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弁護士 浅野英之
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所を経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を開業。
企業の労働問題について、豊富な経験を有する。

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GPSで社員の位置情報を取得することは違法なプライバシー侵害か

「外回りの営業職が目の届かないところでサボっていないか調べたい」、「リモートワークの勤怠管理を楽にしたい」といった理由で、GPSによる労務管理を導入する会社が増えています。

アプリ等を活用し、GPSにより位置情報を取得するという労務管理は、会社外ではたらく社員には有効であり、正当な目的と妥当な態様で運用するかぎりは適法です。しかし、「プライバシー侵害だ」という社員の反発を受けやすく、慎重に進めなければなりません。プライバシーや個人情報に関する正しい理解のもと、社員としっかり話し合いしながら導入を進めるようにしてください。

本解説では、GPSによる労務管理を活用したいと考えている企業の方に向けて、次の法律知識を提供しています。

この解説でわかること
  • GPSによる労務管理は、時間・目的・態様を正しく守らなければ違法になるおそれがある
  • GPSによる労務管理は、法違反のリスクのほか、社員の反発、業務効率の低下といった危険がある
  • GPSによる労務管理を導入する際のポイント
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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所を経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を開業。
企業の労働問題に豊富な経験を有する。

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GPSによる社員の位置情報の取得を、適法に行う方法

冒頭で解説したとおり、GPSによって社員の位置情報を取得すると説明したとき、社員から猛烈な反発を食らうことがあります。「監視されているようだ」、「信頼されていないように感じる」という社員側の考えもよく理解できます。そのため、違法なプライバシー侵害なのではないかと指摘されることもありますが、原則として、業務命令として適法に行うことができます。

ただし、GPSによる社員の位置情報取得を適法に行うためには、時間、目的、態様という3つの観点から、次の条件を満たす必要があります。

  • 業務時間内に限定すること
  • 労務管理を目的とすること
  • プライバシー侵害の態様でないこと

つまり、業務時間中に、労務管理を目的として、プライバシー侵害にならないよう配慮しながら行うのであれば、GPSによって社員の位置情報を取得することは適法です。

GPSによる社員の位置情報の取得を、適法に行う方法
GPSによる社員の位置情報の取得を、適法に行う方法

以下では、各要件について順に解説します。

業務時間内に限定すること

社員は、業務時間中は、会社の業務に専念する義務があります(職務専念義務)。

そのため、職務専念義務を果たさせることを目的として、会社が社員に対して位置を把握しておくことは違法ではありません。そして、位置の把握のために、逐一電話をしたり、移動したら連絡するよう指示したりするといった古典的な方法もありますが、GPSによって行うほうが便利であり、業務時間中であれば適法です。

逆に、業務時間外にまでGPSで位置情報を取得してしまうと、違法となるおそれがあるため注意が必要です。社員の車にGPSを取り付けたり、スマートフォンを利用してGPSの位置情報をとるとき、これが完全に業務時間内に限られるようにするためには次のような特別の配慮を要します。

  • GPSを、社用車にとりつける(社用車の私用は認めない)
  • GPSを社員所有の車にとりつけるときは、退社時に取り外す
  • 業務用携帯を貸与し、業務時間外は電源をOFFにすることを認める
  • 個人携帯のGPS情報を取得するときは、業務時間外は必ずアプリを終了させる

違法なプライバシー侵害ではないかと反発してくる社員にも、上記のような対策を講じていることを説明し、不必要な情報は取得しないと説得することで、理解を求めることができます。

社用車を運転中や、業務用携帯を使用中は、業務時間中であると考えることができ、GPSをつけることには何ら問題はありません。

むしろ、GPSで位置情報を取得した結果、業務時間中に社用車でパチンコやサウナ等に行った事実が発覚すれば、職務専念義務違反であり、注意指導や懲戒処分の対象となります。

労務管理を目的とすること

会社が社員の位置情報を取得し、管理するとき、適法に行うためには、その目的が適切なものである必要があります。つまり、業務命令として行う以上、会社の業務を目的とするものでなければなりません。そのため、労務管理を目的とするのであれば、GPSの位置情報を取得することが許されます。

その他、位置情報を取得することが可能となる正当な目的には、次のようなものがあります。

  • 社用車の不正利用を防止する
  • 職務専念義務違反(いわゆるサボり)を防止する
  • 営業先を把握する
  • 業務効率を向上させる
  • 緊急時の居場所を把握する

これに対して、社員に対する嫌がらせ、いじめ等、ハラスメントを目的とするときは、たとえ業務時間中であっても許されません。

  • 嫌がらせ目的、ハラスメント目的
  • 不当な注意指導を加える目的
  • 不当な評価の根拠とする目的
  • プライバシーに立ち入り、セクハラする目的

プライバシー侵害の態様でないこと

GPSによる位置情報の取得が、労務管理を目的としている時でも、その態様が、目的に適した範囲である必要があります。つまり、目的に即した相当な範囲で行わなければ、違法となるおそれがあるということです。

