労働契約を解消する方法の中には、辞職、合意退職などの労働者の意思の介在するものから、普通解雇、懲戒解雇、雇止めといった、会社の一方的な意思表示によるものがあります。
この中でも、労働契約解消の基本は合意退職です。
すなわち、労働契約は、労使間の合意によって成立するものですから、労働契約解消の基本も、労使双方の合意による解約にあると考えます。
そして、労働問題トラブルを回避するためにも、合意退職を原則として考えた方がよいでしょう。
会社の一方的な意思表示による普通解雇、懲戒解雇は、会社にとって、行うのは楽ですが、解雇した後のトラブルを切り抜けるために多大な時間的、金銭的コストを支払うこととなるおそれがあります。
会社の一方的な意思表示によって、労働者を強制的に会社から追い出すということになれば、労働者にとっては、その生活を根底から覆されるtこととなり、その唯一の収入源を失うこととなります。
賃金を収入源の柱として生活の計画を立てていた労働者にとっては、自分だけでなく家族の生活の維持すら困難となり、路頭に迷うこととなります。このような窮地に陥った労働者の行う労働審判、訴訟では、会社は非常に不利な状況に立たされざるを得ません。
今回は、懲戒解雇、普通解雇を検討している場合に、まずは退職勧奨による合意退職を検討すべきである理由を解説します。
解雇によって労働者が負うダメージは大きい
解雇によって労働者が負うダメージは、会社が想像する以上に大きいことに配慮すべきです。
会社にとって労働者の解雇はそれほど苦ではなく、労働者が一人いなくなったからといって会社の経営が立ち行かなくなることは考えられません。これに対して、労働者は、一つの会社に解雇とされてしまうと、生計の維持が困難となり、生活が立ち行かなくなるおそれがあるのです。
会社の一方的な解雇によって労働者が被るダメージには、次のようなものがあります。
- 賃金という主要な収入源が失われる
- 定期的な収入を基礎としていた住宅ローンが払えなくなる
- 定期的な収入によって計画していた子育て、教育などの家族計画が狂う
- 会社の寮に居住していた場合、職と共に住居を失う
この解雇による不利益は、長期雇用、終身雇用を前提として新卒から採用、入社させている大企業であればある程、大きいものとなることが予想されます。
したがって、日本の伝統的大企業に近付く程、解雇は制限されやすく、裁判においても不当解雇と判断されやすくなります。そこでは、労働者の生活に及ぼす悪影響の大きさは、解雇権濫用法理における社会通念上の相当性が解雇に存在するのか、という論点で問題となってきます。
特に懲戒解雇は「死刑」に等しい
普通解雇ですら、上記の不利益が大きいわけですが、懲戒解雇となると、労働者に及ぼす不利益は更に大きいものとなります。
「普通解雇よりも懲戒解雇の方がハードルが高い。」ということは、きちんと理解しておいてください。そのため、懲戒解雇は、普通解雇に比べて、会社に更なる慎重さが求められます。
懲戒解雇は、労働者の再就職の道すら絶つ可能性の高い、非常に厳しい処分です。すなわち、ある会社で懲戒解雇となった労働者を採用する会社はいないためです。
近時のコンプライアンス重視の社会的風潮の中、業務上のミスや不祥事に対して懲戒解雇を乱発しようとする会社もありますが、妥当ではありません。
また、他社員への示しや、当該社員に対する制裁という意味で、懲戒解雇や、退職金の不支給・減額といった処分を行う会社がありますが、「会社を退職させる。」という目的を達成するためであれば、普通解雇でも目的達成には十分です。
これを越えて、制裁としての意味を強調するためだけに行うには、懲戒解雇のハードルは思いのほか高く、労働審判や訴訟において争われ、会社に不利な結論となるおそれがあります。
労働問題を回避するための退職届
会社が、労働契約の解消をめぐって労働者との間で労働問題とならないためには、労働者が耐えがたい不利益を与えて追い詰めないことが重要です。
普通解雇となったり、ましてや懲戒解雇となれば、この先の将来のことを考えれば、勝ち目が多少薄かったとしても、労働者としては労働審判や訴訟を起こさざるを得ず、労働問題は円満には収まりません。
やはり、労働者自らの辞職、合意退職によって労働契約を解消することが、トラブル回避の最善の手段です。
これは、解雇理由があり、解雇が有効であると裁判所でも判断される可能性が高い場合であっても同様です。
たとえ解雇理由があったとしても、労働問題の回避のため、まずは解雇理由を労働者に対して丁寧に説明し、退職届を提出してもらうことによって円満に退職してもらうべきです。
この際、口頭での説明では、「言った、言わない」といったトラブルを招く可能性がありますから、解雇理由を具体的に記載した解雇理由書を作成の上で労働者に提示し、労働者からの退職の意思表示も、退職届、退職願などの書面の形式で行うべきです。
解雇理由書の適切な記載については、企業の労働問題に強い弁護士へご相談ください。
退職届を取得するための説得活動
解雇理由が存在する場合には、これを解雇理由書にまとめて労働者に読ませるようにします。
その上で、このまま退職の意思表示をしない場合には、解雇理由書通りの理由によって解雇となるが、退職届を記載することによって退職の意思表示をする場合には、解雇とはしない旨を伝えます。また、この際、退職届提出の期限を伝えるようにします。
なお、解雇理由が存在しないにもかかわらず、将来解雇することがあることを示して退職勧奨を行うことは違法であり、折角得た退職届すら無効となりかねません。
退職勧奨をする際には、まず解雇理由をきちんと精査し、退職の意思表示を拒絶された場合には、同内容で直ちに解雇通告ができる程度にまで練り上げるようにしてください。
労働契約の解消という効果が同じなのであれば、労働者の意思表示によって合意退職、辞職が実現するのであれば、労働問題トラブルを抱えやすい解雇はできる限り避けるべきです。
解雇後であっても説得活動は継続
労働者が退職勧奨を拒絶し、やむを得ず解雇の意思表示に踏み切った後であっても、退職届を取得できるのであればそちらの方が円満であり、問題化しづらいのは間違いありません。
したがって、解雇の意思表示をする際にも、解雇となったことを伝えると共に、退職届を直後に提出する場合には、解雇は撤回される旨を伝えておきましょう。
退職勧奨のときは、「解雇まではされないのではないか。」とか、「徹底的に争ってやる。」と考えていた労働者も、解雇理由を丁寧に示して解雇の意思表示をすることによって、冷静になり、解雇となっても仕方ないと考えなおすこともあり得ます。
労働者としても、いずれにしても会社に在籍し続けることが不可能なのであれば、解雇となるよりは自主退職、合意退職の方が将来のダメージが少なくなることが明らかです。
退職勧奨の適切なやり方は、交渉事ですからケースバイケースであるといえます。退職勧奨をお考えの会社は、企業の労働問題に強い弁護士へご相談ください。
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