MENU
弁護士 浅野英之
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所を経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を開業。
企業の労働問題について、豊富な経験を有する。

→弁護士 浅野英之の詳細
ご相談予約をお待ちしております。

会社で暴力を振るったらクビ?暴力・暴言を理由に解雇する方法

会社で暴力を振るったり、暴言を吐いたりといった非常識な言動があれば、問題社員なのは明らか。
他の社員を殴ったり、ましてや社長に暴力・暴言を向けたりすれば、「クビにしたい」と思うのは当然です。

暴力・暴言を理由に解雇する方法によっても、問題社員を退職させるには相応の期間がかかります。
ひどい暴力や暴言があるようにみえても、すぐ解雇だとリスクが高く、まずは注意指導が必要だからです。
暴力的な言動は服務規律違反であり、処分が必要ですが、その処分が重すぎると、逆に社員側から無効だといわれ、争われてしまいます。

暴力・暴言が理由でも、解雇までのプロセスで会社がミスをすれば、これ幸いと反論してくるでしょう。
粗暴で、粘着質で、ハラスメント体質、そんな問題社員ほど、会社のまずい対応に敏感ですから要注意。

今回は、暴力・暴言などの粗暴な言動をする社員に対し、会社が「解雇」をはじめとしてどう対応すべきか、企業の労働問題に詳しい弁護士が解説します。

この解説でわかること
  • パワハラの場面、業務命令違反の場面の両面で、社内の暴力・暴言が問題になる
  • 社内の暴力・暴言で解雇できるかは、悪質性によりケースに応じた判断が必要
  • 暴力・暴言に注意指導するときは、冷静に、客観的な事実のみを指摘する

↓↓ 動画解説(約11分) ↓↓

目次(クリックで移動)

解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所を経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を開業。
企業の労働問題に豊富な経験を有する。

\相談ご予約受付中です/

暴力・暴言で解雇を検討すべきケース

社内での暴力・暴言は、日常的なシーンではありえず、なかなか想像できないかもしれません。
しかし、モンスター社員の問題行動が加速すると、しばしば、予測できないほどの暴力・暴言にさらされてしまうケースも少なくありません。

どんな理由があっても、暴力・暴言は許されないもの。
社内でする暴力・暴言は、服務規律違反であり、企業秩序を乱す問題行為なのは明らかです。
会社としては厳然とした対処をしなければなりません。

暴力・暴言で解雇を検討すべきケースには、大きく分けて「業務命令違反」と「パワハラ」の2つがあります。

暴力・暴言が問題となる2つのケース
暴力・暴言が問題となる2つのケース

社長や上司など、上位者への暴力・暴言は「業務命令違反」

1つ目のパターンは、社長や上司の指導に反抗的な態度をとる問題社員です。

社長や上司など、職場の上位者が正しく注意指導しているときは、部下は従わなければなりません。
にもかかわらず、部下である社員が大声で抵抗したり、反抗的な態度をとったり無視したりしたときは、これら暴力・暴言は、解雇の理由となり得ます。

部下である社員からの暴力・暴言は、社長や上司の指導が適切であるかぎり、正当な業務命令への違反を意味し、「業務命令違反」というとても大きな解雇理由になります。
「上司にタテついたらすぐクビ」というわけではないものの、偶発的なものでなく、計画的であったり、反省なく繰り返したりすれば、解雇するのもやむをえません。

業務命令違反による解雇の方法について、次の解説も参考にしてください。

↓↓ 動画解説(約12分) ↓↓

優越的な地位を利用した暴力・暴言は「パワハラ」

2つ目のパターンが、優越的な地位を利用した暴力・暴言、つまり、パワハラ行為の例です。
優越的な地位を背景に、相当な限度を超えて行われた暴力・暴言は、違法なパワハラとなります。

「上司がパワハラ的に大声で怒鳴る」、「指導が厳しすぎる」といった暴言、「上司が部下を小突く」、「注意のたびに頭を叩く」、「仕事ができないから殴る」といった暴力が繰り返され、その問題がまったく改善されないとき、その上司の側の解雇を検討せざるをえないケースもあります。

