- 東京都中央区
- Web広告業
- 社員数50名
試用期間とは「お試し」という意味だと軽く考え、多めに採用しては不要な人材をカットしていましたが、合同労組(ユニオン)からの団体交渉申入れを受けました。
当社のようなやり方はブラック企業だという指摘を受けましたが、試用期間で十分な能力を示せない場合に本採用拒否することは悪いことでしょうか。元社員の加入した組合から、辞めさせることが違法だと主張され、困っています。
団体交渉で丁寧に説明し、不当解雇の要求を撤回させた
相談に至った経緯
今回のケースは、試用期間満了時に本採用しなかった元社員から、団体交渉の申入れを受けたケースです。
Xは前職もインターネット広告運用等を行っていたと聞いていたため、経験者として中途採用をし、その際の給与面についても前職と同程度となるよう配慮をしていました。しかし、実際にはやる気は十分にあったものの、試用期間での働きぶりはあまりよくありませんでした。
改めて確認したところ、前職では事務的な作業しか担当しておらず、Y社の他の社員が行う最先端の広告運用についていくことは到底できず、設定した給与分の業務を担当することができないと判断しました。
このままでは正社員として本採用することはできないと伝えたものの能力が向上することは期待できず、試用期間で本採用拒否したところ、合同労組(ユニオン)に加入して団体交渉を申入れられました。
弁護士による対応と解決
団体交渉前の準備
合同労組(ユニオン)が団体交渉前に送付した団体交渉申入書によれば、要求内容は次のものでした。
- 本採用拒否を撤回し、正社員として本採用すること
- その際、雇用契約時に約束したとおり事業部長の職に任じ、相当する給与を支払うこと
しかし、前職の担当業務について、採用面接時に虚偽の説明があったことが明らかであり、現在明らかになっているXの能力からすれば、事業部長職に任命するのが難しいことは、X自身も理解しているはずでした。
ただ、会社側としても採用面接時に十分確認しておけば防げたミスマッチであったことから、一定の金銭支出は仕方ないものというところまで検討し、団体交渉に臨むこととなりました。
第1回の団体交渉
第1回の団体交渉から弁護士が同席しました。
第1回の団体交渉では、労働組合の主張を聞くことを優先して進めました。
労働組合側からは、「Xは十分な能力を示している」という主張がされ、会社が行った注意指導をもとに、能力が足りているか再度問いただしたところ、「団体交渉を誠実に行え」、「これ以上嫌がらせめいた発言をするなら労働委員会にいくこととなる」という発言があり、紛糾して終了しました。
第2回の団体交渉
第2回の団体交渉にも弁護士が同席しました。
第2回の団体交渉では、労働組合から、試用期間を延長せずに本採用拒否したことについて説明を求めるとの発言がありました。
会社側からは、前職の担当職務について虚偽の発言があり、当初予定した能力に達するのに、試用期間の延長程度では到底不足することを、具体的に説明しました。労働組合からは、「就業規則に延長の規定があるのに、延長しないことは不当だ」という反論がされましたが、Xは一言も言葉を発しませんでした。
社長は、採用段階でミスマッチがあった結果、見合わない給与を約束してしまったことを真摯に認め、席上でXに謝罪をしました。その後も組合から、感情的な責任追及がありましたが、きちんと認めて謝罪をしたことで十分に誠意を果たしたと考え、これにて団体交渉を打ち切ることを宣言しました。
団体交渉後の対応
第2回の団体交渉が終了した後、組合からの連絡が途絶えました。また、Xから社長に対してメールがあり、要旨、今回は迷惑をかけた、ということが記されていました。
団体交渉において丁寧に説明した結果、労働者の理解を得られ、これ以上の要求がなされずに解決することに成功しました。
社長が非のある部分については素直に認めて謝罪し、誠実な説明を続けたことが功を奏した結果といえます。また、労働者側でも、見合わない能力で働き続けることは限界があり、かつ、慰謝料請求等をしても高額の請求にはならないケースであったことが後押ししたものと考えられます。
弁護士のアドバイス
試用期間は、いわゆる「お試し期間」と甘く考えて良いものではなく、既に雇用契約が始まっているものと考えるのが実務です。法律用語では「解約権留保付き雇用契約」と呼びます。そして、留保された解約権が行使できるのは、採用時に知ることができなかった能力や適性等に限定されてます。
また、既に雇用契約を締結していますから、本採用拒否は「解雇」を意味し、解雇権濫用法理が適用され、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が要求されます。試用期間満了による本採用拒否は、本採用後の解雇よりはハードルが低いものの、まったくの無条件に許されるわけではないため慎重な検討が必要です。
今回のケースでは、社員側も必要な能力が足りていなかったことは認識していたものの、生活保障の面から引くに引けない状況であったと見られるケースであり、団体交渉となって労働問題が激化する前に話し合いによる円満退職を目指すべきケースであったといえます。
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