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弁護士 浅野英之
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所を経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を開業。
企業の労働問題について、豊富な経験を有する。

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在宅勤務手当(テレワーク手当)の相場はいくら?事例も踏まえて解説

在宅勤務(テレワーク)を導入すると、在宅勤務手当(テレワーク手当)を支給する企業も多いです。

働き方改革やコロナ禍の影響で、近年、在宅勤務(テレワーク)をはじめリモートワークが普及。
在宅勤務(テレワーク)だと、社員が自宅で仕事することが多くなるため、自宅の光熱費、インターネット回線の使用料などの生活費の増加が、社員自身の負担となってしまいます。

そのため、自宅用と併用して、社員が負担するこれらの費用について、その一部でも会社が負担する義務があるのか、費用負担するとき、どのような割合で算出すべきかなどが、企業の経営課題となります。
社員に気持ちよく仕事してもらうために、仕事環境を整備する努力は、企業側でしなければなりません。

今回は、在宅勤務手当(テレワーク手当)の必要性と相場などについて、事例も踏まえ、企業の労働問題に詳しい弁護士が解説します。
なお、あわせて、在宅勤務(テレワーク)導入とあわせて廃止が検討される通勤手当の扱いもご紹介します。

この解説でわかること
  • 在宅勤務手当(テレワーク手当)の導入、リモートワーク時の社員の不満解消に有効
  • 在宅勤務手当(テレワーク手当)の税金・社会保険料・残業代を計算するときの扱いに注意
  • 在宅勤務手当(テレワーク手当)の相場は3000円〜5000円、社員の負担増にあわせて算定する

↓↓ 動画解説(約11分) ↓↓

目次(クリックで移動)

解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所を経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を開業。
企業の労働問題に豊富な経験を有する。

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在宅勤務手当(テレワーク手当)とは

在宅勤務手当(テレワーク手当)とは、会社が、在宅勤務(テレワーク)する社員に対して、基本給とは別の手当として支給する給与のことです。
在宅勤務(テレワーク)を企業内に普及、定着させることを目的に創設されるケースの多い給与費目です。

まず、在宅勤務手当(テレワーク手当)の導入を検討する企業に向けて、導入されてきた時代的な背景や理由と、その必要性について解説します。

在宅勤務手当(テレワーク手当)導入の背景

働き方改革で、多様な働き方が推奨されています。
柔軟な働き方を設計するなかで、育児・介護の必要があってリモートワークを余儀なくされた人材の活用といった目的から、在宅勤務(テレワーク)をはじめとした、オフィスに出社しない働き方が浸透しはじめました。

在宅勤務(テレワーク)は、社員にとって通勤時間がなくなりワークライフバランスがとりやすいといったメリットがある反面、自宅で労働することとなるため、次のような費用の負担が生じます。

  • 電気代や光熱費の負担増加
  • 電話代、インターネット回線代など通信費の負担増加
  • パソコン、スマートフォンなどモバイル端末の購入費
  • セキュリティソフトの購入費
  • テレビ会議用のカメラ、マイクなどの購入費
  • 作業用のデスク、オフィスチェアの購入費
  • 書斎を確保するための賃料

単にプライベートで使うだけでなく、業務用途とするなら、PCやカメラ、マイクなどはある程度以上のスペックが要求されるでしょうし、通信回線も遅くては困ります。
情報漏えいのリスクを考えれば、セキュリティソフトも必須です。

以上のような、社員の負担増につながる費目は、完全に業務用のものともいいきれず、自宅でプライベート用途で使うものと併用されている状態が多いです。
そのため、社員個人のプライベート利用と、業務利用の割合を厳密に分けづらい状況のこともあります。

オフィスで働けば、電気代やインターネット回線代などは当然に会社負担な一方で、自宅でリモートワークしたら増額する費用について会社が一切負担してくれないとすれば、不公平感がとても強くなります。
会社が在宅勤務(テレワーク)を命じた結果、生活費がかさんでしまえば、社員の不平不満を生むのは当然。

したがって、この費用負担のジレンマを解消するため、在宅勤務(テレワーク)したことによる負担の増加にあわせた相当の金銭を、手当として支払うのが、在宅勤務手当(テレワーク手当)が導入した背景理由となっています。

在宅勤務手当(テレワーク手当)を支払う義務はない

在宅勤務手当(テレワーク手当)を払う企業が増え、導入事例を目にする機会が増えるにつれ、会社経営者や人事担当者から「在宅勤務手当(テレワーク手当)は必ず払わなければならないのか」、「自宅で業務をさせるときは、費用負担が必要なのか」といったご相談事例が増えました。

