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弁護士 浅野英之
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所を経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を開業。
企業の労働問題について、豊富な経験を有する。

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入社祝い金で求人を集めるために企業側が知っておきたい法律知識

入社祝い金は、企業側が、良い人材を集めるために、求人の際に活用するお金のことです。

入社し、一定期間の勤続を果たしたなどの要件を満たす社員に、入社祝い金として決めた金額を約束することで、入社してもらうインセンティブを高める効果を狙います。
社員側でも、新卒や転職のタイミングは、引っ越しなども重なって支出がかさむため、追加で祝い金をもらえることは入社を決める大きな動機となり得ます。

入社祝い金は、企業にとって、求職者の興味関心を引くために広く利用されてきました。
しかし、職業安定法に基づく指針の改正により、2021年4月1日からは、求人サイト、転職エージェントなどの職業紹介事業者が入社祝い金を払うことは禁止となった点には注意してください。

今回は、会社側が入社祝い金を活用して求人を集めるために、知っておきたい法律知識を、企業の労働問題に詳しい弁護士が解説します。

この解説でわかること
  • 入社祝い金は、優秀な人材を獲得できるなど企業側にもメリットあり
  • 職業紹介事業者が入社祝い金などの金銭を払って勧誘することは禁止(2021年4月〜)
  • 入社祝い金を求人に活用するため、業界の相場、他社の動向を調査すべき
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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所を経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を開業。
企業の労働問題に豊富な経験を有する。

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入社祝い金とは

入社祝い金とは、企業への採用、入社が決まった際に支給されるお金のことで、入社へのインセンティブを上げるために活用されるものです。
「就職祝い金」と呼ぶこともあります。

主に、優秀な人材を積極的に採用したい企業において、入社祝い金が活用される例があります。
入社を希望する求職者に対して入社祝い金を払い、入社をしてもらいやすくすることは、転職エージェントなどに手数料をはらうよりも社員満足度が高く、結果的に、優秀な人材の採用、定着を図りやすくなります。

入社祝い金のしくみ

入社祝い金のしくみ
入社祝い金のしくみ

人手不足の企業ほど、採用には力を入れ、一定の費用支出はしかたないと考えることでしょう。
転職エージェントやヘッドハンター、転職サイトへの登録などで、相当な費用を払っている会社も多いもの。

このとき、求人を支援する外部のサービスにお金を払うよりも、就職して会社に貢献してくれる人に直接お金を払うことによって、入社をうながそうとするのが、入社祝い金のしくみです。
求職者としても、転職や就職にかかる費用の一部を補填できるメリットがあります。

なお、転職サイトや転職エージェントなどの職業紹介事業者が入社祝い金を払う例もありましたが、これは、会社から受け取る成功報酬を原資として成り立っており、次章の解説のとおり、現在は、法律で禁止されています。

職業紹介事業者による入社祝い金は禁止された(2021年4月〜)

職業安定法に基づく指針が改正され、職業紹介事業者による入社祝い金は、2021年4月1日以降、禁止されました。

この法改正は、求人市場の健全化が目的です。
厚生労働省のパンフレットの「求職の申し込みの勧奨は、金銭の提供ではなく、職業紹介事業の質を向上させ、それをPRすることで行ってください」という記載からもわかります。

厚生労働省「『就職お祝い金』などの名目で求職者に金銭等を提供して 求職の申し込みの勧奨を行うことを禁止しました」

従来は、職業紹介事業者が、高額の入社祝い金を広告・宣伝によりアピールするケースがありました。
その結果、紹介する求人の質、サービスの質がおろそかになる危険も。

同じ企業への求人が掲載されていても、求職者は、入社祝い金の一番高いサービス(つまり、一番値引きされたサービス)から入社を検討してしまいます。
これでは、結局のところ、企業から得た紹介料の一部を、求職者に返金するに等しく、サービスの質ではなく、値引き競争となってしまうと、法的に問題視されてしました。

入社祝い金を払う理由と、企業側のメリット

次に、入社祝い金を払う企業側の理由と、メリットについて解説します。

入社祝い金は、求職者にとっては、特にお金のかかりがちな転職のタイミングで、追加の支給を受けることができる点で大きなメリットがあるのは当然。
一方で、入社祝い金を払う企業側にとってもメリットが大きい制度です。

入社祝い金のメリット・デメリット
入社祝い金のメリット・デメリット

ただし、入社祝い金にはデメリットもあり、一長一短。
以下でも解説するとおりメリットとデメリットは表裏一体のため、入社祝い金の制度設計には注意して導入しなければなりません。

多くの求人応募を獲得できる

入社祝い金を支給すると、支給しない企業に比べ、多くの求人応募を獲得できるメリットがあります。

転職サイトなどで比較されたときも、就職活動、転職活動中における当面の生活費が保障されている会社のほうが魅力的に見え、多くの応募が集まることとなるでしょう。
入社後すぐに給与が払われるわけではない一方で、就職活動、転職活動では、交通費の支出、引っ越し費用など、求職者には多くの費用がかかるからです。

