社員が仕事でミスをしたとき、「始末書」や「顛末書」という書類を書くよう指示することがあります。
この「始末書」と「顛末書」、違いを理解していますでしょうか。
始末書と、顛末書の違いを理解せず、「文書の題名の違い」程度にしか思っていない企業も多いようですが、区別しておかなければ、社員に命じたとき、その文書の適切な効果を発揮しづらくなってしまいます。
その役割や目的、書く内容などが異なるため、社員に命じるとき、きちんと説明できるようにしておかなければなりません。
今回は、始末書と顛末書の違いについて、書き方の文例のテンプレートもあわせて解説します。
- 始末書は、社員の非の追及に重点があり、顛末書は、事実の報告に重点がある
- 始末書と顛末書の違いを区別し、適切に使い分けることが大切
- 始末書を拒否されたときは、せめて顛末書を出させ、再発防止につなげる
始末書とは
始末書とは、社員が仕事上でミスしたり、不祥事を起こしたりしたときに、その責任を追及したり、原因を特定し、改善をうながしたりするために社員に書かせる書類のことです。
「始末」という名称からわかるとおり、その文書内容には、社員の非を責めるという意味が含まれます。
始末書は、懲戒処分のなかでも軽度な譴責・戒告の一内容として命じられることが多いです。
厚生労働省のモデル就業規則でも、「けん責 始末書を提出させて将来を戒める」というように、懲戒処分のなかの1つの態様として記載されています。
また、懲戒処分という罰を下すほどの行為ではないときにも、人事権の行使の一貫として、始末書の提出を命じるケースもあります。
この場合には、始末書の提出命令は、業務命令としての性質を持ちます。
労働者として会社に雇用されるかぎりは、その性質上当然に、業務命令には従わなければなりません。
現在はまだ始末書提出にとどまる小さなミスに過ぎなくても、業務命令違反が積み重なれば、さらなる懲戒処分や、深刻なケースでは解雇する理由にもなり得ます。
始末書には、反省・謝罪とともに、社員の進退が書かれるケースもあります。
例えば「次回同様の問題を起こしたら、解雇など厳しい処分でも異議ありません」という文言です。
顛末書とは
顛末書とは、業務上のトラブルが発生したときに、その経緯や内容について社員に報告を命じる文書です。
その目的から、「経緯書」、「経過報告書」といったタイトルになることもあります。
「顛末」という言葉は、「事の顛末」というように、「一部始終」つまり、始めから終わりまで、という意味。
つまり、起こってしまったトラブルについて、その発生原因、発生理由を特定し、そこからどのような経緯、順序をたどって問題が発展、拡大し、収束したか、ということを書きます。
あわせて、今後の対応や対策、改善策についても記載します。
顛末書は、トラブルが生じた経緯を示すとともに、「原因→理由→結果」の順に整理した説明文書。
そのため、事実関係を、わかりやすく報告することがメインとなるため、時系列にまとめられる例が多いです。
始末書に比べると、ドライな印象を受けるかもしれません。
正確に事実確認するためにも、「5W1H」を意識し、「いつ、どこで、誰が、誰に対し、どのような問題を起こしたか」を書かせるよう指導します。
顛末書は、必ずしも問題を起こしてしまった社員に非はなく、責任追及といった意味合いはないけれども、顧客や取引先への迷惑、社会的影響などを考えると再発を防止したいといった場面で、作成を命じます。
また、その性質上、顛末書は、社外への報告に使われたり、迷惑をかけた社外の人への謝罪に利用されるケースもあります。
始末書と顛末書の違い
始末書、顛末書が、それぞれどんな文書か理解したところで、次に、始末書と顛末書の違いについて、複数の側面から解説します。
始末書と顛末書は、いずれも、業務上の問題が発生したときに、引き起こした原因となっている社員に対して、会社や上司が提出を命じる点で共通しています。
しかし、始末書と顛末書は明確に区別して考えるべきです。
文書の目的・役割
始末書の目的は、業務上のミスをしてしまった社員がその問題性をよく理解し、謝罪と反省の意思を示すことにより、二度と同じ問題を起こさないよう再発防止に努めることです。
例えば、度重なる遅刻や無断欠勤、業務上のミスで顧客に迷惑をかけた、ハラスメントなど不祥事を起こしてしまったといった場面では、始末書の提出を命じるのが適切です。
