- 東京都渋谷区
- IT系会社
- 社員数30名
中途採用した社員を、能力不足を理由に解雇したら、弁護士から内容証明が送られてきました。業務が多忙で放置していたら労働審判となり、社労士に相談したところ弁護士を紹介いただきました。
最初は優秀そうな印象だったので採用したのですが、文句ばかり多く自分のやり方を貫こうとするため他の社員とぶつかることが多く、これ以上放置できずに解雇することとなりました。
月額賃金1ヶ月分の解決金と有給買取で、和解に成功
まとめ 労働審判への会社側の対応と、解決までの流れを弁護士が解説
相談に至った経緯
今年の初め、人手不足を理由にXを採用しました。Xは当初、非常に優秀そうな感じで、受け答えもはっきりしていたため、即戦力で活躍することを期待して採用しました。自分で考えて率先して行動できる良い人材を採用でき、将来の幹部候補とも考えていました。
しかし、優秀な人材を逃したくないと考えて採用を焦ったことが裏目に出ました。Xは、試用期間を経過すると途端に上司の指示を聞かなくなり、社長の忠告にも耳を貸さなくなりました。自分の経験からくる独自の方法で新規開拓を進め、会社の監督は意味をなさなくなりました。
このようなXのやり方は他の社員の反感を書い、誰もXと一緒に仕事をしたがらなくなりました。孤立したXの問題点はますます加速しました。客先を訪問するたびに当社の経営方針への批判や、いかに多忙で低賃金であるか等の不平不満をいって当社の評判を落としていることが、顧客からの指摘によって判明しました。
Xを呼び出してきつく注意しましたが、「全く悪いことだとは思っていない」と発言した上、社長に対しても、当社の問題点を指摘するようになりました。これ以上雇用し続けても改善は困難であり、早く辞めてもらったほうがX自身のためにもなると考え、解雇を言渡したところ、冒頭のとおり労働審判に発展しました。
弁護士による対応と解決
労働審判の事前準備
不当解雇の労働審判についての相談を受けた時、弁護士は次の人物にヒアリングを行います。
- 社長
- 人事部長
- Xに注意指導を行った直属の上司
ヒアリングの内容は主に、Xの問題点についてです。ヒアリングの結果、解雇権濫用法理の観点からしても、Xの業務態度には大きな問題があると判断しました。
ただし、問題点のある社員だとしてもすぐに解雇することは許されず、解雇のプロセスを踏まなければなりません。問題点を改善する機会を与えなければならないからです。適切なプロセスを踏まずに行われた解雇は今回のように不当解雇だと主張される可能性があり、労働審判においても裁判所から厳しい指摘を受けることが予想されます。
労働審判の際に、裁判所にXの問題点を理解してもらえるよう、会社内で、「Xと一緒に仕事をしたくない」と言っている社員に対し、どのような点が仕事をしたくないと考える原因なのかについて証言を収集してもらうようアドバイスをしました。あわせて、弁護士は答弁書の作成に着手しました。
労働審判における対応
今回のケースでは、注意指導をしたことが客観的な証拠にあまり残っていないことが問題となるおそれがありました。しかし一方で、「Xと一緒に仕事をしたくない」と言っている社員は多く存在し、どの証言も共通してXの自分本位な正確を上げていました。
直属の上司が、社長に対してXの問題点を逐一メールで報告していたため、これらを証拠として労働審判の場に提出することとしました。また、会社の不平不満を外に漏らしていたことについて、懇意にしていた取引先が証言に応じてくれることとなりました。
労働審判では、予想していたとおり、「注意指導が十分でないのではないか」、「解雇のプロセスを踏んでいないのではないか」との指摘がありましたが、当初予想できていた指摘だったため、準備していた想定問答のとおり社長によどみなく回答してもらいました。あわせて、会社側からは、粘り強くXの問題点を説明し続けました。
裁判所もまた、Xに問題があったことについて一定の理解を示してくれました。
和解による解決
労働審判の第1回期日では、裁判官から、解雇自体は有効である可能性が高く、その理由はXの問題点が大きいことにあるとの心証が開示されました。ただし、会社にも至らない点があったことから、一定の金銭を支払うことによる和解を検討するよう示唆されました。
弁護士のこれまでの経験からすれば、解決金は3ヶ月以内にとどまるケースであるように思えたため、第1回期日では月額賃金1ヶ月分の解決金を提案しましたが、合意には至らず持ち帰りとなりました。
その後、第2回期日で、月額賃金1ヶ月分に加えて、未消化の有給休暇について買取を行うという案で、金銭和解が成立し、解決しました。
↓↓ 解説動画(約10分) ↓↓
弁護士のアドバイス
今回は、問題社員を性急に解雇してしまったことで起こった労働審判についての解決事例を紹介しました。
明らかに問題社員だったとしても、解雇を急ぐあまりにプロセスを踏めていないと、労働審判を申し立てられる等のトラブルに発展するおそれがあります。社員の問題性が明らかだからこそ、解雇は、証拠を残しながら丁寧に進めなければなりません。
今回のケースでは、幸いにして多少の証拠が残っていたこと、Xもまた不用意に自身の問題性について証拠の残る行為をしていたことといった点が会社に有利に働き、裁判所にXの問題点をわかってもらいやすいという状況がありました。この点で、Xがより悪質に自身の問題性を陰湿に隠し通していたとき、より不利な解決となっていたおそれがあります。
労働審判の結果、会社側にとって有利な金銭解決を実現することに成功しましたが、実際には、解雇前から弁護士に相談いただいていれば、より低額な金銭解決もあり得たと考えられます。
↓↓ 解説動画(約10分) ↓↓