飲食店店長管理職固定残業代適切

飲食店、特に多くの店舗をチェーン店として経営する場合には、その核店舗の店長の役職に就かせた従業員の処遇には十分な注意が必要です。

特に、店長の残業代を支払いたくないあまりに、固定残業代、管理職扱いなどの理由によって残業代を一切支払っていない場合、いざ店長から労働審判、訴訟などの法的手続きによって残業代を請求された場合、多額の未払い残業代の支払を命じられるおそれがあります。

飲食店では、一般の従業員に残業代を支払わなければならないのは当然ですが、一般の従業員の残業代が大きな人件費コストとならないよう、残業代を支払わなくてもよいと考える店長にしわ寄せがきて、店長の多忙さが尋常ではないケースが多くあります。

しかしながら、飲食店の店長であるからといって、そのことだけで残業代を支払わなくてもよくなるわけではありません。むしろ、飲食店の店長は一般の従業員よりも給与が高めに設定されていることから、いざ未払い残業代が問題となると、一般の従業員に比較しても多額の未払い残業代が生じることとなります。

今回は、飲食店の店長の残業代について、固定残業代と管理職扱いの適切な運用について解説します。

飲食店店長の固定残業代の適切な運用

飲食店の店長に対する固定残業代の支払方法は様々で、その名称もケースによって異なります。

飲食店の店長が管理職となると考えている場合には、時間外割増賃金(いわゆる残業代)は発生しないこととなるため、深夜割増賃金のみ支払えばよいこととなります。

したがって、飲食店の店長に付与された固定残業代見合いの手当ても、深夜割増賃金に充当されることを前提としています。

固定残業代が通常の賃金と区別可能

固定残業代の支払が有効となるためには、少なくとも、固定残業代部分が、通常の賃金特別可能な状態になければなりません。

例えば、飲食店の店長に対する固定残業代が、「管理者手当」「役職手当」「店長手当」等といった名称で、通常の賃金とは別に手当として支給されている場合には、通常の賃金との区別は容易であるといえます。

その上で、何時間分の残業代に充当されるものかを明示しておく必要があります。

既に説明した通り、飲食店の店長が管理職に当たると会社が考える場合には、時間外割増賃金を支払う必要はなくなるわけですから、この店長手当等の手当ては、管理職であっても支払を免除されていない「深夜割増賃金」に充当する金額として支払うこととなります。

そのため、何時間の深夜割増賃金に充当する金額として手当を支払っているのかを、就業規則、雇用契約等で明確にしておく必要があります。

あまりに大きい固定残業代は無効

あまりに高額かつ長時間に相当する固定残業代の支払は、残業代の支払として無効となるおそれがあります。その上、長時間労働を前提とし、これを強要しかねないものとして、労働者の健康管理という側面からも非常に問題視される制度です。

したがって、固定残業代を設定する場合であっても、その残業時間数は、常識的な範囲で適切に設定しなければなりません。

残業命令を適法に行うためには、労基法36条に基づく労使協定(いわゆる36協定)を締結して、残業の上限時間を取り決める必要があるわけですが、行政の指針によれば、この36協定による残業の上限時間は、月45時間であるとされます。

そのため、この上限時間を大幅に上回る固定残業代の設定は、公序良俗に反して無効とされるおそれがあります。

裁判例でも、次の通り、83時間分のみなし残業手当を飲食店店長に付与していた事案について、みなし残業手当の合意は公序良俗に違反して無効であるとされました。

穂波事件(岐阜地裁平成27年10月22日判決)
「83時間の残業は、36協定で定めることのできる労働時間の上限の月45時間の2倍近い長時間であり、しかも『朝9時半以前及び、各店舗の閉店時刻以後に発生するかもしれない時間外労働に対しての残業手当』とされていることを勘案すると、相当な長時間を強いる根拠となるものであって、公序良俗に違反するといわざるを得ず、これがXとY社との間で合意されたと認めることはできない。」

そして、固定残業代に関する合意が無効となると、固定残業代として支払っていた部分も、残業代の基礎単価を定める際の基準となります。その上、管理職扱いすら無効とされて残業代が生じるとなると、店長として与えていた店長手当等の固定残業代見合いの手当てが災いして、一般の従業員と比較して相当高額な未払い残業代が生じかねません。

固定残業代が有効であっても長時間労働はリスク

上記の裁判例では、36協定の上限時間である45時間の2倍近い83時間の固定残業代について、公序良俗に違反するという判断がなされました。

この点、どれだけ長時間の固定残業代となれば公序良俗に違反するのか、逆に言うと、何時間以内であれば有効なのかは、明確には示されていません。

しかし、仮に固定残業代の支払が有効となったとしても、長時間労働を無制限に許容してよいわけではありません。

長時間労働は、過労死、うつ病発症等、別の問題の原因となるためです。

飲食店店長の管理職扱いの適切な運用

会社が労働者を、所定労働時間外(法定労働時間外)、休日、深夜に労働させた場合には、それぞれ、時間外割増賃金、休日割増賃金、深夜割増賃金を支払うことが義務付けられています。

これに対し、管理監督者に該当する場合には、このうち、時間外割増賃金、休日割増賃金の支払は不要となります(深夜割増賃金は、管理監督者であっても支払う必要があります。)。

管理監督者に該当するかどうかは、裁判例の集積によって示された判断枠組みに従って判断しますが、重要な点は、経営者と一体的な立場で重要な職務と権限を有しているか、という点です。

「店長」といった名称のみで決まるものではなく、店長であったとしても何らの権限も有しておらず、全ての権限は本部一元化された決裁の下になされているのであれば、飲食店店長に対する管理職扱いは許されない可能性があります。

まとめ

以上の裁判例の通り、あまりに過大な固定残業代は、公序良俗違反という一般規定により無効とされる可能性があり、また、店長であることだけを理由にした管理職扱いをすることによる残業代の未払いは許されません。

そのため、最も安全な方法は、全ての店長を一般従業員と同等に扱い、実労働時間を厳密に把握することですが、経営戦略にそぐわなかったり、経済的に困難な場合も多いかと思います。

とはいえ、どの程度の固定残業であれば無効とされるリスクがあるのか、どの程度の権限を有していれば管理職として扱っても無効とされる可能性が少ないのかは、厳格かつ明確な基準があるわけではなく、裁判例の集積と経験から判断していく他ありません。

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