副業(兼業)を、会社の従業員が行っているとき、「副業(兼業)OK」としていたとしても、本音では、「会社の業務に専念してほしい。」と考えている経営者(社長)の方も少なくないことでしょう。
副業(兼業)を禁止している会社では、なおさらです。
副業(兼業)をしている社員に対して、「懲戒処分」などの制裁(ペナルティ)を加えて、副業(兼業)を制限しようと考えている会社の疑問・不安に対して、弁護士が解説します。
目次
浅野英之
弁護士法人浅野総合法律事務所、弁護士の浅野です。
「働き方改革」のニュースで、「副業(兼業)」が話題となっています。働き方が多様化する未来に向けて、会社側(企業側)でも、社内制度の充実が急務となっています。
当事務所でも、「働き方改革」その他の法改正への対応について、顧問弁護士としてサポートしています。
副業(兼業)は禁止できる?
当社では、「働き方改革」での「副業解禁(兼業解禁)」というニュースを聞くまで、副業(兼業)について、特に厳しく注意はしてきませんでした。
しかし最近では、副業(兼業)に集中するあまりに本業がおろそかになる社員も出てくる始末で、社員間の公平性が保てなくなってしまっています。
確かに、「働き方改革」で、働き方の多様性が求められ、副業(兼業)は大きなテーマとなっています。
しかし、副業(兼業)を解禁するためには、会社側(企業側)の労務管理において、注意すべきポイントが多くあります。
副業(兼業)を行う従業員に対して、会社の業務に専念することを求め、「懲戒処分」などの制裁を下したいという法律相談を受けることがあります。
そこで、まずはじめに、副業(兼業)を会社内で禁止することが可能であるかどうかについて、検討していきましょう。
雇用契約書で、副業(兼業)は禁止できる?
副業(兼業)を、雇用契約書(労働契約書)において、禁止であると定めることができます。
ただし、1つの事業場あたり10人以上の社員を雇用している場合には、次に解説する「就業規則」の作成が必要です。
雇用契約書(労働契約書)は、就業規則よりも労働者にとって不利益に定めることができないため、「就業規則」が存在する場合には、副業(兼業)禁止をしたいのであれば、就業規則に定める必要があります。
就業規則で、副業(兼業)は禁止できる?
就業規則で、副業禁止規定(兼業禁止規定)を定めている会社が多くあります。
就業規則における、一般的な副業禁止規定(兼業禁止規定)の定め方の例(書式・文例)は、次のとおりです。
第○条(副業・兼業の禁止)
従業員は、会社の許可なく他の営業、事業に従事してはならない。
第○条(懲戒解雇)
従業員が、次の各号のいずれかに該当する場合には、懲戒解雇とする。
(中略)
○ 第○条の規定に違反して、会社に無許可で他の営業、事業に従事した場合。
副業(兼業)を許可制にできる?
ここまで解説してきたのは、就業規則において副業(兼業)を全面的に禁止する方法ですが、後ほど解説するとおり、副業(兼業)を全面禁止し、懲戒処分を下すことは、違法・不当とされるリスクもあります。
そこで、副業(兼業)を全面禁止とはしないものの、不適切な業種につくことを禁止するために、副業(兼業)を「許可制」と定める方法もあります。
裁判例においても、副業(兼業)の一律禁止よりも、副業(兼業)の許可制の規定のほうが、有効性を認められやすい傾向にあります。
就業規則における、副業(兼業)の許可制の定め方の例(書式・文例)は、例えば次の通りです。
第○条(副業・兼業の許可制)
1.従業員は、他の営業、事業に従事するときは、次項に定める手続きにしたがって、事前に書面による会社の許可を得なければならない。
2.(副業・兼業を許可する際の手続について・・・)
副業(兼業)の許可制であっても、全面禁止の場合と同様、無許可で副業(兼業)を行えば、懲戒処分の制裁を下すという内容の規定も、就業規則に定めておきます。
注意ポイント
ただし、就業規則の形式上は副業(兼業)の「許可制」であったとしても、会社側(企業側)の運用で一律「不許可」とし、懲戒処分を下す、という運用は、違法・不当と判断されるおそれがあります。
事後的に、労働者側から、労働審判や訴訟で、「懲戒処分の有効性」を争われたときに、会社側(企業側)に不利な判断が下るおそれが高まります。
なぜ副業(兼業)を禁止し、懲戒処分を下す必要がある?