パワハラと厳しい指導とは紙一重ですが、業務上必要かつ相当な範囲を超えると、パワハラになります。

パワハラと指導の違い
パワハラと指導の違い

厚生労働省のパワハラ防止指針にも、パワハラがあった場合に、被害者と加害者の引き離し、謝罪させること、懲戒処分など、会社の事後対応が重要であると示されています。
暴力をともなうと、パワハラのなかでも重度ですから、懲戒処分を下し、繰り返されるときは解雇が適切です。

なお、パワハラは「上司から部下へ」というのが典型例ですが、これに限りません。

優越的な地位を利用していれば、「同僚間のパワハラ」や「部下から上司へのパワハラ」も成立します。
例えば、集団になっていじめることで優位な地位に立ったり、部下であっても知識・経験が豊富にあることなどを理由に優位に立ったりして、役職が下位でもパワハラの加害者となりうるからです。

ただし、単なる同僚間の喧嘩は、優越的な地位を利用していませんからパワハラではありません。
喧嘩では双方に非があり「喧嘩両成敗」ですから、解雇はもちろん、重い懲戒処分も不適当であり、注意指導にとどめるべきです。

暴力・暴言を理由に解雇できるかの判断基準

社内の暴力・暴言があったとき、反省をうながすためにも一定の処分が必要。
軽度の暴力や、暴言にすぎないなら、注意したり、軽度の懲戒処分を下したりして様子を見る手もあります。
しかし、悪質なケースでは、解雇も選択肢に入ります。

暴力を振るったり暴言を吐いたりした社員のクビを考えたら、解雇に踏み切る前に、「解雇するほどの悪質性があるか」、つまり、「その暴力・暴言を理由に解雇できるか」を必ず検討してください。
解雇権濫用法理によれば「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は、権利濫用として解雇は無効となってしまうからです。

解雇権濫用法理とは
解雇権濫用法理とは

そのため、有効に解雇できるのは、次のさまざまな事情を踏まえ、暴力・暴言が「解雇するに足る程度のもの」といえるケースに限られます。
会社は、これらの考慮要素を知り、事前に、解雇するかどうかを検討しなければなりません。

解雇するほどの暴力・暴言までには至っていないとき、「不当解雇」となってしまえば解雇が無効となり勤務を継続され、解雇の解決金や慰謝料を払わなければなりません。

暴言・暴力を理由に解雇できるかの判断基準
暴言・暴力を理由に解雇できるかの判断基準

暴力・暴言に至った理由

暴力・暴言に至った理由や経緯によって、社員の責任は変わります。

例えば、被害者とされた側が挑発したために胸ぐらを掴んだとか、お互いに暴言を言い合っていたなどのケースでは、責任の度合いが下がるため、暴力・暴言といえども、それだけで解雇は厳しすぎます。
この点では、被害者と加害者に、過去にもいざこざがあったかどうか、人間関係も調べておきます。

一方で、自分勝手な理由だったり、感情的に怒ったなど非常識な経緯だったりすると、責任が加重されます。
また、行き過ぎて暴力・暴言に及んでしまったものの、「目的は指導にあった」という場合は、酌むべき情状があり、責任は軽くみられますから、解雇まですべきではないケースといえます。

暴力・暴言の内容、程度

まず、暴力なのか、それとも暴言だけなのか、そして、その内容の軽重が、解雇するかどうかの1つの判断基準となります。
当然、暴言だけよりも暴力をともなうほうが、そして、内容も重度なほうが、責任が重く、解雇に近づきます。

例えば、「社長に口ごたえした」という程度の暴言にすぎないのに解雇するのは重すぎ、「不当解雇」のリスクが大きくなってしまいます。

同じ暴言でも、「バカ」、「能無し」といったまったく業務に関係ない人格否定の発言のほうが、「しっかりやれよ」、「そんなんでノルマが達成できるのか」といった一応は指導の体裁をなした発言よりも重く評価されます。
また、何度も殴ったり蹴ったり、物を投げつけたりなど、重度の暴力があれば解雇もやむをえません。

