一般背景用(スマホ)

任天堂の関連会社である株式会社ポケモンと、アメリカのナイアンティックが共同開発したスマートフォン向けアプリ「ポケモンGO」が大人気です。街中では、多くの男女がスマートフォンを掲げながら歩き、ポケモンをゲットしており、社会現象となっております。

しかしながら、あまりに熱狂的なブームの一方で、ポケモンGOをやりながら歩いていて衝突したり、交通事故となったり、他人の敷地へ入り込んでしまったりといった弊害も生じています。

このような、大人気のスマートフォンゲームが通常の生活の流れに支障を与えることは、何もポケモンGoに始まったことではなく、以前から、スマートフォンで気軽にいつでもゲームができることは非常に問題視されており、節度ある遊び方が必要です。

今回は、会社でスマートフォンゲームばかりをしている社員に対して、会社が採り得る適切な対応について解説します。ポケモンGOなどのスマートフォンゲームを、勤務時間中や休憩中にプレイする従業員に対する適切な対応とはどのようなものか?懲戒処分が可能であるか?といった点について解説していきます。

従業員には職務専念義務がある

従業員には、会社と雇用契約を締結したときから、その雇用契約上の義務として「職務専念義務」を負っているとされます。

「職務専念義務」とは、業務時間中は会社の仕事に集中すべき義務です。

ただ、職務専念義務があるとはいえ、業務以外のことを一切やってはいけないのかというと、そこまで厳しいものではありません。例えば、業務時間中といえども、次のような行為が業務以外のものとして行うことが予想されます。

  • トイレにいくこと
  • 喫煙
  • 喉が渇いたので飲み物を買いに行くこと
  • 家族の急な不幸のため電話に出ること

これらの行為についても、あまりに頻度が多くない限り、職務専念義務違反とはならないと考えます。

裁判例でも、次のように判示されています。

グレイワールドワイド事件(東京地裁平成15年9月22日判決)

労働者といえども、個人として社会生活を送っている以上、就業時間中に外部と連絡をとることが一切許されないわけではなく、就業規則に特段の定めがない限り、職業遂行の支障とならず、使用者に過度の経済的負担をかけないなど社会通念上相当と認められる限度で、使用者のパソコン等を利用して私用メールを送受信したとしても上記職務専念義務に違反するものではないと考えられる。

こちらの事件は、就業時間中に、会社のパソコンから私用メールを送った従業員に対する懲戒解雇が有効であるかどうかが争われた裁判例です。

勤務中のスマホゲーム

このように、従業員が職務専念義務を負うとはいえ、プライベートな行為が一切許されない、というわけではありません。

特にスマホは、プライベートはもちろんのこと、業務上も必須のアイテムであり、現代社会において欠かすことができません。

したがって、業務上でもスマートフォンを使うことがある以上、その際にプライベートのLINEが見えてしまったとしても、これを過剰に職務専念義務違反に問うことは困難でしょう。

しかしながら、勤務中の使用メールに関する上記の裁判例の判示にしたがったとしても、やはりスマホゲームは社会通念上相当と認められる限度を超えると考えるのが普通でしょう。

スマホゲームが業務効率を大きく下げる

職務専念義務は、労働契約を締結している以上、所定労働時間は、その会社の労働のみに集中すべきであることから労働者が負う義務です。

企業の価値とは、その従業員の労働力に依存する部分が非常に大きく、同じ賃金を支払って働かせるからには、可能な限り効率よく、大きな成果を出してほしいと考えるのが会社としては当然のことであり、そのために指示、命令を行うのです。

このことから、スマホゲームを行うことは、明らかに会社の業務効率を下げますし、「業務遂行の支障」となることは明らかです。

スマホゲームをしない同僚との不公平感

「同一労働同一賃金」というものが話題になっています。詳しくはこちらの記事をご覧ください。

この流れは、非正規社員の正規化、同様の仕事をしている非正規社員の不公平感の改善にありますが、「さぼっている社員」も同様であるといえます。

すなわち、ある従業員は勤務時間中に上司の目を盗んでスマホゲームばかりやって仕事が進まず、その分の余計な仕事が他の社員に押し付けられているというった状況にあるのであれば、多くの仕事を押し付けられた社員が多くの給与をもらうのが公平でしょう。

しかしながら、スマホゲームをしていた社員が、そのことを上司にばれないよう事を進めていれば、賃金、評価に差をつけることは困難でしょう。

休憩時間中のスマホゲームは禁止できるか

これに対し、雇用契約を締結していたとしても、休憩時間中は職務専念義務の対象とはなりません。逆に、休憩時間は、労働法上、自由利用が保証されています。

労働基準法第34条第3項

使用者は、第1項の休憩時間を自由に利用させなければならない。

したがって、休憩時間中の労働者の行為は、それが業務上のものではなかったとしても、原則として禁止、制限できません。

ただし、企業秩序を害する一定の場合には、労働者の休憩時間中の行為を制限することができます。例えば、次のような行為です。

  • 政治活動
  • 宗教活動
  • 飲酒行為

これらの行為は、休憩時間中とはいえ、企業の秩序を侵害するため禁止することが可能であるとされています。

したがって、「スマホゲームを行うことは、休憩時間中といえども、企業の秩序を侵害する」という理由付ができる場合には、例外的に、休憩時間中であってもスマホゲームの禁止を命じることができるでしょう。