顛末書も、最大の目的は再発防止ですが、謝罪と反省といった社員を責める意味合いが含まれないのがポイント。
例えば、業務上のミスやトラブルのなかでも処分とするほど重度ではないものや、顧客からのクレームや事故など必ずしも社員のせいとは言い切れない場面で、顛末書が活用されます。
文書の形式
始末書は、自身のミスを悔い、反省と謝罪の意思を伝えるものですから、手書きで作成されることが多いです。
パソコンの文書は味気なく、ドライなイメージになり、誠意が伝わらないおそれがあるからです。
当然ながら、問題を引き起こしてしまった社員本人が、直筆で書きます。
これに対し、顛末書は、客観的な事実を正確に伝えるのが大切ですから、パソコンで読みやすく作るのが通例。
このとき、部署全体で対処しなければならないトラブルの例などでは、複数名で協力して作成することもあります。
文書の内容
始末書は、懲戒処分でも利用されることからわかるとおり、社員への責任追及の意味合いを含みます。
そのため、始末書では、ミスや不祥事に至った経緯だけでなく、反省や謝罪、再発防止といった、労働者側の気持ちが含まれた内容となります。
この点では始末書は、反省文・謝罪文のイメージにも近いと考えてよいでしょう。
そのため、始末書の内容では、社員の誠意がきちんと表われているかに重点が置かれます。
迷惑をかけた顧客や取引先への謝罪、あやまちを二度と繰り返さないといった決意が大切です。
これに対し、顛末書は、時系列を報告するためのものですから、経緯のみの記載となります。
むしろ、「事実」と「感情」を区別せず、顛末書に社員の気持ちが多く含まれていると、会社がトラブルを正しく認識するさまたげになってしまうことも。
顛末書では、「トラブルを起こして申し訳ない」という気持ちが社員にあるときは書き添えることもありますが、その部分は事実とは切り離して、区別して書かなければならないのです。
そのため、顛末書の内容では、客観的な事実関係が、しっかり記載されていることが重要。
より詳細で、わかりやすく、正確で具体的なことが大切です。
始末書・顛末書の書き方
始末書・顛末書の内容については、それぞれ異なるものの、形式についてはある程度共通します。
そこで次に、始末書・顛末書に共通した書き方について、詳しく解説します。
決まったルールはないものの、社会常識として、ビジネス文書の書式を理解して書かなければなりません。
- 用紙のサイズ
ビジネス文書として、A4用紙に横書きとするのが通例です。
反省を示す始末書では、誠意を示すため、封筒に入れ、手渡しするケースもあります。 - 文書のタイトル
まず、最上段に文書のタイトルを書きます。
ここには、「始末書」、「顛末書」と、その文書の内容にあわせて記載してください。 - 作成日付
次に、文書の作成日付を書きます(西暦でも和暦でも構いません)。
重要な証拠となるため、作成日、もしくは、提出日を正確に書くようにし、日付をさかのぼらせるなど、事実と異なる日付を書いてはなりません。 - 文書の提出先
次に、文書の提出先を書きます。
文書の提出先は、会社の体制や問題の内容にあわせて、社長や役員、責任者となる部門の長などが検討されますが、会社側で指定するようにします。 - 氏名・押印
次に、社員の所属部署と氏名を書き、その末尾に押印をするようにします。 - 文書の内容
文書の内容は、始末書、顛末書といった文書の性質にあわせて記載します。
次章で、始末書の文例(テンプレート)、顛末書の文例(テンプレート)を紹介します。
始末書の文例【テンプレート付】
始末書の書き方には、法律上のルールはありません。
そのため、定形の書式などはなく、社員がそれぞれ自分で考えて、適した書式で書くようにするのが通例です。
特に、始末書は、顛末書と比べて、社員の誠意を示すという意味合いが強いため、会社が定形の書式を示して書かせるのではなく、社員に自分の頭で考えさせるのが大切なポイントです。
20XX年XX月からXX月にかけて私がした合計X回もの度重なる遅刻について、貴社より指摘を受け、その問題性をよく理解しました。
その理由は、私の寝坊にあります。
社会人としてあるまじき遅刻により業務を滞らせ、多大なる迷惑をかけたことを深く反省しております。
今後は同じあやまちのないよう、早寝早起きを心がけ、余裕をもった出社を心がけてまいります。
