不当労働行為とは、憲法に定められた労働組合の権利(団結権、団体交渉権、団体行動権)を保障するために、会社側の不当な行為として禁止されるものです。不当労働行為として禁止されるものは、労働組合法に定められた次の3つです。
労働組合と団体交渉をしていると、会社の行為に不利益を感じた組合側から「不当労働行為にあたる」と指摘されることがあります。そのため、集団的労使紛争をスムーズに解決するためには、会社側で不当労働行為についての基礎知識を理解して臨まなければなりません。いずれも労働組合法違反となり、労働委員会の不当労働行為救済申立事件で救済命令を下されるリスクがあります。
今回の解説では、不当労働行為の種類ごとに、具体例を挙げてわかりやすく解説します。
- 不当労働行為には、不利益取扱い、団体交渉拒否、支配介入の3種類がある
- 各類型について、具体例と対策をわかりやすく解説
- 不当労働行為にあたると、労働委員会から救済命令を下されるおそれがある
なお、団体交渉対応について深く知りたい方は、次のまとめ解説をご覧ください。
まとめ 団体交渉の対応を弁護士に依頼するメリット・依頼の流れと、弁護士費用
不当労働行為とは
不当労働行為とは、冒頭で解説したとおり、労働組合に法律上保障された権利の侵害となるような、会社による不利益な行いのことです。
労働組合法では、労働者側に、組合を作って団結し、集団のちからで会社と戦うことが認められ、いわゆる労働三権として、団結権、団体交渉権、団体行動権が認められています。
しかし、会社の不当な侵害行為を許しては、これらの権利保障が形骸化してしまいます。そのために、労働三権を実質的に保障すべく、侵害を禁止したのが、労働組合法で定められた不当労働行為なのです。
3種の不当労働行為
労働組合法で定められる不当労働行為には、次の3つがあります(労働組合法7条)。
労働組合法7条(不当労働行為)
使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
1. 労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること。ただし、労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において、その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない。
2. 使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。
3. 労働者が労働組合を結成し、若しくは運営することを支配し、若しくはこれに介入すること、又は労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えること。ただし、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、かつ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。
4. (略)
労働組合法(e-Gov法令検索)
なお、労働組合に加入することを採用の条件とする「黄犬契約」は不利益取扱いの一種、労働組合に不当な利益を与えてコントロールしようとする「経費援助」は支配介入の一種となります。
不当労働行為救済申立て
労働者ないし労働組合が、会社から不当労働行為を受けたと考えるときには、労働委員会に対して不当労働行為の救済を申し立て、審理を求めることができます。
労働委員会における審理の結果、不当労働行為があったと認定されると、救済命令が下され、違法行為の差し止めや損害賠償が命じられます。
不利益取扱い
不利益取扱いとは、労働組合員であることや組合活動を行ったこと、労働組合として正当な行為をしたこと等を理由に、労働者に対して不利益な取扱いをすることです。労働組合に対して会社が不利益な取扱いをすると、労働組合の権限保障が十分に図れなくなってしまうため、不利益取扱いは不当労働行為として禁止されています。
労働者に対して行った解雇等の措置が、不利益取扱いに該当してしまうとき、労働委員会における不当労働行為救済申立事件で救済命令を下されてしまうと、解雇等の措置が無効となってしまいます。
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不利益取扱いに該当する具体例
不利益取扱いは、労働組合に関する活動等を理由としたものであれば、どのような不利益であっても該当します。会社が、不利益ではないと考えても、結果として労働組合員にとって不利益となってしまえば、不当労働行為と認められてしまうリスクがあります。
例えば、不利益になりうる行為には、次のものがあります。
- 意に反して会社から追い出す行為(懲戒解雇、諭旨解雇、普通解雇、退職強要等)
- 懲戒処分(出勤停止、降格、降職、減給、けん責、戒告等)
- 他に理由のない配置転換、異動、転勤等
- パワハラに該当する行為(暴力、暴言、仕事を与えない等)
労働組合員であることを理由にして行うケースだけでなく、「労働組合を辞めなければ不利益がある」という取扱いもまた、不利益取扱いの不当労働行為に該当します。