しかし、在宅勤務手当(テレワーク手当)は、あくまでも、上記解説のようなジレンマないし不公平感を解消するために導入された背景があるだけです。
その支払いは、決して、労働基準法をはじめとした法律で義務付けられているわけではありません。
この点で、法律上、支払いが義務付けられる基本給(最低賃金)や残業代(割増賃金)とは性質が異なります。

労働した分の対価である賃金は、会社が労働者に払う義務がありますが、労働をする「準備」としての環境整備や通勤費などは、法律的にいえば労働者が負担するのが基本となっています。

そのため、「在宅勤務手当(テレワーク手当)は払わない」という会社があっても、全く違法ではありません。

ただし、在宅勤務手当(テレワーク手当)を払わず、実費清算などもしないと、在宅勤務(テレワーク)で生じる負担増について、社員に費用負担を強いることを意味します。

在宅勤務(テレワーク)にともなう費用負担があるときは、就業規則に定めるほか、入社時に説明するなどして周知し、理解を求なければなりません。
業務上発生する費用を社員負担とするときは、就業規則に定める必要があると、労働基準法に決められているからです。

また、会社が手当を払わず、費用負担をしてくれないことにより、「仕事なのにむしろお金を払わなければならないのか」と企業の評判が下がったり、優秀な人材が逃げてしまったりするリスクはあります。

在宅勤務手当(テレワーク手当)を支給するメリット

在宅勤務手当(テレワーク手当)の支給には、会社にとっても多くのメリットがあります。

給与が増えるわけで、社員の利益につながるというのは当然ですが、企業側のためにも、在宅勤務手当(テレワーク手当)を導入することを積極的に検討してください。

在宅勤務手当(テレワーク手当)を支給するメリット
在宅勤務手当(テレワーク手当)を支給するメリット

多様な働き方を推奨できる

働き方改革によって、多様な働き方が推奨されていますが、その実現のためには、さまざまな働き方を受け入れる、企業側の柔軟性も不可欠です。

そのために、働き方の違いによる不平不満をためないよう、在宅勤務手当(テレワーク手当)の活用が役立ちます。
オフィスで働くのと、在宅で働くのと、公平性のあるような制度としておけば、社員の選択肢を広げることができます。

働き方改革の実現は、企業の社会的評価を上昇させることにもつながります。

優秀な人材を確保できる

人手不足に悩む企業などでは、リモートワークを認めることで、育児・介護が必要でオフィスへの出社が困難な人材、地方在住の人材など、他の企業では活用されていないなかから優秀な人材を発掘できます。

そして、そのような活躍しづらい環境に置かれてしまっている人材にとっても最適な働き方を提供し続けられれば、離職率が下がり、社員の定着率を上げることができます。

企業の経費削減につながる

企業が、通勤手当や交通費実費などを支給しているとき、リモートワークとし、在宅勤務手当(テレワーク手当)に切り替えれば、その分だけ、企業の経費削減につなげることができます。
例えば、社員1人につき毎月1万円を支給していたときには、1年で12万円の経費を減らせるわけです。

また、オフィスに出てくる社員が少なければ、オフィスの光熱費や通信費が減りますし、究極的には、広いオフィスが不要となり、オフィス賃料を下げることもできます。
この分の浮いたお金を原資として、在宅勤務手当(テレワーク手当)を捻出するのです。

社員の満足度を上げられる

在宅勤務手当(テレワーク手当)を支給すれば、社員の満足度を上げることができます。
社員の満足度が上がれば、仕事に熱心になり、自宅での作業がはかどるなど、業務効率を上げ、生産性を向上させることができます。

「働きやすい会社だ」と、企業の魅力もあがり、社員の忠誠心、愛社精神ないし帰属意識を高める効果も。

在宅勤務(テレワーク)をはじめとしたリモートワークでは、私生活の場と仕事場が同じになってしまうことから、社員のモチベーションが低下したり、だらけて業務効率が下がってしまったりといった危険もあります。
この点からして、在宅勤務手当(テレワーク手当)によって社員を鼓舞することには、企業側のメリットが大きいといえます。

在宅勤務手当(テレワーク手当)の導入方法

次に、在宅勤務手当(テレワーク手当)を導入するとき、企業側がどのように進めていけばよいのか、その導入方法について解説します。
適当にスタートしてしまうのではなく、制度設計の段階から、入念に検討してください。

