新卒社員従業員一括採用能力不足普通解雇解雇方法注意点会社側労働問題弁護士東京

会社が社員を、「能力不足」を理由に解雇する場合には、会社と労働者との間で締結された雇用契約上で、あらかじめ労使が約束していた能力が、労働者に足りていないことが必要となります。

解雇とは、労働契約の債務不履行によって、会社が一方的な意思表示によって、労働者との間の労働契約を解消する行為をいうわけですが、この「債務不履行」とは、約束された債務を労働者側が履行していないことを指します。すなわち、雇用契約で約束された能力が不足しているということは、労働者が、雇用契約を締結したことによって負う、労働を提供する債務を、満足に履行することができなくなったことを意味するのです。

そして、その能力不足、すなわち債務不履行の程度は、これ以上労働契約を継続できなくなったという程度のものである必要があります。能力不足が発覚したとしても、注意指導などによって、近い将来に改善が見込めるのであれば、仮にこの能力不足が労働契約の債務不履行であるとしても、労働契約の解消、すなわち解雇をするほどのものではないと考えられるからです。

雇用契約を締結する際には、会社が労働者に求める能力は、労働者の業務内容、職種、賃金などの労働契約の内容によって異なります。そのため、労働契約上の債務不履行となって会社が労働者を普通解雇にできる「能力不足」のハードルも、個々の労働者、個々の雇用契約ごとに異なるということです。

今回は、新卒入社の社員を、「能力不足」を理由として普通解雇する場合に、会社が注意しておくべきポイントと、解雇の方法を解説します。会社としては、解雇は最も労働審判、団体交渉などのトラブルを招きやすい行為ですから、事前準備をきちんと行い、労働法に則って行わなければなりません。

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新卒社員に期待される「能力」とは?

どのような雇用契約であっても、会社は労働者に対して一定の能力を期待しているわけですが、会社が労働者に対して「どのような種類の能力を、どの程度期待しているか。」は、雇用契約の内容によって異なります。

雇用契約で期待される能力の決め方【解雇前の調査】

雇用契約の中で期待される能力は、会社が労働者に対して募集要項などで求め、これに対して労働者が答える形で話し合いが進み、最終的には労使の合意で雇用契約を締結し、その内容において決定されます。

そのため、「雇用契約によって会社が採用時にどのような能力を期待したか」、言い換えれば、「どのような能力を持っていなければ解雇できるか。」は、雇用契約の内容を解雇前に精査することで調査しておかなければなりません。これは、雇用契約の内容の特定をしなければならないということです。

雇用契約で期待されていた能力を調査するためには、まずは雇用契約書の文言を解釈することが最重要です。しかし、雇用契約書の文言からは期待される能力が曖昧であったり、(不適切なことですが)そもそも雇用契約書が存在しなかったりといった場合には、客観的な証拠から雇用契約の内容を明確に証明することが困難なケースもあります。

このような証拠が不足するケースであっても、雇用契約自体は存在しますから、その内容を調査するためには、雇用契約前後の事情、メールのやり取り、募集要項などの諸事情を考慮して、雇用契約において期待されていた能力を判断することとなります。

新卒社員であっても一般に要求される能力

では、雇用契約書などの証拠によって調査をした結果、新卒社員の雇用契約では、どのような能力が期待されていることが一般的なのでしょうか。

この点、どのような労働契約であったとしても、次のような一般的な能力をある程度有していることは期待されているのが普通であるといえます。つまり、これらの一般的な能力すら持っていないとすれば、能力不足を理由として普通解雇をすることを検討する段階にある問題社員だということです。

雇用契約一般に期待される能力
  • 社会人としての最低限のマナー
  • 学歴に見合った最低限の一般常識
  • レポート作成程度のレベルのパソコン処理能力

以上の能力は、新卒社会人であったとしても、大学などの教育課程で当然身に着けているべき能力であるし、ましてや中途採用であれば、当然有している能力です。ですから、これらの能力すらないということになれば、能力不足での解雇もやむを得ないでしょう。

ただし、これら一般的な能力は、採用面接の段階である程度判断可能なものですから、会社としては、「入社して初めて知った。」ということにならないよう、採用段階での慎重な選考が必須です。例えば、次の方法で、一般的な能力が最低限備わっており、能力不足による普通解雇の対象となる社員でないかをチェックすることができます。

最低限の一般的に期待される能力のチェック方法
  • 採用面接の前後に、新卒就活生と雑談をすること
  • 採用前の段階で、新卒就活生とお酒を交えた食事をすること
  • 履歴書の誤字脱字をチェックすること
  • 簡単なレポートの提出を求めること

したがって、マナー、一般常識、パソコン能力といった最低限の能力が、入社した後で能力不足が発覚したというのは、採用段階で回避できた労働問題である可能性が高いです。

新卒社員であれば専門的能力は理由にできない

これに対して、特定の業務を行うための専門的能力については、新卒社員の場合、そもそも雇用契約書でその能力を有していることが前提となっていないことの方が多いのではないかと思います。

というのも、新卒社員は、まだ職歴がなく、大学などでの教育しか受けたことがないわけですが、職種にもよりますが一般的には、「大学で受けた勉強など、社会では役に立たない。」との前提のもとで、会社内で仕事を通して教育する、いわゆる「OJT(On The Job Training)」を行うのが、日本の一般的なやり方となっています。

ただ、専門職の場合には、大学で受けた教育によって専門性が保証され、このような専門的な能力を有することが、雇用契約の前提となっている場合もあります。例えば、次のような場合です。

