今回は、労働審判の第1回期日の決まり方と、会社側の視点から期日を変更する方法について解説します。
労働審判では、第1回期日にしか事実認定が行われないことが多く、初回の期日が決定的に重要です。労働審判の期日が直近に迫っているとき、大至急準備するため是非弁護士のアドバイスをお聞きください。
- 裁判所から労働審判の通知を受けましたが、期日が直近に迫っています。
十分な準備をするため、労働審判の第1回期日を変更できますか? -
労働審判を申し立てられたことが会社側に伝わるころには、第1回期日は既に指定されています。そのため、労働審判の第1回期日は、会社の都合を加味した調整とはなっていません。
労働審判は、労働者保護のため早期解決を目指すもののため、相当直近の期日が指定されてしまい、会社の準備が間にあわないことがあります。このとき、労働審判委員の指定前等、できるだけ早いタイミングで申し出れば、裁判所が期日の変更に応じてくれることも少なくありません。
まとめ 労働審判の会社側の対応を弁護士に依頼するメリットと、手続き・解決の流れ
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労働審判の期日の決定方法
初めに、労働審判の期日に関する基本的な知識として、労働審判の期日の決定方法について解説します。
申立てと、期日指定
労働者側から労働審判が申し立てられると、原則として40日以内に、第1回期日が裁判所より指定されます(労働審判規則13条)。
なお、「特別な事由」がある場合には、必ずしも40日以内に指定しなくてもよいこととされているため、あくまでも目安とお考えください。実際、裁判所が他の事件で混雑していたり、申立書に補正が必要であったりするとき、40日よりも後に第1回期日が指定されることは実務上よくあります。
期日呼出状の送付
期日が決定すると、会社側に通知されます。このとき、裁判所から「期日呼出状」及び「答弁書催告状」と題する書面が送付されてきて、
- 指定された期日に出頭すること
- 期日の1週間前までに答弁書を提出し、会社側の反論を伝えること
といったことが指示されます。このように、第1回期日の決定については会社側の都合が考慮されないため、申立ての事実を知ったら大至急、反論の準備と証拠収集をしなければなりません。労働審判の期日までに時間的余裕がなく、期日直前に非常に慌ただしく動かなければならないのが、会社側の労働審判対応のポイントです。
期日請書
指定された期日に会社(及びその代理人となる弁護士)が出頭することができるときには、期日請書を提出し、そのことを裁判所(労働審判委員会)に通知します。
労働審判の期日を変更できるか
裁判所より指定を受けた労働審判の第1回期日を、会社側で変更できるかどうかについて解説します。
前章で解説したとおり、労働審判の期日決定には、会社側(ないしその代理人となる弁護士)の都合は一切考慮されていません。他方で、労働審判の期日を変更できるかどうかについて、労働審判法により準用される民事訴訟法93条によれば「顕著な事由」がある場合に限って期日変更が許されると定められています。
そのため、特別な場合でない限り、労働審判の期日を変更することはできず、会社側は指定された期日に出廷しなければならないのが基本です。ただし、実際には裁判所の実務運用上、変更を希望すればある程度柔軟に対応してもらえるケースがあります。
労働審判は、労使間の話し合いによる柔軟な解決を実現するための手段です。
そのため、たとえ使用者側の日程が合わずに欠席したとして、そのことだけを理由に会社敗訴という判断をしたとしたら、会社側から異議申し立てをされ、訴訟に移行することが容易に想像されます。労働審判による解決を選択した労働者側にとっても、このような形式的な判断では問題解決ができません。
裁判所としても、労働審判における話し合いによる解決を実現することに意味があると考え、日程調整にはある程度柔軟に応じているのが実務上の運用です。
以上のことから、次章に解説するような注意点を守り、できるだけ早期に、かつ、合理的な理由を添えて期日変更を求めることによって、会社側の立場から労働審判の期日を変更することができるケースが多いです。
労働審判の期日を変更する方法と注意点
次に、実際に労働審判の期日を変更する方法と、会社側の立場で変更を求めるとき注意したいポイントを解説します。
前章で解説したとおり、労働審判の期日の変更は、認められづらい傾向にあるのが実務ではあるものの、裁判所にできるだけ期日変更を認めてもらいやすくするため、次のことを心がけてください。
早期に期日変更を求める
裁判所では、労働審判が申し立てられると、労働審判委員会を構成するメンバー(労働審判官、労働者側委員、使用者側委員)を選出します。このとき、選出されたメンバー間で、期日の予定調整が行われます。
そのため、会社側が期日変更を求めるとき、できるだけ早く伝えなければ、労働審判委員会のメンバーが決まり、3者の予定調整が始まってしまいます。労働審判委員会のメンバーは相応の地位を有する人が選任されることが多く、3者の予定調整を要するため、一旦決まってしまうと変更が容易ではありません。
会社側の立場で、裁判所に期日変更を認めてもらいやすくするため、労働審判委員会のメンバー決定や日程調整等が進んでしまうより前に、できるだけ早く期日変更を求めておくことが大切です。
期日変更を求める合理的理由を伝える
裁判所に、労働審判の期日の変更を認めてもらいやすくするには、期日変更を求める合理的理由をあわせて伝えておくことが効果的です。会社側の勝手な都合による期日変更は許されないからです。