暴力の結果、生じた傷害の程度

職場で暴力を振るった結果、被害者に傷害が生じたケースは、暴力のなかでも最たるもの。
大きなケガを負わすなど、傷害の程度がひどいほど、解雇が認められやすくなります。

会社は、解雇できるかどうかを判断する際、傷害の程度を知るため、被害者に診断書を提出させ、確認する必要があります。

法律上も、暴行だけであれば暴行罪(刑法208条)として「2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」ですが、傷害が生じれば傷害罪(刑法204条)として「15年以下の懲役又は50万円以下の罰金」の法定刑が定められています。

暴力・暴言の回数、頻度

暴力・暴言が繰り返しされれば、その分だけ責任は重く評価されます。
そのため、暴力・暴言の回数や程度についても、解雇できるかどうかの大切な判断基準となります。
短期間のうちに何度も繰り返され、頻度が多いときにも、重い処分をすべきです。

なお、重度の暴行であれば、たとえ1回目だけだとしても責任が重く、解雇すべきケースもあるのは当然です。

暴力・暴言後の反省と謝罪の有無

暴力・暴言後の対応によっても、その責任の程度が変わります。
一度は、職場で暴力・暴言をしてしまっても、その後に自分の問題性を理解して反省し、謝罪をしたときには、その分だけ責任は軽く、解雇まではしなくてもよいでしょう。

しかし、反省・謝罪がまったくみられないとき、暴力・暴言が再発する可能性が高いといえますから、解雇を含めた厳しい処分が必要となります。

加害者の役職ないし地位

暴力・暴言の加害者となった社員が、役職者など地位の高い人だったとき、責任が重く評価されます。
役職や地位の高い社員は、率先して模範となり、他の社員を指導すべき立場にあるからです。

重要なポジションにあるにもかかわらず、その職責を果たさず暴力・暴言を繰り返すようであれば、解雇もやむを得ないケースもあります。

加害者の過去の懲戒歴

加害者が、過去にも同じように暴力・暴言をしたり、そのたびに注意指導されてきたといった経緯があるときは、もはや改善は困難であり、解雇を検討すべきケースといえます。

ことあるごとに職場でも暴力を振るったり、暴言を吐いたりといった粗野な人は、性格上そうであり、どれだけ注意してももう治らないおそれもあります。
暴力で物事を解決しようとするタイプの人であれば、会社を辞めてもらわなければなりません。

懲戒歴にまでいたらずとも、過去に粗暴な言動や勤務態度、発言などを注意された履歴があるかどうかも、解雇前にあわせて調査しておいてください。

暴力・暴言を理由にクビにする方法と、解雇までの進め方

暴力・暴言で社員をクビにする方法と、解雇までの進め方を、7つのステップで解説します。

社内暴力を調査する

まず、職場内で暴力・暴言があったと報告を受けたら、ただちに社内調査をスタートします。
被害報告は、社長へ直接相談されることもあれば、上司を通じてであったり、内部通報窓口経由で聞いたりするケースもあります。
パワハラにあたる暴力・暴言だと、パワハラ防止法で義務化されたパワハラ相談窓口に寄せられるケースも。
いずれにせよ、二次被害を防ぐため、速やかに対応する必要があります。

社内調査では、懲戒処分や解雇を見すえ、証拠を集めていかなければなりませんから、記録をとりながら進めてください。

社内調査の流れ
社内調査の流れ

社内調査の流れとして、まずは、当事者を引き離したり、加害者を配置転換した後、被害者や目撃者のヒアリングを行い、次に、そこで聞けた事情をもとに、加害者の弁明を聞く、という手順で進めます。
それぞれの当事者から聴き取った内容は書面にまとめ、正確かどうかを本人に確認し、認めるときには署名押印してもらうことで証拠化してください。

注意指導は冷静にする

暴力・暴言を社内でしてしまった社員に対峙するときも、注意指導する側は、冷静な対応が必要。
同じトーンで言い返したり、大声で怒鳴ったりすれば、「お互いに怒鳴っていたのだからしかたない」ということになり、相手の暴力・暴言という問題性がかすんでしまいます。