現在、人材が不足しており、できるだけ早く人材を確保したい企業、少しでも多くの社員を採用したい企業では、入社祝い金制度の導入がおすすめです。

一方で、デメリットとして「お金で人を集めている会社だ」と見られるおそれがあります。
このデメリットを解消するため、あまりに高額な入社祝い金を払うのは避けたほうがよいでしょう。

優秀な人材にアプローチできる

そして、多くの応募があれば、そのなかから、会社の側でほしい人材を選ぶことができます。
その結果、優秀な人材にアプローチできる点が、企業側のメリットの2点目です。

優秀な人材はどこでも欲しいもので、引っ張りだこ。
少しでも魅力を感じてもらうために、出し惜しみはいけません。
また、入社前後の経済面を支えてあげることで、社員に精神的な余裕をもってもらうことができ、業務に集中し、成果をあげやすい環境を提供することにもつながります。

求職者における評判がよくなり、優秀な人材が多く応募する会社となれば、企業イメージも向上します。
ただし、入社祝い金につられて入社した社員ばかりだと、離職しやすくなり定着率が下がるおそれもありますから、企業の強みを伸ばし、本質的な魅力を上げる努力もあわせて必要です。

即戦力の人材を採用したいと考える会社では、入社祝い金制度を導入することが、解決策の1つとして検討されます。

一方で、入社祝い金につられた社員がすぐに辞めてしまうと、かえって逆効果。
入社後に一定期間働くことを、入社祝い金の支給要件とする方法もあります。

入社祝い金の相場はいくら?

入社祝い金を、求人において最大限活用するためには、その相場を知る必要があります。
相場よりも少ないと、せっかく入社祝い金を払っても、求職者に訴求できず、あまり魅力を感じてもらえなくなってしまいます。

入社祝い金は、法律上の義務となっているわけではなく、会社が、自社の利益のために払うものです。
そのため、「入社祝い金は○○円以上払わなければならない」といったルールがあるわけではありません。

重要なことは、自社の属する業界で、他社が、だいたいいくらくらいの入社祝い金を払うのが通常なのか、競合調査をしておくことです。
これによって、他社と同じくらいの金額を払っておけば、少なくとも「入社祝い金の有無」という点で、求人・求職市場の競争で負けることはなくなり、あとは企業の本質的な魅力で勝負することができます。
人手不足で、採用競争が激しく、他社もみな入社祝い金を提案しているような業界では、特に他社の動向を注視しなければなりません。

一方で、あまりに高額とすると、入社祝い金目当ての社員が集まり、祝い金をもらったらバックレといったケースが増えると、定着率が下がってしまいます。
入社祝い金の趣旨からして、転職時に社員にかかるであろう引っ越し費用、スーツ代・靴代、採用面接のための交通費などといった負担をカバーする金額からあまりにかけ離れた額にしないよう注意しましょう。

入社祝い金制度の導入方法

入社祝い金を導入しようとするとき、メリットを活かし、デメリットを少しでも抑えるためにも、その導入方法については慎重に検討しなければなりません。
そこで、入社祝い金の導入方法について、3つのステップで解説します。

ひとたび導入した後では、すでに払ってしまった入社祝い金の返還を求めることは難しいですし、現在払っている入社祝い金制度をなくそうとすれば、労働条件の不利益変更となってしまったり、社員の不平不満が溜まってしまったりする危険があります。
そのため、最初に導入する際、制度設計について入念な検討を要します。

入社祝い金の金額・支給要件を決める

まず、入社祝い金の金額と、支給要件を決めます。

入社祝い金をもらったらすぐ辞めてしまうといった悪質な社員を防ぐため、支給要件を定めてください。
もらってすぐのバックレは、制度設計をきちんとすることで防げます。

適切な支給要件には、「入社後、○日勤務した場合」や「試用期間を経過し、本採用された場合」に支給することとする例があります。
あわせて、「対象期間の労働日のうち、90%出勤した場合に限る」といった条件付きとするのも有効。
採用強化期間中の、一時的なキャンペーンとして導入する企業もあります。

特にアルバイト募集のように、短期間の勤務となるおそれのあるとき、入社祝い金目当てに入社する社員を防がなければなりません。
求人を少しでも増やすため、「すぐに祝い金がもらえる」、「即日支給」などと宣伝する会社もありますが、入社祝い金目当ての応募が増え、長期的な目線でみると、良い人材が残りづらくなってしまいます。

入社祝い金を就業規則に定め、周知する

入社祝い金の趣旨が、労務の対価だとするならば、それは「賃金」(労働基準法11条)に該当するため、就業規則に定めが必要となります。
このとき、賃金については、就業規則の特則である賃金規程に定めておくのが通例です。