労務管理を目的としているとしても、その目的に対して過剰に情報を取得した場合には、社員のプライバシーを侵害して違法と評価されるおそれがあります。

例えば、業務時間中、かつ、労務管理を目的としたGPSの位置情報の取得でも、「トイレに入った」等事細かな情報まで取得していたり、GPSの位置情報とともに個人情報を抜き取っていたりといった行為は違法の可能性が高いです。

GPSによる労務管理のリスク

GPSによって社員の位置情報を取得し、これを活用して労務管理することは会社にとって非常に便利です。社員を信用しきれず疑心暗鬼になっていた会社にとって、位置情報を手に取るように把握でき、問題点のし的に役立てることができます。

しかし、GPSによる労務管理には、次のようなリスクがあります。
リスクを無視して、安易な考えでGPSを活用しようとすることは控えなければなりません。

社員の反発を招く

GPSによる労務管理のリスクとして、社員側から次のような意見を聞くことがよくあります。

  • 監視されているようだ
  • 信頼されていないと感じて失望した
  • プライバシー侵害ではないか
  • 奴隷のようで、人権侵害だと感じる

社員を四六時中監視し、GPSの位置情報を参考にして口うるさく注意指導をすれば、反発はより強くなります。

業務時間中であれば、職務専念義務を負っており、このような社員側の反論は「我慢すべきだ」と理屈ではいえますが、感情面の反発は避けがたいでしょう。事前説明をしっかりとすることで、社員の反発によるリスクを解消しておかなければなりません。

モチベーションを低下させる

GPSによる労務管理は、業務効率を上げることを目的としていることが多いですが、社員の自主的な努力に任せる場合に比べてモチベーションが低下し、かえって業務効率が落ちてしまうおそれがあります。

締め付けすぎず、ある程度のサボリの「余白」として容認しながら、社員の自主性に委ねるほうが、結果的に業務効率が上がり、業績が向上するケースもあります。

みなし労働時間制が無効となる

営業職など、オフィスの外で業務を行い、労働時間を算定し難い社員には、「事業場外労働のみなし労働時間制」が適用されているケースがあります。この特殊な労働時間制では、労働時間が算定し難いため、実際の労働時間にかかわらず、一定のみなし時間だけ労働したことと扱うことができます。

しかし、事業場外労働のみなし労働時間制は、通常、労働時間を実際よりも短く評価し、労働者側にとって不利益となることが多いため、厳しい要件が定められています。そのため、労働時間を容易に把握できるときはこの制度を適用することができないため、GPS情報を取得していると、みなし労働時間制が無効と判断されるおそれがあります。

このリスクを理解しておらず、GPSによって位置情報を把握する一方で、事業場外労働のみなし労働時間制を適用して残業代を支払ってこなかったとき、事後に、高額の未払い残業代の請求を受けるおそれがあります。

労働時間と認定されやすくなる

GPSによって位置情報を取得することが適法なのは、労働者が職務専念義務を負っている業務時間中のみです。このことは、逆にいえば、「GPSによって位置情報を把握されている時間中は、すべて業務時間だ」と社員側から主張されるおそれがあることを意味しています。

残業代請求では、「どの時間が労働時間にあたるか」が問題となることがあり、この際に、純粋な業務時間だけでなく、前後の準備時間、片付け時間、休憩時間、手待ち時間、仮眠時間等も、残業代の対象となる労働時間と評価された裁判例が多くあります。GPSをつけていると、このような労働時間に関する考え方が、労働者有利にはたらくリスクがあります。

GPSによる労務管理のポイント

GPSにより位置情報を取得し、労務管理を活かすことは、業務時間中に正当な目的と方法によって行う限り、適法です。

特に、テレワークの労務管理においては、オフィス外ではたらく社員の労働時間を管理・把握しなければならず、GPSを含めたクラウドの勤怠管理サービスの活用がポイントとなります。

ただし、GPSによる労務管理を導入するときは、単に適法性の問題だけでなく、社員から反発を招かないように進める必要があります。労使トラブルの原因となってしまわないよう、最後に、GPSによる労務管理を導入するときのポイントを解説しておきます。

GPSによる労務管理のポイント
GPSによる労務管理のポイント

目的を説明し、理解を求める

GPSによって社員の位置情報を取得することが適法なケースでも、社員側では「監視されているようだ」と不快に感じる人も多いのはもっともです。

とはいえ、仕事は楽しいことばかりではありませんから、社員が多少の不快感を抱くとしても、正しい目的のもとに合理的な方法なのであれば、甘受して進めていくのが正しい経営判断となるときもあります。このとき、会社がGPSによる労務管理を導入する目的を社員にしっかりと説明し、理解を求める必要があります。