専門的能力が雇用契約の前提となるケース
  • 医師・弁護士・教員など、教育課程において資格を取得することが、雇用契約の前提となっている場合
  • プログラマー、SEなど、大学で専門的な教育を受けていることが、雇用契約の前提となっている場合

以上の場合には、特定の専門的能力が欠ける場合には、新卒社員であっても、能力不足による普通解雇がある程度ゆるやかに認められる可能性があります。

なぜ新卒社員は能力不足で解雇するのが難しいのか

日本の伝統的な労使関係では、新卒一括採用で、ジェネラリストとして、正社員の雇用形態で採用される場合には、会社は、主として労働者が学歴や学校での成績をもとに、就活生の能力を判断して内定を出します。

この際には、「学歴が高い=一般的な能力が高い人が多い。」という前提の下で採用しますので、特定の業務を行う専門的能力があるかどうかは、採用の際の判断の対象となっていません。採用の際に前提とされていない能力は、雇用契約の内容ともなっていないわけですから、その能力が欠けているからといって、能力不足を理由に普通解雇をすることはできないのが道理です。

そして、新卒社員が正社員として一括採用される場合には、それぞれの労働者がどのような部署に配属され、どのような業務を行うかも、採用段階では特定されていませんし、したがって、その業務を行う特定の能力というのも特定されてはいません。このことからも、労働契約の前提として能力が要求されていないことが理解していただけるでしょう。

新卒社員の能力は、入社後の社員教育や、人事異動によって培われた経験によって徐々に身に着け、磨いていくこととなります。

この考え方は、次のように裁判例にも表れています。

エース損害保険事件(東京地裁平成13年8月10日決定)
長期雇用システム下で定年まで勤務を続けていくことを前提として長期に渡り勤続してきた正規従業員を勤務成績・勤務態度の不良を理由として解雇する場合は、労働者に不利益が大きいこと、それまで長期間勤務を継続してきたという実績に照らして、それが単なる成績不良ではなく、企業経営や運営に現に支障、損害を生じ又は重大な損害を生じる恐れがあり、企業から排除しなければならない程度に至っていることを要し、かつ、その他、是正のため注意し反省を促したにもかかわらず改善されないなど、今後の改善の見込もないこと、使用者の不当な人事により労働者の反発を招いたなどの労働者に宥恕すべき事情のないこと、配転や降格ができない企業事情があることなども考慮して濫用の有無を判断すべきである。

新卒社員を能力不足で普通解雇する際の注意

以上のことから、原則としては新卒社員を能力不足で普通解雇できる場合というのは非常に限定的に考えられており、すぐに普通解雇に踏み切るのは会社にとって非常に危険な行為であるといえます。労働者から、労働審判、団体交渉などの労働トラブルを起こされた場合には、会社に不利な解決とならざるを得ないことが十分に予想されます。

そのため、どうしても新卒社員を能力不足で普通解雇にせざるを得ないという場合であっても、会社側としては、次の点に注意して進めてください。

「懲戒解雇」ではなく「普通解雇」

懲戒解雇とは、企業秩序遵守義務に労働者が違反した場合に、その制裁として行われる解雇です。

これに対し、普通解雇は、労使間の信頼関係が破壊されたことを理由に、会社側が行う雇用契約の解消です。

そして、解雇は懲戒解雇であれ普通解雇であれ、解雇権濫用法理の制限を受け、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当出ない限り無効とされるわけですが、一般的に、懲戒解雇の方が普通解雇よりも、会社に厳しい判断が裁判所から下される可能性が高いとされています。

新卒社員の「能力不足」は、企業秩序を侵害するような行為ではなく、単に労使間の信頼関係を損ねるのみのものです。したがって、相当悪質な行為を伴う場合でない限りは、懲戒解雇を選択することは妥当ではありません。これは、労働トラブルの未然防止という点からもいえるでしょう。

雇用契約を継続しながら解決できないか検討する

新卒社員を能力不足によって解雇する場合に、新卒入社の際に予定されていなかった能力を理由に解雇することがなぜ困難なのかといえば、日本の伝統的な労使関係においては、OJTなどの方法によって会社内で、雇用契約を継続しながら解決していく問題だと考えられているからです。

新卒社員に能力が不足していると考えた場合に、会社が解雇に先立って考えなければならない対策は、次の点です。

新卒社員の能力不足への対応
  • 直属の上司からの教育
  • 口頭・書面による注意指導
  • 雇用契約の継続を前提とした懲戒処分(譴責・戒告など)
  • 配置転換、部署異動

したがって、これらの雇用契約の継続を前提とした対処法が、どうしてもうまくいかない場合や、企業の性質、規模からして不可能である場合に限って、新卒社員を能力不足で普通解雇にできると考えた方がよいでしょう。

新卒社員であっても要求される能力が不足しているかを検討する

とはいえ、採用段階での選考が十分でなかったことから、明らかに問題があると考えられる新卒社員を発見してしまうこともないわけではありません。

その場合には、新卒社員であっても、マナー・常識・礼儀といった一般的な能力は、最低限は当然備わっていてしかるべきであることから、その問題社員の不足する能力が、これら新卒社員であっても当然に要求されている能力ではないかどうかを検討してください。

まとめ

以上の通り、新卒社員を、能力不足を理由として普通解雇することのハードルは非常に高く、限定的に考えるべきです。

とはいえ、会社は解雇を怖がるべきではなく、いざというときには断固たる決意を示さなければならないケースも少なくありません。ただし、リスクを理解し、普通解雇よりも事前にきちんと準備をして進めなければなりません。

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