ましてや、相手を馬鹿にして人格否定的な発言をしてしまえば、パワハラそのもの。
さらなる暴力を振るわれたり暴言を吐かれても、挑発には乗らず、淡々と対応してください。

注意指導の際には、言い回しにも細心の注意を要します。
相手は暴力・暴言を職場内でしてしまうような問題ある人物ですから、中途半端な注意指導では、逆に歯向かってこられたり、あげあしをとられ、反論されたりする可能性が高いです。

ほんの軽度の暴力・暴言でも、他の社員に不快感を与え、働きづらい職場の原因となります。
このような悪影響も、会社としては見過ごせません。
たとえ解雇するほどではない暴力・暴言でも、速やかに注意指導し、やめさせなければなりません。

暴力・暴言の具体的な事実を指摘する

声のトーンやボリューム、言葉づかいの悪さや態度といった点は、具体的な事実を指摘しなければ注意として十分ではありません。
注意指導は、改善させるためにありますから、相手に理解してもらえるように伝えなければなりません。

「もう少し声を小さくするように」、「敬意をもった態度で接するように」といった抽象的な注意ではなく、「『てめぇ』という言葉づかいをしない」、「敬称をつけて話すように」、「足を組まない」のように、具体的な事実を指摘し、ただすように求めていきます。

録音など、客観的な証拠を集める

暴力・暴言を理由として解雇するとき、その程度の悪質さを証拠化しなければなりません。
しかし、「叩いたのか、触ったのか」の区別、「怒鳴ったのかどうか」、「恫喝したのかどうか」などは、人の価値観による部分も大きいため、一言で「暴力・暴言」といっても伝わりづらいです。

「不当解雇」だと争われると、裁判所で審理されます。
このときも、裁判官は暴力・暴言のシーンを実際に見たわけではなく、判断しづらいものです。

労働審判や裁判になり、問題社員の非を証明すべきとき、客観的な証拠のなかでも録音が最重要。
暴力・暴言のタイミングで録音していれば、その雰囲気、暴力の強さ、暴言のトーンやボリュームなどを、その場で聞いているのと同じ迫力で理解してもらえます。
暴力・暴言による解雇に向け、注意指導をしなければならないとき、さらなる暴力・暴言が繰り返される場合に備え、録音の準備をして臨んでください。

なお、社内で、業務上の必要性から行われる注意指導なら、社員は録音されることを拒否できません。
業務に関する記録にもあたるため、当然のことです。

暴力・暴言を理由に懲戒処分を下す

次に、暴力・暴言を理由に、懲戒処分を下します。

懲戒処分には、軽度な順に、譴責・戒告、減給、降格、出勤停止、諭旨解雇、懲戒解雇といった種類がありますが、就業規則の定めにしたがって、問題となる暴力・暴言の程度にふさわしい処分を選ばなければなりません。

懲戒処分の重さ
懲戒処分の重さ

懲戒処分の量定を決める要素は、前章の「暴力・暴言を理由に解雇できるかの判断基準」と共通です。
暴力・暴言の程度にふさわしくない懲戒処分を選ぶと、懲戒権の濫用として無効になるおそれがあります。

重大な懲戒処分に処するとき、就業規則の定めがある場合には、懲戒委員会や調査委員会を開催すべきケースもあります。

しっかりと反省し謝罪もし、再発の可能性が低い場合は、この懲戒処分のステップで終了です。
その場合、懲戒処分の内容についても、重くても出勤停止までにとどめ、諭旨解雇や懲戒解雇などの会社から追い出すことを前提とした処分を選んではなりません。

退職勧奨し、合意退職とする

会社が十二分に検討し、再発リスクが高く解雇が相当だと判断しても、裁判所では同じような判断が得られないおそれもあります。
このとき、「不当解雇」と判断され敗訴する危険を避けるため、解雇の前に退職勧奨し、合意退職にできないかどうか、はたらきかける必要があります。