常時10人以上の社員を使用する事業場では、就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出る義務がありますが、この就業規則には必ず記載しておかなければならない「絶対的記載事項」があり、賃金は絶対的記載事項のなかでも特に重要な項目だからです。

そして、就業規則は、事業場に備え置いたり、データで保存して常時アクセス可能な状態にし、社員に周知しなければなりません。

入社祝い金の申請手続きを整備する

最後に、入社祝い金について、社員からの申請が必要な制度とするときには、申請手続きに必要となる書類を定めるなど、申請手続きを整備しておきます。
申請しなければ入社祝い金をもらえない制度設計とすれば、入社祝い金目当ての求職者を少しでも減らせます。

入社祝い金を支給する企業側の注意点

最後に、入社祝い金を支給する企業側で、注意しておきたいポイントについて解説します。

入社祝い金を払うとき、社員側ではあまり法律問題について関心がなく、「もらえて嬉しい」といった軽い気持ちしかないことも多いもの。
入社祝い金を払うことでかえって企業イメージを悪化させないためにも、法令遵守(コンプライアンス)には、入社祝い金を払う会社側が、きちんと配慮しなければなりません。

入社祝い金は課税対象か

入社祝い金が、課税対象となるかどうかは、その支払い方や意味合いによっても異なります。
税務の問題については、企業側がしっかりと検討し、入社祝い金の支払い時に、社員に指導しなければなりません。

入社祝い金が、入社後に発生する労務の対価という意味合いがあるときには、「契約金」となり、課税の対象となります。
このとき会社では、給与と同様に源泉徴収する必要があります。

これに対して、労務の対価ではなく、会社からの贈与であると見られる場合には、一時所得となるため、金額が50万円以下なら非課税となります。
多くの会社の制度設計では、入社祝い金はプレゼント的な意味合いが強いと考えられますから、20万円〜30万円程度の金額であれば、税金を払う必要はなく、源泉徴収も不要だということです。

公平な制度とし、平等に支払う

入社祝い金について、労働者側から「いつ支払われるのかわからない」、「入社祝い金がもらえるといわれたから入社したのに、いつになっても払ってもらえない」といった法律相談を受けることがあります。

入社祝い金を求人において入社のモチベーションにしてもらうためには、公平な制度が必要です。
「気に入った人には払い、気に入らない人には払わない」といった運用はひかえなければなりませんし、いつ、どんな条件で払われるかは、対象となる社員間で共通としなければなりません。

また、決まったルールを捻じ曲げるようなことがあると、社員の会社への信用を低下させます。
お金に関する情報は、社員間や、求職者間で情報共有されることを念頭に起き、平等性を意識しておいてください。

労働条件を改善し、入社後のギャップを減らす

入社祝い金は、求職者のインセンティブになりますが、入社祝い金が高すぎると、やはり入社祝い金だけが目当ての人材が集まってしまうことも。

雇用条件、労働環境などは、総合的に考えるべきです。
入社祝い金だけでなく、入社後の基本給や賞与、昇給の有無、残業代、労働時間が長すぎないかといった多様な点で、働きやすい環境づくりに努めるようにしてください。

高額な入社祝い金を払う一方で、長時間労働が横行しているにもかかわらず残業代を払わず、離職率が高いといった会社は、企業イメージが低下してしまいます。
せっかく採用できた社員も、入社時の印象がよすぎたあまりに、入社後にギャップがあるとすぐ辞めてしまうことも多くなってしまいます。

まとめ

今回は、入社祝い金に関する法律知識について、制度を導入する企業側の方に向けて解説しました。

入社祝い金は、求人応募を増やし、優秀な人材を確保するなど、採用競争を勝ち抜くためにとても有益。
しかし、メリットの裏返しはデメリットともなりうるため、導入時には慎重に考えなければなりません。

当事務所のサポート

弁護士法人浅野総合法律事務所では、企業の労働問題を得意とし、顧問弁護士として、多数の企業のサポートを担当しています。

企業のサポートをするにあたり、求人ないし採用の場面でも、弁護士のお手伝いできるシーンは多いもの。
企業が採用しやすくなるよう、入社祝い金を導入する場合の制度設計をはじめとして、法律面の整備をし、労働法違反の劣悪な労働環境にならないようアドバイスできます。

入社祝い金のよくある質問

入社祝い金が違法になることはありますか?

入社祝い金は、法律に定められた義務ではないので、企業の自由な設計に任されています。ただし、2021年4月1日以降は、職業紹介事業者が入社祝い金を払って転職サービスの勧誘をすることは禁止されました。詳しくは「入社祝い金とは」をご覧ください。

入社祝い金の相場は、いくらが目安ですか?

入社祝い金について法律上のルールがないため、必ずしも相場は明らかではありませんが、同業他社の動向を中止し、同程度に設定することで、採用市場を勝ち抜くことができます。もっと詳しく知りたい方は「入社祝い金の相場はいくら?」をご覧ください。

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