次に、副業(兼業)を会社が禁止し、懲戒処分を下す必要について、検討しておいてください。
「会社の業務に専念してほしい」という気持ちがあるのは当然のことですが、副業(兼業)をしても会社の業務に支障がない場合にまで禁止し、懲戒処分を下すことは、違法・不当と判断されるおそれが高いからです。
副業(兼業)の会社側のデメリット
会社の社員(従業員)が、副業(兼業)をした場合に、会社がこうむる可能性のあるデメリット、リスクは、例えば次のようなものです。
ポイント
- 所定労働時間以外に長時間労働をすることで、本来の業務に専念できない。
- 終業時刻以後、深夜労働を行うことで、睡眠が十分にとれず、健康・安全を害する。
- 副業・兼業の種類によっては、会社の社会的信用を低下させる。
- 他社員との収入の不公平感から、会社の企業秩序を害する。
会社の業種、規模、知名度などによっても、会社の負うデメリット、リスクは変わってきます。
会社側(企業側)の考えるデメリットが非常に大きい場合には、副業(兼業)を全面禁止し、懲戒処分を下すことが違法・無効となるリスクを踏まえても、副業(兼業)を全面禁止することがあります。
副業(兼業)のルール化が必要
副業(兼業)を全面禁止にしないとしても、副業(兼業)の禁止規定、許可制の規定を定めることによって、会社側(企業側)の望まない働き方を抑制することができます。
副業禁止規定(兼業禁止規定)に対する懲戒処分の有効性は、労働審判・訴訟では限定的に考えられているものの、副業(兼業)の妥当なルールを定めておくことが必要となります。
ポイント
副業(兼業)のルールをどのように定めたらよいかは、会社の実情によって異なります。
会社の実情に合っており、かつ、労働審判・訴訟などにおいて裁判所で「違法」、「無効」と判断されない、妥当なルールを定めるため、弁護士にご相談ください。
就業時間以外は「自由」が原則
会社に雇用されている労働者は、業務時間中は、会社の業務命令に従わなければなりません。しかし、裏返すと、業務時間外はプライベートな時間であり、会社側(企業側)の業務命令権は及びません。
業務時間外は、労働者はその時間を自由に利用できるのが原則です。
労働者は、憲法に保障された「営業の自由」、「職業選択の自由」によって、その職業を自由に選ぶことができます。
裁判例でも、就業規則に副業禁止規定(兼業禁止規定)が定められていたとしても、これに従って会社が行った懲戒処分を無効と判断した例があります。
橋元運輸事件(名古屋地裁昭和47年4月27日判決)
就業規則において二重就職が禁止されている趣旨は、従業員が二重就職することによって、会社の企業秩序をみだし、又はみだすおそれが大であり、あるいは従業員の会社に対する労務提供が不能若しくは困難になることを防止するにあると解され、従って右規則にいう二重就職とは、右に述べたような実質を有するものを言い、会社の企業秩序に影響せず、会社に対する労務の提供に格別の支障を生ぜしめない程度のものは含まれないと解するのが相当である。
この裁判例のように、就業規則に規定されている副業禁止規定(兼業禁止規定)は、広範すぎると、限定的に解釈をされる可能性があります。
本来の業務に支障を生じない副業(兼業)まで禁止しているとしたら、その副業禁止規定(兼業禁止規定)が無効となるおそれがあります。
禁止できる副業(兼業)とは?
副業(兼業)を、会社の一方的な都合で全面的に禁止するのが難しいことは理解しました。
しかし、会社に実害のある副業(兼業)はやはり禁止したいと思います。
副業(兼業)が禁止できるかどうかは、その副業(兼業)の内容によっても異なります。
会社の業務命令権の及ばない私的な時間(プライべート)だからといって、労働者が全く自由に行動できるかというと、必ずしもそうではありません。
会社は、労働者と雇用契約をすることによって、業務時間中でなくても、会社の業務に関わる限り、企業秩序の維持のため、一定の制約をすることが可能です。
つまり、副業(兼業)の禁止についても、次のように、会社の業務、企業秩序に明らかな支障の生じる場合、これを禁止することができます。
本業に専念できない副業(兼業)の禁止
本業が終わった後の副業(兼業による労働が、長時間労働となったり、疲労を蓄積させたりした結果、本来の業務に専念できなくなってしまうことがあります。
本業において、雇用契約の内容どおりの労務が提供できないような副業(兼業)は、禁止することが可能です。
本業に重大な支障を生じる副業(兼業)は、就業規則などで厳しく禁止(もしくは許可制)とし、注意指導をし、懲戒処分などの厳しい制裁を下します。
社会的信用を低下させる副業(兼業)の禁止
法律に反する違法な業務、本業のイメージを大きく崩す業務など、本業の社会的信用を低下させる副業(兼業)もまた、禁止することのできる典型例です。
どのような副業(兼業)が、本業の企業イメージ、社会的信用を低下させるかは、本業の会社の業種、業態、企業規模や知名度などによっても異なります。
問題ある副業(兼業)を行う社員への対応は?