なお、懲戒処分の一種である諭旨解雇でも、退職するかどうかを働きかける(退職しないなら懲戒解雇とする)という同様の効果がありますが、こちらは懲戒処分であるため「ペナルティ(制裁)」というイメージが強いです。
そのため、労働者への悪影響が強いですから、同じ効果の得られる退職勧奨のほうを優先してください。

労使で退職の合意ができたら、退職合意書に証拠化し、将来のトラブルを未然に防ぎましょう。

↓↓ 動画解説(約14分) ↓↓

暴力・暴言を理由に解雇する

注意指導しても問題点が理解されないときや、さらなる暴力・暴言が起こる蓋然性が高いとき、解雇を検討するのは最終手段とします。

解雇には、普通解雇・整理解雇・懲戒解雇の3種類がありますが、暴力・暴言を理由とするときに選択すべき解雇には、普通解雇と懲戒解雇の2種類があります。

解雇の3種類
解雇の3種類

普通解雇は、能力不足や勤怠不良、協調性不足のように「社員の性質が会社と合わないこと」を理由とした解雇なのに対し、懲戒解雇は、横領やセクハラ、犯罪行為への制裁のように「ある行為に対する罰」というイメージの強い解雇です。
そして、暴力・暴言に対する解雇は、性質上、普通解雇、懲戒解雇のどちらもあてはまります。

ただ、懲戒解雇のほうが普通解雇よりも「不当解雇」と判断されやすいため、まずは普通解雇を優先するのが実務的。
懲戒解雇のほうが、「転職の支障になる」など、労働者に与える不利益が大きく、相当性が厳しく評価されるからです。
そのため、社員のために、懲戒解雇が相当なケースでも、あえて普通解雇に留めることもあります。

暴力・暴言を理由に解雇した社員が、反抗してきたときの対応

暴言をやめるよう注意したときに、「怒鳴っているのではなく、地声が大きいのだからしかたない」と反論されるケースもあります。
しかし、地声が大きいのと、怒鳴っているのは、区別は容易にできるはずです。

暴力・暴言を起こした問題社員が反抗的なケースでは、注意指導を冷静に行い、その記録を残すようにします。
注意指導の記録の残し方は、録音が最善ですが、録音が難しい場面でも、さまざまな方法で証拠を集められます。

  • 暴力・暴言や、反抗的な態度を録音する
  • 注意指導の内容を、具体的な情景もあわせて書面に記録する
  • 社長や上司への報告書を作成する

このとき、会社は、暴力・暴言を起こした社員への注意指導を記録化するために録音をする必要がありますが、これに対して、社員側が録音することは、会社として禁止することができます。
会社には、「施設管理権」といって、社内の秩序を保つために職場内での行動を制限したり禁止したりする権利があるからです。

施設管理権に基づく業務命令に違反し、こっそり録音していたことが明らかになった場合には、業務命令違反による解雇を検討することもできます。
会社内では、暴力や暴言、注意指導はむしろ例外的なもので、基本的な職場での会話には、取引先の情報や顧客情報、個人情報など、社外に漏れると困る秘密が多く存在するからです。

反抗的な部下によって、上司が暴力・暴言の犠牲となってしまうことを「逆パワハラ」といいます。
逆パワハラが疑われる事例では、上司がしているのは注意指導として適切な範囲だったということも。

このようなとき、逆パワハラによって上司の精神が傷ついてしまわないよう、会社が詳細をしっかり調査し、逆パワハラ被害から上司を守らなければ、注意指導が萎縮してしまいます。

暴力・暴言による解雇について判断した裁判例

暴力・暴言が実際に社内で起こってしまったとき、解雇してよいかどうかの判断には、解雇の有効性についての裁判例がとても参考になります。

暴力・暴言が解雇理由とされたケースで、解雇を有効と判断したケース、無効と判断したケースのいずれもあるため、順に紹介していきます。

↓↓ クリックで移動 ↓↓

暴力・暴言による解雇を有効と判断した裁判例

暴力・暴言を理由とした解雇を、有効なものと判断した裁判例を紹介します。

エス・バイ・エル事件(東京地裁平成4年9月18日判決)