この点で、労働組合員となるためには会社の利益代表者にあたらないことが必要となるところ、会社が労働組合を脱退させるために、昇進させて管理職とし、会社の利益代表者としてしまうという行為が問題となることがあります。
労働組合を嫌い、労働組合から脱退させるために昇進をさせたという意図があるときは、不利益取扱いの不当労働行為にあたります。
なお、労働組合に加入しないことを採用の条件とする「黄犬契約」も不当労働行為として違法です(関連して、入社時に組合加入の有無を調査することも違法です)。これに対して、いずれの労働組合にも加入しない労働者を解雇することを定めた「ユニオン・ショップ協定」は有効です。
不利益取扱いにならないための対策
不利益取扱いの不当労働行為は、「労働組合に加入していたり、組合活動をしたことを理由としている」という会社の内心が問題となります。そのため、組合員に対して不利益となるような解雇その他の処分が一切許されないわけではなく、組合活動以外の別の理由があれば、違法ではありません。
したがって、労働組合から不利益取扱いを指摘されたときは、会社の行為に関する、組合とは全く関係ない理由を挙げることによって反論ができます。例えば「対象の社員の能力不足による解雇であった」というケースが典型例です。
ただし、会社側の目的は、会社の内心の問題であり、立証が困難な面があります。そこで重要となるのが、日頃から労働組合と対立し、嫌悪の感情をもっていたかどうか、という点です。労働組合を嫌い、組合員に対して不利益な処分をすれば、不利益取扱いといわれてもしかたありません。普段から、労働組合に対する不利益な発言をしないよう注意が必要です。
あわせて、組合員に対して不利益のある処分をするときには、他の社員を対象とする場合にも増して、その理由が正当であるかどうか、よく吟味する必要があります。特に、解雇は労働者に対する不利益が大きく、解雇権濫用法理による制限を受け「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上 相当であると認められない場合」には無効となるためご留意ください。
団体交渉拒否
団体交渉拒否とは、会社が、正当な理由なく団体交渉の申入れを拒否することです。
労働組合には団体交渉権が認められており、会社が自由に拒否できてしまうのではその権利保障が十分ではなくなってしまうため、団体交渉拒否が不当労働行為として禁止されています。
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団体交渉拒否に該当する具体例
労働組合から団体交渉の申入れがあったときに、「団体交渉は行わない」と回答したり、そもそも申入れ自体を無視して全く回答しなかったりといった行為は、団体交渉拒否の不当労働行為にあたります。
また、団体交渉自体は開催するものの、誠実な対応をせず、適切な回答を行わないなど不誠実な交渉態度をとるときも、同様に違法です。使用者の誠実交渉義務があるからです。なお、このようなケースを特に「不誠実団交」と呼ぶことがあります。
明白に拒否するのではなく、婉曲的に拒否するなどの不誠実な態度には、次のような例があります。
- 労働組合からの質問への回答に必要な資料を開示しない
- 団体交渉の開催条件(日時・場所・参加者等)の調整が難航し、いつまで経っても団体交渉を開始しない
- 団体交渉を弁護士のみに任せ、実質的な回答を行わない
- 団体交渉における対面の話し合いを嫌い、文書回答のみで終了する
団体交渉拒否にならないための対策
団体交渉をしないことや、まともな対応をしないことについて、正当な理由があるときには、団体交渉拒否の不当労働行為にはあたりません。つまり、正当な理由があれば、団体交渉に応じなくても違法とはなりません。
交渉の拒否に正当な理由がある場合とは、例えば次のようなケースです。
- 団体交渉の議題となる事項が、経営に関するもので、義務的団交事項ではない
- 団体交渉を求められた日時に、交渉担当者の予定があわず再調整中である
- 労働組合側の出席者が多数おり、統制・秩序がとれていない(大衆団交)
- 労働組合が暴力行為をし、交渉担当者に危険が生じている
このような正当な理由のあるケースでは、交渉を拒絶することができ、団体交渉を継続中のときでも、途中で打ち切ることができます。
また、議論を十分に重ねたが、合意には達しなかったときには、それ以上団体交渉をし続ける義務はなくなります。このことを実務では「平行線」に至ったため団体交渉を打ち切る、と表現します。
支配介入
支配介入とは、会社が、労働組合の結成・加入などの行為に介入し、はたらきかけを行うことです。
労働組合は、労働者の権利を保護するため、使用者から独立している必要がありますから、組合の独立性を担保するために、支配介入は不当労働行為として禁止されています。
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支配加入に該当する具体例
労働者であれば誰でも、労働組合に加入したり、労働組合を結成したりすることができます。また、ある労働組合が上部団体に加入することも自由です。そのため、本来自由である結成・加入行為について、会社が妨害する言動をすると、支配介入の不当労働行為にあたります。
