会社指示違反労災事故

建設現場は常に危険がつきものですから、労働者が危ない目にできる限り遭わないように、建設会社としては細心の注意が必要となります。

万が一、建設会社の労働者に対する安全教育が足りず、労働者が労災事故に遭ってしまったという場合には、会社は安全配慮義務違反の責任を負い、労働者またはその遺族から、損害賠償請求を受けることとなります。

会社が尽くすべき安全教育は、労働安全衛生法や政令に、詳しく記載がありますので、これが最低限の水準となります。

しかし、建設業界には、様々な種類の労働者がいます。経験と勘だけで素晴らしい仕事をする一方、非常に頑固な職人もいます。

会社が安全に関する教育をし、厳しく指導をしたとしても、これを気にも留めず仕事をする職人もいるでしょう。

労働者の自由に任せておいて問題が起こらないうちは、会社の責任は表面化しませんが、いざ労災事故に発展してしまった場合には、会社に不利な解決となりかねません。

今回は、建設現場の労災事故について建設会社の責任と、会社の指示に違反して安全措置を講じない労働者に対する適切な対応を解説します。

建設会社の指示に反して安全措置を高じない労働者のケース

ご相談内容

当社は、建設関係の二次下請け業務を主に請け負っており、社員数10名程度の小さな会社です。

当社では、二次下請け業務を遂行するために、1現場ごとに何人かの職人を、いわゆる一人親方という形で請負契約して、業務を委託しています。

経験豊富なある職人が、先日、高所作業中に、ヘルメットも安全帯もせずに作業をしているのを発見しました。

当社では、ヘルメット、安全帯を整備し、高所での作業中は労災事故を避けるために必ず着用するよう教育、指導していましたが、監督が行き届かない中で違反行為が横行していたようです。

一人親方であって、当社の従業員でもなかったことから、現場での当社の監督者からの指示も不十分であったようです。

発覚した直後、さっそく会社の責任者が呼び出し、注意指導をしましたが、「作業の邪魔になる。」「普段から慣れているから、大したことはない。」と反論するのみで、ヘルメット、安全帯の着用を、その後もせずに働き続けているようです。

会社に安全配慮義務があることは理解しているのですが、教育、指導を十分すぎるほど行ってもなお、労働者が指示に違反してしまう現状をどのように対応すればよいのでしょうか。

弁護士の回答

ご指摘の通り、建設会社では、危険が常につきまといますが、建設現場で工事中に起こった事故は、労災事故となり、会社の安全配慮義務違反の責任が生じます。

この会社の安全配慮義務違反は、雇用契約でなければ発生しない、というものではなく、請負関係にある一人親方に対しても安全配慮義務が発生する可能性があります。

御社が建設現場を監督しているのであれば、一人親方の労災事故であっても、御社の責任となる可能性がありますから、十分な注意が必要です。

このことは、従業員が会社の指示に違反する業務遂行を行っていたとしても、それが業務上の行為である以上、会社に責任が生じると言わざるを得ません。

そのため、会社の指示に違反して安全措置を高じない従業員に対しては、そのまま業務を遂行させることはできず、口頭での指示に従わないのであれば、書面による注意指導、懲戒、配転、最悪の場合には解雇といった厳しい処分を検討していく必要があります。

そのまま放置しておいては、いざ事故となったときに御社のリスクとなりますから、早めの対応が必要です。

会社からの注意指導では効果が薄い場合には、企業の労働問題に強い弁護士に依頼するとよいでしょう。

一人親方に対する請負であっても安全配慮義務の対象

労働者を業務に従事させる際に、その生命、身体、健康の安全な状態で労働できるよう配慮する義務が、安全配慮義務です。

典型的には、会社が雇用している労働者に対する義務を意味しますが、雇用契約の場合だけに限定されているわけではありません。

安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係となった当事者間に発生する義務であって、必ずしも雇用に限らず、請負契約によって生じる場合もあります。

特に、会社が建設現場を監督しており、その安全を支配している場合には、請負であろうと雇用であろうと、その建設現場で業務中に起きた事故については、会社の安全配慮義務への違反が問われることとなります。

指示違反の労働者への労基署からの指導、刑事罰も

労働安全衛生法は、労災事故の防止のため、危害法師基準の確立、責任体制の明確化などの措置を会社に講じさせることが第一次的な目的です。

会社側に安全措置の徹底を義務付けることによって、快適な職場環境を維持し、労働者の健康と安全を守る、というわけです。この趣旨にしたがい、労働安全衛生法及び政令において、会社の守るべき健康と安全に関する義務が具体的に列挙されています。

しかし、会社が安全教育を徹底したにもかかわらず、労働者が会社の指示に違反したことによって、労働者の健康と安全が脅かされる場合があり、労働安全衛生法はこのような従業員の違反行為に対しても処罰を規程しています。

労働安全衛生法26条
労働者は、事業者が第20条から第25条まで及び前条第1項の規定に基づき講ずる措置に応じて、必要な事項を守らなければならない。
労働安全衛生法120条
次の各号のいずれかに該当する者は、50万円以下の罰金に処する。

① ~(中略) 第26条 (中略)~の規定に違反した者

したがって、労働者自身も、会社と同様、安全に十分配慮しなければならず、これに従わないときは、法令への違反として、労働基準監督署の監督官が、労働者に対して是正勧告を行うこともあり得ます。

指示違反が労災につながる場合に備えた対応

以上の通り、労働者にも責任がある場合には、指示違反をした労働者に対しても、注意指導、勧告、刑事罰といった可能性はあるものの、非常に例外的なケースです。

基本的には、労働基準監督署の監督官は、会社の責任で安全措置を講じるように行政指導をするのが一般的です。

したがって、会社の指示に違反した結果、その労働者が労災事故に遭ってしまった場合には、会社に対しては、労働安全衛生法違反送検されるおそれがあります。

確かに、労働者の指示違反が原因ではあるものの、注意指導を受けながら、更に労働者を違反状態で働かせていたこと自体に、会社の責任が認められてしまうおそれが非常に高いです。

したがって、会社としては、労働安全衛生法違反の状態を継続しないよう、労働者が指示に違反して安全措置を高じないことを発見した場合には、次の順序で対応します。

  1. 口頭での注意指導
  2. 書面での注意指導
  3. これ以上労働安全衛生法違反を継続しないという誓約書
  4. 懲戒処分
  5. 危険の生じない業務への配置転換
  6. 解雇

どの程度の処分とするかは、個別具体的な事案と労働者の性質によって変わります。

労働安全衛生法の遵守状況に不安がある場合には、企業の労働問題に強い弁護士へご相談ください。

労働問題・企業法務のお悩みは、弁護士へご相談下さい!

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