本判決は、女性社員にしつこく交際を申し込むのをやめるよう注意されたのに腹を立て、呼び捨てにして怒鳴り、激しい口調で問いただした行為、ネクタイをつかみ椅子から浮き上がるほど力いっぱい引っ張った行為、その際に来客が居合わせて子どもが泣き出すなどの騒ぎになったこと、「お前は黙っていろ。バカヤロー」、「バカヤロー、会社をやめろ」などの罵声をあびせた行為などが認定されました。

裁判所は、暴行の態様は悪質であり、しつこく交際を求めるといった、業務に支障をきたす行為を注意されたことに腹を立てたという動機は、短絡的かつ非常識で、酌むべき事情はないと判断しました。
原告の性格についても「本件暴行は決して偶発的、一過性のものではなく、原告の独善的かつ極端に激しやすい性格に根ざしたもの」と判断し、再発の余地があることが考慮要素とされています。

反省を示しておらず、ますます憎悪をつのらせていたことなども指摘し、懲戒解雇を有効だと判断しました。

新星自動車事件(東京地裁平成11年3月26日判決)

本判決の事案は、タクシー運転手が、同僚と殴り合いの喧嘩をしたことを理由にされた懲戒解雇について、不当だとして争ったものです。

原告は、喧嘩の後に警察と救急車を呼び、その結果として送検されましたが、その後示談が成立して不起訴となりました。
原告の行為は、一方的な暴行に対する正当防衛とはいえず、両者間の喧嘩だったと認定し、送検されていることなどからすれば企業秩序に与えた混乱は小さくないとして、懲戒解雇は有効なものと判断しました。

暴力・暴言による解雇を無効と判断した裁判例

暴力・暴言を理由とした解雇を、無効だと判断した裁判例を紹介します。

南海電気鉄道事件(大阪地裁堺支部平成3年7月31日決定)

本裁判例では、鉄道の運転士である原告が、「殴るやったら殴ってみろ」などと言われたのに腹を立て、シャツの襟首を両手でつかんで2度振り回し、右膝で左大腿部を蹴った行為などが認定されました。

暴力・暴言に形式上はあたり、就業規則の懲戒解雇事由であるものの、暴行態様としては比較的軽く、傷害の結果も日常生活に影響を及ぼさない軽微にとどまるとして、重すぎる懲戒解雇は無効だと判断しました。

また、列車の遅れを取り戻すべく回復運転に尽力していたところ上司が食事していたのに立腹したこと、被害者の挑発があったことなどを考え、偶発的な暴行といえること、懲戒解雇に直面した後は反省をみせていたことなどを、酌むべき事情として考慮しました。

日本周遊観光バス事件(大阪地裁平成8年9月30日判決)

本裁判例の事案では、2名の社員と喧嘩をしたことが解雇理由とされたものの、いずれの喧嘩も、相手にも非があり、原告のみの責任とはいえず、また、関係者の処分もしていないことなどから、懲戒解雇について、解雇権の濫用として無効だと結論づけました。

なお、この喧嘩以外に、チップのピンハネ行為も解雇理由となっていたものの、1回のみであり、かつ、ピンはねした額が1200円に過ぎないことから、解雇は過酷にすぎ、相当性を欠くと判断されました。

暴力・暴言で解雇するときの会社側の注意点

最後に、暴力・暴言を理由として社員を解雇するとき、会社側の留意点を解説します。

警察に通報し、協力を求めるべきか

社内で暴力沙汰が起こったら、警察に通報し、協力を求めるべきケースもあります。
職場での暴力沙汰を察知した企業からも「警察に協力を求め、処罰してもらうべきではないか」と相談されることもあります。

しかし、たとえその暴力沙汰が職場内で起こっても、直接の被害者は社員であり、会社ではありません。
そのため、加害者の刑事罰を求めて告訴するかどうかは、暴力の被害を受けた社員が決めるべきこと。
加害者となった問題社員が邪魔で、「少しでも痛い目を見てほしい」と思って警察にかけこむ会社もありますが、トラブルを拡大させるだけですから、控えたほうがよいでしょう。

