労働審判(不当解雇)で主張すべき解雇無効の法理論6ポイント

労働審判で、「不当解雇」との主張をされた場合、会社が主張すべき法理論についてまとめて解説します。

労働審判の場合、多くのケースは仮に「解雇無効」との心証を労働審判委員会が選択したとしても復職しての就労は困難で、解決金を支払うことによる金銭解決によって合意に至ることがほとんどでしょう。

なお、あくまでも会社の解雇無効の主張として「検討すべき」という一覧であって、事案や申立内容、御社の実情に合わせて取捨選択の必要があります。

労働審判(不当解雇)の基本的考え方

「不当解雇」の労働審判とは、解雇が違法・無効であるから「労働者としての権利を有する地位を確認してほしい」と労働者が労働審判委員会に申し立てるものをいいます。

この場合、労働審判で柔軟な解決が可能とされており、「解雇無効により復職」「解雇有効により退職」の他に、「解雇の有効性は判断せず、解決金を支払うことによる金銭解決」という結論もあります。

むしろ、労働審判の場合は、お互いの譲歩が前提とされており、復職を前提とした解決は会社側が譲歩しないことから、退職を前提とした金銭的解決が、暗黙の了解となりつつあります。

解雇無効と主張するための考え方

日本の労働法制では「解雇権濫用法理」という会社による一方的な解雇を制限する考え方があること、長期的雇用慣行の中で、労働力の調整は異動、配置転換、残業命令等によって行うことを原則としていることから、会社の一方的解雇は無効とされる恐れが高く注意が必要です。

申立人を雇用していない

まず、「不当解雇」とされるためには、御社と当該労働者とが雇用契約を締結していることが必要です。そもそも御社が労働者との間で雇用契約を締結していない場合には、仮に継続的契約を終了したとしてもそれは「解雇」ではありません。

例えば、外注の請負業者の例を考えてください。

外注の請負業者は、御社との間で継続的な取引関係にありますが、雇用されているわけではないため、解雇権濫用法理等の労働者保護の法律・判例が適用されません。

雇用されていない場合には、解雇権濫用法理等の労働者保護法制が適用されないことから、民法の一般原則に従って、「期間満了」「債務不履行(就労態度に問題があることは債務不履行という主張となるでしょう)」等の理由によって契約を解約することができることになります。

労働者性に争いがある場合には、次の考慮要素を総合考慮して労働者性を判断することとなります。

使用従属性

  • 仕事依頼の諾否の自由があるか
  • 業務指示に対する諾否の自由があるか
  • 業務上の指揮命令がされているか
  • 時間的拘束性があるか
  • 場所的拘束性があるか
  • 労務の代替性があるか

報酬の労務対償性

事業性

専属性

特に、次のような労働者の場合、労働者であるかどうかが問題となり、継続的契約を打ち切ったことが「解雇」であるといわれるリスクがありますので、注意が必要です。

労働者性が争いになりやすい労働者

  • トラックのドライバー
  • 建築職人
  • 在宅勤務者

解雇ではなく自主退職である

解雇には合理的な理由と社会的相当性が必要ですが、退職強要に至らない退職勧奨は、基本的には会社が自由に行うことができます。

この退職勧奨の過程で、むしろ労働者の側から積極的に、これ以上の就労を継続する意思がない旨を示したことはないでしょうか。

このような場合には、解雇ではなく自主退職であったと主張することを検討すべきでしょう。

ただし、解雇通知書を出していたり、社長が「解雇だ!」と言ったことに対して労働者が売り言葉に買い言葉で「辞めてやる!」と言っただけに過ぎなかったりした場合には、この主張がかえって不利になることもあり、慎重な判断が必要です。

合理的な普通解雇である

解雇権濫用法理によって解雇が制限されているとはいえ、合理的な解雇、すなわち、合理的な理由があり、社会的に相当と評価される解雇は有効とされます。

普通解雇のうち、解雇権濫用法理に照らして合理的な解雇と評価される可能性が高いのは、次の場合です。

  • 無断欠勤が2週間以上続いている
  • 採用した際に限定して約束した能力や資格を備えていない
  • 複数回にわたって注意をしたが同じミスを繰り返す
  • 同じ理由で何度も懲戒処分を受けている

ただし、個別の事案に照らして普通解雇が認められるかは慎重に検討する必要があります。

なお、普通解雇の場合、必ずしも就業規則に解雇事由を全て詳細に定めておく必要はないものの、労働者の予見可能性を担保してトラブルを避けるため、就業規則に解雇事由を定めることが一般的です。

有効な懲戒解雇である

懲戒解雇は、解雇の中でも特に重大な処分であることから、「労働法における死刑」とも表現されます。懲戒解雇になった労働者は、その後の再就職が非常に困難となります。

その分、解雇権濫用法理を適用するにあたっても、懲戒解雇の合理性は非常に厳しく要求されます。

解雇権濫用法理に照らして、合理的な懲戒解雇と評価される可能性は次の場合です。

  • 殺人罪で逮捕された。
  • 業務で取り扱う金銭を横領した。
  • 程度の著しい非違行為を繰り返した。

ただし、個別の事案に照らして懲戒解雇が認められるかは慎重に検討する必要があります。

また、懲戒解雇の場合には、手続的な適正も結果に重大な影響を与えることから、懲戒解雇理由を労働者に対して丁寧に説明し、弁明の機会を与える必要があります。

必要に迫られた整理解雇である

会社の経営上の理由による解雇を、一般に「整理解雇」といいます。

整理解雇の場合、その労働者を解雇しないと会社の経営が立ち行かず破産に至るというケースもあるため、普通解雇、懲戒解雇等労働者側の事情を理由とする解雇とは、判断基準が少し異なります。

具体的には、次の整理解雇の4要件を満たす必要があるとされます。

整理解雇の4要件

  1. 経営上の必要性
  2. 解雇の必要性
  3. 人選の合理性
  4. 手続の適正性

この整理解雇の4要件に照らして、解雇が必要かつやむを得ないとされる場合には、整理解雇を有効であると主張することが可能となります。

解雇期間中に労働している

万が一、労働審判委員から解雇が有効であるとの心証を開示された場合には、少しでも会社が支払う金員を少なくする主張を行うことが考えられます。

労働審判における話合いで、労働者が復職を求めて譲歩しない場合、解雇が無効となると解雇期間中の賃金を支払わなければなりません。

これに対して、解雇期間中に労働者が就労していた場合には、一定の割合(6割を限度とする)で、その収入を解雇期間中の賃金から控除して支払うこととされています。

「6割」と定められているのは、会社側の理由による休業であった場合にも6割の賃金が支払われるため、その限度で労働者の収入を保証する趣旨です。

この中間収入控除の主張は、仮に労働者が合意退職を前提とした金銭解決を目指していたことが話し合いによって明らかになったとしても、解決金について会社に有利な結論を獲得する際の交渉カードとなります。

まとめ

以上、労働審判において労働者が「不当解雇」であるとして解雇無効を主張してきた場合に、会社側が主張できる理由をまとめて解説しました。

労働審判となった場合、これらの理由の中から適切なものを選び、証拠を迅速に揃える必要があります。

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