労働審判における解決金の相場

労働審判不当解雇(解雇・雇止め等)が争点となる場合、簡易迅速かつ事案に即した解決を実現するという労働審判の趣旨からして、退職を前提として会社が労働者に対して解決金を支払う調停成立にて終了となることが一般的といえます。

労働審判における不当解雇の調停では、解決金に一定の相場観があると言われています。

今回は、不当解雇の労働審判で調停の話し合いとなった場合、解決金の相場観はどの程度か、会社にとっての落としどころの判断基準として解説します。

ただし調停は話し合いであって相手の合意によるものであること、事案によって考慮要素が異なることから、ここで解説する相場通りとはならないケースも多いことにご注意ください。

不当解雇の解決金の目安

労働審判における不当解雇の解決金の相場の目安は、労働審判委員会の心証によって大きく異なります。

したがって、最終的には金銭解決であるという労働者の意思が最初から見え透いていたとしても、労働審判委員会の心証を有利にすべく、>適切かつ迅速な主張、証拠生理が重要となることは一般的な労働審判と何ら差異はありません。

労働審判における解雇解決金の目安は、労働審判委員会の心証に合わせて、概ね次の通り整理されます。

解雇が無効の場合

解雇が無効との心証を労働審判委員会が抱いた場合、給与の1年分程度が相場とされます。

この場合、就労していなかった解雇対象者に対して給与1年分を支払うことは非常に納得いかないでしょうが、労働審判委員会の心証が「解雇無効」である以上、この解決金の調停に納得いかない場合には、審判に対して異議申立をして訴訟で争うこととなります。

訴訟でも同様に解雇無効と判断され、同内容の判決が下ってしまった場合、今度は解決金の相場という話ではなく「解雇対象者の復職+解雇期間中の賃金支払い」ということになりますので、異議申立をして訴訟に移行するか否かは、訴訟での勝訴確立を慎重に検討して判断する必要があります。

解雇が有効な場合

解雇が有効であるとの心証を労働審判委員会が抱いた場合、労働審判における不当解雇の解決金の相場は、目安として給与の1~3か月分程度と言われています。

解雇が有効になる可能性が高いという心証であっても、労働審判の解決の妥当性、労働者保護という点から、会社側(使用者側)に一定の解決金の支出を求める労働審判委員が多いようです。

労働者側がこの解決金に合意する場合に、使用者側で解決金の支出をゼロにして解雇有効との審判をもらうかどうかは、その後異議申立をされて訴訟で再度争わざるを得ないリスクと比較して判断することになるでしょう。

もちろん、業務上で刑事事件を起こした等、非違行為の程度が甚だしい解雇ケース等の労働審判では、解決金がゼロとなることもあります。

労働審判で解決金が決まるまでのプロセス

合意退職を前提として解決金で解決する場合であっても、まずは第1回期日における事実認定が決定的に重要となることは、通常の労働審判と何ら変わりません。

第1回期日において、期日までに提出された主張書面、書証と、期日での両当事者から聴取した事実に基づき、労働審判委員会が評議をして心証を固めます。

その後、上記の通り心証に基づいた調停案の提案や心証開示がなされながら、両当事者が交互に労働審判委員会と情報交換をしつつ解決金の交渉を行うという流れが一般的です。

労働審判の解決金交渉で注意すべきポイント

労働審判の解決金は、調停という手続で決定されますが、調停とは「話し合い」が原則ですので、交渉と譲歩が必要となり、労働法の専門的知識は当然ですが、それ以外にも労働審判独特の駆け引きが必要となるケースがあります。

勝ち筋の場合、妥協はしないが強行は禁物

明らかに勝ち筋である場合には、安易な妥協は禁物です。労働者側が強行な交渉をしていることから、まとまる額であれば、という気持ちで相当高額な解決金を提案されることもありますが、譲歩すべきではないでしょう。

とはいえ、調停で成立させずに強硬策を採った場合、労働者の感情的なもつれは解消されず、仮に労働審判で会社に有利な結論を獲得したとしても、異議申立されて訴訟で再度争わなければならない

負け筋の場合、経済的合理性で判断

負け筋の場合、会社が労働者に対して相当額の解決金を支払うことによる調停・和解といった解決方法が一般的です。

また、労働審判の解決の合理性といった見地から、必ずしも負け筋でなかったとしても一定額の解決金を労働審判委員会から提示されることがあります。

この場合、仮に負け筋でなかったとしても、御社の人事労務管理に労働法上の問題点があった場合には、この段階で労働紛争を拡大させず、他社員にも波及効果を生まないことなど、解決金を支払って調停を成立させるメリットがあり得ます。

したがって、この場合には、労働法の法律・判例に照らして解決の方向性がどうなるかという見込みに加え、労働審判において円満に解決することが経済的に合理的であるかどうかという観点から、解決金支払いの有無を検討すべきです。

労働審判委員会には嫌われない

労働審判委員会の心証にかかわらず、会社があまりに強硬な姿勢を貫徹しすぎると、労働審判員会の事実上の心証を害する可能性があります。

調停を成立させずに労働審判において勝訴を獲得したとしても、その先に異議申立、訴訟があることを考えれば、円満な解決のために仲介しようとしている労働審判委員会の機嫌を害することは適切ではありません(もちろん、「譲歩せよ」という意味ではありません)。

労働審判委員会にも御社の立場、状況に理解を求めるという姿勢が重要です。労働審判は、制度趣旨として調停による円満解決を組み込まれた制度であることから、「円満な話し合いが困難であればあとは訴訟で争ってください」と言われて、経済的合理性のあるケースなのかどうかを判断して、態度を決めるべきです。

特に、労働者側からパワハラの主張がされている場合には、パワハラ気質の経営者であるという印象を抱かせないような審判の場での態度、振る舞いも重要となります。

労働審判では事実認定の材料が少ないことから、労働審判における態度、発言を含め、あらゆる資料が心証形成の材料とされる可能性があります。

まとめ

労働審判における解決金の相場は概ね解説した通りではあるものの、労働法の法律・判例に照らして労働審判委員会の心証形成が適切であるか、労働審判で解決せずに訴訟に移行した場合に経済的合理性があるかといった多くの観点から、方針決定をし、その方針に従った交渉を行うべきです。

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