在宅勤務手当(テレワーク手当)の導入方法
在宅勤務手当(テレワーク手当)の導入方法

手当を変更したり、新設したりすることは、給与や残業代(割増賃金)にも関わる重大問題です。
導入方法を誤ると、結果的に、社員の不満を解消できなかったり、最悪のケースでは、社員から追加の請求を受けてしまったりする危険もあるため、慎重に進めなければなりません。

手当の金額、支払方法を決める

まず、在宅勤務手当(テレワーク手当)の金額と、支払方法を決めます。
よくある導入事例には、次のようなケースがあります。

  • 月額の手当として、一定の金額を現金支給する
  • 日額を決め、在宅勤務(テレワーク)した日数に応じた手当を現金支給する
  • 実際にかかった光熱費、通信費の一定割合を、実費清算する

自宅で働いた日数が増えるほど、社員の生活費負担は増えると考えられますから、日額で決めたり、実費清算としたりする決め方は、柔軟に調整できるという利点があります。
一方で、このような決め方は計算が複雑になったり、管理コストが増えてしまったりするため、はじめから概算額を月額で払うと決める例もあります。

事後に実費清算する方法にするときは、清算のしかた、必要資料や申請書などのフローを整備しなければなりません。

在宅勤務手当(テレワーク手当)に関連して、リモートワークに要する機材の負担が問題となります。
例えば、パソコンやスマートフォン、ルーター、セキュリティソフト、カメラ、マイクなどです。

これらは、会社が現物を貸与する方法がおすすめです。
社員個人が所有するPCなどを利用する方法を「BYOD(Bring Your Own Device」といいますが、その場合、購入費の一部を補助する例もあります。
在宅勤務手当(テレワーク手当)についてどのように定めるにせよ、必要な機材、物品などは会社で用意しなければなりません。

就業規則・賃金規程にルールを定める

在宅勤務手当(テレワーク手当)を支給するときは、明確なルールを定めなければなりません。
手当の支払いについて不明確だったり、手当を創設したものの社員が知らなかったりすると、せっかく手当を導入するメリットが薄れてしまいます。

すべての社員(もしくは、リモートワークする一部の社員)に、一律に適用される給与のルールを決めるときは、就業規則ないし賃金規程に定める必要があります。

在宅勤務手当(テレワーク手当)について、規則の記載例(条項例)のサンプルを挙げておくので参考にしてみてください。

第○条(在宅勤務手当)

在宅勤務者の自宅の光熱費、通信費等の増加分を負担するため、在宅勤務手当として月XXXX円を支給する。

常時10人以上の社員を使用する事業所では、就業規則を作成し、労基署に届け出る義務があります。
そして、就業規則には、必ず記載すべき「絶対的記載事項」と、制度を導入するなら記載すべき「相対的記載事項」があるところ、賃金については絶対的記載事項、退職金、賞与については相対的記載事項とされています。

手当は賃金に含まれますから、その支払金、支払方法、支払期限などは、就業規則に定めておかなければなりません。
就業規則・賃金規程の特則として、在宅勤務規程、テレワーク規程を作り、より詳しく定める例もあります。

就業規則の作成、変更には、その他に、労働者の過半数代表の意見聴取など、必要な手続きを要します。
詳しくは、下記のフローチャートを参考にしてください。

経済産業省「テレワークに関する社内ルール作り」

社員に説明し、周知する

就業規則・賃金規程は、会社と社員の約束ごとなので、その一方当事者である社員にもきちんと知らせ、理解してもらっておく必要があります。
そのため、就業規則は、単に作るだけでなく、社員に周知すべき義務が定められています(労働基準法106条)。

就業規則の周知は、事業所の見やすい場所に掲示したり、書面で交付したり、データで保存し、いつでも社員がアクセス、閲覧できるようにしておくといった方法が適切です。

在宅勤務手当(テレワーク手当)を就業規則・賃金規程に定めたときにも、社員に説明し、周知しなければなりません。
手当をはじめに新設した際には、社内説明会を開催するなどして全社的に知らせるのがおすすめです。

在宅勤務手当(テレワーク手当)の相場はいくら?