今回に限り、お許し頂き、なにとぞ寛大な処置を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
20XX年XX月XX日に、私が顧客である○○氏より、「アルコール臭がするが、お酒に酔って接客しているのではないか」とのクレームを受けていたことを、顧客相談窓口の担当者より指摘されて知りました。
私は、同前日、友人の結婚式の二次会で楽しくなり、深夜3時まで飲み、仮眠後に出勤しましたが、バレないだろうと軽く考えていました。
今回の件を反省し、今後は、前夜の飲み会を早く切り上げ、身だしなみに気をつけて勤務してまいります。
顛末書の文例【テンプレート付】
顛末書の書き方にも、法律上のルールはありません。
ただ、顛末書は、トラブルの再発防止という重大な役割があり、事実関係をすみやかに、かつ、正確に伝えてもらう必要がありますから、会社で定形の書式を作成し、それにしたがって社員に書かせるほうがよいでしょう。
このとき、必要な事実ごとに記載欄を設けるとともに、どのように書けばよいか書式例などを示すのもおすすめです。
業種、業態によって、特に必要となる聴取事項を設けたり、マニュアルを作成したり、必要な記載事項についてできるだけ詳しく上司から指導させるのもよいでしょう。
この度の社用車による交通事故について、次のとおり顛末を報告します。
・発生時間、場所
20XX年XX月XX日、東京都中央区XXXX近辺交差点内部
・発生した事故
私が運転する車が、青信号で交差点内に進行中、車線変更した対向車が、自社の右前方部分に衝突。
・事故後の対応
すぐに車を路肩に寄せて警察を呼び、相手(・・・・)と交渉。
現在、保険会社との間で、物損の協議中です。
・今後の対策
私の側は青信号ではありましたが、前方不注視であった点は否めません。
今後も、常に周囲の状況に気を配り、安全運転を心がけます。
始末書・顛末書の提出を拒否されたときの対応
始末書や顛末書の提出を命じたとき、社員から拒否されてしまうことがあります。
このとき、会社側がどう対応したらよいか、3つのステップに分けて解説します。
始末書、顛末書などの提出を拒むのは、バツをつけられ、評価が下がると感じたり、反抗したいという気持ちからでしょうが、会社としてはトラブル事例の再発防止すらできないと、とても困ります。
しかし、始末書、顛末書の提出をきっかけに労使間の信頼関係が崩れつつあるとき、細心の注意を払わなければなりません。
提出を強く求めると、逆に社員側からパワハラだといわれ、争われるおそれもあるからです。
始末書・顛末書の重要性を説明する
始末書は、反省と謝罪の気持ちを含むため、「気持ちの強要」ができないのと同様、始末書の強要はできません。
会社の業務命令権によっても「謝れ」、「反省しろ」という命令はできないわけです。
これは、憲法で認められた「思想・良心の自由」を侵害してはならないことが理由。
なお、憲法上の権利といえど、他の権利・利益との調整を要するため、責任が重大であれば、譴責・戒告などの懲戒処分によって始末書を強制すべきケースもあります。
とはいえ、労働紛争による損失は大きいですから、まずは社員自ら問題を認識し、反省してくれるよう、始末書の重要性をよく説明し、理解を求めてください。
始末書は、責任追及の手段ではあるものの、まだ軽度の場面であり、決して辞めさせるのが目的ではありません。
社員のなかには「書いたらどうなるのか」、「始末書の次はクビなのでは」、「評価が悪化して出世に響くのでは」といった疑念から、ただ漠然と始末書、顛末書の提出を拒否しているケースもあるため、よく説明して不安を払拭すれば労働問題を未然に回避できます。
始末書の提出を拒否されたら、顛末書を命じる
始末書の提出を拒否されてしまったら、次に、顛末書の提出を命令します。
顛末書は、経過報告にとどまり、始末書とは違って反省・謝罪の意思は含みません。
そのため、顛末書であれば、強制しても、少なくとも憲法上の「思想・良心の自由」は害しません。
始末書と顛末書の違いから、始末書の提出を命じたが社員から拒否されたときに、「せめて顛末書だけでも書いてほしい」というように、顛末書の提出を命じるのは正しい対応です。
この方法だと、問題意識をもたせて反省・謝罪させることはできないものの、再発防止にはつなげることができ、会社として最低限の目的は達成できます。
