備段階で弁護士が関与することによって回避することが可能となります。

問題社員の解雇を検討している場合には、企業の労働問題に強い弁護士へご相談ください。

労働問題・企業法務のお悩みは、弁護士へご相談下さい!

労働審判、団体交渉、就業規則、問題社員への対応など、使用者側の労働問題は、経験とノウハウが重要な、非常に難しい法律分野です。

会社を経営していくにあたり、労働者との交渉は避けられませんが、一度トラブルとなれば、致命的ダメージとなるケースもあります。弁護士に頼らずに社長自身で解決するとなると、莫大な時間とエネルギーが必要です。

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