この際、社員側に配慮して、必要な最低限度の情報しか取得しないことを合わせて説明することで、社員の理解を得やすくなります。

細かすぎる注意をしない

外回り営業の帰りに少し寄り道をしたり、トイレ休憩、タバコ休憩をしたりといったことは誰にもあることです。GPSで位置情報を取得していると、つい細かいことが目に付き口うるさく注意してしまいがちですが、控えなければなりません。

誰しもに起こりうるような少しの休憩や寄り道等について口うるさく注意指導をしすぎると、社員からプライバシー侵害だという反論を受けやすくなってしまいます。少しの休憩は、かえって業務効率を上げる場合もあり、厳しく管理しすぎると、逆に能率が落ちてしまうことも少なくありません。

GPSの位置情報を取得する目的は、社員をいじめることにあるわけではありません。あまりに細かいことで「何していたのか」、「もっと早く帰ってこれるはずだ」等と注意指導しないようにしてください。

就業規則に定める

会社全体に適用されるルールは、就業規則等の規程類に定め、社員に周知する必要があります。

就業規則に定めてあらかじめ周知することで、しっかりと社員に説明することができ、理解を求めることができます。営業職等、オフィス外で活動することが常態化している社員に対して、特別の規程を用意する方法も有効です。

GPSによる位置情報の取得は、適法な範囲で行う限り、会社にとってやましいことではなく、後ろめたさを感じたり隠したりする必要はありません。むしろ、隠れて無断でGPSによる位置情報の取得をしていたことが事後に発覚すれば、より大きな反発を招くこととなります。

GPSによる位置情報の取得に関する裁判例

GPSによる位置情報の取得に関する裁判例
GPSによる位置情報の取得に関する裁判例

GPSによって社員の位置情報を把握していたことが問題視された裁判例に、東起業事件(東京地裁平成24年5月31日判決)があります。

本裁判例では、元支店長が、在職中に請負代金の水増し請求という不正行為をしたことが発覚し、会社が、水増し請求を証明する目的でGPSの位置情報を確認した行為が違法となるかどうかについて争われました。

本裁判例では、社員の不正行為が真実であっても、業務時間外の位置情報の把握は許されないと判断し、10万円の慰謝料が命じられました。特に、早朝、深夜、休日等の位置情報が、GPSによって確認されたことが問題視されました。

なお、会社側は、元支店長の宿泊費の不正を調査するため、早朝、深夜、休日等の所在を確認する必要があると反論しましたが、裁判所は、まずはGPSによる位置情報の確認の前に本人に事情聴取をすべきであることを指摘しました。この裁判例からもわかるとおり、業務時間外のGPSによる位置情報の取得は、違法であると評価されやすい傾向にあります。

まとめ

今回は、社員の位置情報を、GPSによって取得し、管理・把握するという労務管理手段について解説しました。

社員の位置情報を取得することで、業務に集中しない問題社員に注意指導したり、残業代請求への対抗手段を講じたりすることができます。しかし、社員から「監視されているようだ」と反発を招いて、むしろ業務効率を低下させるおそれもあります。GPSを利用した労務管理は、正しい方法で導入しなければデメリットも大きいといえます。

当事務所の労務管理サポート

弁護士法人浅野総合法律事務所では、企業の労働問題解決を得意とし、労務管理に注力してサポートを提供しています。

GPSによる労務管理は、会社にとって便利な反面、行き過ぎると社員から不平不満が出たり、プライバシー侵害等の違法の問題となるおそれがあります。未払残業代が発生する法的リスクもあります。GPSを利用した労務管理を検討するときは、適切な手段で進めるため、企業の労働問題に詳しい弁護士のアドバイスをお聞きください。

GPSによる労務管理のよくある質問

GPSで社員の位置情報を取得することは違法ですか?

GPSで社員の位置情報を把握しただけで必ず違法になるわけではありません。GPSを労務管理に利用する例はよくあります。ただし、時間・目的・態様の3点に注意しなければ違法となるおそれがあります。もっと詳しく知りたい方は「GPSによる社員の位置情報の取得を適法に行う方法」をご覧ください。

GPSによる労務管理をうまく進めるポイントは?

GPSによる労務管理のリスクとして、社員の不平不満、業務効率の低下だけでなく、法的に、未払残業代が生じてしまう等の深刻な危険もはらんでいます。事前に説明をし、行きすぎない労務管理とする等、ポイントをより詳しく知りたい方は「GPSによる労務管理のポイント」をご覧ください。

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