在宅勤務手当(テレワーク手当)の相場
在宅勤務手当(テレワーク手当)の相場

在宅勤務手当(テレワーク手当)の相場は、月額3000円〜5000円程度が目安となります。
在宅と出社をあわせた勤務スタイルの場合、日額100〜150円程度が相場で、日数に応じて支給します。

前述した在宅勤務手当(テレワーク手当)の趣旨から考えれば、在宅勤務(テレワーク)を行うことによって社員の生活支出が上がることを補うために支給しているわけですから、それに見合った金額に近づくよう、検討しなければなりません。

一方で、あまりに在宅勤務手当(テレワーク手当)が高すぎると、リモートでは働けない仕事(例えば、店舗スタッフや持ち出せない機密情報を扱う業種)をしている社員が、逆に、不公平感を感じてしまいます。
また、高すぎる手当を与えることは、残業代を増額させてしまい、リモートでの無意味な残業が増えてしまうおそれもあります。

そのため、細かく検討するときには、実際に社員が自宅で働くときに、どれほど光熱費や通信費が増える可能性があるかどうか、自社の業務内容は働き方にあわせて算定するのがおすすめです。

在宅勤務手当(テレワーク手当)の給与計算上の扱い

在宅勤務手当(テレワーク手当)は、その他の手当と同じく給与の一種にすぎませんが、最近になって導入事例が増えてきた費目でもあるため、新たに導入する企業では「給与計算上どのように扱ったらよいのか」といった悩みもあることでしょう。

そこで次に、在宅勤務手当(テレワーク手当)の給与計算上の扱いについて、3つのポイントで解説します。

手当に関する相談先
手当に関する相談先

課税対象となるか

まず、在宅勤務手当(テレワーク手当)が課税対象なのか、それとも非課税なのかという税務上の問題。
この点は、手当の支払方法によっても、判断が異なります。

在宅勤務手当(テレワーク手当)を、1ヶ月ごと定額で払う場合、課税対象となるのが原則です。
これに対して、かかった実費相当額を払うといった方法や、在宅勤務(テレワーク)に必要な機材を貸与するといった方法なら、課税対象とはなりません。

このことは国税庁の見解でも、次のように解釈されています。

在宅勤務に通常必要な費用について、その費用の実費相当額を精算する方法により、企業が従業員に対して支給する一定の金銭については、従業員に対する給与として課税する必要はありません。

なお、企業が従業員に在宅勤務手当(従業員が在宅勤務に通常必要な費用として使用しなかった場合でも、その金銭を企業に返還する必要がないもの(例えば、企業が従業員に対して毎月 5,000 円を渡切りで支給するもの))を支給した場合は、従業員に対する給与として課税する必要があります。

国税庁「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」

なお、税務上の問題について、各社の状況を理解している顧問税理士に相談して進めるのがおすすめです。

社会保険料の基礎となるか

次に、社会保険料についての問題もあります。
在宅勤務手当(テレワーク手当)も給与ですから、労災保険料、雇用保険料の計算では、賃金総額に含まれます。

このことは、年度更新時に問題となるほか、在宅勤務手当(テレワーク手当)の導入によって賃金体系が大幅に変更されるときには、随時改定が必要となることもあります。

なお、社会保険料に関する問題は、顧問社労士に相談するのがおすすめです。

残業代(割増賃金)の基礎となるか

在宅勤務手当(テレワーク手当)は、労務の対価として払われるものですから、労働基準法で定める「賃金」(労働基準法11条)にあたります。
一定の労働の対価として払われている「賃金」については、残業代(割増賃金)を計算する際にも、基礎賃金に含まれることとなります。

労働基準法では、残業代(割増賃金)の計算方法で、通勤手当、住宅手当、家族手当など、労働時間とは連動しないと考えられる一定の金銭については「除外賃金」と定めています。
除外賃金となる場合には、残業代(割増賃金)の基礎から除外することが認められています。

しかし、在宅勤務手当(テレワーク手当)はこの除外賃金には含まれていませんから、残業代(割増賃金)の単価計算をするとき、含めて算出する必要があるのです。
そのため、新たに在宅勤務手当(テレワーク手当)を導入したとき、同じ時間だけ残業していたとしてお、これまでより残業代(割増賃金)が高くなります。

在宅勤務(テレワーク)だと「労働時間」の考え方に争いが生じることも。
テレワークの労務管理と長時間労働の問題について、次の解説もご覧ください。

↓↓ 動画解説(約9分) ↓↓

在宅勤務手当(テレワーク手当)を導入するときの注意点

最後に、在宅勤務手当(テレワーク手当)を導入するとき、会社側で気をつけておきたい注意点を解説します。

万が一にも、労働者側からの労働審判、訴訟といった紛争トラブルを起こされないよう、よく理解してください。

通勤手当の廃止は不利益変更だが、許されるケースが多い

在宅勤務(テレワーク)が浸透すると、逆に、オフィスに通勤する回数が減ることも。
それにともなって、通勤手当を廃止したり、減額したりする会社もあります。

しかし、従来支給していた通勤手当を減らしたり、なくしたりすることは、労働条件の不利益変更です。
そのため、労働契約法8条、9条に基づき、社員の個別の同意を得ておくのが、最もリスク低く進める方法です。

