パワハラ懲戒教育指導

パワハラは、企業秩序を侵害し、被害者である従業員に対して肉体的、精神的ダメージを与えることから、絶対にあってはならない非違行為です。

そのため、企業秩序を侵害した行為に対する制裁として位置づけられる懲戒処分の対象としておくべきです。

これに対し、強く指導したり、厳しく教育したりすると、すぐに「パワハラだ。」と主張する労働者も増加しました。

権利意識の高い労働者を増長させ、なんでもかんでも「パワハラ」という主張を許してしまえば、これは逆に、企業秩序を維持するための上司からの統制が利かなくなり、問題です。

特に、「パワハラ」には、法律上の明確な定義がないため、どこまでが懲戒処分の対象となるパワハラで、どこまでが適切な指導なのかという判断は、労働者にはしづらいといえます。

したがって、会社が責任をもって、パワハラの線引きを明確化し、懲戒権の適切な行使をしなければなりません。

パワハラには定義が存在しない

パワハラに対する懲戒処分で、会社が懲戒処分にすべきか、それとも上司による教育・指導であるとして上司の肩を持つべきか、非常に悩ましいのは、パワハラに明確な定義が存在しないためです。

パワハラの定義が法律に明確化されていれば、その解釈をすることによって、問題となっている行為がパワハラであるか、厳しい教育・指導であるか、より分かりやすくなります。

この点、パワハラは、平成27年5月15日に厚生労働省から公開された「パワーハラスメント対策導入マニュアル」において、行政運営上、一応次のように示されています。

職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的、身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。

このように厚生労働省はパワハラについての説明をした上で、代表的な行為類型を示し、よりパワハラかどうかの判断をわかりやすくする指標を提供しました。

しかしながら、この説明は、あくまでも典型的なパワハラとはどのようなものであるかを説明しただけであって、厚生労働省の示す行為類型にあてはまらないからといってパワハラでないというわけではなく、一般的な法律の定義もないため、依然としてパワハラの境界は不明確です。

組織の統制のための教育・指導は当然必要

企業とは組織体ですから、労働者それぞれが好き勝手な判断をして仕事をしていては、集団としての力を十分に発揮することはできません。

そこには、企業秩序が存在する必要があり、社長を頂点とした人事構造において、統制を行う必要がどうしてもあります。

ここで重要となるのが、それぞれの労働者に対する上司からの教育・指導であり、そして、万が一に業務命令に違反した場合に制裁をすることができるという懲戒権の確保です。

したがって、パワハラを行うことは許されないものの、嫌がらせ目的でなければ、そもそも上からのパワーがある程度想定されているのが企業秩序です。

懲戒処分の対象としてよいパワハラとは?

以上の通り、企業においては上司からの教育・指導というものが統制のために当然予定されているものですから、これが「パワハラ」であるという労働者の主張に迎合して懲戒処分の対象とされてしまうようでは、上司が部下に対する教育指導に委縮してしまいかねません。

上司が教育指導をしないとなれば、当然企業秩序を保つことはできません。しかし、「部下がうるさく反発すれば懲戒処分になってしまうかも。」という不安があっては、厳しく教育・指導のできる上司も少ないでしょう。

会社が懲戒処分の判断をする際にもこの点を十分考慮し、労働者の主張だけに流されないよう公平な判断をしなければなりません。その上で、懲戒処分の対象になるパワハラは厳に禁止しなければなりません。

懲戒処分の対象にしてよいパワハラは、次のようなものです。

動機・目的がいじめ、嫌がらせである行為

仮に教育・指導に名を借りた行為であっても、その目的、動機がいじめ、嫌がらせである行為は、パワハラに該当するとして懲戒処分の対象とすべきです。

いわゆる「しごき」の境も、上司の動機、目的で判断すべきです。

いじめ、嫌がらせ目的であれば、そもそも教育、指導等として許される余地が一切ないわけですから、懲戒処分の量定においても厳しい判断をすべきです。

暴行、脅迫、名誉棄損を伴う行為

教育、指導の目的があったとしても、暴力をふるうことは当然許されません。

暴行、脅迫、名誉棄損については、私生活上行えば刑法違反として刑事罰の対象となるのであり、これは会社内で行われた場合であっても何ら変わらず、教育、指導の目的があったからといって許されるものではありません。

犯罪行為の程度によっては、懲戒解雇と判断してもやむを得ないものとさえいえるでしょう。

当然ながら、人事上の処遇としても、パワハラに該当するとして懲戒処分の対象とすべきです。

人格否定的発言を伴う行為

教育、指導は、人格否定によって行うべきではありません。

例えば、「死ね」「バカ」「給料泥棒」などと怒鳴らなくても教育、指導はできますから、これらの行為もパワハラに該当するとして懲戒処分の対象とすべきです。

懲戒処分を判断する際のポイント

以上の、懲戒処分の対象としてよいパワハラ行為に対して懲戒処分を行うことを検討する場合、以下の事情を考慮して、どのような懲戒処分に処するかを決定します。

  • どのようなパワハラ行為が行われたか、行為の内容と性質
  • パワハラ行為が反復、継続して行われたか、行為の回数、頻度
  • パワハラ行為を行ったものの動機、目的
  • パワハラ行為を行ったものの反省の態度
  • パワハラ行為を受けた被害者の身体的・精神的損害の状況
  • 会社内における過去のパワハラの懲戒事例

懲戒処分だけでなく、人事処分も検討すべき

企業秩序に違反する非違行為に対しては懲戒処分が想定されますが、能力や行動様式の不適切さを問うためには人事処分が用いられます。

例えば、同じ「降格」という結果を導くためであっても、懲戒処分としての降格と、人事処分としての降格があり得ます。

パワハラ行為が教育、指導に名を借りて行われたことは、一方ではパワハラ加害者の企業秩序違反行為ですが、他方で、上司として、部下を教育・指導する能力が足りず不適切な指導を行っていることをも意味します。

したがって、懲戒処分を行ってその行為のみの責任を問うのではなく、指導のやり方全体を評価して人事処分を下し、反省を求めることも検討すべきでしょう。

パワハラに対する懲戒処分の前に調査が必要

最近では、権利意識の高まりから、上司から少しでも厳しい指導を受けると「パワハラ」であると主張する労働者が増えています。

特に「ブラック企業」が社会問題化し、会社が悪者であるというイメージが広まっていることも拍車をかけています。

パワハラであるとの主張が労働者からあった場合、何らの対応、調査もせずに放置しては、後に本当に違法なパワハラであった場合、企業としても安全配慮義務違反、使用者責任といった責任追及を免れません。

とはいえ、調査の結果、パワハラの事実がない場合には、会社は、労働者に対して毅然とした態度で「NO」をいうべきです。

また、会社内で問題が拡大した場合には、「このような指導はパワハラには当たりません。」という会社の姿勢を、労働者、特に、教育、指導を行う上司の位置にあるものに公表し、周知徹底すべきです。

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