では、副業(兼業)を従業員が行っていることが発覚した場合、御社の経営者、人事労務・総務担当者として採るべき対策はどのようなものでしょうか。
ここでは、特に、副業禁止規定(兼業禁止規定)によって禁止できるか判断のできない、許される可能性の高い兼業が発覚した場合の対策について説明します。
注意指導を徹底する
副業(兼業)が発覚したとしても、本来の業務に支障を生じておらず、会社の社会的信用にも影響していない場合、この副業(兼業)に対して懲戒処分などの制裁を行うことはお勧めできません。
他方で、深夜までの副業(兼業)の結果、本業の就業時間中に居眠りをしているなど、本業への支障が明らかな場合には、副業(兼業)禁止よりもまず、所定労働時間内の勤務態度について、注意指導を徹底すべきです。
繰り返しの注意指導によっても改善できず、その問題行為が副業(兼業)を原因とするものであれば、懲戒処分などの厳しい制裁を課すことを検討します。
不公平感を是正する
副業(兼業)によって、他の社員よりも多くの収入を得る社員がいるとき、他社員としては、副業(兼業)をすることによる収入の格差について、不公平感を感じることでしょう。
副業(兼業)を解禁するとしたら、この不公平感を是正できる賃金制度を整えておくべきです。
特に、年功序列のみによって給与が決められ、仕事の質・量によらず賃金が一定の場合、「会社の業務を手抜きし、副業(兼業)で稼いだほうが得だ。」という矛盾から、本業に身の入らなくなる社員が増加するおそれがあります。
兼業規定を作成する
少子高齢化の進行によりますます労働者人口が少なくなり、低賃金層の増加などが社会問題となり、加えて、IT技術、インターネットの流行によって手軽かつ短時間でできる副業(兼業)も増加しました。
本来の業務に支障を生じない範囲においては、所定労働時間外の副業(兼業)を広く認めるという対応も検討すべきです。
副業(兼業)を無秩序に拡大しないためにも、副業(兼業)を許可制として会社が把握した上で、許可した場合の就労について規定にルールを定めるとよいでしょう。
兼業の労働時間制に注意
副業(兼業)でも、雇用関係の下で労働していた場合には、副業先の企業で働いている時間は、労働時間として本業で働いている時間と通算されることとなります。
この結果、労働時間の合計が法定労働時間を超える場合には、残業代の支払いが必要となります。
労働者が自発的に副業(兼業)をおこなっているように見えても、これによって直ちに労働時間制が否定されるわけではなく、企業の指揮監督下に就労しているかどうかが客観的に評価されます。
まとめ
今回は、副業(兼業)を禁止することと、禁止への違反に対して「懲戒処分」をするという会社側(企業側)の対応について、弁護士が解説しました。
副業(兼業)を一律に敵視し、懲戒処分をすることは、労働審判・訴訟などで争われたとき、会社側(企業側)に不利な判断が下るおそれのある、リスクの高い対応方針です。
しかし一方で、会社側(企業側)にとって業務に支障を生じる副業(兼業)は、しっかりとルールを作り、適切に把握・管理しなければなりません。
弁護士に相談、依頼いただくことで、適切な就業規則を定め、副業禁止規定(兼業禁止規定)を定めた上で、実際に副業(兼業)を行う社員への対応について、迅速にご相談いただくことができます。
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弁護士法人浅野総合法律事務所(東京都中央区)では、労働問題と企業法務しています。 会社で、常日頃から問題となる労働問題と企業法務に特化することで、会社を経営する社長、人事労務の担当者の目線に立って、親 ...
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