例えば、今話題のポケモンGOで、社内の立ち入り禁止区域に立ち入ったり、会議室を占有したり、大声で騒いだり、といった企業秩序を侵害する行為があれば、「休憩時間中であってもポケモンGOは行わないように。」と命じることが可能となります。

なお、「スマホゲームを行っていたこと」自体の禁止ではなく、このことによって成績が低下したり、能力の向上を怠ったりといった別の労働問題が発生した場合に、その別の問題を理由に懲戒処分、解雇などの措置をすることまで妨げられるわけではありません。

住友理工でポケモンGo全面禁止のニュース

住友理工で、ポケモンGoを、業務時間、休憩時間を問わず全面禁止したとのニュースが報じられました。

【名古屋】ポケモンは禁止だぜ―。住友理工はスマートフォン向けゲーム「ポケモンGO」が世界各地で社会現象となる中、スマホゲーム全般を就業中のほか、休憩中や出退勤時間も含めて全世界の拠点で禁止することを決めた。歩きながらスマホを使う「歩きスマホ」による事故防止が狙い。各拠点にポケモンGOなどの利用者が不法侵入しないように警備も強化し、進入禁止の看板の設置なども検討する。ポケモンGOは7月6日に米国などで配信が始まり、同22日には日本でも利用可能となり人気を博しているが、各地で立ち入り禁止地帯への侵入や交通事故も起きている。米国では原子力発電所の敷地内に利用者が侵入した事例などがある。

住友理工は事態の大きさを考え、歩きスマホにつながるポケモンGOなどスマホゲーム全般の禁止を各国の拠点に通達した。同社は世界23カ国に拠点を構えている。就業中は職務がおろそかになり、休憩・出退勤時間も歩きスマホや運転中のスマホ操作は危険なため禁止を徹底する。

解説した通り、業務時間中のスマフォゲームを禁止することは、業務命令権として可能ですが、休憩時間中の禁止は、休憩自由利用との関係から、合理的な説明が必要です。

この点、住友理工の例では、歩きスマホの防止による従業員の安全確保が目的であるとのことで、休憩時間の禁止行為の説明としては一定の合理性があるものの、ポケモンGoでなくとも歩きスマホ問題は生じますので、あえてポケモンGoを狙い撃ち的に禁止することにどれほどの合理性があるのかは疑問です。

従業員の職場における安全確保は会社の義務ですから、その点で目的の必要性はありそうですが、この目的を達成するためであれば、むしろ歩きスマホを禁止行為とすべきであって、ポケモンGoに限定する必要はないように思います。

スマホで職務に専念しない社員への適切な対応

最後に、スマホゲームばかりして業務をしない社員を発見したとき、会社としてどのように対応すべきかについて解説します。

いざ発見したとすれば、会社にとって大きな損害を生みますし、他社員の反感を買って企業秩序を侵害するおそれも非常に大きいですから、至急対応が必要となります。

まずは業務命令でスマホゲームを中止させる

まずは、上司からの業務命令により、スマホゲームを業務時間内に行わないように指示をしましょう。

既に解説したとおり、職務専念義務があるとはいえプライベートな「スマホいじり」が一切許されないわけではなく、「緊急のLINEに返信していた。」などと反論されると、スマホゲームをしていたことを証明して罰を与えることは思いのほか困難であることがわかります。

厳しく注意、指導をすることで聞いてもらい、理解してもらえるのであればこの段階で解決しますから、まずは指導を行いましょう。

止めない場合スマホ取り上げも検討

それでも止めない場合には、業務時間中はスマホを取り上げ、会社が管理することも検討すべきです。

ただし、現代においてスマホは必須のアイテムであり、財産的な価値も高いものですから、この措置には次のような限界があります。

  • 業務にもスマホを用いる場合、業務用スマホでゲームをすることができる。
  • プライベートで家族から緊急の連絡がある可能性がある。
  • 取り上げたスマホを会社が適切かつ安全に管理する必要がある。

したがって、スマホの取り上げという厳しい措置を行う場合には、その必要性と相当性について十分な吟味が必要であり、厳しい禁止命令など、他の措置で代替できないかを今一度検討しましょう。

就業規則に規定して行うべき対策

スマホ使用が職務専念義務違反となるかは、業務遂行の支障となるかどうか、社会通念上相当かどうか、といった、抽象的な要素の総合判断で決まります。

したがって、スマホ取り上げなどの強行策を講じて、万が一労働者とトラブルになった場合に、会社としては不利な結論とならないような理論武装が必要となります。

そのため、その基準を就業規則に規定し、労働者に周知徹底することで、会社内のルールを明示して予測可能性を高めるという方法が良いでしょう。

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