例えば、次のようなケースが支配介入の典型例です。
- 社長が、労働組合を敵視する発言を繰り返す
- 「労働組合に加入すれば、昇進・昇格は難しい」とプレッシャーをかける
- 労働組合に加入しているかどうかを調査し、組合員だけ減給とする
- 上部団体に情報を与えない
- 不当労働行為救済申立てをしたことを理由に不利益な処分をする
また、労働組合に資金を提供する行為は、一見すると労働組合の不利益にはならないようにみえます。しかし、労働組合が会社の資金に依存してしまうと、労働者を保護するという目的が達成できなくなってしまうため、経費援助もまた、支配介入の不当労働行為になります。
例えば、次のような経費援助は違法です。
- 組合専従者に対して、組合活動の対価を支払う
- 組合大会、組合集会の開催費用を会社が支払う
なお、労働時間中の団体交渉その他の組合活動にあてた時間の賃金、福利厚生や基金、最小限の組合事務所の提供といった利益供与は、例外的に、支配介入にはあたらないとされています。
支配介入にならないための対策
支配介入は、労働組合に影響を与える行為を禁止するものなので、不利益取扱い、団体交渉拒否に比べて、対象となる行為の幅が広く、あたるかどうかについても微妙な判断が必要となることが多いです。そのため、支配介入にならないためには、どのような行為が違法なのかをよく理解する必要があります。
特に、支配介入の不当労働行為は、他の2類型とは違って、会社側が必ずしも違法行為をしようという意図や明確な認識がなくても行ってしまうおそれがある点に注意が必要です。
不当労働行為をしてしまった会社に与えられるペナルティ
最後に、会社の言動が、不当労働行為に該当してしまうとき、会社に与えられるペナルティについて解説します。
不用意な組合批判、組合員に対する不利益な処分は控え、事前予防が肝心ですが、実際に不当労働行為をしてしまったときには、労働組合との争いを進めていかなければなりません。
刑事罰はない
不当労働行為は違法ですが、刑事罰は定められていません。
そのため、不当労働行為をしたからといって刑事責任を負うことはなく、逮捕されたり起訴されたり、前科がついたりすることもありません。あくまでも、会社の民事責任の有無について、労働組合側から追及を受けることとなります。
不当労働行為救済命令
会社が不当労働行為を行うと、労働者ないし労働組合は、労働委員会に対して不当労働行為救済申立てを行います。
労働委員会において調査・審問が行われた結果、不当労働行為であると認められると、救済命令が発されます。救済命令によって、会社は次のような不利益を強いられます。
- 解雇などの不利益な処分が不当労働行為と認定されるとき、それらの処分が無効となる
- 組合員の精神的苦痛についての慰謝料、その他の損害賠償が命じられる
- 不当労働行為についての謝罪を命じられる(ポスト・ノーティス)
このように、不当労働行為だと認められると単なる金銭の問題だけでなく、解雇した組合員が復職してしまう等の大きなペナルティを受けることとなります。
都道府県労働委員会が発した救済命令に不服があるときには、命令書の交付日から15日以内に、中央労働委員会に対して再審査申立をすることができます。また、再審査申立てが棄却されたときは、更に30日以内に、地方裁判所に対して命令の取消訴訟を起こすことができます。この取消訴訟は、三審制に従い、控訴、上告することができます。
損害賠償請求
なお、不当労働行為は、民法の不法行為(民法709条)にあたるため、労働委員会での争いとは別に、損害賠償請求をして民事責任を問われることもあります。
まとめ
今回は、不当労働行為の基本知識を解説しました。
不当労働行為には、不利益取扱い、団体交渉、支配介入の3種があり、各類型の具体例と、違法行為をしないための対策を知ることが重要です。万が一に違法な不当労働行為をしてしまったときに会社が負うペナルティについても理解しておいてください。
当事務所の組合対策サポート
弁護士法人浅野総合法律事務所では、企業の労働問題解決を得意とし、労働組合対策、なかでも、不当労働行為に関する争いについて豊富な知見を有しています。
不当労働行為に関する労使の争いは、最終的に都道府県労働委員会における不当労働行為救済申立事件で争われます。この手続きは、裁判と類似しており、円滑に進めるためには弁護士による専門的なサポートが有益です。
不当労働行為についてよくある質問
- 不当労働行為とは、どのような行為ですか?
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不当労働行為とは、会社が労働組合に対して、組合に保障された権利を侵害するような不利益を与えるもので、労働組合法で禁止されています。具体的には、不利益取扱い、団体交渉拒否、支配介入の3種です。もっと詳しく知りたい方は、「不当労働行為とは」をご覧ください。
- 不当労働行為をした会社は、どのようなペナルティを受けますか?
-
不当労働行為は、労働組合法で禁じられた違法行為ですが、刑事罰の制裁はありません。しかし、労働委員会から救済命令を下され、その処分が無効となってしまったり慰謝料支払いを命じられるおそれがあります。詳しくは「不当労働行為をしてしまった会社に与えられるペナルティ」をご覧ください。