労働契約法8条(労働契約の内容の変更)

労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。

労働契約法9条(就業規則による労働契約の内容の変更)

使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。

労働契約法(e-Gov法令検索)

どうしても反対する社員がいるとか、企業規模が大きいなど、全社員の同意を得られない事情があるときは、就業規則・賃金規程を変更して通勤手当を変更するとき、その変更に「社会通念上の合理性」がなければ、違法となってしまいます(労働契約法10条)。

労働契約法10条

使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

労働契約法(e-Gov法令検索)

ただし、一定のリスクはあるものの、「在宅勤務(テレワーク)によって通勤が減った(もしくは、なくなった)」という事情のあるケースでは、その割合に応じた通勤手当を減らすにとどめておけば、社員の実質的な損失はありませんから、変更の合理性は認められる可能性が高いです。
また、減った通勤手当に相当する分の在宅勤務手当(テレワーク手当)を支払うのであれば、なおさら合理性は認められやすくなります。

そのため、就業規則を変更して通勤手当を廃止するときには、個別の同意を得る努力をするのが最善ですが、そうでなくても、通勤手当をいくら減額するのかきちんと計算し、社員へ十分説明して理解を求めるようにしてください。

詳細な勤怠管理が必要になる

在宅勤務手当(テレワーク手当)の導入や、通勤手当の廃止を考えるとき、社員によって出社日数(ないし在宅勤務日数)に差があったり、その出社日数に応じた手当の金額が異なっていたりすると、これまでにも増して詳細な勤怠管理が必要となります。

これまで、通勤手当の支払いを「定期代実費」としてきたケースでは、それほど複雑ではありませんでした。
しかし、在宅勤務手当(テレワーク手当)を在宅勤務の日数に応じて変動させたり、「○日以上出社したら通勤手当を払う、○日以下なら在宅勤務手当(テレワーク手当)を払う」というように日数を支払い要件にしていると、計算が複雑化します。このとき、出社日と在宅日のどちらもある社員は、それぞれ分けて勤怠管理をする必要も生じます。

一律の手当とすれば複雑さは解消できるものの、代わりに、在宅勤務(テレワーク)ができるかどうかや、認められる日数などによって社員のなかで不公平感が生じてしまうことは否めません。

タイムカードの打刻やエクセル、手計算などで勤怠管理をしていた企業は、在宅勤務(テレワーク)の導入を機に、クラウド型の出退勤管理システムを導入することも検討すべきです。
GPSによる労務管理のポイントは、次の解説もご覧ください。

まとめ

今回は、在宅勤務(テレワーク)をはじめとしたリモートワークが進むにつれて導入事例が増えている、在宅勤務手当(テレワーク手当)について、導入方法や相場、注意点を解説しました。

在宅勤務(テレワーク)を活用して、多様な働き方を推進する企業となるために、ぜひ導入を検討してください。

在宅勤務手当(テレワーク手当)をはじめとした手厚い保障は、大企業を中心に導入が進んでいますが、一方で、人手不足で悩む中小企業、スタートアップ・ベンチャー企業ほど、メリットを活かすことができます。

当事務所のサポート

弁護士法人浅野総合法律事務所では、企業の労働問題を得意として、顧問弁護士として多数の企業のサポートを行っています。

在宅勤務手当(テレワーク手当)を導入しようとするとき、就業規則の変更や事前の検討など、法律問題への配慮が必要となります。
そのなかには、残業代請求など、後に労働問題となるリスクへの留意も含まれ、弁護士のサポートが有益です。

在宅勤務手当(テレワーク手当)のよくある質問

在宅勤務手当(テレワーク手当)をどう活用するのがよいですか?

在宅勤務手当(テレワーク手当)は、在宅勤務(テレワーク)をはじめとしたリモートワークを導入する会社が、対象となる社員の負担軽減や、対象となる社員とそうでない社員の不公平感解消のために活用することができます。詳しくは「在宅勤務手当(テレワーク手当)を支給するメリット」をご覧ください。

在宅勤務手当(テレワーク手当)の相場はいくらですか?

在宅勤務手当の相場は、月額で、金銭にて支給する場合には、3000円〜5000円が相場ですが、1万円など高額な導入事例もあります。メリットを存分に活かすためには、自宅で働くことにより要する費用増加を見越して、それに相応する金額を算出します。詳しくは「在宅勤務手当(テレワーク手当)の相場はいくら?」をご覧ください。

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