会社内に労働組合ができて、労働者側の権利を要求をしてくるケースで、労働組合がとても目障りに感じる経営者も多いことでしょう。
しかし、労働組合には、労働組合法・憲法において「労働三権」が保障されています。
一方で、経営に関することにまで、労働組合に口を出されないといけないのでしょうか。
経営上の重要な決定について、労働組合が団体交渉を申し入れてきたとき、応じなければならないのでしょうか。
有名料理レシピサイト「クックパッド」の内紛から生じた、社内労働組合の結成と、団体交渉について、弁護士が解説していきます。
団体交渉拒否とは?
労働組合から団体交渉を申し入れられた場合、労働組合には労働三権(団結権、団体交渉権、団体行動権)が認められていることに注意が必要です。
原則として団体交渉に応じる必要があり、団体交渉を正当な理由なく拒否すれば「不誠実団交」、「団交拒否」として、違法な「不当労働行為」となります。
ただ、団体交渉に応じなければならないのは、団体交渉が適切な方法で申し入れられ、その議題が「義務的団体交渉事項」に該当する場合です。
義務的団交事項とは?
会社が組合との団体交渉に応じなければならない議題を、義務的団体交渉事項といいます。
義務的団交事項を議題とする団体交渉の申し入れが適切な方法でなされた場合には、これを拒否することは違法です。
逆にいえば、義務的団交事項にあたらなければ、団体交渉を拒否してもよいということです。
ポイント
義務的団交事項=「組合員の労働条件、当該組合と会社との間の労使関係の運営に関する事項のうち、使用者に処分権限のあるもの」
義務的団交事項の例は次の通りです。
ポイント
- 賃金・退職金
- 労働時間
- 休日・休憩・休暇
- 労働者の地位
- 残業代
- 配置転換・異動
- セクハラ・パワハラの防止措置、職場環境
- 掲示板貸与、組合事務所としての利用等の便宜供与
- 団体交渉のルール
裁判例では、義務的団交事項について、次の通り、判示されています。
東京高裁平成19年7月31日判決義務的団交事項とは、団体交渉を申し入れた労働者の団体の構成員たる労働者の労働条件その他の待遇、当該団体と使用者との間の団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なもの
経営権は団体交渉事項?
「経営権は団交事項ではない。」、「人事権は団交事項ではない。」と言われることがあります。
経営についてのことは、会社の専権として、労働組合と話し合いをしなくても良いという趣旨です。
しかし、安易な切り分けは危険です。
「経営権」「人事権」がどの範囲かという明確な定義があるわけではありません。
また、裁判例でも、「経営権」とされていても、組合員の労働条件に関係する場合には団交事項となる(拒否した場合には不当労働行為となる)と判断したものがあります。
クックパッド経営陣の退陣を求め労働組合
有名料理レシピサイトを運営する「クックパッド」で、経営陣の退陣を求める社員が団結して労働組合を設立したと報じられています。
経営方針を巡り社内紛争の続いていたクックパッドの将来を不安視した社員が決起したとのことです。
しかし、労働組合といえども、経営権に対して無制限に影響を及ぼすことができるわけではありません。
会社が団体交渉に応じなければならないのは、義務的団体交渉事項が議題となる場合のみであり、経営権に関する事項が労働条件等に影響する場合に限られます。
クックパッドのケースでは、経営陣の内紛がプロジェクトの停止、保留等の形で現場従業員の労働環境にも影響しているとのことですから、労働条件に関係するという説明ができる場合もあるかもしれません。