部下がミスを犯した場合、ミスの大きさにもよりますが、次のような業務に致命的な影響が出るミスの場合、監督をすべき義務のある上司の怠慢に責任があるのではないかと考える経営者の相談は後を絶ちません。

  • 重要な顧客に対して失礼な対応をとってしまう。
  • 発注書の数値の桁を間違えてしまった。
  • 重大な企業秘密を競合企業にメール送信してしまった。

しかし、感情的にカッとなって処分を決めるのではなく、労働法的に上司の責任が認められるか、処分の有効性が認められるかを適切に判断して決定すべきです。

今回は、部下が大きなミスを犯した場合に、その当人を処分することはもちろん、監督すべき義務のある上司の責任を追及し、懲戒処分とすることが許されるかという相談をした経営者の例を見ながら、解説していきます。

相談内容

部下が不祥事を起こしたケースについて、上司を懲戒処分とすることを検討しています。重い懲戒処分を下すことによって管理責任を全社的に周知徹底することが目的です。

どの程度の処分が適切でしょうか。部下の処分とどちらを重くすべきか、懲戒解雇等の退職を前提とした処分は可能かどうかなど、詳しく教えてください。

部下のミスを理由として上司に対して懲戒処分等の責任追及を行うことは可能です。ただし、通常の懲戒処分と同様、就業規則に合理的な理由と内容が定められ、懲戒処分に社会的相当性がなければなりません。

ただ、懲戒解雇は非常に重大な処分ですから、懲戒解雇を検討される場合には、それに値する重大な過失があったか否かを慎重に検討してください。

部下のミスについて上司の責任を追及する場合、懲戒処分の量刑を決めるにあたっては、上司の過失の程度を重要な考慮要素とすべきです。

部下の不祥事を容易に発見可能であり、回避できた状況であったにもかかわらず、適切な監督を行わなかったことによって不祥事を容易に行わせてしまったという場合には、重い処分が可能でしょう。例えば、次の裁判例では懲戒解雇を有効としています。

関西フエルトファブリック事件(大阪地裁平成10年3月23日判決)

この裁判例では、経理担当者の横領について、その上司である営業所長を懲戒解雇としたことにつき、懲戒解雇の有効性が争われた事件です。

判決では、経理担当者の給与に比べて羽振りの良い派手な生活状況を目にしていたことから、管理・監督義務の違反があったとして、「重大な過失により会社に損害を与えた」場合に該当するとして、部下の不祥事を理由とした上司の懲戒解雇を有効と判断しました。

この裁判例では懲戒解雇も有効という結論が出ましたが、通常は、自分自身の不祥事ではない場合に管理・監督義務の違反のみを理由として懲戒解雇を行うのは、上司に対して過酷な処分であると考えます。

通常期待される程度の監督を行っていたけれども、部下が巧妙に監視の目を擦り抜けて不祥事・ミスを犯した場合にはそもそも上司の責任追及はすべきでないですし、軽度の義務違反に留まる場合には、懲戒処分の量刑についても譴責・戒告といった軽度のものに済ませるべきでしょう。

懲戒処分の量刑における考慮要素

部下の不祥事について上司に対する懲戒処分の量刑を考えるにあたっては、次の考慮要素を参考に軽重の判断をしてください。

  • 管理・監督義務の懈怠の程度
  • 上司の地位、職責
  • 過失の重さ、故意の有無
  • 発見後の事後対応の速さ
  • 過去の同種事例に対する処分の基準
  • 規範意識が欠ける程度
  • 業務態度、会社への貢献の程度

当然ながら、部下の不祥事に積極的に加担したり、故意に見逃したり、見逃したことによってキックバック等の利益を得ていたりといった悪質性の高い場合には、懲戒解雇も検討すべきでしょう。

まとめ

懲戒処分は、労働者の非違行為に対する制裁行為ですから、その責任がどの程度であるかを冷静に見極めて量刑を判断する必要があります。

決して一時の感情に任せて懲戒解雇を強行することがあってはなりませんし、適正な手続に則って弁明の機会を付与する必要もあります。

非違行為を起こした労働者や、それを管理・監督する義務のある上司に対して懲戒処分の有無及びその量刑を検討される際は、労働法に詳しい専門家の第三者的な視点からの客観的な意見が有用です。

労働問題・企業法務のお悩みは、弁護士へご相談下さい!

労働審判、団体交渉、就業規則、問題社員への対応など、使用者側の労働問題は、経験とノウハウが重要な、非常に難しい法律分野です。

会社を経営していくにあたり、労働者との交渉は避けられませんが、一度トラブルとなれば、致命的ダメージとなるケースもあります。弁護士に頼らずに社長自身で解決するとなると、莫大な時間とエネルギーが必要です。

労働問題に特化した解決実績の豊富な弁護士が、労働法を使って会社を守り、継続的に発展していく方法について、詳しく解説いたします。