労働審判(残業代請求)会社の主張すべき残業代減額の法理論6ポイント

労働審判で残業代を請求する労働者はますます増加傾向にあります。

会社の経営者、人事労務・総務担当者の皆さんの頭を悩ませているのではないでしょうか。

労働審判で残業代請求がされた場合、その解決は会社が一定の金銭を支払うことによる解決となるケースが多く、そのため適切な金額で落としどころを決めるためには、労働審判委員会に「不誠実な対応である」と思われる行為はできる限り避けるべきです。

残業代請求の労働審判を申立された会社が検討すべき6つのポイントを、検討すべき順序に合わせて解説します。

申立された未払い賃金(残業代)の内容の検討

まず、どのような種類の残業代を請求されているか検討します。

申立書の記載に従って労働者側の主張の法的構成を読み取ってください。

残業代は、法的には「割増賃金」といいますが、割増賃金には次の種類があり、それぞれ計算方法が異なります(計算方法は、法律で一定の規定があるものの、御社の導入している制度によっても異なります)。

労働審判申立のされた割増賃金(残業代)の種類に合わせ、適切な計算方法で正しく算出されているか検討します。

時間外割増賃金

労働基準法では「1日8時間、1週40時間」を法定労働時間と定め、これを超えて労働させる場合には、36協定を締結し、「時間外割増賃金」を支払わなければなりません。

時間外割増賃金の計算方法は次の通りです。

基礎賃金(月額) ÷ 1か月平均所定労働時間 × 時間外労働時間 × 1.25

また、中小企業の特例に該当しない限り、1週60時間を超える労働については「1.5倍」の割増賃金が必要です。

休日割増賃金

労働基準法では「1週に1日、若しくは、4週に4日」の法定休日を定め、この法定休日に労働させる場合には、「休日割増賃金」を支払わなければなりません。

休日割増賃金の計算方法は次の通りです。

基礎賃金(月額) ÷ 1か月平均所定労働時間 × 時間外労働時間 × 1.35

なお、法定休日の週休1日のみとすると1週の労働時間が40時間を超えるため時間外割増賃金も発生するため、週休2日(もう1日は所定休日)とする会社が多いです。

深夜割増賃金

労働基準法では、労働者の健康、安全の保護のため、「午後10時~午前5時」を「深夜」とし、深夜労働をさせる場合には、「深夜割増賃金」を支払わなければなりません。

深夜割増賃金の計算方法は次の通りです。

基礎賃金(月額) ÷ 1か月平均所定労働時間 × 時間外労働時間 × 1.25

なお、「深夜のみ労働をさせる」という会社でない限り、通常は深夜労働が時間外労働に該当することが多く、その場合には、時間外労働と深夜労働が重複して必要となる結果、「1.5」倍の割増率による割増賃金を支払う必要があります。

割増賃金の基礎賃金が適切か

割増賃金の基礎賃金の算出方法については、一定の規制が労働基準法施行規則に定められており、これに従う必要があります。

労働基準法の規定からは基礎賃金に算入する必要のない手当が基礎賃金に含まれて計算されていると、残業代は本来適正な額よりも高額になりますから、留意してください。

労働基準法施行規則21条では、次の手当ては残業代の基礎賃金には含まないと規定しています。

  • 家族手当
  • 通勤手当
  • 別居手当
  • 子女教育手当
  • 住宅手当
  • 臨時に支払われた賃金
  • 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

これは、労働者ごとの割増賃金の基礎単価が、その労働者個人の事情によって差別されるのは妥当ではないという配慮から設けられた規定です。

労働時間に争いがある

労働者が労働審判で提出してくる証拠を検討し、実労働時間が正しく算出されているかどうかを検討します。

労使間では情報力に格差があり、実労働時間を立証する証拠は会社側に偏在していることが多いため、労働者側の労働審判申立時の計算は、えてして概算(推定計算)となることが多いといえます。

したがって、会社が有している証拠によってより詳細な実労働時間の計算が可能な場合には、当該証拠を提出の上、再計算すべきです。

タイムカード通りの労働時間ではない場合の対応

タイムカードが存在する場合、労働審判では原則としてタイムカード通りの実労働時間であったという心証形成がされることが多いです。

そのため、労使いずれかがタイムカード通りではない実労働時間を主張するのであれば、客観的な証拠が必要となります。

使用者としては、タイムカードを使用している以上は、「タイムカードが実労働時間と異なる。」という主張は、「タイムカードを打刻してから業務以外のことをしていた。」という明らかな証拠がない限り、会社側の労務管理がずさんであったとの印象を抱かせることから、できる限りタイムカードと実労働時間を近似させるようにしましょう。

労働者側がタイムカード通りでない主張をするケース

労働者側が、タイムカードよりも多い実労働時間を主張する場合として、次のケースがあります。

  • タイムカードを労働者自身が押したことがない。
  • タイムカードは上司が勝手に押している。
  • タイムカードは事後的に偽造された。
  • タイムカードを定時に打刻してから残業をするよう言われている。

この場合、そのような事実を推定する証拠と、タイムカードに代わる実労働時間の証明資料の提出が労働者側からなされます。

会社側がタイムカード通りでない主張をするケース

会社側が、タイムカードよりも少ない実労働時間を主張する場合として、次のケースがあります。

  • タイムカードは労働者が勝手に押していた。
  • タイムカードを押してから仕事をせずに遊んでいた。
  • 仕事をせずに社内に残り、帰るときにタイムカードを押していた。
  • そもそも残業を命じたことがない。

      
           
しかしながら、「残業を命令していない」という主張は、無断の居残り残業に対する注意指導を適時適切に行うことを継続していなければ、黙示の残業命令があったものと評価されるおそれが高いため、事案に応じて主張を検討する必要があります。

タイムカードがないケース

タイムカードがないケースでは、労働審判において残業代の基礎となる実労働時間を証明しなければならない責任は第一次的に労働者にあることから、労働者が実労働時間を示す一定の証拠を提出することとなります。

しかし、実労働時間の管理をする義務が会社にあることから、会社側としても受け身の姿勢であってはなりません。

労働者側の証拠は、手帳、写真、メールといった、信用性のあまり高くないものしか残っていないことが非常に多いものの、使用者側で全く労働時間管理を行っていなかったという不適切な対応をしていたケースでは、労働審判ではある程度実労働時間が算出される可能性が高いでしょう。

残業代を支払わなくてもよい一定の場合に該当する

労働基準法では、残業代を支払わないことができる場合に関する規定があります。

例えば、次の要件にあてはまる場合には、残業代に関する規定の適用除外となるか、もしくは、残業代の一部を支払わなくてもよい可能性があります。

  • 申立人が管理監督者である。
  • 申立人が裁量労働制の適用対象者である。
  • 申立人が事業場外みなし制度の適用対象者である。
  • 申立人が変形労働時間制の適用対象者である。
  • 申立人がフレックスタイム制の適用対象者である。