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弁護士 浅野英之
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所を経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を開業。
企業の労働問題について、豊富な経験を有する。

→弁護士 浅野英之の詳細
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支部を結成されたが残業代の減額に成功した事例│団体交渉の解決事例5

相談内容
相談者
  • 東京都内
  • 建設業
  • 社員数30名

労働組合から、突然団体交渉の申入れを受けました。組合から送られてきた書面によれば、元社員に生じていた未払残業代を請求するという内容でした。

退職した社員のことであり、かつ、社外の合同労組(ユニオン)でもあったことから対応の必要はないものと考え放置していたら、在職中の社員まで労働組合活動を始めるようになりました。当該社員は、退職後も社員と密に連絡をとっていたようです。

支部が設立され、事実上当該社員の影響力が強く残っており、会社が労働組合のものになってしまったように感じます。

労働委員会にて和解を成立させ、未払い残業代の減額に成功

まとめ 団体交渉・労働組合対応を弁護士に依頼するメリット

目次(クリックで移動)

解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所を経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を開業。
企業の労働問題に豊富な経験を有する。

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相談に至った経緯

今回の相談内容は、退職した社員が団体交渉を申し入れるとともに、在職中の社員と結託して労働組合活動を拡大させたケースです。

労働組合を結成し、団体交渉を申し入れてきた元社員Xは、1年も前に会社を辞めた社員ですが、時効はまだ経過しておらず未払残業代請求が可能な立場にありました。Xは、会社が苦しかった時期に長時間労働を強いられ、自分が退職してから会社の経営が上向きになったことに腹を立て、現在会社経営が順調であることを聞きつけて団体交渉申入れに及んだようです。

しかし、実際には会社の状況はまだまだ苦しく、在職中の社員の労働条件を改善するのが精一杯で、元社員の残業代まで支払う余裕はないとのことでした。社内では、「高額な残業代が獲得できる」とXから聞きつけ、仲間となって組合結成に協力する社員が増加しているようであり、早急に対策を打つ必要がある事案でした。

経営状況が苦しいことから、第1回の団体交渉は会社だけで対応したが、積もりに積もったXの不満が爆発し、深夜まで議論が紛糾しました。Xからけしかけられた在職中の社員も、残業代について損をしているという思いを持ったようで、仕事も身に入らないような状態が続いていました。

弁護士による対応と解決

要求事項の確認

弁護士が依頼を受けると、まず、Xないし労働組合に対して、要求事項を正確に示すよう、書面で求めるようにしました。第1回の団体交渉が長時間行われているものの、Xの不満は「会社が苦しい時に貢献した自分に対しての扱いがひどい」という感情的なものが多く、具体的な要求事項が明らかになっていないと感じたためです。

確認したところ、要求事項は次のとおりであることが、組合から書面にて示されました。

  • 繁忙期に、工期を間に合わせるため行った深夜残業の連続について、社長の謝罪
  • 未払いとなっている深夜残業代200万円の支払い
  • 慰謝料500万円の支払い

方針の立案

争点を明確化したことで、次のような対応方針を立てました。

  • 謝罪については、全ての問題が解決するのであれば、甘んじて行う
  • 深夜残業代については、証拠に基づいた妥当な金額のみ支払う
  • 慰謝料支払いには応じない

Xから第1回団体交渉で散々聞かされた不満は、おそらく慰謝料の増額のためにあるものであろうと推測されました。しかし、未払残業代の支払いは仕方ないとして、長時間労働があったのは工期直前の短期間のみであり、高額な慰謝料請求は拒否すべきであろうという結論に至りました。

団体交渉

第2回の団体交渉には、弁護士が同席することとしました。第1回で長時間の団体交渉をし、その際にXから不満をたくさん聞かされ、社長が憔悴しきっていると考えたためです。

団体交渉では、タイムカード等の資料を提出した上、会社の計算方法を示し、未払いの深夜残業代が50万円にとどまること、問題が解決する際には口頭での謝罪には応じるが、慰謝料の支払いには応じられないことを提示しました。

第3回の団体交渉まで行いましたが、残業代の具体的な金額について折り合いがつかず、かつ、労働組合としては慰謝料の支払いを求めるとのことであったため、十分な時間をとって協議したが平行線であると判断し、団体交渉を打ち切ることとしました。

労働委員会への救済命令申立

第1回の団体交渉に比べ、第2回、第3回の団体交渉が非常に厳格に運営されたことから、労働組合から団体交渉拒否であるとの指摘を受け、労働委員会への不当労働行為救済申立がありました。

労働委員会では、団体交渉の経緯を丁寧に主張し、団体交渉拒否となるような事案ではないことを説明しました。また、残業代についても証拠に基づく妥当な額であれば支払う意思があることを示しました。なお、経営状況を率直に説明し、組合に加入した全社員分の未払い残業代を一括で支払うことは困難であることについても理解を求めました。

結果、労働委員会の指示のもと、タイムカードにしたがった残業代を検算し、現実的な分割案で和解を成立させることに成功しました。

社内に結成された合同労組(ユニオン)の支部についても、残業代請求という共通の目的を失ったことから徐々に連帯感を失い、消滅しました。

弁護士のアドバイス

労働組合には、憲法、労働組合法に団結権が認められており、団体交渉を拒否したり、不誠実な対応をしたりすることは許されません。

今回のようなケースで、労働組合からの団体交渉の申入れがあったとき、「他の社員に波及して、組合活動が拡大してしまわないかどうか」という点に配慮が必要です。労働組合は、団結の力によって交渉力を補い、弱者とされる労働者が集団で戦うためのものだからです。

加入した組合が社外の合同労組(ユニオン)でも、社内に支部を結成し、他の社員を勧誘し、集団が大きくなってしまうことがあります。特に、今回のケースで問題となった未払い残業代の請求のように、制度上、全社員に影響があるような請求内容が争点となるとき、早期解決を目指さなければ、労働組合が膨張し、手がつけられなくなってしまうおそれがあります。

↓↓ 動画解説(約9分) ↓↓

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