- できるだけ労働審判期日を延期し、労働問題への対応を先延ばしにしたい
- 業務が忙しいので、準備が間に合わない
- 労働審判をする気が進まない
会社側の勝手な理由は、労働者保護のためにスピーディに解決すべきとする労働審判の趣旨からしても許されないことが明らかです。
期日変更を求めるときに合理的な理由を伝えることは、このような会社の勝手な都合による要望でないことを、裁判所に説明するのに役立ちます。合理的な理由として期日変更が認められた例には、次のものがあります。
- 労働審判の申立てを受けて弁護士に依頼したが、その弁護士の予定がどうしても合わない
- 会社側の重要な証人となる社員の都合が合わない
なお、合理的な理由があるときでも、できるだけ速やかに期日変更を伝えるべきでことに変わりありません。
第1回期日の重要性を理解する
以上のとおり、会社側の都合を全く考慮せずに指定される労働審判の第1回期日ですが、その重要性をよく理解しておかなければなりません。
労働審判は、簡易かつ迅速に、合理的な解決を目指すことが制度趣旨であるため、3回行われる期日のうち、第1回期日にしか事実認定を行わないのが通常です。そのため、第1回期日までに提出することができなかった主張、第1回期日内で取り調べられなかった証拠や証人は、労働審判委員会の判断材料としてもらえないおそれがあります。
そのため、会社側の立場で期日変更を検討するにあたっては、このような第1回期日の重要性が高いことをよく理解し、十分な準備をするために少しでも期日を延期してもらえるよう努めなければなりません。
なお、労働審判は原則として3回以内の期日で審理を集結するものと定められていますが(労働審判法15条2項)、第2回以降の期日については労働審判の席上で調整されるため、会社側の都合も反映して決められます。会社側の参加者(及び代理人となる弁護士)の都合がつかないときには、その旨を伝えて日程調整に反映してもらうことができます。
期日を変更してもらえないときの対応
最後に、裁判所に期日変更を認めてもらえないときの対応について解説します。
答弁書の期限を遵守する
第1回期日にやむを得ず欠席せざるを得ないときでも、会社にとって有利な反論をしっかり伝えるために、答弁書については期限を遵守して提出することが重要です。答弁書における会社側に有利な主張と、これを基礎づける証拠については、期限を遵守して提出することで、労働審判委員会に会社の言い分を伝えることができます。
労働審判が話し合いを重視した制度であり、しっかり話し合って解決することには労働者側にもメリットがあるため、欠席したからといって直ちに負けてしまうことはないかもしれません。しかし、第1回期日はとても重要であり、会社側が出席しなければ、事情聴取は労働者側(申立人側)からのみ行われることとなり、会社側に有利な反論を伝えることができません。
第2回期日、第3回期日は、解決に向けた話し合い、つまり、調停手続きが行われるのが実務の通例です。そのため、第1回期日のような事情聴取が行われず、仮に行われても、あくまで第1回期日の補充の程度です。
弁護士に出廷してもらう
第1回期日に欠席するとしても、代理人として依頼した弁護士のみでも出席してもらうようにしてください。
弁護士であれば、できる限り予定調整をして、期日に出廷することができます。本来、労働審判は、労使間の話し合いが重視される制度であり、弁護士を依頼しても当事者も同席することが通例となっていますが、日程調整がどうしてもできないときにはやむを得ません。
せめて弁護士だけでも出席してもらい、会社側の言い分を十分伝えられるよう、弁護士との事前打ち合わせを綿密に行うようにしてください。当事務所には労働問題を得意とする弁護士が複数在籍しているため、直近の日程調整にも柔軟に応じることができます。
まとめ
今回は、労働審判の期日の決まり方と、会社側で期日変更することができるかどうかについて解説しました。
労働審判の期日は、労働者側が申立てをした時点で、労働者と裁判所の日程調整によって決まります。そのため、会社側で労働審判対応をするとき、時間的余裕はあまり残されていません。労働審判では、第1回期日でしか事実認定されないことが多く、第1回期日の重要性はとても高いものです。
当事務所の労働審判サポート
弁護士法人浅野総合法律事務所では、企業の労働問題解決に注力しています。
限られた準備時間で、労働審判に対して効果的に準備を行うために、期日の差し迫った労働審判ほど、弁護士のサポートを受けるメリットが大きいです。当事務所では、企業側の立場で労働審判対応を多く行った実績とノウハウがあることから、限られた時間でも最大限のサポートが可能です。
労働審判についてよくある質問
- 労働審判期日が迫っていますが、変更することができますか?
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労働審判期日は、原則として変更できず、第1回の重要性にもかかわらず会社の都合は反映されません。ただし、速やかに申し出れば、実務的には変更に応じてもらえる可能性があります。もっと詳しく知りたい方は「労働審判の期日を変更できるか」をご覧ください。
- 労働審判期日を変更する方法は?
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労働審判期日を変更するためには、労働審判委員会のメンバーが選任される等の裁判所の手続きが進む前に、できるだけ早く裁判所へ連絡する必要があります。もっと詳しく知りたい方は「労働審判の期日を変更する方法と注意点」をご覧ください。