労働基準監督署も、警察と同様に、労働基準法など刑事罰のついた法違反を監督する機関。
なので、警察と同様、被害者から「労働基準監督署にいく」といわれたら、あくまで被害者の判断に任せておくのがよいでしょう。

例外的に、現に暴力が目の前で起こっていて、被害者の生命、身体に危険が生じているときには、ただちに警察に通報し、危険を排除する必要があります。

会社にも責任があるケース(使用者責任・安全配慮義務違反)

社内で暴力沙汰が起きたとき、会社の対応が不適切だったり、放置して被害が拡大してしまったりすると、被害者から責任追及を受けることもあります。
このとき、被害者から会社に対しても、慰謝料をはじめ損害賠償の請求をされてしまいます。
請求の根拠は、「使用者責任」、「安全配慮義務違反」の2つです。

使用者責任は、「事業の執行について第三者に加えた損害」は、直接の加害者と連帯して会社も責任を負うという定めです(民法715条)。
加えて、会社は、社員を安全な環境で就労させる義務(安全配慮義務・職場環境配慮義務)を負っており、暴力沙汰による被害を受けてしまったとき、この義務違反の責任もあわせて追及されます。
また、他の社員からの暴力が業務上の災害であるときは、労災認定を受けられます。

なお、いずれも、予見できない突発的な暴力や、労務管理を徹底しても防げなかった被害については責任を認めない例もあります。
日常的にチェックし、暴力・暴言の気配を感じたらすみやかに対処するのが大切です。

職場外での暴力・暴言も解雇や処分の対象となりうる

職場の外で行われた暴力・暴言もまた、解雇や懲戒処分の対象となることがあります。
事業場外だったとしても、社員間で行われた暴力・暴言は、パワハラにあたるからです。
このとき、職場内で行われたのと同様に、その動機や理由、程度、回数、影響度合いなどを考慮し、処分を決めます。

これに対して、職場外で、社員以外の第三者に対してされた暴力などは、犯罪になる可能性はあるものの、会社内で問題視してよいかどうかは、ケースに応じた検討が必要です。
このような暴力・暴言は、それだけで解雇の理由となるわけではないですが、企業の社会的信用が損なわれてしまったなどの悪影響があるときは、社外の事情であっても、解雇を含めた処分の対象となります。

まとめ

今回は、社内で暴力を振るったり、暴言を吐いたりする社員にどう対応したらよいか、特に、クビにする場合、すなわち、解雇へと進めていく場合に、どんな点に注意して進めるべきかについて解説しました。

性急な解雇によってクビにしてしまうと、会社が不利な立場に置かれてしまうこともあります。
会社で暴力・暴言をしてしまう粗暴な問題社員の対応にお困りのとき、ぜひ参考にしてください。

当事務所のサービス

弁護士法人浅野総合法律事務所では、企業の労働問題の解決を得意とし、解雇すべき問題社員への対応について、多数のサポートを行ってきました。

暴力・暴言を理由に解雇しても、「不当解雇」と判断されると、労働審判や訴訟で争われて敗訴した結果、勤務継続を認めなければならなかったり、解雇の解決金、慰謝料など多額の支払いを余儀なくされてしまいます。

暴力・暴言による解雇によくある質問

暴力・暴言を理由に解雇できますか?

暴力・暴言の程度に応じた処分をしなければなりませんが、悪質かつ強度であるときには、解雇を検討することができます。なお、解雇するに足らない程度の暴力・暴言だと、「不当解雇」として無効になるおそれがあります。もっと詳しく知りたい方は「暴力・暴言を理由に解雇できるかの判断基準」をご覧ください。

暴力・暴言を理由に解雇するとき注意すべき点はありますか?

暴力・暴言を理由に解雇するときの注意点は、事前調査によって客観的な証拠を確保することです。暴力・暴言を社内でする社員は、反抗的な態度で、強く反論してくることも。録音をとるなどの方法で、事前準備をしましょう。詳しくは「暴力・暴言を理由にクビにする方法と、解雇までの進め方」をご覧ください。

目次(クリックで移動)
閉じる