このように最低でも顛末書は提出させておく手法は、再発防止に役立つのはもちろん、その社員が同じ問題を繰り返したときに「注意指導したのに改善しなかった」という証拠とし、より厳しい処分を下す助けにもなります。
顛末書の提出を拒否されたら、懲戒処分する
最後に、顛末書の提出させ拒まれたら、業務命令違反となりますから、懲戒処分を下すことができます。
顛末書は、会社に雇用された社員が当然に果たすべき報告義務の一貫だからです。
始末書はもちろん、顛末書ですら拒否するような社員は、今後も同様の問題を起こし続けたり、会社での活躍が見込めなかったりする例が多いもの。
注意指導し、教育をしても変わらないとき、懲戒処分など、より厳しい処分が必要となります。
懲戒処分には、軽度な順から譴責・戒告、減給、降格、出勤停止、諭旨解雇、懲戒解雇といった処分がありますが、問題の程度に応じて、相当性のある処分を選択しなければなりません。
「顛末書を拒否した」ということを理由にするなら、まずは軽度な譴責・戒告がよいでしょう。
業務命令違反を繰り返す社員を解雇するときは、次の解説も参考にしてください。
↓↓ 動画解説(約12分) ↓↓
始末書・顛末書を書かせるときの会社側の注意点
最後に、始末書・顛末書を書くよう指示するときに、会社側が注意しておくべきポイントを解説します。
注意指導は厳しく行う
始末書の提出を命じる場面では、社員になおさなければならない問題点があるわけです。
顛末書の場面でも、始末書の場面ほどに問題は拡大していないとはいえ、社員への注意指導が必要となります。
始末書・顛末書の提出を命じるとき、今後も活躍してもらうためにも、注意指導は厳しいものとなります。
事実の時系列が前後していたり、誤字脱字があったり、「である」調と「ですます」調が混在していたり、社会人として非常識な文体だったりするとき、書き方についても教育、指導が必要です。
また、提出期限を設け、遅れないよう催促を繰り返ししてください。
退職や解雇を焦らない
始末書、顛末書を書かせるような社員は、会社内で問題社員扱いされていることもあります。
しかし一方で、始末書や顛末書は、すぐに会社をやめてもらわなければならないほど重大な場面ではありませんから、会社に勤務を続けることを前提にしなければなりません。
あまりに厳しい注意指導をしたり、相当性のない懲戒処分にしたり、すぐに解雇したり退職を強要しては、逆に違法性を指摘されてしまいかねません。
「始末書を何枚とればクビにできるのか」という発想も健全ではありません。
むしろ、同じあやまちに対し、始末書を何度も書かせているだけで、懲戒処分など次の段階に進めていっていないのであれば、解雇までのプロセスを踏んでいるとはいえません。
まとめ
今回は、始末書と顛末書の違いについて、詳しく解説しました。
始末書と顛末書の区別は、労働者がするのではなく、労務管理を実効的にすべき会社が考えなければなりません。
違いをよく理解し、各タイミングでどちらの文書を命じるか選択できれば、適切な労務管理に役立てられます。
始末書と顛末書は、よく似た場面で利用され、文言も似ていて混同されがちですが、区別して使い分ける必要があります。
当事務所のサポート
弁護士法人浅野総合法律事務所では、企業の労働問題を強みとして取り扱っています。
始末書、顛末書の提出を社員に命じなければならない場面とは、問題社員対応へのスタート地点といえます。
始末書、顛末書を有効活用しても、なかなか問題点が改まらないとき、今後は解雇に向けた正しいプロセスを踏んでいかなければならないこともあります。
当事務所では、問題社員対応について、顧問弁護士として会社と伴走しながらサポートできます。
始末書・顛末書のよくある質問
- 始末書と顛末書の違いはありますか?
-
始末書と顛末書は、業務上のトラブルやミス、不祥事対応で活用されるという点は同じですが、そのなかに、再発防止とともに問題社員の非を追及するという意味合いを含むかどうかで区別されます。もっと詳しく知りたい方は「始末書と顛末書の違い」をご覧ください。
- 始末書の提出を拒否されたとき、どう対応したらよいですか?
-
始末書の提出は、社員の非を追及するという意味があるため、納得のいかない社員側から反発を受けることもあります。始末書の提出を拒まれたときに、せめて再発防止のため顛末書を出させるという対応がおすすめです。詳しくは「始末書・顛末書の提出を拒否されたときの対応」をご覧ください。